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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第4話 傷モノ令嬢、未来の伴侶の名を知る

「どうしてお母さまは、あんなにお顔が真っ赤っかなの?」


 目と鼻の先で百面相するうら若き母を見て、娘ルビィは首を傾げた。

 すると穏やかな微笑みを浮かべた侍女セイラが、まるで手を取るように柔らかく言葉を添える。


「それはですね……ガーネットお嬢様は、目前に迫った甘い羞恥に驚いておられるのです。ルビィお嬢様は、お気になさる必要はございませんよ」

 セイラは溜め息とともに、視線を窓の外の暗闇に這わせた。

「恋愛の『れ』の字も知らないお嬢様が、2か月後に御子を宿すだなんて。お相手は一体……」


 刹那、セイラの瞳が大きく見開く。


「もしや、カイザー殿下とりを戻されて妾になるのでは!? いいえ、婚約破棄で自暴自棄になられて行きずりの男と……んまあ、何って破廉恥!」


 息継ぎを忘れたようなセイラの大暴走に、ガーネットの恥じらいの霧が晴れ渡っていく。そして僅かに目を細め、視線に不満を滲ませる。


「ちょっとセイラ。私のことを何だと思っているの?」

 頭の上にふわりと疑問符が浮かんだように、セイラはきょとんと瞳を瞬かせた。

「え? 私にとって、ガーネットお嬢様は『セイラセイラ』と後ろを付いて回る愛らしいお嬢様のままですが……」

「それっていくつの時よっ」


 セイラは私が2歳の頃、年の近い世話係としてやって来た。

 そのまま侍女として私の傍に仕え続け、いつしか両親と同等に近しい存在になっていた。一人っ子の私にとって、かけがえのない姉のような存在だ。


 私より4つ年上の23歳で、縁談の申し出もいくつも届いているそうだけど、私がお嫁に行くまでは傍にいると心に誓っているらしい。


 それなのに婚約破棄までされて、2か月後には身籠るって……未来の私はどんな運命を辿っているのやら……あ、そうだわ。




 胸の奥に燻っていた疑問が顔を出し、ガーネットは頬を朱に染める。

 珊瑚色の毛先をくるくると巻きながら、照れくさそうに問いを口にした。


「ねえルビィ。あなたの、お父様って……ど、どんな方なの?」


 途端に、ルビィの顔が曇り空のようにかげった。

「ん、えっとね…………ルビィも知らないの」


 その言葉に、ガーネットとセイラは顔を見合わせた。

 淋しげに俯いたまま、ルビィは微かな声で言葉を紡いでいく。


「生まれた時から、お父さまはいなかったの……お父さまはね、お母さまとお腹のルビィをかばって死んじゃったって、お母さまが言ってた」


 胸の奥が悲痛に震える。

 胸の内側がただれたようにひりつき、呼吸が荒く乱れた。


 ルビィのお父様は、私の愛した人は、私とルビィを庇って……死んでしまったの? それだけで、その方は私とルビィを愛してくれたことが伝わってくる。

 ああ、どれだけ悔しかっただろう。どれだけ無念だっただろう……っ。


 でも一体何から庇ったというの。

 事故、火事や災害などの脅威? それともまさか――誰かに命を狙われて?


 気づくと、ガーネットはルビィを抱き寄せていた。ルビィの柔らかな頬に頬を寄せ、伝う涙を互いの熱に溶かしていく。

 強い抱擁とともに、ガーネットは喉の奥を詰まらせるように囁いた。


「ああ……あなたも淋しかったわよね……」

 すると、ルビィの淡い青碧の瞳がうるりと光り、鈴のような澄んだ声が響いた。

「ルビィね、生きているお父さまに会ってみたいの」


 パッと咲き誇るように、ルビィの声が明朗に広がっていく。

「それでね。お母さまと一緒にお父さまを助けるの! お母さまがね、過去のお母さまならお父さまを助けることができるかもって。お母さまは失敗しちゃったって」

 まるで機関銃のようなルビィの言葉の雨に、ガーネットのほうが面食らった。

「えっと、ちょっと待って。話がこんがらがっちゃって……未来のお母さまと、私もお母様と呼ぶと混乱しちゃうわね」


 ふと、幼い頃に母に向けていた柔らかな呼び名が、ガーネットの記憶の海から浮かび上がった。


 いつからか、成長する中で矯正されてしまったけど、私はこの呼び方が好きだった。


「私のことは……ママ様って呼ぶのはどうかしら?」

「ママさま?」

 ルビィの双眸が、太陽を纏ったように輝いた。

「ママさま、ママさま! うん、わかった。ルビィ、ママさまって呼びたい。ママさま、一緒にパパさまを助けるの!」

 小さな胸に大きな炎を灯すように、ルビィは右手を高く掲げた。


 その右手に応えるように、ガーネットは小さな指先に手を伸ばした。

 互いのぬくもりが重なったと同時に、ガーネットは静かな決意を纏った微笑みを咲かせる。


「えぇ、一緒にパパ様を助けましょう。そうと決まれば、何か手がかりが欲しいわね。パパ様について、ルビィのお母様は何か話していなかった?」

 しゅんと肩を落とし、ルビィは小さく首を横に振った。

「んーん、わかんない。あ、でも……」

 記憶を手繰り寄せるように目を細め、さらに言葉を重ねていく。


「ルビィが夜起きた時にね、お母さまが一人で泣いていた日があったの。その時、『レオ、会いたい』って言ってた。だから、レオって人がパパさまなのかなって」


 ――瞬間、青碧の瞳が光が弾けるように大きく見開かれた。


「……レオ? レオレオ、レオって…………まさか、レオン? レオンハルト!?」


 思いも寄らぬ名に、ガーネットの声は驚愕したように跳ね上がるのだった。


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