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断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


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第26話 傷モノ令嬢、母に不服を申し立てる

「ふん、ふん、ふーん♪」


 軽やかな鼻唄が書斎室の空気を奏でていく。

 ここは侯爵夫人の書斎室。


 書斎机に座したエメルダ・ベルフィオーレは、舞い込んだ朗報に胸をときめかせていた。ベルフィオーレの遺跡にまつわる時空転移の文献に視線を走らせながらも、つい口元は柔らかく綻ぶ。


 考古学界隈で御伽話と揶揄され続けた時空転移の謎が、ついに紐解かれるかもしれない。それも、私の可愛い孫の力を借りて。




 すると、床を不規則に叩く足音が廊下の向こうから流れ込んだ。どこか怒りを帯びたその靴の音に、エメルダは笑みを漏らした。


 ああ、思ったより早かったわね。


 ――バタンッ。


「お母様っ、どういうことです!?」


 勢いよく扉が開いたと同時に、ガーネットの鋭い声がエメルダを突き刺した。素知らぬ振りを装いながら、エメルダは驚きの声を巧みに繕う。


「あらガーネ、そんなに顔を真っ赤にして。雪原の雪華みたいに落ち着きのあるあなたが、そんなに興奮してどうしたの?」

「どうしたのって。こちらの台詞ですっ。どうして私とコールの部屋が、つ、つ……繋がっているのですかっ!?」


 ガーネットの上擦った声につい頬が緩みそうになるが、エメルダは平然としたまま、幼子を諭すように声を紡ぐ。


「コールの部屋と繋がっていてダメな理由があるの? 1日中、仲良く一緒にいるじゃない。宿の見張りの時だって、いつも扉の前にいるのでしょう」

 さも当然とばかりの母の言葉に、ガーネットはたじろぎ、動揺を禁じ得ない。

「あれは護衛しているのであって、仲良くしているわけじゃ……それに、ダメに決まっているでしょ。年頃の、若い男女の部屋が行き来できるだなんて……そんなの……はれん、ち……」

「ふふっ。あらあ、そんなこと気にしちゃって……」


 ふーん、奥手なガーネがここまでムキになるだなんて。

 存外にも、コールは意識されているみたい。


 まあ母親の立場としては、娘に促すのはどうかとも思うのだけど……。


「ガーネはもう、あのバカ殿下とも別れて婚約者もいないのだし、別にいいじゃない」


 三日月のように細まった瞳はガーネットではなく虚空を見据え、口元は熱を孕んだように吊り上がる。どこか現実離れした、有無を言わさぬエメルダの微笑み。


 その笑みに、ガーネットの瞼が揺れた。


 この笑顔知ってる。子供の頃から見てきたもの。

 研究に没頭している時のお母様の顔だわ。


 ……え、どうして私とコールの部屋が繋がっているとそんな顔をするの?

 何か裏がある気がしてならない。其処そこと無く怪しい……。


 ガーネットの猜疑の心を読み取ったのか。何ひとつ隠すものなどないと示すように、エメルダはそっと両の手のひらを晒してみせた。添えられた穏やかな微笑みの奥に、隠しきれぬ含みが覗いている気がした。


「いいじゃない。私も結婚前、ジャスパーにあの部屋に通されたわ。外からも廊下からも別室に見えて、逢引きには丁度いいでしょう?」

「あ、あっ……あいびきぃぃぃ!?」


 ガーネットの喉元から、まるで寝過ごした鶏の叫びのような声がこだました。

 流石のエメルダもこれには我慢ならず、屈託のない微笑みを咲かせる。


「ふっ……あら、ま。ガーネったら、あなたもそんな声出すのねぇ」

 革張りの椅子から立ち上がり、エメルダはガーネットの華奢な肩に手を置いた。

「まあ、落ち着いて。ガーネはちょっと旅の疲れがかさんで興奮しているのよ。そうだわ、お母様の休憩に付き合ってくれる?」

 静かに視線を滑らせ、開いたままの扉へと促す。

「可愛いあの子も、一緒に……ね?」


 エメルダの導いた先には、不安を募らせ扉から顔を覗かせるルビィと、その傍らに寄り添うコールの姿があった。二人とも、案じるようにこちらに視線を投げかけている。


 ルビィの心配げな眼差しを捉えた瞬間、ガーネットの胸奥に滾っていた怒りが灰のように散っていく。


「ええ、そうね。みんなで休憩にしましょうか……」


 穏やかなガーネットの声に呼応するように、エメルダは休憩を告げるベルを鳴らした。張り詰めた空気が緩やかにほどけ、茶席の支度がそっと動き始める。


 だがエメルダの口元には、意味深な笑みが静かに刻まれているのだった。


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