91話 12月会議
ブリンクランド、ウッドランド、コスタルの3国は外交官交流も始まった。おかげで前よりはお互いの国に行きやすい。
召喚の第三条件のせいで強さが補正されてしまったスキルだけど、それもたいした問題ではなくなったみたい。
3国の国境を考えず、得意なスキルで倒せる魔物がいる場所へ、討伐班は日々動き回っている。
魔力石の収集目標も軽くクリアしていくようになって、日向君達は慌てて目標を変更していた。
実はあれからさか中とめぎ中の生徒は正式にブリンクランドに引っ越してきた。
いちいち毎朝集合するのも、魔法移動スキルの人が大変って事で、僕らが居るお城のフロアに、それぞれさか中女子部屋、男子部屋、めぎ中女子部屋、男子部屋が整えられた。
それと、1階になるけど、『合同会議の間』が新たに出来た。中庭に面した広い部屋だ。食堂も近い。
毎朝、全員で5周走り、朝ごはん食べた後に『朝のクラス会』を行う。70人で、だ。
タガセンや他の先生は月一くらいの参加。特にタガセンはなんか忙しくしていてあまり見かけない。でも日向君達は頻繁に会っているんだって。
僕ら生徒と一緒に居てくれるのは高田さんと佐々木先生だ。生徒全員と、と言うよりはほぼ城之内班の一員かな?
城之内班。
城之内君、太郎君、董明さん、やないさん、漆原さん、それと僕。
さか中からは、佐々木先生とジヌ染君。
めぎ中からは、俊君と吉田君と新井君。俊君は鈴木俊君で沢山いる鈴木一族のひとり。スキルは生産(育成)。森狸をテイム中。
吉田君は生産(狩)、新井君は生産(採取)、僕や太郎君と同じスキル。そして高田さん。
高田さんは土魔術。罠設置の時に土魔術がいてくれると意外と助かったりする。
ろく中の魔術持ちは魔物討伐に力を入れているので、遠方に出かけている事も多い。以前はちょっとした事で呼ぶのは悪いなぁと呼べずいたから、自分達で穴を掘る事が多かった。
でも今は高田さんが居てくれて、どんな穴でもチャチャっと掘って貰えて嬉しい。
僕ら生産チームは、罠の設置以外に採取でも頑張っている。ブリンクランドの平原だけでなく、ウッドランドの森林でも武器や薬の材料も集めている。
3国それぞれに必要な物を必要な国のギルドで買い取ってもらったりもしている。
ギルドで出来た資金で、その国の特産物を購入して帰る。コスタルでは勿論、新鮮な魚介や魚醤。ウッドランドでは木の実や果物が多い。
お肉は罠で獲れた物があるので買わない。直接お城の食堂へ持ち込んでいる。何しろ75人分の食料だ。結構な量のお肉を持ち帰らねば。
魔物はその場で解体して『毒』部分は完全に抜いていく。実は獣肉より魔物肉の方が美味しかったりするのだ。
ギルドからは肉が余ったら少しでもいいので買い取りたいと言われている。
そのあたりは城之内君と董明さんが計算してやりくりしてくれる。
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この世界に来て、9ヶ月が経った。今は12月。
「皆さんの頑張りのおかげではやくも目標が達成されました」
「12月の目標か?」
「年末までの分が終わった?」
「いえ。3月末まで、360日分の魔力石が貯まりました」
「マジ?」
「えっ? 1校分?」
「残り2校かぁ」
「いえいえ。ブリンクランド、コスタル、ウッドランドの3校分です。皆さん、お疲れ様でした」
「お?」
「おおおおお!」
「うおおおおおおお」
合同会議の間が大歓声で包まれた。
みんな、近くの人と抱き合って喜んでいる。僕も赤城君達に揉みくちゃにされた。
「って事は、塔の燭台の光が全部、点いたんだ」
「そうだ。4階、8階、11階の祭壇周りの燭台が灯った」
「それ、灯ったままだよな? 時間が経ったら消えたりしないよな?」
「どうなんだ? 1回消しておいたほうがよくないか? 魔力使い切ったら消えたりするんじゃないか」
「そこがまだ不明だ。なので、定期的に確認には行くつもりだ。それと並行して万が一を考えて魔力石の収集も続けてほしい。それから聖壁について、董明から発表して」
「はい。国を囲っている聖壁について、3国でも話をしてきたそうです。聖壁のメリット・デメリットについて、お話ししました。そこで新しい壁を設置する事になりました」
「新しい壁って? 普通の石壁を?」
「いえ。聖なる壁ではありますが、外側のみ魔物避けをかけます。それと国全体を囲むのはかなりの人手と時間が必要になります。私達の残された時間では足りません。なので、王都、街、村を、その必要な土地を含めて小さく囲んで行くそうです」
「それでも全部は無理じゃない?」
「そうですね。でもそれはこの国、この世界に住む方々が考えていく事。私達は神でも聖女でもない。手はお貸しするけれど最後までの責任を持つつもりはありません」
「ろく中は聖女や女神が多いけどな」
「だよな。董明、鈴山田、竜崎、ファリタ……」
「実は既に壁造りは始まっています。それぞれの国で」
「どういう事だ? 聖壁って誰でも造れるのか?」
「書庫で見つけた200年前に聖女が使用したと思われる召喚図、それを分解したところ、壁の部分と付与の部分に分ける事が出来ました。壁はどなたでも作れます。が、付与の部分はその魔術を使える方のみですね」
「そのとおり。だから壁造りは先に進めてもらっていた。俺ら召喚人の土魔術だともっと頑丈なのがラクに造れるんだが、今までは魔物討伐と石集めが優先だったからな」
「って事は、魔力石集めの目標が達成したから、俺らは今度は壁造りか」
「そうだ。赤城達、土魔術を持っている者は、壁造りに参加してほしい」
「付与は?」
「付与は4人セットで必要なんだっけ? 確か、何だっけ……」
「付与スキルの防御と回避、それから回復スキルと解呪スキルで、壁合わせて5人同時にとか、言ってたよな」
「あれ? 壁は別でいいのか?」
「壁が別でいいなら、他のもそれぞれ別で大丈夫か?」
「4人必要なら別れる必要ないだろ」
「ストップ、落ち着け。みんな、董明の話を最後まで聞いて」
「土魔術の壁、付与の防御、付与の回避、解呪魔術、回復魔術。壁を先に造っていただいたのには、実は理由があります。時間的な問題ではないです。200年前の聖女はひとりでこの5つのスキルを同時に発動させました。出来た聖壁は、表も裏も同じ効果。これが人々から魔力を吸ってしまった理由」
「それは、つまり……」
「ええ。壁と他スキルを分けて使えば、片側に防御や回避、解呪を、もう片方には回復をかけられたんです。ちなみに回復はリジェネですね、壁自体を長持ちさせる効果でした」
「なるほど」
「ですので、おひとりに1スキルの境井戸中学と芽木つくし中学は、3人一緒に魔法をかけて回っていただく事になります。ただろく中はそれら4スキルはセットで同じ人が持っています」
「そっかぁ。せっかく宝箱を6個発見しても同じセットで習得したからなぁ」
「誰だっけ?」
「城之内、剛力、井伊、久遠、竜崎、漆原の6人。結局6人のうち4人が一緒に動くしかないのか」
「ふふふ。それがですね。魔法発動の図を以前に発見したのを覚えていますか?」
董明さんが僕の方を見た。僕の方、じゃなくて、完全に僕を見ている。
…………僕に、聞いてる?
みんなも釣られて僕を見た。
「え、えと、僕が発見したんじゃないけど、モジャモジャした模様の、やつ、かな? ごめんなさい。よく覚えていません」
正直に謝った。だってどんな図だったか、全くこれっぽちも覚えていないのだ。
「複雑な魔法発動の図。それを見ていたポチャ次郎君が、要らない部分が多いって言ったの」
え、言ってない、言ってないと思う! 僕が言うわけない、『要らない部分が多い』なんて、ひと様の描いた絵にそんな文句をつけたり、しませんんんん!
「ああ、幾何学模様で重複してるとこを消したらスッキリするってやつね。ポチャ次郎」
やないさんまで何言うのおおお! 僕、そんな傍若無人な事言わない、と、思うよ!
「そう。それ。それで、重複部分を消しても魔法が発動するか確かめてもらったわ」
「あ、私、その実験やった覚えがある」
漆原さんが手をあげた。
「効き目あったんだよね? 確か」
「流石に呪われている人がいなかったので解呪の確認まではできなかったけれど、問題なく魔法は発動出来た。それで第二段としてその4枚の図を合体させたの。ポチャ次郎君の言った『要らない部分』を除くと合体させるのに全く問題がなくなったの」
董明さんが1枚の紙を出した。それでようやくみんなの視線がそっちにいってくれた。
「これ。防御、回避、解呪、リジェネが一体化した一枚」
「おお!すげぇ」
「って事は? もしかして、ひとりで4つを一度にかけられる?」
「はい。そのとおり」
「おおおお!」
「おおう」
また歓声が起こった。一部だけど。
「なので、ろく中から6人、出せます。あとは日向君よろしくね」
「と言うわけで、今後、聖壁関係のグループと、その他の討伐及び呼び魔力石グループ別れる事になる。ただし、今までどおりここを拠点で各自の安全が第一なのは変わらない。詳しい班分けは後で知らせる」
また、班替えがあるんだ。せっかく生産グループで仲良くなれて楽しかったのにちょっと寂しい。
うち班からは城之内君と漆原さん、それと高田さんが抜けちゃうのかな。
「ポチャ次郎、まだクラス会は続いてるぞ」
太郎君に脇腹を突かれて、頭をあげた。
「3校貯金がかなり貯まってきている。残り3ヶ月だ。俺らの生活費を抜いてもまだ余る。これをどうするか」
3校貯金とは、ギルド依頼で魔物討伐したり獲れたお肉を売ったりしたお金を、合同で貯めていた。そこから必要なお金も出したりしていた。僕らのお小遣いもそこから分配されていた。
休日に出かける時に、お小遣いは必要だからね。
「お金は余っても持って帰れないじゃない?」
「それならボランティアで使わない?」
「いいねぇ。困っている村や街の孤児院に物資で配布してもいいし」
その後、多数決をとって『寄付』に決定した。反対する人はいなかった。
あ、でも、ちょっとお小遣いを増やしてほしいという意見が出て、それも全員一致で可決した。
「あと3ヶ月なのかぁ……」
「あっという間だったね。最初はどうなることかと思ったけどさ」
「帰れると思うと、ちょっと寂しいな。俺、エレノアさんに告ろうかな」
「男子っ! やり逃げ禁止だからねっ!」
みんな思う事は色々あるみたいだ。
僕は、どうしようかなぁ。お小遣いが増えるなら食べ歩きとかしたいかも。
「太郎君、コスタルやウッドランドに食べ歩きに行かない?」
「おっ、いいな。この世界の通貨は使い切らないとな。梁井も行くだろ?」
「いいねぇ。あ、でも、私ちょっと忙しくなるかも」
「何だよ、漆原は魔法発動で忙しくなるだろうけど、梁井はそうでもないだろ?」
「今のうちにやる事があるのよ。りかちゃん!ゆかちゃん!」
やないさんが鈴山田さんと董明さんを手招きして呼んで、小さい声で話していた。
『私達も薄い本を作って書庫に残して行きましょうよ』
『そうね。この先、どこかの誰かが召喚された時に読まれるかも』
『じゃあさ、漫画にする?』
『そうね、あと、例の、趣味の本』
「梁井ぃ、どんな置き土産を作る気だよ」
太郎君にも聞こえていたみたい。
「100年後に残ってるかな」




