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忌避された破壊魔法使いの私、嫁ぎ先の辺境公爵さまにかけられた呪いは、なぜか私にだけ発動しませんでした  作者: 秋名はる


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第25話 北部の魔物討伐5

どのくらい時間が経ったのだろう。薄く瞼を開けると、あたりにはぼんやりとした明かりが漏れていた。


「……ここは、一体……?」


身を起こそうとして、自分が誰かに後ろから抱きかかえられていることに気がついた。


「……気がついたのか?」


静かな声が背後から響いた。姿は見えないが、低く落ち着いた声――間違いなくユリウス様だった。


***


「私どうしてここに……?

 魔物を倒して……それから……」


まだ頭がぼんやりしている。必死に記憶をたぐり寄せると、様子を察したユリウスが淡々と説明してくれた。


「魔物を倒したあと、私たちは瓦礫の中に閉じ込められたらしい。完全に洞窟が崩れる前に、私が結界を張ってここに逃げ込んだんだ。」


言われて見回すと、周囲は自分たちのいるスペースをあけただけで、それ以外は岩壁にとり囲まれていた。


狭い空間の一角からは、どこか遠くの方で淡く光るあかりが差し込んでいるようだが、それ以外にそこにあるのは私と、私を抱き抱えているユリウス様だけ。


ほんの少しでも結界を張るのが遅れていれば、二人とも生き埋めになっていたに違いない。


「助けて頂いて、本当にありがとうございます」


「まったく。命があるだけでも奇跡だな」


そう言って、ユリウス様は息を吐く。

私がユリウス様の方を見上げると、ユリウスさまもまた私の方を見下ろして、瞳を細めた。


「……とはいえ」


私がつぶやくと、周囲の様子を確認する。


命が助かったのはありがたいが、周囲は硬い岩盤に囲まれていて、ユリウスさまが結界を張ったスペース以外に逃げ道はない。おそらく地中に埋もれているのだろうが、どのくらいの深さにいるのかもわからなかった。


「なんとか……ここから抜け出す方法を見つけないと」


身じろぎをすると、後ろにいたユリウスが私のことをしっかりと支え直すのを感じる。


そう、私は今、当然のようにユリウス様に抱きかかえられているのだが、今まで彼とこんなにも密着したことなどあっただろうかーー

私は、こんな時に柄にもなく彼のことを意識して頬が火照る。


しかし、ユリウス様はそんな私の内心など気づきもしていない様子で、冷静に周囲を見渡していた。


「隙間から光が漏れているから、ここは地上からそう深くないはずだ。ただ、上に積もった瓦礫が重くて、私の力では押し上げられない」


なるほど、確かに言われてみれば、頭上の瓦礫の隙間かから、少しだけ明かりが漏れているのが見えた。

「なら、私が魔力を使ってみます」


私は腕を上げ、光が差す方へと顔を向けた。


破壊魔法を使えば、上の岩を吹き飛ばして外に出られるはずだ。ユリウス様の結界が守ってくれているから、多少の衝撃なら崩落の心配もない。


「本当に大丈夫か? 君はさっき、魔物を倒す時に相当な魔力を消耗していたようだ。少し休んでからのほうが良いのでは」


ユリウスは心配そうにつぶやいたが、わたしは小さく微笑んで頷いた。


「平気です。まだ力は十分残っている気がします」


自分でも不思議だった。

あれほど全力を使ったはずなのに、まだ体に魔力の流れを感じる。


さっきのをもう一撃放つことだってできそうなくらい、私はピンピンしていた。


私は早速、深く息を吸い込み、手に力を込めた。


「ドッカーン!」


けたたましい爆音とともに、頭上の岩が弾け飛んだ。


続いて眩しい陽光が差し込む。私は思わず腕で顔を覆った。


***


「_ユリウス様! フェンネル様

 ――ご無事ですか!」


私達がそこから崩れた瓦礫をよじ登り、ようやく地上へたどり着くと、あたりは既に朝の陽光が差し込んでいた。


ちょうどそこに、周囲の捜索に当たっていた衛兵たちが、私たちを見つけて駆け寄ってきた。


どうやら、私が放った魔力の爆音を聞きつけて、慌ててこの場所に向かってきたようだ。


衛兵たちに両脇を抱えられ、私はようやくしっかりと地に足をつけた。

地上の空気は冷たく、けれどそれが生きている証のようで、胸の奥から息が漏れる。


「ご無事で何よりです。

 私どもはあれから旦那様方を方々探し回っておりました」


衛兵達の喜びはひとしおだった。


「周囲の村人や町の様子は、何か被害は出ていないか?」


ユリウスは、私を洞穴から助け起こすと、すぐに兵たちへと問いかけた。


「麓の村や村人には被害はありません。

 洞窟の崩落による地響きがあり、兵たちは一時退避しましたが、今のところ皆無事です!」


「行方不明となっていたのは、旦那様とお嬢様だけでございました。よくぞご無事で……!」


「ただ……魔物の動向はいまだ不明です。

 再び暴れ出す危険もあります。現在、衛兵たちが総出で村人の避難を急がせています」


報告を聞いたユリウスは、ようやく小さく頷いた。


「そうか……被害が出ていないのなら何よりだ」


そう言ってから、彼は簡潔に洞窟内での出来事を説明した。魔物の討伐と、洞窟の崩落。


「……魔物はおそらく、瓦礫の下敷きとなっている。やつが倒れるところをこの目で見た。再び起き上がることはないだろう」


その言葉に、兵たちは一斉に歓声を上げた。


「魔物が……倒された!」

「これで村が救われるぞ!」


歓喜の声が次々と上がり、辺りに安堵の空気が広がっていく。


けれどユリウス様は、浮かれる兵たちに鋭い視線を投げかかる。


「崩落した地盤はまだ不安定だ。

 瓦礫の下に取り残された者がいないか、引き続き捜索を続けろ」


その的確な指示に、兵たちは再び引き締まった表情で散っていった。


私達は、救護の兵士に付き添われて山を降りることになった。


その道中、兵の一人がためらいがちに口を開いた。


「……旦那様、ひとつ報告がございます」


ユリウスが振り返る。


「被害というほどではありませんが……この一帯に、少々“異変”が起きておりまして」


「異変?」


フェンネルとユリウスが同時に顔を見合わせた。


***


側近に言われるまま山を降り、開けた場所に出たとき、彼の言っていたその“異変”の正体が目に飛び込んできた。


山の中腹、先ほど魔物を討伐した洞窟の裏手あたりから、巨大な水柱が空高く立ち上っていた。


まるで天へと伸びる一本の塔のようで、周囲には細かな水しぶきが絶え間なく散っている。


霧のように白く煙るその光景は、どこか幻想的でありながら、同時に不気味さも感じさせた。


「あれは……一体……?」


私は思わず息を呑んだ。

こんな光景、今まで一度も見たことがない。ユリウスも険しい表情で目を細めていた。


「あれが発生したのはいつ頃だ?」


「はい。おそらく、魔物が討伐され、洞窟が自重によって崩落した直後と思われます。

 あの水柱はそれ以来、ずっとあのままの状態で……」


「そうか」


ユリウス様は腕を組み、しばし考え込む。


水柱は今は朝の陽光を受けてきらめいている。それは一見美しく見えるが、それが噴き上がっているのが他でもないこの魔物の住まう山の中なので、同時に言いようのない不穏さが潜んでいた。


「念のため、原因を調べておく必要があるな。

 後ほど私も調査に加わる。ひとまず、今は休息を取ろう」


そう言って、私たちは一旦村へ戻ることにした。

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