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忌避された破壊魔法使いの私、嫁ぎ先の辺境公爵さまにかけられた呪いは、なぜか私にだけ発動しませんでした  作者: あきはる


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第3話 エドワードとの縁談

やがて数年が過ぎ、私たちにも縁談の話が舞い込むようになった。


ーーそのひとつが―冒頭で紹介したミリセント伯爵家のエドワード。


しかし、彼との結末が悲惨なものとなるのは、もはや必然だった。


この頃になると、表向きには"男爵家の娘"として縁談が持ち込まれる。


けれど実際は治癒魔法を持つ妹、エルミールこそが目当てなことがほとんどだった。世間は最初から、私のことなど期待していない。


なので私は、最初からこの縁談をことわるつもりでいた。


貴族のしきたりでは、まず年長の姉から縁談を持ちかけられるのが通例。なので、私が早々に断ってしまえば、妹に立場をゆずることができるのだ。


今回もそのはずだった。普段なら割り切って挨拶だけ済ませ、早々に縁談を辞退して帰るつもりだったのに……。


* * *


エドワードの屋敷に招かれた初日。

この日、エルミールは魔法の手習いがあるので不在だった。仕方なく私が屋敷に一人で訪問すると。


「フェンネル、今日は天気もいい。これから森を歩いてみないか」


「えっ……ええ、ぜひ」


私は遠慮がちに答えたが、正直気は進まなかった。


私はそもそも挨拶だけすませて、さっさと帰ろうと思っていた。しかし伯爵の誘いを断れるはずもなく、渋々従った。


広大な森には魔獣が生息していると言われ、エドワードは護身のために飼っている魔狼《ダイヤウルフ》を連れてきていた。


薄暗い森をしばらく進むと、突然前方に大きな角鹿が現れた。鹿はこちらに気づくとすぐに逃げ出してしまう。

そのまま森の奥の方へと逃げ込んでいった。


エドワードたちは、それを面白がって、魔狼をつかって鹿を追い立てた。すると鹿は、逃げ惑いながら更に森の奥の奥へと逃げていき、遂には怪しげな洞窟の中へと逃げ込んでしまった。


「旦那様、深追いはおやめください。

 中には、我々の手に負えない危険な魔獣が潜んでいるやもしれませんぞ」


頭をしていた家老の男性が嗜めたが、エドワードは聞く耳を持たなかった。


「ふん、臆するな。私には魔狼《ダイヤウルフ》がいる。いざとなればこいつが相手をする!」


エドワードは、家来の忠告を無視し、そのまま魔狼を連れて、一人で洞窟の中へと入ってしまった。



――嫌な気配がした。


魔力を持つ私にはわかる。この洞窟の奥には魔力をもつ何かが潜んでいる、そんな気配がした。


家来たちも同様の気配を察知し、洞窟へ続くのを躊躇する中、私は思わず馬を降りて彼を追う。


そのまま、彼を追って洞窟の奥へと入って行った。

薄暗い洞窟を進むと、奥の方で魔狼が激しく吠える声が響いた。


ビクビクしながらも声のする方は向かっていくと、そこには大きなトカゲの魔獣がいた。


人の背丈ほどもある大きなトカゲは、硬い鱗と鋭い爪を持っており、ギョロリとした大きな目玉を回して、こちらを睨みつけている。


気絶したエドワードのすぐそばで、それは今にも彼に襲いかかろうとしていた。


「エドワード様!」


私は思わず叫んだ。


(――このままでは彼の命が危ない)


私は咄嗟に、魔トカゲに向かって魔法を放った。

魔力を使うのは禁じられているので気が引けたが、そんな事は言っていられない。


掲げた手が眩く光り、轟音とともに振動が走る。


見えない衝撃波が魔物を直撃し、一瞬のうちに、巨体は彼方へ吹き飛ばされてしまった。



***



なんとか無事に魔獣を倒し終えた後。


再び私がひとりで洞窟の入口に戻っると、外で様子を伺っていた家来やエドワードの友人たちは、驚きと当惑の表情で私を出迎えた。


気を失っていたエドワードは家来たちによって救助され、そのまま屋敷へと運び込まれた。



すると、ちょうどそこへ後から屋敷に向かっていた妹エルミールが到着し、彼女はすぐにエドワードに治療を施すことを買って出る。


私は不安の面持ちでエドワードの回復を見守った。


(彼の意識が戻ったら、ちゃんと自分の能力のことを説明しなければ…)


緊急事態だったとはいえ、わたしは周囲から禁じられていた力を使ってしまったことを負い目に感じていた。


だからエドワードが意識を取り戻したら、彼に説明するつもりで機会を伺っていた。


けれどもエルミールや他の救護人はエドワードに付き添ってかかりきりだったので、私は近寄らせてもらえない。



ーーやがて目を覚ました彼が最初に放ったのは、耳を疑うような冷たいひと言だった。


「フェンネル。君は私の前で、禁じられた魔法を使ったのか」


寝台の縁に腰掛けた彼は目を吊り上げていて、その傍らには、当然のようにエルミールが寄り添っている。


私がお見舞いの言葉をかけるよりも先に、彼は私を睨みつけてそう言い放った。


「そんな、エドワード様、話を聞いてください。

 これには理由があるのです」


私は必死に洞窟での出来事を説明しようとした。


「いいや、話はもうエルミールからすべて聞かせてもらった」


「どういうことですか……?」


嫌な予感がした…。


「君の力は呪われた破壊の魔法だというではないか。

 危険だから人前で使うのを禁じられていたはずなのに、私は危うく君に殺されかけた」


「そ、そんな誤解です!」


私は必死に弁解しようとしたが、それをエルミールが遮った。


「いいえ、お姉様。たとえ魔物が迫っていたとしても、軽はずみに力を使うことは許されませんよ。

現にエドワード様は、あなたの魔法で吹き飛ばされて気を失っておられたのではないですか」


「そんなはずはないわ!

 私はエドワード様を助けようと…」


私は確かに魔物に向けて力を放った。でもエドワードに当てた覚えなどない。


「私には治癒の力があります。だから、エドワード様がどのような傷を負ったのかもわかるのです。

 お姉様は以前にも力を暴走させ、私に危害を加えようとなさいましたよね。それなのに、あろうことか今度はエドワード様にまで危険を及ぼすなんて……」


エルミールは非難がましい視線を向けて、エドワードに寄り添った。


エルミールはずっと昔から私を危険因子とみなして疑わない。そして周りはいつだって、私よりも気立の良くて、愛嬌もある妹ばかりを信じるのだ。


「ち、違う! 私はただ、あなたを助けようと――」


私は言いすがったが、エドワードはそれ以上は耳を貸そうとはしなかった。


「エルミール……君がいてくれなかったら、私はどうなっていただろう。君のおかげでここまで回復できた。なんと礼を言えばいいか」


エドワードはうっとりとエルミールのことを見つめる。


「お礼には及びませんわ。私は自分の務めを果たしたまで。たまたまお屋敷に伺おうとしていたのが幸いでしたわ」


「もう、君なしでは、ぼくは生きてはいけないよ」


彼が甘い言葉を囁けば、エルミールもまたまんざらでもない様子で微笑みを浮かべた。


「フェンネル。この件は父君にも報告させてもらう。

 今度ばかりは、私も見逃すわけにはいかない。

 残念ながら、君との婚約は破棄させてもらう」


その瞬間、私の視界は真っ暗になった。


足元から崩れ落ちるような感覚に、ただ立ち尽くすしかなかった。

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