第41話 二人だけの夜
夜会の夜は更けていく。
ようやく、周囲への挨拶が一通り終わり、私は会場の外へと出てきていた。
会場の外に出て、隣の部屋に移動すると。
そこには、宴会用の立食形式の前菜や、メイン料理、カラフルなカクテルなどが並んでいる。
(……なんだか、お腹が空いてきたわ)
大勢の人々の相手をしていて忘れていたが、ここへ来て私はまだ何も食べていないことに気がついた。私は、早速並んでいる料理に手を伸ばした。
サーモン、クラッカー、クリームチーズを重ねた一口サイズのピンチョス。一口食べてみれば、オリーブオイルとペッパーがふわりと香った。
(おいしい……。
北部の町とはまた風味や食材がちがうけれど、どちらも美味しい)
更に見渡せば、お酒も種類が豊富で、ワイン、蒸留酒、この地方特有の果実酒、それらをフレッシュジュースと組み合わせたカクテルなどが並んでいる。
(これはカクテルみたいだけれど、お酒は使用していないってって書いてあったわ……これなら大丈夫よね?)
私は、グレープフルーツとシロップを合わせたカクテルを一口飲んでみた。
(酸味もあって、爽やかでおいしい)
ユリウス様は、一人で古くからの旧友たちの相手をするためにその場を離れていた。
空腹だった私は、先程の疲れを吹き飛ばすように、一人で豪華な夜会の食事を満喫した。
再びユリウスさまと合流した私は、二人で軽食を取りながら休憩していた。
すると、ここで私はある異変に気がつく。
(なんだか……意識がぼんやりする……?
フラフラするし……すごく眠い……)
疲れのせいだと思い、会場の隅の椅子に腰掛けて休んでいると、異変に気がついたユリウスが駆け寄ってきてくれた。
「一体どうしたんだ、なんだか顔が赤いようだ」
ユリウス様は心配そうに私の顔を覗き込む。
「顔が……赤い?」どうしてだろう。
「初めての場所で、疲れが出たのかもしれないです……」
とりあえずそう答えたとき、ユリウスは私が持っていたグラスをうけとり、その香りを確認してみた。
「フェンネル……君は飲み過ぎなのではないか?
君はお酒が弱いと言っていたのに、どうしてこんなことを?」
「えつ!? これノンアルコールじゃないんですか!?」
思わず、私は飛び上がった。
「これはスピネルという、南部の強いリキュールを使ったカクテルだよ。
こんなものを呑んだりして大丈夫なのか……」
呆れたように言いながらも、ユリウスは、ふらつく私の身体を支えるようにして、そのまま私を寝室まで連れて行ってくれた。
***
「ユリウス様、ご迷惑をおかけしてしまい、すみません」
ユリウス様に大人しく運ばれて、私は部屋に戻ってくる。
遠方からきた私達は、今晩はこのハーノヴァー侯爵家の私邸に泊めてもらうことになっていた。
ユリウス様に担ぎ上げられながら、私は先程の夜会でのあるやり取りを思い出していた。
* * *
それは、王妃様にユリウス様の婚約者であることを紹介された後の一幕だった。
「フェンネル、ちょっとよろしいかしら」
貴族たちが歓談している最中に、私は王妃様に呼び止められていた。
ユリウス様は、別の方に対応中で側にはいない。
すると、王妃様はこんなことを私に告げた。
「ユリウスの伴侶となって、公爵家に嫁ぐことは、時に辛いこともあります。並大抵の覚悟では務まりません」
「はい、陛下」
私は畏まった。
たしかに、それは私自身も常々感じていたことではあった。
自分が本当にユリウス様の相手としてふさわしいのか、自分の心に自問してみても、正直自信はない。
彼の側にいたいと思う反面、それは高い期待と重圧を背負うことになるのは察しがついた。
ーーすると、王妃様は、そんな私の胸中を察したのか、こんなことをアドバイスしてくれた。
「物事は気の持ちようなのです。世の中の大抵のことは覚悟と気合でなんとかなります。
私も、初めて国王陛下に嫁いだ際には、同じような重圧を感じていましたわ」
王妃様は、私を励ますようにそっと微笑んだ。
「でも大丈夫、あなたにならきっと出来ますわ」
――私は王妃様に言われたことを思い返す。
(私にも、ついに覚悟を決めるときがきた。ということなのだろうか……)
客室へと戻ってきた私達
ユリウス様は、私を寝台の上に寝かせると、私の酔いを覚ますために、治癒魔法を施そうとした。
「待ってください」
私は起き上がって、おもむろにユリウスさまと対面する。
「…? 一体どうしたんだ」
首をかしげているユリウス様に対して、私は覚悟を決めてこういった。
「私は婚約者として、ユリウス様の本当の恋人になりたいです!」
この時、私はとても酔っ払っていた。
なので、意気込んで宣言した意図について、私は深くは考えていなかった。
けれど、私は私なりに、これからもユリウスさまと共に歩む覚悟と決意を表明したつもりだった。
突拍子もないことを宣言されたユリウス様は、淡紫の瞳を見開いて、言葉を失っている。
「_確かに、君の言う通りかもしれないな」
ややあって、急に真剣な顔つきになる。
そして、彼もまた正面から私に向き直った。
「_実は私も、君に対して少し遠慮している部分があったんだ」
そういうと、ユリウス様は急に私をベットの上に押し倒した。
「…?」
状況が掴めない私をよそに、
頭上ではユリウス様が妖艶な笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「君の気持ちを知ることが出来て嬉しいよ。
これで私も、もう君に遠慮をしないですむ」
ユリウス様はそう言って柔らかく微笑むと、そのまま私に覆いかぶさる。
私はユリウス様に抱きしめられて、そのままベットに沈んでいった_。




