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忌避された破壊魔法使いの私、嫁ぎ先の辺境公爵さまにかけられた呪いは、なぜか私にだけ発動しませんでした  作者: 秋名はる


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第5話 ハイデルベルク公爵

翌朝、空は広く澄んで晴れ渡っていた。


庭には涼やかな秋の風が吹き、心地よい冷気が頬を撫でる。昨日は夕暮れ時に到着したので、寒々しい景色に圧倒されていたが、今日は爽やかに晴れて澄み渡っていて、窓辺から見える森の青々とした木の葉が美しい。


初日ということもあり、昨晩は緊張して眠れるか不安だったけれど、意外とぐっすりだったようで、わたしはすっきりとした朝を迎えた。



* * *


朝食を済ませると、暇を持て余した私は屋敷の周囲を散策してみることにした。


ただ、窓の外から覗く庭の景色は広大すぎて、とても一日では回りきれそうもない。


よって、私はまず屋敷の中を探検してみることにした。今の所ここに済むことになるのだから、屋敷内の何がどこにあるかくらいは把握して置かなければならない。


食堂を後にして廊下に出ると、そこには先が見えないほどの長い廊下が続いている。


赤い絨毯を敷かれた石畳の廊下、彫刻を施した柱や、豪華なアーチ状の天井など。全てが規格外で、私は呆気に取られてしまった。


まず、1Fから廊下の端から端までを歩いて周る。ふと回廊の外に目を向けると、屋敷の中央に美しい中庭が広がっているのが見えた。


青々とした芝が一面に敷かれたそこには、美しく剪定された樹木や、薔薇の生け垣が立ち並んでいる。


人気はなく、長らく誰も使われている様子はないのに、その庭は隅々まで完璧に整備されて、美しい景観を維持していた。


私は興味を惹かれて、夢中で庭の奥へと進んでいった。


色とりどりの薔薇の花を眺めながら、気の向くまま奥深くへと入っていくと、気がつけば来た道を見失って迷子になってしまう。


さほど広い敷地とは思わなかったのに、周囲を見渡せばどこを見ても似たような景色ばかりで、戻る道がわからなくなってしまった。


(――どうしよう。)


周りには人影らしいものはあるはずもなく、右往左往して歩き回っていた時


_不意に背後から聞き慣れない声が響いた。


「誰だ、ここで一体何をしている」


_突然低く鋭い声が背後から響いた。

驚いて振り返ると、そこには見知らぬ人物が立っていた。


玄銀(くろがね)の長い艶やかな髪。宝石のように澄んだ淡紫(アメシスト)の瞳――。

白い陶器のような肌をした、整った顔立ちの若い男性がそこにいた。


着ている衣服の上等さから、彼が使用人ではないことはすぐにわかる。


自分より少し年上だろうか。背はすらりと高く、切れ長の瞳には鋭い光が宿り、睨みつけるようなその眼差しに思わず息をのむ。


近寄りがたい威圧感を放つ一方で、あまりに整いすぎた秀麗な顔立ちは、おもわず目を奪われるほどだった。


「あ、あの……。私は昨日こちらに参りました。

 エポワール男爵家の長女、フェンネルと申します」


ぼうっと、見とれてしまっていたわたしは、慌てて自己紹介をする。


「……君がフェンネルか。

 縁談の話に乗じて、この屋敷へやってきた私の新しい婚約者というのが君だな」


男はわずかに目を見開いた。

婚約者、と聞いてフェンネルはハッとした。


「あなたが、この屋敷の主人_ユリウス様でいらっしゃいますね。」


彼は名前を名乗らなかったが、この風貌を見てピンときた。


でも、主は外出中で不在ではなかったのか_?

不思議に思いながらも、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。と、私は恭しくお辞儀をする。


しかし、彼はそれには答えず、まるで値踏みをするようにフェンネルを見つめ返した。


「遠路はるばるやってきたところ申し訳ないが、ここでは私は君に何も期待していない。この縁談は父が勝手に決めたことだ」


いきなりの冷たい歓迎に、私は胸が痛くなる。


確かに、昨晩使用人が言っていたように、本来であれば妹との縁談を望んでいたらしい。彼がそのようにいうのも無理はなかった。


「はい、存じております。

 不束かものではございますが、よろしくお願いいたします……ユリウス様。」


彼の冷たい対応に少し胸がちくりと傷んだものの

仕方なく、私は当たり障りのない返答をしてその場を受け流した。


「それで――君はここで何をしていたんだ?」


「はっ……。

 実は庭園を散策しているうちに、道に迷ってしまいまして。」


そうだった、道に迷ってしまったことを忘れてしまっていた。


「まったく。客間は向こう側だ。

 君付きの使用人は一体何をやっているんだ」


ため息を付いて、彼は庭の裏手を指さす。

私は彼の指差す方を見上げたが、フェンネルはここで更に一つ疑問が浮かんだ


――使用人たちの噂にあった「呪い」とは一体何なのだろう。


目の前の公爵は特に変わった様子もなく、そして意外にも、彼は私が想像より若々しい青年のように見える。

もっと年老いた人物を想像していたので、私は拍子抜けしてしまった。


しげしげと見つめる私に、彼は訝しむような視線を投げかける。


「あの、ユリウス様は、屋敷へはお戻りにならないのですか? 執事から、あなたは外出中で不在だと伺っていましたが」


「ああ、昨日まで隣町に出向いていたんだ。

 たった今戻ったところだ」


「そうでしたか。

 お邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」


私は頭を下げ、すごすごと引き下がる。


再び恭しく頭を下げてその場を去ろうとしたとき

ーー不意に背後でユリウスが苦しそうなうめき声を上げ、その場にかがみ込んでしまう。


「ユリウス様、どうされたのですか!」


突然のことに呆気にとられた私は、慌てて彼のもとへ駆け寄る。すると、ユリウス様は鋭い形相で叫んだ。


「私に触れるな!」


凄むような形相で怒鳴られ、私は思わずその場に立ち尽くす。


しかし、そうしている間にもユリウス様は再び顔を歪め、その場で身を縮めて蹲ってしまった。



再び彼に駆け寄った私は、彼の身に何か不穏な魔力の気配を感じ取った。


彼は、まるで目に見えない何かに抗い、必死に耐えているかのように見える。


ただならぬ気配を察した私は、彼の制止を振り切って思わず"彼の肩に手を触れた"。


指先が触れた瞬間__突然、手のひらにビリッとした《《衝撃》》が走る。


念じた覚えもないのに、私の掌の中で破壊の魔法が勝手に発動したような感覚があった。


まるで、ユリウスさまが苦しんでいる《《何か》》を私の魔法が打ち砕いているかのように、私の魔法はユリウス様を苦しめている何かを、打ち消しているように見えた。


(一体、何が起こっているの…?)


私は混乱していたが、それでもしばらく彼の肩に手を回して、そのまま魔力が発動するのに任せて彼を支え続けた。


すると、次第に彼の発作はおさまっていった。


やがてユリウス様は落ち着きを取り戻し、ようやく顔を上げる。


「……君、一体、私に何をした」


その声にはまだ疲労がにじんでいたが、先ほどの苦痛はもう見られなかった。


「わ、私にも……何がなんだか……」


私は安心したと同時に、うろたえた。


だって、本来であれば私は魔力を持たないことになっているし、そもそも魔力を使うことを禁じられている。


よってここで自分の魔力について正直に語るわけにはいかなかった。


「君、凡人だと聞いていたが……魔力を持っていたんだな」


言われて、私は顔から血の気が引いていくのを感じた。

どう言い訳をすべきか迷う私に、ユリウス様は更に一歩詰め寄る。


「今まで、この呪いを抑えられた者などいなかった。

 一体どうやって……君は何者なんだ」


彼の言葉に、私はただ唇を噛みしめる。

自分にも何が起こったのかわからなかった。


当然ながら、私に妹のような癒やしの力は、私にはない。ーーあるのは、ものを破壊するだけの魔法。


それなのに、どうして今、彼の発作を静めることができたのだろうか?

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