94話 360日目
-----(田川視点)-----
色々とあったが、とうとう帰還する日が目の前まできた。
さか中はウッドランドへ、めぎ中はコスタルへと先生、生徒共に戻り、スタンバイしている。
うちのろく中も、魔法移動スキル持ちがストーンヘンジをブックマークしてあるので、事前に訓練として何度かクラスでそこを行き来をしていた。
そして、今日は朝からストーンヘンジでスタンバイだ。
境の頂の塔へは宰相一行が向かっている。昨夜も関係フロアの祭壇の光り石が消えていない事、36の燭台が灯っている事を確認した。
前倒しで魔力石をセットしていき、全ての燭台は灯ったのだが、帰還の操作が不明という事実に直面した時は震えあがった。
だが、董明達が見つけた書簡に『360日』という記載があった事から、その日にかける事になった。
教師らは衝撃を受けたが、生徒達はあっけらかんとしていた。
「もう、なるようにしかならないよなぁ」
「だよな。俺達に出来る事はない」
「いや、ある。359日まではこの世界を楽しむのだ!」
「おおう!」
昨日は異世界最後の夜、とかで、生徒らの寝室は大騒ぎだった。見回りに行く度に、枕が散乱していた。
ダルマさんが転んだ状態で寝たふりをしている。
まぁ、気持ちはわからなくもないが……。
俺と高田さんは、この先もこの世界で生きていく。けれどブリンクランドもコスタルもウッドランドも協力的で、この世界で人生を全うするのも悪くないと思えた。
ただひとつ、気にかかるのは蒼井の事だ。
自分から『残る』と言ったとはいえ、帰りたい気持ちを抑えているのはわかっている。
高田さんとも話したが、何とかディサートへの行き方を今後も探る予定だ。
今は生徒を見送るために、ブリンクランドのストーンヘンジに来ている。
今回帰還する事になった本郷中のふたり、瀬戸はめぎ中の高田さんの代わりに帰還する。なので、めぎ中の生徒と一緒にコスタルでスタンバイしているはずだ。
木田は俺の枠で帰還する予定なので、イチクミの生徒と一緒にストーンヘンジの中に居る。
ストーンヘンジ、この世界に召喚されて来た時は、何も無い草原と思っていたが、巨大な石が円を描くよう聳り立つ、その中の地面は草が一定方向へと薙ぎ倒されている。まるでミステリーサークルのようだ。
俺と蒼井、それと城の騎士達は、帰還に巻き込まれないように巨石の外側に居る。
サークルの内側に立っている生徒達は落ち着かない感じで騒ついていた。
木田は蒼井を置いて帰る事に後ろめたさを感じるのか、見送りにきた蒼井から隠れるようにイチクミの生徒の真ん中に居た。
やがて、足元のサークルが光り始めた。
とうとう、『帰還』が始まるのか。
そう思った瞬間、蒼井が中へと突っ込んでいく。
イチクミの生徒を掻き分けて中に居た木田に飛びかかった。蒼井は木田を陣から引っ張り出そうとしているように見える。
「お前だけ帰すもんかぁっ! 俺と残れよ!」
「や、やめろ、蒼井っ」
「ちょっと、押すなよ」
「竜崎っ! はみ出るな!」
「痛っ、蹴るな」
「やめてよ」
「りかちゃん!」
光が眩しくてよく見えないが生徒達の混乱した声が聞こえた。
まずいぞ、このまま帰還したら26人の帰還になる!
どうする……と、その時、
ドンっ!ピカリっ!
…………シュン
光が消え。
サークルの中に居たイチクミの生徒は消えた。
本郷中の蒼井も木田も消えた…………。
くっそ、……まさか、26人で戻ったのか?
「あ、あ、あぁあ。僕、土俵からはみ出たぁぁぁぁ」
サークルから離れた草の中で大福がひっくり返り、転がっていた。
大福が……、いや、草凪が転がっていた。
25人だった事を喜ぶべきか、イチクミからひとり追い出され残された事を悲しむべきか。
とりあえず、草凪に突っ込んでおく。
「草凪、あれは土俵じゃなく召喚陣だ」
「うぇ、はぁい」




