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忌避された破壊魔法使いの私、嫁ぎ先の辺境公爵さまにかけられた呪いは、なぜか私にだけ発動しませんでした  作者: 秋名はる


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第26話 呪い解除の泉

村にもどり、滞在先の宿へ無事に辿り着くと、戦闘の緊張がようやく解けたからか、途端に強い疲労が押し寄せてきた。


それから二日後。

魔物の復活や新たな被害の報告は一切なかったが、あの山の中腹で立ち昇る水柱は、いまだ止む気配がなかった。


私たちは村の宿舎で休息を取りながら、今後の方針を話し合っていた。


「フェンネル、私はこれからあの水柱の調査に向かう。君はこのまま屋敷に戻って、今度こそ、大人しくしているように」


あれだけのことがあり、ユリウスは有無を言わさぬ口調で迫ったが、その声色にはどこか心配が滲んでいた。


「いえ、私もご一緒させてください」


彼の言うことはもっともなのだが、だがしかし私は同意しかねた。

先程の一件しかり、このまま、再び彼を一人にしては行けないような気がした。


「_だめだ。これ以上君を危険に晒すわけにはいかない」


「大丈夫です。魔物はもう倒されたはずです。

 それに、私は自分の身くらい守れますから」


自信満々にそう言うと、ユリウスは黙りこくる。


「……まったく。君という人は本当に聞き分けがない」


しばらくして呆れたようにため息をつきながらも、ユリウスは渋々私の同行を許してくれた。


そう言った意味では、彼も私の魔力をそこそこ分かってくれてきているのかもしれない。


* * *


数名の調査兵を伴い、私たちは再び山へと足を踏み入れた。


近づくにつれ、あたりは水しぶきに包まれ、霧が漂うように視界が霞んでいく。

報告の通り、水柱の周囲からは魔物の気配も異様な魔力の反応も感じられなかった。


「……なんだか、このあたり、麓よりも暖かくありませんか?」


肌に触れる空気が、妙に柔らかい。

私は不思議に思って問いかけた。


「はい、そうなのです」


先導していた兵が頷く。


「その理由は――この先をご覧になればすぐにお分かりになるかと」


そう言って、兵はさらに奥、音を立てて噴き上がる水源の方へと私たちを導いた。


しばらく森を歩いていくと、突然、視界がぱっと開けた。

ーーそして、ついに私たちは、水柱の源にたどり着いた。


***


轟々と唸る水の音とともに、あたり一面には、水圧により吹き飛ばされた瓦礫が散乱していた。

周囲の木々も根こそぎ倒れている。


その中央では吹き上がる水柱が、白い水飛沫を周囲に撒き散らしていた。

もくもくと、蒸気のような熱気がこちらまで押し寄せてくる。


圧巻の光景に私が立ち尽くしていると、ふとユリウスが何かに気づいたように呟いた。


「……これは、温泉なのか」


(温泉……!)


そう、水柱の正体は、山の地下深くに眠っていた広大な温泉脈だった。長らく魔物がこの地を根城としていたため、長い間その源は封印されていたのだろう。


だが、魔物の討伐と洞窟崩落によって、その封印が解け、地中に溜まっていた熱水が一気に噴き出したようだ。


「これが……温泉というものなのですか」


私はつぶやいた。

自分の生まれた南側の地方には温泉はなかった。だから、その言葉自体に馴染みはない。


でも何かの本で読んだことがある。温泉とは地下深くで火山活動などで温められた水源が、地上に噴き出したもので、水源の水質や地下鉱脈などの影響を受けて、さまざまな効能がある。


人の怪我や疲労を治すこともあるのだそうだ。


ユリウス様は、それを聞いて何かを確信したかのように水源の方まで進み出る。


そのまま水源の近くにできた大きな湯溜まりの縁へと立った。


「……この呪いの石と、それを作り出した魔物について調べていたとき、この地に詳しい学者がこう言っていたんだ。

 “魔物は清き水を嫌う。ゆえに、この山にあった神聖な泉を封じ、その上に巣食った”と」


そう言いながら、彼はおもむろに首元にかけていた呪いの石を手に取り、ゆっくりと掌の石を温泉の湯だまり中へと沈めた。


「魔物を倒した今、この泉によって石の呪いは完全に解かれるはず」


ユリウス様が呟く。

すると確かに、先程まで石を覆っていた邪悪な気配が消え、まるで穢れが祓われたように、石はもとの透明な光沢を取り戻した。


私は思わず息を呑んだ。


「石に封じられていた魔力が完全に消えた。

 これで、私の呪いもようやく解けたようだ」


ユリウス様の顔を見上げれば、確かに彼が纏っていた邪気もすっかり消え去ったようだ。


彼は今までの険しい表情が和らいで、清々しい表情を浮かべている。


「フェンネル、これはすべて君のおかげだ。

 私のせいで、危険な目に遭わせてしまってすまない。君がいなければこの呪いは解けなかった。……なんどお礼を言ったらよいか」


そう言って、彼は私の手を包み込んでそう言った。


私はユリウス様が今までにないくらいやさいい笑顔で微笑むので、思わず見とれてぼうっとしてしまう。


「わ、私は何も……。

 でも……お役に立てて、よかったです……!」



今までにない真剣な眼差しでまっすぐに見つめられ、しどろもどろになりながら答えると

ユリウス様は静かに笑って、私の頬に触れた。



――その後。

この地は、再び湧き出した温泉によって姿を変えた。


各地から沢山の人が訪れる、有名なリゾート地に変貌したのだ。その評判は北の地域だけでなく、今や王都やその周辺にも広まっている。


魔物の討伐によって平和を取り戻した町は、今までになく活気づいて栄えていった_。



***


屋敷に戻ってくると、再び平穏な日常が訪れた。


そんな日々を過ごしながら暫くたった頃__屋敷にある変化が起こった。

――最近のユリウス様は、なんだか"変"なのだ


この日も。朝食を取ろうと一階へ降りると、彼は私を見つけるなり、「おはよう」と言って柔らかく微笑む。


「お、おはようございます……」


不意に微笑まれ、私はまたしてもドキッとしてしまった。気を取り直していつものように向かいの席に座ると、ユリウスはまたふっと微笑む。


――彼は、一体どうしてしまったのだろう。


前はいつも忙しそうで、私と接する時も冷静で、どこか遠い印象を拭えなかったのに


この前などは、突然屋敷に大きな荷物が大量に運び込まれてきて驚いた。それらはすべて――高級そうなドレスや靴、装飾品、家具の数々。


しかも、それらはすべて「フェンネルのために」と彼が用意したものだった。おかげで私の部屋はいま、必要以上に高価な品々で溢れかえっている。


……おそらく、これらは魔物を討伐した私への褒美のつもりなのだろうとおもう。


でも、これはあまりにも…度を超えているというものではないか?私は、少し戸惑ってしまった。


* * *


私は、食事を取り合えて自室に戻ってくると、窓辺に腰掛けて、頬杖をつく。


――魔物を倒し終わった今、私には目下懸念事項がある。


それは、ユリウス様が無事に呪いを解くことができたことで、私はユリウス様にとって“特別な存在”ではなくなったということだ。


今までは、彼は呪いの制約によって他の人には触れられないという制約があった。


それが解かれた今、彼は私なんかよりももっと上級の貴族の令嬢とか、もっとふさわしい相手と婚約することができてしまう。


そもそもこの婚約は彼自身が言っていたように仮初めのもの。私のような端くれの男爵の家柄では釣り合わない事はわかっていた。


だからもし、彼が私との婚約を続けたくないと思ったら、私は今後の生活を考えていかなければいけないのだ。

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