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忌避された破壊魔法使いの私、嫁ぎ先の辺境公爵さまにかけられた呪いは、なぜか私にだけ発動しませんでした  作者: 秋名はる


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第22話 北部の魔物討伐2

翌日。

私はどうしてもユリウス様に辺境の地へ向かうのは思いとどまってもらいたく、朝早くから部屋を抜け出してユリウス様の私室を目指した。


あれから一晩考えて、いくつかの案を思いついたのだ。たとえば、ユリウスが持っている“呪いの石”を私が預かれないだろうか、とか。


あるいは、魔物のはびこる地に赴いたとしても討伐には向かわず、まずは敵の様子を探るだけにしてもらうとか。


もし太刀打ちできないと判断すれば、王都に援軍を求めることだってできるはずだと、彼を説得するつもりだった。


余計なお節介かもしれない、けれど彼自身をこれ以上危険に晒すのは耐えられない。


一直線に彼の部屋の前まで行き、勢い込んで彼の部屋の戸を叩く。だが、中から返事はなかった。ーー扉を開けると、部屋は既にもぬけの殻。


(……えっ? もう? 

 いくらなんでも早すぎじゃ……)


呆然と立ち尽くしていると、様子に気づいた執事のアルフレッドが静かに声をかけてきた。


「旦那様は、早朝に発たれてしまわれました。

 使用人たちのお見送りもなしに……皆に心配をかけまいと思われたのでしょう」


「そんな……でもそれでは、あまりにも……」


わたしは泣きそうになった。


「旦那様にとっても今回がいかに危険な公務であるか、ご自身が一番よくご存じなのでしょう。

 私も、引き止めたい思いで胸が張り裂けそうでした。けれど――使用人として、旦那様の背中を見送ることが、私の務めでございますから」


彼は無表情だったか、無念な思いが背中にひしひしと伝わってくる。


「そんな、今からでも追いかけられませんか?

 私も、ユリウス様には今回の遠征を思いとどまってほしいんです」


「……もう、お手遅れでしょう。」


そういったきり、アルバートは踵を返して去っていってしまった。


***


仕方なく私はその場を離れ、屋敷の一階へ降りていった。


すると、またもや廊下の先で洗濯籠を抱えたメイドたちが、ひそひそと噂をしているのが耳に入った。


「旦那様、あの魔物を討伐しに行かれたそうよ。

 北の地の民を長年苦しめてきた“災厄”なんですって」


「今回ばかりは……さすがの旦那様も無事には戻れないんじゃないかしら」


メイドたちも話は聞かされていたのだろう。一様に不安げな表情で顔を見合わせる。


「_でも、旦那様がいなくなれば、私たちも“あの呪い”に怯えずに済むんじゃない?」


「た、たしかに」


_まるで、厄介払いができたと言いたげな口ぶりだった。


「あなたたち……!他でもない屋敷の主人に向かって、なんてことを言うのですか!

 彼は、皆さんのために命を懸けて戦地へ向かわれたというのに!」


咄嗟に口を挟んでしまい、気づけば私は声を荒げていた。

振り返ったメイドたちは、ぎょっとした顔で立ち尽くした。


「お、お許しください……奥様」


慌ててそう言い残すと、彼女たちは籠を抱えたままそそくさと廊下の奥へ消えていった。


私はしばらくその場に立ち尽くし、唇をかみしめる。


(……やっぱり。彼を一人にはしておけないわ)


***


勢いのまま、私は屋敷を飛び出した。


屋敷の裏手――馬小屋の方まで駆けていくと、そこには以前、私を町まで連れて行ってくれた御者の男性がいて、飼い馬の手入れをしていた。


「すみません、急用ができて。

 今から馬車を出してもらえませんか」


息を整える間もなく、私は切羽詰まった声で言った。


「え、今からですか? いいですが……どちらまで行かれるのでしょう?」


「北の山地まで。

 旦那様を追いかけていただきたいのです」


「えぇっ!? 北の山地ですか!

 そんな、今からじゃとても無理ですよ。ここからだと丸一日はかかります。」


慌てて言い直す御者に、私は一歩踏み出して言い返した。


「でも、行っていただかなくては困るのです」


私の鬼気迫る様子に、御者は困惑したように眉をひそめた。


「そんなに急いで……一体どうなさったんですか?」


勢い込んで言ったものの、私はここで返答に詰まった。


「え、ええと……旦那様が忘れ物をされたのです。すぐに届けなければいけません。」


自分でも苦しい言い訳だと思った。

だが、本当のことを言っても、きっと止められるだけと思い、押し切る。


「それは……お嬢様が行かなくても、使用人が早馬で追えば済むのでは?」


「確かに……そうなのですが、私が行かなくてはならないのです。彼を一人にはさせておけませんから」


私の必死の形相に、御者はしばらく言葉を失った。

やがて、苦い顔をして小さくつぶやいた。


「お気持ちはわかりますが……お嬢様が行かれたら、危険が及ぶかもしれません。それを旦那様が望むでしょうか」


私の能力のことを知っている御者は、なんとなく察しがついたようで不安げに私を見つめていた。


「それでも、ここで黙って見ているわけにはいかないのです。

 なんとか……お願いできませんか?」


わたしは、更に一歩踏み出してたたみかける。


「彼を説得して連れ戻せれば、それでいいのです。私を送り届けたら、あなたはすぐに引き返して構いません」


すると御者は深くため息をつき、腕を組んで考え込んだ。


しばらく沈黙が続いたあと、ようやく折れたように頷く。


「……分かりました。

 すぐに準備します。でもどうか、くれぐれもお気をつけて」


そう言って、彼はすぐに出立の支度を整え始めた。


***


馬車は北へと走り、その日の夕方には、北の辺境の地へたどり着くことができた。


途中、立ち寄った村で耳にした話によると、魔物は長く北方の山脈にある一つの洞窟に身を潜めているらしい。


古来からその山には呪われた魔物がはびこり、近づいた者はことごとく姿を消すので、今では誰も近寄ろうとしないという。


たどり着いた山の麓では、すでに王国の警備隊が厳重な封鎖を敷いており、村人たちを先へ進ませぬよう予防線を張っていた。


私は、公爵の婚約者という立場を利用して警備網をくぐり抜け、洞窟の方角へと馬車を進めた。


やがて目的の洞窟が見えてくる。

その前には、同様に警備隊が張り付いて警護していたが、私は彼らの制止を振り切り、勢いのまま馬車を降りて、ひとり洞窟の中へと足を踏み入れた。


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