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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第27話 侯爵夫人のティータイムはちょっぴり特異

 一体どうしてこうなったのかしら?


 アールグレイの芳醇な香気が鼻腔に広がる。澄んだ紅茶をそっと口元に運び、香りとともに喉を柔らかく潤していく。

 私は今、お母様の小休止に同席し、穏やかな茶席の時を共に過ごしていた。


 ふぅと息を吐いたガーネットは、ゆっくりと書斎室を見渡した。


 ルビィと……そしてどういうわけか、護衛のはずのコールとゲオルグも向かいのソファに腰掛け、テーブルを共に囲んでいるのだ。

 「たまにはお話ししましょう」と、お母様は2人を茶席へ招き入れた。


 どこか所在なげに周囲を窺いながら、コールとゲオルグは紅茶を口元へ運んでいる。そんな2人の気配を気にも留めず、エメルダはクッキーを夢中で頬張る孫へと、柔らかな猫撫で声でそっと呼びかけた。


「ルビィちゃん、そのクッキー美味しい?」

「うん、おいしいの。この真ん中の赤いの好き!」


 口元にクッキーの屑を描きながら、ルビィは淡い青碧の瞳をきらりと瞬かせた。どうやら、ルビィのお気に入りがひとつ増えたらしい。

 孫の喜ぶ姿を捉え、エメルダは弾けるように手を合わせて笑みをこぼした。


「あらー、うちの特産の苺ジャムよ。沢山あるからいっぱい食べてね」

「ありがとう、おばあさま……ママさまも、食べるの」


 覗き込むように、ルビィはガーネットへと視線を寄せた。小さな手のひらに乗る苺のクッキーと、その瞳の奥に潜む探るような視線を受けながら、ガーネットは穏やかに感謝を述べた。


「ありがとうルビィ」

 意味深な間を挟み、ルビィが静かに声を落とす。

「ママさま……もう、おこってなぁい?」


 先刻の、私が母を問い詰めた剣幕がこの部屋に残っているのだろうか。ルビィが妙に遠慮がちに振る舞うのである。ああ、ルビィの前だったというのに、あんなに取り乱してしまった。

 娘に気を遣わせるだなんて、ママさま失格ね。気をつけないと……。


 すると、くすくすとした笑い声が耳朶を撫でた。口元に手を添えたエメルダが、遠い記憶に思いを馳せるように目を細めていた。


「ふふ、ママさまって懐かしい響きね。ガーネが私の後ろを追いかけて、『ママさま、待って』って、わんわん泣いていた頃を思い出すわ」

 苦い感情が蘇ったのか、ガーネットはリスのように頬をぷくりと膨らませ、抗議の言葉を漏らした。

「お母様ったら、娘の私そっちのけで遺跡にばかりかまけているのですもの。泣きたくもなるわ」

「あらまあ、へそ曲げちゃって可愛い」

 そっぽを向く娘を愛でるように、エメルダは娘の頬を指先でぷにぷにと突いている。

「あの時は……遺跡に真新しい損傷が増えたと報告が入って、調査したくってウズウズしていたのよ。確か、ガーネが5歳の時だったかしら」

「そう、私が怪我をした頃よ」


 左首元の傷痕に指先を滑らせ、ガーネットはやるせなく目を伏せる。


 すると、


 ――ガシャ、シャラシャラシャラ。


 金属の音が鳴り響き、場の空気を鋭く裂いた。


 コールがティースプーンを落としてしまったらしい。皆の視線が一斉にコールへと注がれる。すまないとばかりに、コールは頬を掻いた。




 場の空気を和らげるようにひとつ伸びをし、エメルダはしみじみと語りを戻す。


「……ガーネが19歳ということは、あれからもう、14年か……早いものね。私もいつか、歴史の塵屑くらいになって果てていくのかしら」


 お母様は遺跡専門の生粋の考古学者だ。

 若い頃、高名な考古学者の助手として、ベルフィオーレの遺跡にやって来た。

 

 ベルフィオーレ家に挨拶に来たお母様に、当時ベルフィオーレ侯爵令息だったお父様がひと目惚れをしたらしい。


 男爵家の娘だったお母様は、人生を夫ではなく、遺跡の研究に捧げると誓っていた。お父様から熱烈な求婚を受けたが、侯爵夫人の地位は荷が重すぎると幾度も断りを入れたそうだ。


 でもそこで諦めないのがお父様。

 侯爵夫人としての役割はそこそこに、研究に没頭しても構わないと今度は求婚。

 花束代わりに我がベルフィオーレ家に伝わる文献を2、3冊捧げたらしい。


 するとなんと、ベルフィオーレ侯爵夫人になれば遺跡に通い放題と気がついたお母様は、二つ返事で求婚を受け入れた。


 まあ、そんな2人のもとに生まれ落ちたのが私、ガーネットなのである。

 どこか打算的な結婚のようだけど、意外と家族仲良く過ごしている。


 エメルダはティーカップをソーサーに戻すと、優雅に口元を拭う。

悄然とした面持ちで、カップの水面に映る自分を睨むコールに声を掛けた。


「そうだわ、コール」

 むくりと顔を上げたコールは姿勢を正し、真摯に言葉を返した。

「はい。何でしょうか奥様」


 エメルダの口元には揺るぎない自信が弧を描き、瞳には確かな期待が燃えている。ふふっと声を漏らすと、考古学者らしい探求心剥き出しの眼差しを向けた。


「一度、あなたに尋ねたいと思っていたの。あなたの生家の、ガルシア家がベルフィオーレを怨む起源となった伝承について……」


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