88話 エレベーター
6月から、3校合同で動く事が増えた。
毎朝の会議も先生と一緒に生徒達が来るようになったし、前の男子部屋、女子部屋に、さか中やめぎ中の生徒が宿泊しているのも普通に見かける。
「おはよ、ポチャ次郎」
「あ、おはよ。ジヌ染君。昨日はこっちに泊まったの?」
「おう。一緒に飯食いに行こうぜ」
「あ、僕ら、これから中庭5周だから……」
「ジヌ染ぇ、お前も一緒に走れよ」
「そうだな」
ジヌ染君は僕らにくっついてお城の中庭を5周した。他の生徒も運動部と一緒に中庭を走っているのを見かけるようになった。
魔物討伐の日向班や鈴山田班にも、さか中めぎ中の参加が増えてきているって。うちの城之内班は、佐々木先生もポン太さんとぴょんちゃんを連れて毎日来てくれる。
ぴょんちゃんはミニうさぎだ。手のひらより少しはみ出るくらいのサイズで、真っ白い毛に頭からお尻にかけてひと筋の赤い毛がある。魔物じゃなくて普通に動物みたい。
ポン太さんは森林狼という、大型犬より大きい犬……じゃなくて、狼? 見た目は犬。犬と狼の違いがわからない。
お座りをしても佐々木先生の肩くらいに頭がある。犬好き女子に人気で、よく群がってブラシをかけているところを見かける。僕には無理。怖い。
周りから『大丈夫だよ』と言われて近づいた事があった。その時に、ポン太さんの目を見つめて、「噛む?」と聞いてみた。
返事はなかったけど、目が……「ふっ、どうかな?」みたいな目だった! あれ、絶対噛むつもりだと思う。
そう、僕らの班に、さか中から佐々木先生とジヌ染君のふたり、それとめぎ中からは狩り、採取、育成の生産男子3人がメンバーに加わった。
育成スキルの俊君(鈴木が複数いるので名前呼びなんだって)も罠を設置しに行った近場で、森狸という動物をテイムした。
森狸……。ただの狸とどう違うの? 森に生息しているから森狸?
育成スキル持ちには、テイムした生き物の種族名がわかるんだって。
「テイムが出来た瞬間にね、頭に浮かぶのよ。『森林大犬を手懐けました。名前を付けてください』ってね」
「そうそう。そこらへんがゲームくさいのよねぇ」
董明さん、あの大きな犬をテイムした時、そうだったんだ。
俊君がテイムした森狸も、見た目は猫……だ。ちょっと口が尖った猫。狸ってアニメや絵本とは全然違うな。なんか、シュッとしてる。森狸だから? 他の狸はどうなんだろう?
「森に居るから森狸なら、森以外にも居るのかな」
「山狸とか平原狸、湿地狸……」
「王道の狸はどこにいるんだろうね?」
「山狸が王道じゃないか? おい、俊、シリーズ全部集めろよ」
「全コンプリートか」
「いや、俺まだ2〜3体しかテイム出来ないし。タガセンから鳥は絶対テイムしろって言われてるから……」
鳥を使っての連絡の練習を行なっているんだって。
城之内班、総勢11人の大所帯はタガセンの許可を得て、城塞都市から少しだけ外に出かけるようになった。
今までは都市内の平原や森に罠を設置してお肉を獲っていた。けど少しだけならと、都市の外に出る許可を貰った。
ギルドに入る依頼で魔物討伐関係は、割と大掛かりな依頼が多いのだ。簡単に出来そうな軽い依頼が無い。
魔物討伐ギルドが発足したばかりで知名度が低いのと、小さい依頼でわざわざ遠い村々から依頼に来る者もまだいないからだ。
なのでこちらから御用聞きも兼ねて近隣の村を回り、害となる動物や城塞都市の領内に入り込んだ小さい魔物を倒す。(ポン太さん達が、だ)
それと、魔物用の罠も太郎君達と一緒に研究して、ついで仕掛けてみたりしている。
日向班や鈴山田班は、ウッドランドやコスタルの近辺へも足を伸ばしているんだって。
いずれは、それぞれの国周りの魔物を討伐しないとならない。だから、魔物の種類や特性を研究しているんだって。董明さんのところによく報告に来ているのをみかける。
実は僕らも一度、ウッドランドの森へ罠を仕掛けに行った。けど、動物の種類も違うし、虫は多いしでギブアップ。もっと勉強してから出直す事にしたんだ。
「ポチャ次郎、アンタには野生のエルフを捕まえてほしかったのに」
やないさんに無茶振りをされた。謹んでお断りをさせてもらった。ウッドランドでエルフを捕獲って、それ誘拐だよね?
「野良なら平気じゃない?」
そ、そうなの?
「次郎、信じるなよ! 捕まったら死刑になるぞ」
だよねぇ。あっぶな。太郎君が止めてくれてよかった。
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6月の中間発表。
中間テストじゃないよ。魔力石集めの結果報告。
5月は学校別だったけど、6月は結構仲良くなれて合同で作業をする事も増えた。
なので、魔力石の合計数と、それから各国の魔物の討伐状況などの報告会が行われる。
「石の集まりは予定数をいっている」
「それは? ブリンクランドのみの?」
「いや、3国で必要な合計数だ。魔力石の集まり具合だけで言うなら、6月前期分の目標数はクリアだ。ただ、それはほぼブリンクランドの領内で採れた分だ」
「日向、どこで採れても魔力石は魔力石だろ? それとも、例えばコスタルに召喚された者はコスタルで採れる魔力石でないと帰還出来ない、のか?」
「マジか……」
「そんな縛りが……」
中庭が騒ついた。
3校合同会議は部屋だと狭いので中庭で行われている。
「どこ産石でも帰還に問題はない」
「それは、確認済みか?」
「もちろん。千谷達と塔まで行ってきた。ブリンク産の魔物から採れた魔力石をコスタルの祭壇の溝に入れた。問題なく光は灯った。ひとつを覗いて、概ね問題はない」
「ひとつ? 問題があったのか?」
「あった。コスタルのフロアは8階だ。8階までの階段の昇り降りが地味にキツイ」
「あぁ、まぁな」
「それはな」
「それを言ったらうちのさか中は11階だぞ。ウッドランドぉぉぉ、何故11階で召喚を行ったんだよぉぉぉぉぉ」
「エレベーター、無かったんだ?」
あれ? ジヌ染君とかさか中の生徒がエレベーター探してたよね?
「見つからなかったんだよ……」
「一階をくまなく探した」
「1階のフロアを何度も何度も這いずり回って探したけど、階段しかない」
「まぁねぇ、けど11階でもエルフさん達は階段をスイスイと登ってそう」
「いや、わしらもそれなりに大変ですぞ」
中庭の端っこで、僕らの会議を聞いていたエルフさんがいた。
エルフさん……、見た目は大学生くらいだけど、今、『わし』って言った。『ですぞ』って言った。
あの美形大学生の中身は、けっこうなお爺ちゃんなのかな?
やないさんが、なんか、びみょ〜〜な顔になってた。
そっか。帰る時はあの『塔』に行くわけではないけど、石がある程度貯まると入れに行くから、上の階は大変だよね。
うちのろく中も低層階とはいえど4階。4階でも僕にとって『昇り降り』は『校庭5周』より辛い。
ので、真剣にエレベーターを探した。
あったよ。
えっ? みんなは使ってないの?
「健康のため、階段を使っているとか……。もしくは筋トレ?」
「私は次郎坊と塔を訪ねた時にエレベーターを使いましたよ。なっ、次郎坊」
高田さんは僕の近くにいた。
めぎ中の用務員さんだけど、休日とか自由行動の時に割と一緒にいる。今はほぼろく中の用務員さん状態。
僕にとってはお爺ちゃん状態。高田さんも僕の事を『次郎坊』と呼ぶ。
「ポチャ次郎お?」
日向君声がちょっと裏返ってる? 何?
「は……い?」
「ポチャ次郎、堺の頂の塔の、エレベーターを発見したのか?」
「ええっ! あそこ、エレベーターあったのかよ!」
「いや、無いだろ? 無いよな? どこにあるってんだよ」
「ポチャ次郎、他の場所と勘違いしてない?」
「他の場所もなにも、この世界にエレベーターないだろっ!」
「あ、あ、ごめんなさい、エレベーターじゃないです、エレベーター無いです」
「だよね。そうだよ。あそこ、みんなで探したけど無かったもんな」
「エレベーター自体無いですから」
「もうー、高田さん、ビックリするじゃないですか」
「あ、ああ。エレベーターとは違ってましたね。……昇降機?とも違うか。次郎坊、あれは何て言うのかね」
「えっ、何だろ? ポンとやってシュ……名前、あるのかな」
「ポチャ次郎おおおお」
うわわわ、日向君とか何人かの男子が突進してきて僕ごと転がった。
「千谷あああ、来い! ポチャ次郎の説明を聞くより現場を見ていた方が早い!」
日向君が叫んだら千谷君が僕をヘッドロックした。
景色が変わった。




