第37話 屋敷に戻ってきてから
無事に屋敷に戻ってくると、私は屋敷中総出で甲斐甲斐しく治療を受けることになった。
医師や使用人たちに伴われて屋敷へと戻ってくると、私はなぜだか今まで使っていた私室とは違う場所に案内される。
「あれっ?
ここ、私の部屋ではありませんけど」
私は青ざめる。
屋敷に連れ戻してもらったのは良かったけれど
もしかしてもうこの屋敷に自分の居場所はなくなってしまったということなのだろうか?
しかし、通された部屋の一室に入ると、私はあることに気がついた。
「今日から君にはこの部屋を使ってもらう。
私の母が使用していた、歴代の公爵夫人の私室だ」
「えっ?」
私は目を見開いた。
確かに、ここは私が以前使用していた客間の一角とは比べ物にならないくらい広くて豪華だ。家具や調度品は、木材と組み合わせた大理石や金細工がふんだんに使われている。
家主が不在の間にも、この部屋は絶えず綺麗に整備されていたのだろう。室内は寝具や衣類などを含めて、全てが綺麗に整えられていた。
私があっけにとられていると、ユリウスさまは更に続けた。
「隣は私の私室になっているから、もう一人で勝手に抜け出したりなどはしないように。
まったく、目を話すとすぐに何処かへ行ってしまうのだから」
ユリウスさまはそう言って、ため息をつく。
ユリウス様は、そう言って、私を寝台に寝かしつけると、早速私の傷や披露を治療してくれた。
やはり疲労を回復するには、休息を取ることが一番よく効くらしい。
こわごわとユリウス様からの治療を受けているうちに、私は私が眠りに落ちてしまっていた_
***
「ユ、ユリウス様。私はもう大丈夫ですから。
大人しくここで寝ていると約束します、もう公務へ戻られては?」
ユリウスさまの隣の部屋に移り住んでからというもの、彼は日がな一日中、私の部屋に滞在して、私の付き添いをしてくれている。
それもそのはず、ユリウスさまの使っている寝室と、私のいるこの寝室は、内側から通路でつながっていて、二つの部屋は行き来可能になっていたのだ。
私は、彼がずっとそばにいると落ち着かないので、先程から丁寧に提案しているが、彼は聞く耳を持たないのだ。
「だめだ。君が回復するまで私はここを離れるつもりはない。
またいつどこかへ逃げてしまうとも限らないからね」
「そ、そんなことはいたしません…!」
そう言ってむすくれて対抗してみるものの
ユリウス様は、「観念するんだね。」と、そう言って、彼はベッドのすみに腰掛けながら、無邪気に私の髪を指先で撫でて弄んでいる。
身動きの出来ない私は、布団を口もとのところまでたくし上げて反抗した。
でも確かに、こうしていると自分も疲労には抗えない。疲れていたのを思い出したように、私はいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。
* * *
ユリウスさまの隣の部屋に移り住んだことで、更に私の生活に変化が訪れた。
すっかり私の体が元通りになったあと、私が就寝しようと寝台にはいったときのこと。
「あ、あの。ユリウス様、私もうすっかり元気になりました。
もう付きっきりで看病していただかなくとも大丈夫ですよ」
私はどうしてだか、ユリウス様の腕に首をもたれかかけて、彼と“添い寝”をしている。
彼に治療をしてもらう間、私は彼に治療の一環だと言われて、毎日彼と添い寝をして就寝していた。
最初こそ、緊張して絶対寝られるわけがないと畏まっていたのだけれど。これが意外にも効果てきめんで、もともと根付きの悪い私が朝までぐっすり熟睡してしまう。
でも、こう毎日だとさすがの私も彼を意識してしまって気が気ではないので、近頃はやんわり断ろうと意気込んでいたのだ。
「君が寝静まるまでの間だけ」
そんなユリウスさまは、私のことなど意に介さずに、そのまま私を更に自分の方へと引き寄せた。
***
比較的穏やかな日々を過ごしていた私達、ある日いつものように朝食を取っていると、ユリウスさまが声をかけてきた。
「フェンネル、実は君に折りいって相談があるんだ」
「何でしょう?」
私は首をかしげて彼の顔を見つめる。
「魔物の呪いが解けて、ようやく自由に出歩けるようになった。
それを聞いた私の親類が、久々に顔を見せてほしいと、屋敷に招待してくれているんだ」
「まあ、それは良かったですね」
これまで社交界にほとんど顔を見せたことのない彼である。そのせいで、私がここへ来るまでにあらぬ噂がたくさん囁かれてしまっていた。これはとても良い機会だと思った。
「もしよければ、君にも同行してもらいたいんだ。北部の村の魔物の討伐の話をした所、親類達は是非君にも会いたいといっていて、親戚や古い友人たちにも君を紹介したいと思っている」
「ありがたいことです。是非、お供させていただきます」
ユリウス様の嬉しそうな表情を見て、私もホクホク顔だった。
「_ちなみに、今回はどちらのお屋敷にお招きされているのですか」
ユリウス様の親類ということは、そこそこの名のある貴族の家系の方、ということになるだろう。
わたしは元々小さな男爵家の令嬢ということもあり、社交界に乏しい。
少しでも相手先に気に入られるように、お相手のことをお聞きして置かなければ、と思っていると。
「主催は、王妃様の生家である、ハーノヴァー侯爵家のお屋敷だよ。実は、王妃様は、私の叔母に当たるんだ」
「お、王妃様…!?」
ユリウスさまは、さらりととんでもないことを口にした。
私は、驚愕して飽いた口が塞がらない。
「そ、それでは…お招き頂いていたその親類の方というのは…」
「王妃様だよ。でも気負いすることはない、これは叔母様の私的な夜会で、他の貴族たちも大勢招待されているものだから」
「……そ、そうなのですね」
とはいえ、責任重大であることには変わりない。
私は彼の誘いが持つ意味の重大さについて意識してしまった。
「君には、まだ荷が重いだっただろうか
無理にとは言わない、今回は私だけで参加するのでも…」
「い、いえ、参加します!」
だって、外でもない王妃さまが私に会いたがっていると言っているのだ。これはむしろ断れない。
「大丈夫、心配しなくとも、君のことは私が必ず守るよ」
ユリウスさまが優しくそう言ってくれて、私は少しだけ勇気がもらえた。




