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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第38話 カレンデュラの花束

 ガーネットたちは、コールの後を慎重に追っていった。


 辿り着いたのは、街の外れ。


 街の喧騒が遠のくほど街並みは色褪せ、寂れた気配が周囲に漂う。


 ふわりと揺れる橙色のカレンデュラの花束を携え、コールはある建物へと入っていく。


 コールの姿が建物へと吸い込まれる。

 それと同時に、ガーネットたちも後を追った。


 ゆっくりと、その建物を仰ぐ。

 ――それは、ひっそりと佇む小さな教会。


 白い漆喰(しっくい)の壁が陽光を柔らかく反射し、下部の石煉瓦(いしれんが)には苔が纏う。

 寛(ゆる)やかな時を刻む、どこか懐かしい教会だった。


 ああ、ようやくわかった。

 コールが口にした「き」って、教会のことだったのね。


 ん? 教会に……はな、たば……。


 絡まった糸がするりと解(ほど)け、ガーネットの中でコールの目的が形を成していく。


 不意に、ワンピースの袖が引き寄せられた。

 こちらを見上げたルビィが、必死で教会の入り口を指差している。


「ママさま、早く中に」


 しかし、ガーネットは静かに首を振った。

 そしてゆっくりと膝を突き、ルビィを諭すように柔らかな声で包み込む。


「いいえルビィ。私たちはここで待っていましょう……コールの、邪魔をしてはいけないわ」


 教会の外に据えられた古いベンチに腰を下ろし、ガーネットたちは、静まり返った空気の中でコールを待っていた。


 教会の窓越しに、讃美歌のたおやかな旋律が淡くこぼれ出す。

 亡き人へと祈りを捧げる讃美歌の調べに、ガーネットも静かに目を伏せ、祈りを捧げるのだった。



 ∻❖∻



 信徒たちの人波に紛れ、コールが教会から姿を現した。


 教会を出て早々、質素なベンチに腰掛けるひと際目立つ貴族令嬢の存在に目を疑う。


 珊瑚色の滑らかな髪が肩に添うように流れ、憂いを帯びた青碧の瞳を揺らす。

 ――見紛う事なき主(あるじ)の姿に、コールの足元は凍りついた。


「……姫様? っていうか、みんな揃ってこんなところでどうしたんだ?」


 ベンチから元気よく飛び起きたルビィは、謎を解き明かす探偵のように告げた。


「コールが気になって追いかけてきたの。ね、ママさま」


 声を発することなく、ガーネットは優しく微笑む。


 その静と動のような対照的な2人の様子に、コールは戸惑いを覚えた。

 同時に、行く先を知るはずのゲオルグとセイラを、責めるように睨みつける。


「追いかけてって……誰も止めなかったのか」


 コールの鋭い眼光から逃げるように、ゲオルグもセイラも、視線を横へと滑らせた。


 だがすぐに、吹っ切れたようなコールの溜め息がその場に響く。


「まあいいや……じゃあ、みんなも一緒に行くか?」




 コールの案内で辿り着いたのは、教会に隣接した共同墓地。


 ゆっくりと歩みを進めたコールは、淡い乳白色の墓石の前で足を止めた。


 ――墓石には、カレンデュラ・ガルシアと刻まれている。


 琥珀の瞳に柔らかな光を宿し、コールは膝を下ろす。

 枯れ果てて形も崩れた花束と、墓石にかかった枯葉を静かに片づけた。


 塵ひとつなくなった墓石に、腕に抱えていた鮮やかなカレンデュラの花束をそっと添える。


「ただいま母さん。今日は、俺以外にも会いにきてくれたよ」


 墓石に視線を落とし、ガーネットはそっと言葉を紡いだ。


「……お母様が、ここに?」

「コールのお母様なの?」


 ルビィも墓石を優しく撫でながら、首を傾げている。


 2人の疑問に応じるようにゆっくりと頷き、口元に微笑みを落とす。

 笑っているのに、コールの微笑みの奥にはどうしようもない哀しみが伴っている。


「そう、ここに俺の母さんが眠ってる」

 静かにまばたきを落とし、

「ガルシア家の墓じゃないんだって思ったろ。母さんはまあ、没落した貴族の娘だったから、上の2人に反対されて墓には入れてもらえなかった……」


 『上の2人』という言葉に、ガーネットは眉をひそめた。


 ガルシア家は何かと複雑だと、耳に挟んだことはあった。

 もしかしたらコールは、私では想像もつかない境遇に身を置いていたのかもしれない。


 言葉にしたい疑問は、いくつも胸の奥にある。


 どうしてそれで、お母様はベルフィオーレの共同墓地に埋葬されているの?

 コールはもしかして……ベルフィオーレに所縁(ゆかり)があるの?


 気取られぬように、視線をコールへ向けた。

 墓石に触れたコールの手は微かに震え、悔しさを押し殺すように眉間に皴を刻んでいる。


 淋しげな横顔に触れた瞬間、ガーネットの疑問は泡沫(うたかた)のように淡く溶けていった……。


 コールの隣に膝を落とし、ガーネットはただ、静かに祈りを捧げることしかできなかった。


お読みいただきありがとうございます。


次の物語は――

レオンハルトの招待で、ガーネットたちは湖周辺でピクニックをすることに。

しかしそれは、レオンハルトの黒い思惑が渦巻く罠だった。

レオンハルトの魔の手から、ガーネットたちは切り抜けることが出来るのか――!?

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