↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪5秒前、傷モノ令嬢を救ったのは未来の娘(5才)でした。どうやらあと2か月でこの子を身籠るらしいのですが⁉  作者: 星七美月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

第15話 犬猿の仲と胸のざわめき

 ベルフィオーレの屋敷、ガーネットの私室にて。

 夜の帳が降り、硝子窓の向こうはすでに昏闇に覆われていた。しかし、部屋の中は柔らかなランプの灯りに包まれ、穏やかな時が流れている。


 艶めく赤褐色のクローゼットの前に佇んでいるのは、ガーネットと侍女のセイラだ。2人は明日の相談を交わしていた。足元には、大ぶりの旅行鞄トランクが静かに口を開けている。


 その旅行鞄トランクの傍らでは、ルビィが物珍しそうに二人の護衛騎士を交互に眺めていた。真剣な面差しで警護に当たる二人を見ては口元に小さな手を添え、愉しそうにころころと笑い声を洩らしている。


 ベルフィオーレ領は金鉱山をはじめとした、宝石の産地として名高い領地だ。

 領が豊かであるがゆえに、娘である私は何かと狙われやすい。身代金や既成事実目的の誘拐も、相続を狙った暗殺も、私にとっては他人事ではない。

 そのため、心配したお父様が護衛を付けてくださった。


 私の護衛騎士は2人――

 大きな硝子窓を背に警護に立つのは、騎士舎で窮地を救ってくれたコールだ。ルビィの愉しげな視線に気づき、たまに視線を合わせては白い歯をこぼしている。


 部屋と廊下を結ぶ扉の前に控えているのは、ゲオルグ・アダメス。

 背が高く堂々とした体格をしているが、口数は少ない。護衛となって10年の歳月を守ってくれた彼に、私は心からの信頼を置いている。


 何を考えているのか読めないアンニュイな眼差しに魅了され、使用人の中には熱烈なファンもいるらしい、というのはセイラからの情報だ。


 コールとゲオルグにも、ルビィは親戚の子という旨で話を通した。お母様が恋しくて、私をママさまと呼ぶと説明してある。


 2人とも、城内を騒がせた『隠し子』の噂を鵜呑みにすることなく、私の言葉を真摯に受け止めてくれた。




 すると、静寂に溶けるようなセイラの柔らかな声が響く。


「ガーネットお嬢様、枕は持っていかれますか?」

「ええ、それがないと眠れないの。持っていくわ」


 現在私は、ベルフィオーレ領に帰るための支度に追われていた。セイラとともに慌ただしく荷造りを進める最中だ。

 すでに明日発つと、お父様にも伝えてある。お母様に報せの手紙を急ぎで出すと、張り切っていらした。


 護衛を観察するのに飽きたらしいルビィは、ソファに腰を下ろした。落ち着きなく足をぶらぶらと揺らすルビィに、セイラの真っ直ぐな視線が注がれる。


「ルビィお嬢様のお召し物もどこかで揃えたいですね」


 おもむろに、ルビィは自分の服に目を落とした。身に着けていたのは、未来から舞い降りた時に纏っていた灰色の地味なカントリードレスだった。お気に入りの服の危機に、困ったように首を傾げる。


「んー? ルビィ、ずっとこれでいいの」

 よりいっそう表情を引き締めたセイラは、一大事とばかりに言葉を放った。

「そうはいきません。可愛らしいルビィお嬢様を愛でる歓びを取らないでくださいませ」

「……意味わかんないの」

 5歳児には計り知れぬこだわりに、愛らしく眉を寄せるルビィであった。


 ルビィとセイラの、どこか噛み合わない会話を横目に、ガーネットはそっと表情を緩める。やがて顔を上げ、警護に勤しむ護衛2人に声を掛けた。


「ゲオルグ、コール。短期巡察から戻ったばかりなのに、突然領に帰ることになってごめんなさい」

 硝子窓に映った自分を背に、コールは明朗な声で場を照らした。

「いや、俺らの本業は護衛だし、姫様の行く所ならどこだって行くさ。な、ゲオルグ先輩」

「……ああ、何も問題ない」

 ゲオルグも耳に馴染む低音をそっと響かせた。


 2人の了承は得たものの、ガーネットの胸にはなお、小さな引っかかりが残っていた。それはコールの家柄にまつわる事情なのだが……。


 その引っかかりに堪え切れず、ガーネットは静かに問い直した。


「……コールもいいの?」

「もちろん。何で?」

 さらりと返してきたコールに、ガーネットは躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

「だって、あなたは一応ガルシアだし。ベルフィオーレ領に行くのは嫌かなって……」

 なるほどと腑に落ちたらしく、コールの琥珀の瞳が揺れた。

 だがすぐに顎に指先を滑らせ、

「そんなこと気にしてたのか……いいか、姫様。俺はガルシアから除籍された身だ。今の姓は、遠い親戚の養子に入って名乗っているガルシアだから全然違うぞ」

「……そう、なの?」


 実は私のベルフィオーレ家とコールのガルシア家には、遥か昔から深海の底よりも深く暗い因縁が漂っている。

 話すと長くなるので噛み砕いて説明すると、2つの家はもとはひとつだった。でも当時の兄弟たちの対立で二分されてしまった。


 決裂の末、新たに興したのがガルシア家。

 決裂して以降、ガルシアは何かとベルフィオーレに因縁を吹きかけてきた。それは数百年経った現在に至っても風化することなく、犬猿の仲と呼ぶに相応しい関係である。


 だからガルシアの血筋であるコールが私の護衛をしているのは、すごく不思議なの。


 3年前、お父様とお母様が私の護衛にとコールを正式に雇った。

 お母様なんて、護衛じゃなくて婿にいらっしゃいなんて揶揄(からか)うのだもの。一応、カイザー殿下と婚約していたのに、もうっ。


 不意に、ガーネットの瞼に昼間の光景が蘇る――


 ルビィを抱き上げるコールの優しげな横顔、すべてを包み込んでくれそうな逞しい腕、不思議と……安堵を覚えてしまう背中。

 そして、コールの本名が『レオ』の響きを含んだコールレオンであること。


 ガーネットの胸の奥で、木々の葉が擦れるようにさわさわとざわめいた。

 その感情に気づいた途端、「まさか……」と、ざわめきを振り払うように自分の感情に首を振る。


 そんなガーネットの変化を、セイラは目を離すことなく見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。