87話 ギブアップ
「待って!!!」
僕は頭を出して覗いていた扉から、身体を半分だけ中へ入れて叫んだ。
「待って待って待ってぇ! めぎ中の生徒、帰ったらダメぇ!何で帰るの! ちゃんと話を聞いて!話をして! 言いたい事だけ言って逃げないで! 自分の言いたい事全部言ったら今度は周りの言いたい事も聞いて、それから帰るか判断して!でも、帰っちゃうのダメ」
僕は目を瞑って一気に話したから、周りのみんながどんな顔して僕を見ているのかわからない。タガセンは余計な事をと怒ってる顔かもしれない。
めぎ中もさか中も、何でお前が言うんだって呆れているかも。
でも、今、シーンとしている。このチャンスを逃したらもう何も言えない。恥ずかしい気持ちが上がってくる前に言いたい事言うよ!
「めぎ中のみんなは帰りたくないの? 地球に帰りたくないの? まろ、まりょきゅしぇ、まりょ、く石を、沢山貯めて日本に帰ろうよ!僕らろく中は絶対に帰る。めぎ中はずっとこの世界にいるの?死ぬまでずっと?ずっとこの世界で暮らすつもりなの? 石を集めないってそういう事でしょ?」
よっし、まだ誰からも文句はない。言いたいだけ言おう。ずっとめぎ中の行動にモヤモヤしてたから。
「めぎ中がこの世界で暮らしたいなら止めない。止めないけど、それ、全員?クラス全員がそう思ってる? 1人残らず? 日本に帰りたい人いないの? 残りたい人は残ればいいけど、帰りたい人は正直に言って、帰りたい人はみんなで協力しようよ!魔物は怖いからひとりじゃ難しいよ?獣だって怖いよ?ウサギだって可愛いけど前歯凄いんだから!噛まれると痛いからねっ! スキルをいっぱい持っててもひとりじゃ怖いから僕はみんなと頑張る。めぎ中もさか中も一緒に頑張ろうよ、あ、頑張りたい人だけでいいけど……」
何か、ざわつき始めたので僕は慌てて扉からはみ出ていた身体を廊下に戻した。
言い逃げしようと勢いよく走りだしたけど、目を瞑ったままだったので、廊下の壁に激突して転がってしまった。
ぶつけたオデコを抱えて蹲っていたら、誰かが回復魔法をかけてくれた。
「バカポチャ、ちゃんと前を見て走りなさいよ」
漆原さんだった。その後ろに太郎君とやないさんもいた。僕が思うほど、僕は走れていなかったようで、『3校の間』の扉の前、廊下の向かい側の壁のとこにいた。
部屋の中は、さっきと比べて騒がしくなってしまっていた。僕が勝手なごたくを口にしたからかな。みんなも言いたい事を我慢出来なくなったのかも。
でも、言いたい事は言ったほうがいい。代表者じゃなくて、ちゃんとそれぞれが。
ダダンっ!
騒がしくなった部屋の壁をタガセンが叩いた。
「佐藤先生、植原先生。今後、ここでの定期集会はやめましょう」
タガセンの静かな声が聞こえた。でも、怒ってる声だ。
「すみません! あの、あの、すみません! 私達は日本に帰りたいです」
あれ? 佐々木先生の涙声……? タガセンはめぎ中の先生に話しかけたのに、なんでかさか中の佐々木先生が返事を?
「ほらっ! みんなも、帰りたいでしょ?帰ろ? 私はさか中のみんなを連れて帰るからねっ! 東風谷君! 稲子さん! 染谷君も染谷君も染谷君も!そうだよね?」
「そうです。染谷がひとり多かったけど……」
「俺ら、今月の目標をクリア出来なかったけど、来月はもっと頑張るし目標をクリアするぜ! そんで、帰る」
「俺だって」
「ほら、みんな、田川先生にお願いして。私達頑張りますから見捨てないでください」
「先生……」
「佐々木ちゃん」
扉の方へと戻って中を覗くと、佐々木先生がタガセンに土下座していた。
仁王立ちしたタガセンは、貧乏なお百姓さんを虐める悪代官に見えた。
悪代官の前に次々と百姓が土下座していく。
違った。さか中の生徒が佐々木先生の後ろで土下座した。
「見事な土下座」
背後から漆原さん。
「ハーディング現象か」
「ミラーリングじゃない? ほら」
城之内君と董明さんの会話は僕には難しすぎる。けど、董明さんが指差した方を見ると、さか中の向こう側で、めぎ中の生徒も土下座をしていた。全員じゃないけど、土下座が増えていく。
生徒の中にめぎ中の佐藤先生も混ざって頭を床につけている。
あれ、これ……
「太郎君、僕らも中に入って土下座したほうがよくない?」
「ばっか、ポチャ次郎。俺らはいいんだよ。めぎ中、釣られずにはいられなかったな」
さっきまで不貞腐れていためぎ中の生徒が、床に伏せて泣いてる。女子だけでなく男子も。
泣きながら土下座……。
「勝ったな。めぎのやつら、白旗だろ。本当はもっとはやくギブしたかったんだろうな。きっかけがつかめなかっただけでさ」
「だな。けど、あれじゃタガセンは魔王だな。元から魔王だけどな」
タガセンが鬼から魔王に格上げされた。めぎ中は全員じゃないけど、頑張る生徒が半分くらいはいるかな? 足りない分は、僕、頑張るからね!高田さん!




