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忌避された破壊魔法使いの私、嫁ぎ先の辺境公爵さまにかけられた呪いは、なぜか私にだけ発動しませんでした  作者: 秋名はる


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第38話 夜会への招待

来る4月のある日、私はユリウスさまとともに王都近郊の、ハーノヴァー侯爵家の、王都邸タウンハウスへと降り立った。


そこは、王都でも一等地の完成な郊外の住宅地だった。


通りの角には、高い塀に囲まれた、お城のようなお屋敷がそびえ立っている。

庭先だけでも、他の住宅街の家々の3~5倍はあろうかと言うほど、このお屋敷の敷地は規格外に広かった。


(たしかに…王妃様のご出身の侯爵家なだけあるわ。何もかもが規格外ね)


ユリウス様に差し出された手を取って、馬車を降りる。

すると、私は通りのまばゆい明かりに、思わず目を眩ませた。


通りには等間隔で外灯が灯されていて、夜だと言うのにとても明るかった。


周りを見渡せば、通りの車止めのあちこちに、他の貴族たちの着飾った姿が目に映った。


「フェンネル、とても綺麗だよ」


「あ、ありがとうございます」


ユリウス様に柔らかく微笑みを向けられて、私は思わず赤面した。


今晩、私はユリウス様に仕立てて頂いた、新しいイブニングドレスに身を包んでいた。それは、光沢を放った新緑色ビリジアンのドレスだった。


* * *


話を戻す事数ヶ月前ーー

王妃様の夜会に参加することが決まると、お屋敷内は急に慌ただしくなった。


そんなある日、屋敷に珍しく来客があった。


聞いてみると、彼らは皆、貴族御用達の仕立て屋たちだという。

夜会で着る私の衣装を仕立てるために、わざわざ王都周辺からはるばるやって来たのだそうだ。


呆気に取られている私をよそに、ユリウスはまるで当然のことのように言った。


「夜会には、私の親類をはじめ、国内の貴族たちも大勢集まる。

君には、私の婚約者として誰よりも輝いてもらいたいんだ」


「そ、それはお気遣いいただきありがとうございます。

しかし、なんだかこれはあまりにもスケールが大きすぎませんか?」


「なんということはない、むしろこのくらい当然だろう」


ユリウス様は満足そうに微笑む。


早速私は彼らの取り囲まれて、まるで着せ替え人形にさせられているように、採寸やドレスの色や形についてあれこれ言われるのにつきあわされる事になった。


「大人っぽく、シックなネイビーのドレスはいかがでしょう」


「夜会に紺色なんて駄目よ。夜に溶け込んでしまうわ。

神秘的な瞳のお色が映えるように、華やかなゴールドの色味などはいかが」


仕立て屋達は私を取り囲んで、あれやこれやと言い合っている。


「では、後は頼んだよ」


そう言い残すと、ユリウス様は私を部屋に置き去りにして部屋を去っていってしまった。


***


また明くる日。


今度は、屋敷に重そうな箱を抱えた老人がやって来た。


その箱は厳重に施錠されており、見るからにただならぬ品が中に収められていることがわかる。


執事のアルフレッドが、老人を奥の部屋へと案内する。

ユリウス様に呼ばれて、私たちもその部屋へと同行した。


南京錠で何重にも封じられた箱の鍵が外されると――中から現れたのは、まばゆいほどの宝石や装飾品の数々だった。


「ここ北の地には、各地に鉱脈が豊富にあって、昔から宝石や金銀の採掘が盛んなんだ。君が攫われたあの洞窟もその一つだった」


精巧にカットされて、美しい台座にはめ込まれて輝いている宝石たち。


それらは、精巧な細工を施した銀や白金の台座に収められている。個々にあるだけでも、首飾りや髪飾り、ブローチなど様々だ。


ひと目見ただけでも、それらが途方もない価値を持つとわかった。



「これらは、代々侯爵家に伝わる宝飾品達なんだ。

長らくしまわれたままになっていたので、良い機会だと思って、宝石細工師に磨かせて、一部台座を新調しておいた。

これらは全て君に贈るつもりだ。気に入ったものがあれば、次の夜会でぜひ身につけてほしい」


「えっ、こ、こんなにたくさん……!?

 よろしいのですか?」


夜会に出席するためとはいえ、これほど高価なものを受け取るなんて信じられない。

しかし、ユリウスはさも当然といったように言った。


「もちろんだよ。ちなみに、ここには君が採掘した洞窟で見つかった宝石達は含まれていないから心配しないでほしい。

あれらは、まだ岩石のまま保管してあるから」


私は空いた口が塞がらなかった。


(これ以外に、洞窟で採掘された宝石たちもまだあるんだ・・・。)


「それから」と彼は不意に宝石商を下がらせ、おもむろに懐から小さな古びた箱を取り出した。


蓋を開けると、中には銀細工の指輪が一つ、静かに輝いていた。


中心には大きな濃緑色のエメラルドが埋め込まれている。


「これは、我が公爵家に代々伝わるものだ。

 私の母上も身につけていた。古いものだったので、これも磨き直して、石座を新調しておいた。君に身に着けていてほしい。」


そう言うと、ユリウス様は滑らかな手つきで、そっと私の左手を取り、指輪をはめた。


天井に透かしてみれば、それは零れ落ちそうなほどの大きな四角い翠玉エメラルドが証明の光に照らされて、キラキラと輝いている。


確かに、台座は真新しくなっていて、私の指にピタリとハマった。


そこに収まっている石からは、歴代の侯爵家の歴史と威厳が感じられて、私は自然と畏まってしまった。


「あまり気負わないでほしい。これは、まだ正式なものではないから、気軽に考えておいてもらえれば良いよ。叔母様は私の母上とも幼い頃から仲が良かったんだ。

その指輪を身に着けた君を見たら、叔母様も喜ぶと思う」


ユリウス様は叔母様と気軽に言っているが、その相手は何を隠そう、この国の王妃様だ。気負わないで、という方が無理がある。


だけれども、私は純粋にユリウス様の心遣いが嬉しかった。


(ーー思えば、私が母の形見にと肌見放さず持っていた指輪は、エルミールにとられてしまった)


もう取り戻すことは出来ないだろうと、私は暫くの間、さみしくなった自分の指先を見つめて過ごした。


(それが、こんな形で他の誰かから大事な指輪を贈られることになるなんて_)


嬉しさとともに、感慨深い思いに浸っていた。

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