98話 書
書庫で文献探し。宰相さんが戻るまで、それくらいしか出来る事がないからね。
前と違って、太郎君もやないさんも董明さんも居ないのがちょっと寂しい。
「前は、薄い本ばかりを探していたけど……分厚い本でも重要なのがあるかも」
とは言え、多すぎて途方にくれる。
何も書かれていない背表紙を眺めて歩いていると、背表紙の下の方に小さい文字がある事に気がついた。
文字と言うか、印?
そぉっと取り出して開いてみると、中身はこの国の文字で書かれていた本だった。
書いてあるのを理解するのに苦しむような大量の文字、文字、文字。
元から長い文章を読むのが苦手だった。
小学校の時から、授業中は教科書の後ろのページを開いて、いたずら書きをしていた。余白のとこに絵を描いたり。
それでつい、取り出した本の最後のページを開くと、そこには縦書きの日本語があった。小さい文字でびっしりと。
読もうとしたが、2〜3行で飽きた。小さすぎるのと文章が難しい。
栞を挟んでおいた。
他のも探す。結構あった。
読むのは苦手だけど探すのは楽しかった。
タガセンに呼びかけられるまで、『あとがき日本語探し』に熱中した。
書庫の半分も見ていないけど、この時点で12冊あった。
それをタガセンに渡した。読むのはタガセンと高田の爺ちゃんにお願いした。
「このぼろぼろのは、かなり古い文献ですね。200年どころじゃない昔に書かれたようだ」
どうもこの世界と地球の時間軸は合わないみたい。確か前に日向君達も似た事を言ってた。『時間の進みが単純に同じではない』とかどうとか。
『召喚されてこの世界で360日経過しても、帰還したらあの日、あの時間に戻るはず』とか、言ってた。
「みんながあの日に戻ったんなら、そこに僕らは居ないんだよね?」
「そうだな。俺とポチャ次郎が消えていなくなる」
「居なくなる……。僕らの存在が無くなるのかな。みんなは僕らの事を忘れちゃうって事?」
「どうだろうな……。最初から存在しないようになるのか、それとも、行方不明になるのか……、わからんな」
「忘れられちゃうのは悲しいな。太郎丸や日向君に覚えていてほしい。でも、覚えてなくて楽しい毎日送ってほしい……気もする」
「次郎坊……」
「あ、でも、忘れてた僕らが、遅れて戻ったらどうなっちゃうんだろう。びっくりするね、きっと。急に思い出すのかな? それとも忘れたままかな? 忘れてたら僕またイチクミに初めましてになるのかぁ」
モヤモヤする気持ちを持て余す。僕、何を言いたいんだろう?
「360日を超えての帰還についてメモがあったぞ。『超えた分と同じ時間が向こうで進む』……この先が、文字が擦れて見えないな」
タガセンの持っていた書簡を高田の爺ちゃんが覗き込んだ。
「なるほど。あぁ……これは、『確証がな……』消すというか削り取ってありますな」
「うむ、削った横の文字……ではなく、『確証が』の方にバツか?」
「誰かのメモに、さらに誰かが書いたという感じですかね」
結局、どう言う意味なの?
僕に文章の読解力を求めないで。カッコを埋めよとか、僕、埋めれない系だから。
僕が唸っていた事に気がついた高田の爺ちゃんが笑いながら説明をしてくれた。
「前にろく中の皆が調べてくれた中に、『360日目に帰還をすると、召喚された同時刻に戻れる』とあったじゃろ?」
うんうんと頷く。
「では、360日を過ぎるとどうなるのか。実際にわしらは360日目に帰還をしなかった。わしらはどうなるのか」
うんうんうん。どうなるの? この世界で一生を終える……以外で?
「多分じゃが、このメモ。『超えた分と同じ時間が向こうで進む』と誰かが書いた。その後に『確証がな』とある。前の文章に被せるように書かれた文字、これは筆跡が異なるから最初とは別の者が書いたんじゃろ。確証がないと書いたが、それをまた上から消すようにバツを書いた者がいる」
「そうだな、3人目はバツだけなので筆跡がわからん。1人目と3人目が同じかはわからんが、1人目と2人目は別人だ。そして日本語を書いている事から、過去に召喚された人物だ」
「けど、インクの具合から、恐らく同時期に召喚されたもんじゃろう。彼らも召喚と帰還について色々と調べ、そして、残そうとしたんじゃな」
「確証がない、と言う言葉バツで否定した。と言う事は、確証があったという事だ」
「な、なんの……確証ぉ?」
めちゃくちゃ丁寧に説明してくれているのに、僕ってば、話している内容がちっとも頭に入ってこない。ごめんなさい。
一瞬、タガセンと高田の爺ちゃんが黙ってしまった。
「うむ、そうだな360日目に帰還したイチクミの連中は、こっちで1年過ごしても、帰ったらあの日、召喚されたあの日、2026年の4月7日に巻き戻る。でも、360日目に帰還できなかった俺たちは、ここから先、時間が進んでいく。もうあの時間には戻れない。ここまでは解るか?」
何となく解ったので、とりあえず頷く。
「メモには、それが本当かどうか判らない、確証がないと書かれたが、その後に、確証がないをバツで消していた。つまり確証があった」
「な、なんの、確証?」
「360日目のみが、召喚された日に巻き戻れる」
「それ以外は、時間が進んでしまうって事ですよ」
「ふ、ふぅん。……時間が進むって普通の事なのに……」
「そうですね。360日目だけが奇跡の日なんですね」
「そっか。それ以外は奇跡が起きないって、解ったって事」
「そうだ。それ以外は、解った………って、こ、と……」
突然、タガセンが僕に抱きついて背中をバンバンと叩いた!
え、これ、タガセンビンタ?
痛い痛い。
噂のタガセン(背中)ビンタ、僕、初めてされたああああ!
物分かりが悪すぎたからあ?
「そうだ! そうだったんだ」
「田川先生、落ち着いてください、次郎が痛がってますよ」
「すまん、すまない。そうだ。高田さん、確証がないをバツで消した。つまり、後に確証があった」
「ええ、そうですね。それが?」
タガセンはもう僕の背中を叩いていないけど、僕をギュウギュウと締め付けていた。これ、なにかのワザかけられているの? く、苦しい……。
「360日目を超えると向こうの世界の時間も進む。確証がなかったが、その後に確証があったのでバツつけた。その確証は?どうやって手に入れた?」
「まさか……」
「過去に、こちらの世界と地球を行き来した者が居た。そうでないと『時間が進む』などとはわからないはず」
「召喚された誰かが、日本戻った。そしてまたこちらに来た?」
「そうでしょうね。これがいつに書かれた書なのか。いや、いつとかは問題ではない。再度来たと言う事は、思った以上に帰りやすいのかもしれない」
「もう少し、探してみましょう」
「ですな」
僕、休憩していいですか?




