95話 イレギュラー
360日目の帰還であったが、召喚時とメンバーが変わった事でイレギュラーが発生した。
元の場所には帰還できたが、召喚時と同時刻には戻れなかったのだ。
境井戸中学のみが行きも帰りも同じメンバーであったため、あの日のあの時間に何事もなかったかのごとく帰還できたのであった。
あの瞬間、4/7午前9:00、チャイムが鳴り響く。
着ていた制服も髪型も髪の長さもあの日のまま、男子12名女子12名が席についており、1限目の社会科授業の教師である佐々木が教壇へ向かいかけた姿勢で立っていた。
一瞬のあと、教室中を怒号のような喜びの叫びと泣き声が渦巻いた。
女性教師の佐々木は、床に伏せて泣いていた。
驚いたのは隣のクラスである。隣から漏れ聞こえる突然の騒ぎ声に先生が覗きにきて、生徒を落ち着かせようとしたが効果はなかった。
4/7に帰還した境井戸中学は『とある中学のひとクラスで集団パニックが発生』程度の騒ぎであった。
それは、それよりも関東圏内の六つの中学校でクラス丸ごとの集団失踪事件が大きく取り上げられていたからだ。
世間の目はそちらにむいていた。
六つの中学の失踪。
『関東圏内で六ヶ所の中学の一室から、クラス全員です! 突然に姿を消しました!』
『どういう事ですか? 集団失踪ですか?』
『それが、失踪したどのクラスも、数分前までは両隣のクラスからの目撃もあるそうです。確かに居た、と!』
『6ヶ所の学校という事ですが?』
『はい。東京都八王子市立本郷中学校、東京都千秋大学附属私立千秋中学、東京都私立麗朋学園中等部、埼玉県春日部市立芽木つくし中学校、埼玉県さいたま市立第五中学校、千葉県流山市立緑陽中学校、の六校です。繰り返します、東京都八王子市立本郷中学校、東京都千秋大学附属私立千秋中学、東京都私立麗朋学園中等部、埼玉県春日部市立芽木つくし中学校、埼玉県さいたま市立第五中学校、千葉県流山市立緑陽中学校』
『ええと、都内が3校、埼玉県が2校、千葉県が1校ですか?』
『そうです、合計6校の、ひとつのクラスが丸々全員、居なくなったそうです』
『これは未確認情報なのですが、芽木つくし中学の2年2組の担任である植原教諭は生徒の目の前で消えたと言う事です』
『目の前で? 生徒も消えたんですよね? どこ情報ですか?』
『いえ、消えたのは2年1組の生徒全員とその担任の佐藤教諭、それから2組の生徒の目の前で2組の担任の植原教諭が突然、消えたそうです』
『目の前でって、生徒が見ている前で、ですか?』
『ええ、まるでマジックのように。それと芽木つくし中学の用務員の男性も行方がわからなくなっています。2年の各クラスへ教材を運んでいた途中ですね』
千葉県野田市のとあるカラオケ店の一室にて。
「地主ぃ! こっちこっち」
「すまん、家をなかなか出られなくて」
「うちも、出るの大変だった。お父さんが心配しちゃっててさ」
「稲子んとこ元から心配性じゃん」
「みんな、来れたのか?」
「公務員と東風谷がまだ。あと、誰来てない?」
「それにしてもどういう事だ?」
「めぎ中とろく中は帰還に失敗したのか?」
「そんな……」
緑陽中学と芽木つくし中学はメンバーが変わったせいで時間軸に多少のズレが生じた。
芽木つくし中学は15日後(4/22)に、教室へと帰還した。
その中には本郷中の女生徒、瀬戸も居た。
瀬戸は異世界に残った用務員さん枠で帰還したのだ。
生徒達は、あの日のあの時間に戻れると聞いていた。
だから騒がずいつもどおりの朝にする予定であった。
が、やはり子供達に1年は長かった。
帰還直後に数人が歓声をあげてしまい、慌てて口を押さえた。
しかし、隣の教室の方では、けたたましい叫びが次から次へと上がった。
教室の後ろのドアから植原先生が駆け込んできた。
なんと、植原先生は2組の教壇前に帰還したそうだ。
当然、2組では大騒ぎになった。
何しろ、4/7に目の前で消えたはずの先生が、4/22である今、突然、目の前に現れた。
騒ぐなというほうが無理な話だ。
2組の生徒が数人、植原先生を追いかけて1組の教室を覗きに来た。ひとりまたひとりとやってきた廊下は生徒が鈴なりに大騒ぎになった。
召喚から戻った生徒達は今日が4/7だと思っている。
だが、周りからすると15日間行方不明になっていた生徒が突然戻ってきたのだ。
2組にいた先生はすぐに職員室に走り、他のクラスからも廊下に出て来る生徒や先生で大混乱になった。
もちろん、今時の子供達である。持っていたスマホで撮影をする生徒も少なからずいた。
当然、SNSにあげる生徒もいた。
あっという間にネットに駆け巡るニュース。
15日前の『失踪事件』のせいで学校の前にいたマスコミをようやく減らせたはずが、またしても門の前に押しかけてくるカメラマンや記者達。
ニュースを知った他五校の生徒の親も自分の子供の学校に向かった。
『うちの子も戻ってきたのでは!』
残念ながら、それはなかった。
『驚きました。行方不明になっていた6校のうちのひとつ、埼玉県春日部市の芽木つくし中学校の生徒が全員戻りました。繰り返します、芽木つくし中学校、2年1組の生徒全員、及び担任の佐藤教諭、それから2組の担任である植原教諭が戻られました』
『確か、目の前で消えたという植原教諭もですか?』
『はい、植原教諭もです。今度も、目の前に現れたそうです。怪我人はいない模様です』
『それはよかった』
警察からどこぞへ連絡が行ったようで、あっという間に芽木つくし中2年1組の生徒、及び先生は病院へ搬送された。
どこかの大きな病院へ連れて行かれ、そこに入院、あれこれ検査に回される日々、家族との面会もまだ禁止されている。
数人が個室は嫌だと大騒ぎして、ようやくクラスの何人かと会う事が許された。
「どうなってるんだよ」
「ここって私らの居た世界?」
「何で家族と会えないの? 家に帰りたい」
「ねえ、全員、大部屋に変えてもらおうよ!」
「なぁ、なぁ、今日が27日って聞いたか?」
「えっ? 戻って直ぐにここに連れてこられてまだ5日だろ? だから今日って4/12じゃないのか?」
「違うんだよ、俺らが戻ったの、22日なんだって」
「うっそ……」
「マジか」
「あ、いや、何年のよ? もしか、1年経ったんか?」
「や、違う違う、それは召喚された年のまま。けど、あの日に戻れなかったみたいだ。15日、ズレた」
「文献が違ってたのかな」
「ろく中とさか中も、ズレたのかな? 誰か連絡取れない?」
「連絡先とか聞いてないの?」
「聞いてるけどスマホ無いじゃん。ガッコの机ん中。荷物持つ間もなくここに連行されたからさ」
「あ、やっぱここ警察病院? 俺ら、連行されたんだ」
「なんでぇ……悪い事してないのにぃ!」
「あのさ、世間話みたいな取り調べ、何度もされてんじゃん?」
「あ、あれ、取り調べだったのか」
「どこまで、話してる?」
「…………」
「……聞かれた事、全部?」
「だよな? 嘘ついてあとで辻褄があわなくなると困るし」
「うんうん。でも、全然信じてないよな、あれ。同じ質問を何度もされる。うざ」
「まぁ、信じるも信じないも向こうの勝手だ」




