96話 ズレた帰還
国内で起きた中学生の失踪事件。
ただの個人的な失踪なら普段から起こっているが、今回国をあげての騒ぎになっているのは、クラス全員が同時に行方不明になったからだ。
それが6つの中学校で。
事件は4/7に起こった。関東圏内の6つの中学で、おそらく同時刻に25人の行方不明。教室内からの失踪。
そう、教室内から忽然と消えた事がそもそもあり得ない状況だ。
その上、25人の失踪という大人数、しかも年齢が13〜4歳という子供。
それが都内で3件、埼玉県で2件、千葉県で1件同時に起こった。
まったくもって前代未聞の大事件だ。
しかも、事件は進展が無いまま15日目を迎えた4月22日。
何と、ひとつの中学から失踪した25人が戻ってきたのだ。
戻って来たのは埼玉県芽木つくし中学2年1組の22人、それと教師が2名。
謎の6校生徒消失事件から15日後に、そのうちの1校だけが戻った。それだけでも大ごとなのだが、芽木つくし中学から行方不明になった25人のうち、用務員をしていた高田氏は行方不明のまま、代わりにそこに現れたのは都内で行方不明中の本郷中学のひとり、瀬戸という女生徒だった。
高田氏はどこに?
そして本郷中の他の生徒24人はどこに?
謎が深まるばかりである。
病院に収容した芽木つくし中学の生徒達から聞き込みを続けた。全員が同じ夢でも見ていたかの発言ばかりである。変な薬を使われたかと検査も念入りに行ったが、特に問題は見られなかった。
だが、皆の口から語られるのは『異世界へ行った』という、おかしな話ばかりであった。
その中で『さか中』という言葉がよく出てきた。
さか中について問いただすと『境井戸中学』の事だと言う。
「千葉県のさか中だけど?」
「千葉県? 千葉県で現在行方不明になっているのは緑陽中学だけだが、そこと勘違いしてないか?」
「してない。ろく中はろく中。さか中はさか中。もういいよ!」
「いや待った。もう少し話そうか」
「もういい。疲れたから話したくない。それより母さんといつ会えるの? 俺らこの警察病院に捕まってるの?」
「いや捕まってはいないよ? 検査が終わって問題が無ければご家族と会えるよ」
「うっそくせぇ。家族に知らせてもいねえんじゃね? 児童虐待反対!」
生徒の殆どから『さか中』の話が出たので、調べる事になった。
千葉県野田市に境井戸中学がある。念の為、聞き込みに行った者が驚愕の事実を突き止めた。
今回の中学失踪事件は6校ではなく7校であった!という事実が発覚した。
「千葉県野田市立境井戸中学、そこの2年1組。男子12、女子12、それと佐々木教諭の25名が、実はあの4/7に失踪をしていたようです。直後に戻され?たので、周りに気づかれなかったようで」
-----(染谷視点、地主の方)-----
4/7にクラス25名で異世界へ召喚されて、無事に25名で4/7に戻ってくる事が出来た。
1年が経過したとも思えないくらい、普通の日常が戻って来た。
ろく中もめぎ中も、同じように戻っていると思ったのに、世間では行方不明のニュースが氾濫していた。
聞いていた連絡先にかけても、電話に出たのは家族だった。
何があったんだ。
クラスで集まって話をした。周りに聞かれないように、カラオケの大部屋を借りて集まっている。
うちの親戚が持っているカラオケで、お願いすると無料で使わせてくれるので助かる。食い物と飲み物は各自持参してもらう。
「何で、ろく中もめぎ中も戻って来れなかったんだ」
「ねぇ、やっぱりあれじゃない? 本郷中……」
「召喚とメンバーが変わったら帰還は出来ないって事か?」
「わからなけど……」
「あのろく中が、帰還スタンバイを失敗するとは思えない。考えられるのは異分子が原因。ろく中には木田、めぎ中には瀬戸がチェンジで入ったんだよな?」
「うん。タガセンと高田さんが残るって話」
「入れ替わったせいで帰還が作動しなかったのかな」
俺達はあちらの世界に置いてきてしまった仲間を思った。彼らはもう戻れないのか……。
しかし、事件は起こった。4/22。
めぎ中が戻り、世間は大混乱になった。何しろ目撃者が多くSNSにもかなりあげられていたのだ。
とりあえずめぎ中が戻ってきた事に俺達は安堵した。
「めぎが戻れたって事は、ろく中も戻ってるんじゃなか?」
「ううん。連絡してみたけど、やはり家族が出た。ろく中はまだ戻ってないのかな」
ところが、それから1週間ほどして、学校の校庭に怪しいバスが入って来た。
窓に鉄格子があるバス。
そして僕らは連れて行かれた。
警察病院という謎の建物に…………。そこで待っていたのは『お話を聞かせてくださいね』と言う尋問。
そこで、さか中の生徒と会った。
「すまん、お前らの事をゲロってしまった」
「許せ、仲間を売った俺を……」
世間では6校の失踪事件と言われていたが、実はうち境井戸中学も入れて7校なのがバレたそうだ。
別にいいけどね。
俺達はお互いの無事を確認しあった。
そして、ろく中が戻っていないのも確認出来てしまった。
どうした、ろく中よ。
ポチャ次郎ぉぉぉ、無事かぁ。
佐々木先生がまず事情確認で別室へ呼ばれたが、泣きどおしで話にならなかったようで、直ぐに東風谷と稲子が呼ばれた。クラス委員と副委員だからな。
その間、俺らはめぎ中の皆と話していた。
どうせ聞かれているだろうから、聞こえるように話してやる。その方が後で楽な気がした。
「めぎ中の帰還が15日ズレたのが、本郷の瀬戸が入ったせいだとして、だったらろく中も同じく戻って来ていてもおかしくないよな」
「そうなんだよな。ろく中は木田がタガセンとチェンジだったよな」
「あのろく中が、モタモタして帰還に間に合わなくなったとは思えない。何か、あったんだろうか」
「うーん、思いつかないな」
「ねぇ、それとさ、他の4校も戻ってきてないじゃない?」
「そうだな。本郷中、それとどこだっけ?」
「千秋、麗朋、五中のみっつ。どこの国がどこの中学を召喚したのかは不明だけど、帰還はしてこないわね」
「召喚した国は、山岳地帯のアンブリア国、森林地帯のフォーレスタ国とウッダレジオン国だっけ。結局、その3国へも行けなかったね」
「戻って、こない、気がする」
「何でだ?」
「だってさ、うちらだって、ろく中と交流がなかったら、きっとまだあのままあそこに居た気がする」
「そうだなぁ。帰還方法とか探ってもいない気がするな」
「その4校は失踪したままなのかな」
「でも、ろく中は絶対戻ってくるぜ!」
「だよねぇ」
ポチャ次郎ぉ、戻って来いよぉ。
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5/6、世間はGW(の振替休日)最終日の朝、
ろく中2年1組が教室に戻った。
-----(善哉視点)-----
眩しい光がおさまり、ようやく目が慣れてきた時、違和感に気がついた。
机の中にあったはずの教科書も文房具も、学校支給のタブレットも無くなっている。
タブレットは3年間通して使われる。
新学期初日に『2学年』のデータをアップロードをしたのを覚えていた。
欠席だったポチャ次郎の分もやったので俺がタブレットを預かっていたのだ。
自分のを含めてちゃんと2台持っていたはずなのに、今は無くなっている。机の中の奥まで腕を突っ込んだが何も入っていない。
あの日の朝、自分の荷物を入れてきた鞄さえもない。
皆も自分の荷物が無くなっている事に気がついて後ろのロッカーを開けたりしていた。
何かがおかしい事を感じて、顔を見あったり首を傾げている。
こちらに戻る前に、何度もクラス会議で打ち合わせをした。
召喚された同じ時間に戻るのだ、周りに気が付かれないようにいつもどおりの行動をするように言われていた。
だが、おかしい。
隣のクラスに気づかれないように静かに廊下に出るが、隣のクラスも校庭にも人がいない。
「同じ時間に戻れるはずだよな?」
「まさか、ここも異世界って事ないよな?俺たち元の世界に戻ったんだよな?」
「イチクミの教室に間違いない。後ろのロッカーに自分の名前の札があった」
「でもさ、なんで俺のロッカーがカラなんだよ! 俺、入れといた2年のテキストが全部無くなってるぞ? 教科書全部失くしたなんて親に、いや、タガセンに怒られる」
「大丈夫だ。俺も無い」
「あと、タガセンはまだ向こうだかんな」
誰かがドタドタと走る音にそっちを振り返ると、木田と蒼井が走り去って行くところだった。
「あ、待てよ!」
「何で蒼井?」
「蒼井君って見送り組じゃなかったの?」
「蒼井が混ざったって、俺ら26人で帰還したんか? 誰か合体し…」
「ねえ! ポチャが居ない!」
「え……」
「太郎じゃなくて、ポチャ次郎のほう!」
「あいつ……ボケっとして途中で落ちたんじゃ」
「じゃなくて! 蒼井が無理矢理入って押し合って、多分ポチャが陣からはみ出た」
ポチャ次郎が置き去りにされたという事実に皆が打ちのめされた時に、隣の教室へ行ってた日向が戻ってきた。
「おい、今日は4/7じゃないぞ!」
皆の目が日向へと集まった。
「2組の教室の黒板に、5/1(金)とあった」
「今日……5/1なんだ? 4/7に戻れるんじゃなかったか? 俺ら、戻る日がズレたってこと?」
「どういう事だ?」
「帰還メンバーの変更でもしかすると何かが起こるかもしれないと思っていた。帰還日がズレたのか」
「5/1に?」
「いや、今、学校に人がいないだろ? 5/1は昨日より前だ。5/2〜6がGWだ。おそらく、俺らは今、GWの最中に帰還したんだと思う」
「スマホぉ! スマホがあれば確認出来るのに、何で机の中がカラなんだよ」
「荷物、持って帰られちゃったのね」
「誰に?」
「多分、家族か、警察か」
「俺らが予定どおりに4/7に帰還していれば、机に荷物はあったはず。けど、4/7に俺らは行方不明になっている。だから荷物も回収されたんだと思う」
「え、じゃ……あの、俺って、家に帰っていいの? 帰ったらダメなん?」
「とりあえず、近場の交番に出頭しよう」
「自首? 俺ら警察に捕まるのかー」
「今日が4/7じゃなかったって事は、既にもう大事件になっているわね」
「捕まるのは時間の問題かぁ」
「第二案へ移行だ」
「そうねぇ。第一案は、異世界へ召喚された瞬間に戻れた場合、静かに日常を取り戻すだったけど、それが崩れた場合は第二案に速やかに移行する。最後のクラス会議で決めた事」
「そうだ。第二案。親や警察、国に丸投げする。俺たちは正直に聞かれた事を話すだけだ」
「と言うわけで、交番へ行くぞ。全員、出席番号順に並べー」
俺らは皆、時間がズレた事よりもポチャ次郎を連れて帰れなかった事のショックを隠せなかった。
出席番号順ではなく、いつもの班で並んでしまった。
俺の横にポチャ次郎が居ない。




