89話 第三条件の罠
日向君が叫んだら千谷君が僕をヘッドロックした。
景色が変わった。
ビックリした。ブリンクランドのお城の中庭から、突然、塔の前にいた。千谷君の魔法移動。
「さぁ、ポチャ次郎? 4階へ上がるエレベーターっぽい何かをどこで見つけた?」
日向君が僕の腕を引っ張って転がっていたままの僕を立たせた。顔が怖い。
腕を日向君に引っ張られて、背中を千谷君に押されて塔の入り口へと向かう。
「待って待って……」
塔の中へと扉を潜ろうとして慌てて足を踏ん張った。
「ん?」
「ポチャ次郎ぉ、キリキリ白状しちゃえよ? ラクになるぞ?」
「や、あの、吐くけど、中じゃないよ、あっち」
あれ、どこだったかな。一度しか使ってないから……。確か、あの辺。
日向君に腕を掴まれたまま、塔の壁沿いに進んだ。
あ、模様が変わった、あそこ。
「塔の壁の煉瓦? 石の模様が変わったとこ、あそこの四番目に触ると4階に行ける……行けた、よ? たぶん……」
日向君は掴んでいた僕の腕を千谷君に渡した。
「千谷、ちょっと待ってて」
あの、僕、捕まった犯人状態のままなの? 日向刑事から千谷刑事にバトンタッチされた。
模様に近づいた日向君が、それに触る前にこっちを振り返った。
「ポチャ次郎、ここに触れると4階なんだな? 他の模様は他の階に飛べるのか」
「そう。8階も行った」
「戻る時は階段か……」
「ううん。戻る時も、同じ模様の壁の石に触ると移動できたよ? 8階から階段で降りると筋肉痛になっちゃいそうで、同じ模様があったから触ってみた」
「なるほど。ちょっと行ってくる」
日向君が消えた。謎のエレベーターでたぶん4階に飛んだ。すぐに戻ってきた。
「千谷、董明を呼んできてくれるか? ノートとペンを持って」
「おう?」
千谷君から日向君に僕の腕が渡された。これ以上、白状する事はないのに、まだ釈放してくれないのか。
千谷君は董明さんだけでなく、ゾロゾロとみんなも連れてきた。
「塔の外側にそんな仕掛けがあったとは!」
「なるほど、微妙に異なる模様の石版が嵌め込まれているわね」
「模様のように見えるけど、触るとフロアへ移動」
「董明、石版の模様メモっておいてくれ」
みんなが入れ替わり立ち替わり、シュンシュンと飛んでは戻ってくる。
「気がつかなかったなぁ。フロアの廊下は薄暗いからな」
「それに階段とは真逆にあるし、入口は階段前だから後ろまで回らないだろ」
「董明、そこ写し終えたら各フロアの模様と比べてくれ」
「同じ……だったよな? 4階から8階へ行く模様も7階や9階にあった8階へ行く石版の模様、たぶん一緒だ」
「ああ。董明、確認を頼む」
ブリンクランドに戻った。
中間発表の報告会が中断されていたのだが、残されていた人達に『塔』のエレベーターの報告をしたら、みんな大喜びだった。特に11階のウッドランドのエルフさん。さか中のみんなより喜んでいた。やはり……中身はけっこうなお爺ちゃんなんだな。
お爺ちゃん(中身)エルフに頭をグリグリと撫でられた。
-------
6月末の報告会。
魔物討伐班は、ブリンクランド以外に足をのばす事が増えた。
「6月後半分の魔力石の収集量は、目標をクリアした」
クリアしたのに日向君の顔はあまり嬉しそうじゃない。
「同じチームで、ブリンク近辺、ウッド近辺、コスタル近辺の魔物討伐を行ったんだが、討伐量に明らかに差が出た」
「どんな差だ?」
「ウッド、コスタルは討伐に時間がかかった」
「ウッドランドやコスタルは魔物のレベルが高いのか?」
「それなぁ。確かに強敵なんだけど、倒せないわけじゃない」
なんか、討伐班がお互い首を捻りながら顔を見合わせている。何かがわからないって感じ?
何がわからないんだろう……。
僕ら生産班の狩り……罠設置では特に何かが変わったりしていない。と言うか、その地方の魔物に合わせた罠を設置しているからかな。特に問題なく獲れている。ブリンクの草原でもウッドランドの森でもコスタルの地でも。
「俺らのレベルが低いから……」
さか中の生徒が自身なさげに俯いた。
「いや、面倒くさい渡邉はレベル低くないぞ? 俺らよりよっぽど魔法武器を使いこなしてた」
「赤城……」
「そうだぞ! 面倒くさい渡邉の魔法武器は俺より全然凄かった。名前が面倒くさいだけだ」
「馬場? 俺の名前は普通に渡邉だ。お前らが『面倒くさい』をつけているだけだろが!」
「ちょっと! 面倒かどうかはこの際どうでもいいわ。どこが問題なの?」
「めんど…渡邉の例をあげると、魔法武器は持っている武器に魔法を纏わせる。赤城のように直接魔法で攻撃をするわけではないが、例えば火を纏わせた剣で戦う、という感じだ」
「うん。それはみんな知っている」
「でだな、ウッドランド森で草人形と戦った時、渡邉の魔法剣で草人形が切れなかった」
「それは、その魔物がそういう耐性を持っていたか、渡邉よりレベルが高かったからだろ?」
「けど、その時、めぎ中の鈴木がソイツを倒した」
「めぎの鈴木ってスキル何だっけ?」
「鈴木は複数いるが、草人形を倒したのは鈴木陽菜だ」
「陽菜は魔法武器だったよな」
「魔法武器って渡邉と一緒じゃないか。渡邉より強いって事か?」
「陽菜……さんは、なんの武器を使ってたんだ?」
「…………棒、です」
「ボウ?」
「しょうがないじゃない! だって、武器なんて持ってないもん! だからその辺で拾った棒を……」
「その辺で拾った棒……檜の棒!」
「勇者の檜の棒かっ!」
「いや、ただの棒だろ」
「魔法剣より魔法……棒の方が強いって事ぉ?」
「陽菜……あんた、まさか毎日、その棒で素振りを」
「やってないわよ! てか、その棒はもう捨てたわ」
「勇者の檜の棒を捨てたとなっ!!!」
「落ち着けっ! みんな!」
日向君が叫んだ。
タガセンが居ないせいか、今日の報告会はみんな自由だなぁ。
「話を聞いてくださーい。皆さん、お静かに」
「何が言いたかったかと言うと、もちろん敵のレベルや強さも多少は関係するとは思う。だが同じスキルで渡邉が苦労して倒せなかった敵を鈴木がサクっと倒した。渡邉は決してレベルが低いわけではない。訓練もしている。だが、同じスキルで出たこの差は何か」
「スキル以前って事かしら」
「董明……、同じ考えに辿り着いたか」
「何だよ、日向と董明だけでわかりあうなよ」
「スキル以前って何だ? 人間性?」
「失礼なっ! 俺の人間性を疑うなよ」
「あ、すまん。面倒くさ」
「そこで、区切るなら、面倒くさい渡邉まで言えよ! じゃなくて、渡邉でいいよ!」
「で、スキル以前って?」
「スキル以前って何?」
「あの白い部屋でスキルを貰う、それより前。国が召喚を行う時にあげた条件、だ」
「召喚条件?」
「召喚条件って25人の厨二……」
「第三条件かっ!」
「そう。そのとおり。第三条件」
「うちの第三って何だっけ?」
「第三条件って聞いたか?」
「ブリンクランドが『バランス』、ウッドランドは『武力に長けた力』、コスタルが『魔術特化の力』だったか。多少ニュアンスの違いはあるが概ねそんなところだったはず」
「つまり、日向君が言いたいのは、その召喚時の第三条件が、スキルに何らかの関与をしたって事かしら」
「董明、そのとおり。第三の条件がスキルに補正を行った。どこの学校も宝箱から同じスキルスクロールが出た。そう思ったが、実は召喚条件によって補正されたスキルを与えられたとしたら」
「なるほど。ウッドランドは『武力』を要求した。だからさか中の渡邉の魔法武器は威力が劣った。だけど、『魔力』を要求したコスタル、めぎ中の鈴木の魔法武器は威力を増した」
「そう。拾った棒に纏わせた魔力が強かったので、草人形が倒せた」




