86話 5月の目標
-----(ポチャ次郎視点)-----
僕らがこの世界に来て1ヶ月以上経った。
新しいクラスの間の壁には、色々な紙が貼られている。テストの順位表じゃないよ。
「太郎君……、日本時間だと今日は何日だっけ」
「ポチャ次郎ぉ、ほら、あそこ。5月のカレンダーの花が付いてるとこだ。今日は、5月16日だな」
部屋の壁に貼られた紙は月ごとのカレンダーになっていて、本日のところに紙で作った花が貼られている。画鋲みたいなので刺さっている?
その下にも同じようなカレンダーが貼られていて、そこには魔力石の収集目標数が書かれていて、そのすぐ下には実績が書き込まれている。
4/7から3週間くらいはゼロのままだけど、ここ1、2週間は頑張って目標達成している。
それとは別に、月間スケジュールみたいのも作られていて、クラスの行事や班の行事が書き込まれている。
僕はそれの5月の後半を見て、ちょっと安心した。
「良かった。中間テスト、無いね」
ついでに6月と7月も見る。
「期末テストも無い。嬉しい〜〜」
「ポチャ次郎、喜ぶな。俺達は他の人より時間を多く貰えたんだ。このチャンスを逃すな、勉強しろよ」
背後から日向君がのしかかってきた。
「日向君、でも、教科書もないし授業もないから、仕方がないね」
「そうだぞ、日向、次郎の言うとおりだ。教科書もねえなら先生もいねえ。しょうがないよなー。毎日自習だよなー。てか、俺達、作業もあるしな」
「まぁな、そのとおりではある。毎日遊んでいるわけじゃないからな」
「でも、なんか、時々不安になるわよね」
「漆原さん……、不安、なの?」
「だってさ、本当にあの日に戻れるのかな? もしも、違かったら私達イチクミは、他のクラスから1年遅れになるわよ」
「そうなんだよな。あの召喚ルールを信じて360日までに魔力石を集めるが、前と同じ時間に戻れなかったら、留年決定だぞ」
「でもさぁ、その時はイチクミみんな一緒だから、僕は平気」
「ポチャ次郎ぉぉ」
「呑気ね、ポチャ次郎は」
なんだかんだ言いつつ、毎日出来る事はやるだけ。タガセンからも怪我無く病気せずが第一!と言われている。
みんなで元気に帰る事が一番大事。
『元クラスの間』の方では、毎朝、3校の先生達の朝会が開かれている。たいだい5〜10分くらいだ。
内容は生徒の安否と、魔力石の収集状況についてだって。
毎朝ウッドランドから、公務員染谷君が佐々木先生を連れて来る時に、さか中の生徒も一緒にやって来る。全員じゃないけど入れ替わりで結構な数。
さか中は森林地帯のあるウッドランドという国に召喚されたのだけど、あっちは王都から離れると一気に魔物が増えるんだって。
だから、最初は怪我人も多くて、それでこっちに基礎訓練と魔物の勉強に来ている。
ただ、本当に勉強に来ているだけみたいで、日向君達の討伐に加わったりはしていないんだって。
ジヌ染君はうちの班に参加している。女子3人は来ない。
せっかく狩スキル持ちなのに、何で参加しないのかジヌ染君に聞いた。
「うーん、それな。城之内に怒られて不貞腐れてた。遊び気分で参加するなってさ……」
あぁ、最初の頃、騒がしくして獲物に逃げられたんだ。それで城之内が叱ってた。あれ、かな?
でも、勉強に来ているだけマシなのかな?
コスタルのめぎ中生徒は全く来ない。先生も朝会のあと、すぐに帰ってしまう。
大丈夫なのかな? めぎ中の魔力石が集まらないと高田さんが帰れなくなっちゃう。
僕、お手伝いしたいけど、僕のスキルで魔物は倒せないから、魔力石も集められない。罠を仕掛けてもお肉が取れるだ……。
「おい、ポチャ次郎、何しょんもりしてるんだ?」
「ほら、しょもしょもしてないで、俺に話してみろ」
ぐぉっ、
罠を仕掛けていたら太郎くんと城之内君に羽交締めにされた。
「コスタルかぁ……」
「めぎ中な」
城之内君は少しの間、宙を睨んでから女子の方へ向かった。
「なに? ポチャ次郎、悩んでいるんだって?」
「うちの班は魔力石集めには関わらないからねぇ」
「それなら佐々木先生を巻き込んではどうかしら?」
女神様のような董明さんから、女神案が出た!凄い。
「佐々木先生は基本、うちの班と行動を共になさっているじゃない? せっかく森林狼なんて大物をテイムされたのに遊ばせておくのは勿体無いわ」
佐々木先生のテイム……。たしか、ミニ兎のぴょんちゃんと、大きな狼の……ポン太、さん、だっけ。
佐々木先生が子供の頃に飼っていたポメラニアンの名前がポン太だったとか。
「ポン太だっけ。あの巨体にポン太。佐々木ちゃんの名付けセンスってどうなってるんだw」
「でも、ポン太可愛いわよ。ブラッシングが大好きだし、お手と言うと顎乗せてくるの」
「好き嫌いなく何でも食べるよね」
「そうなの! だから丁度良いと思うのよ」
「何が? ゆかちゃん」
「ポン太さんに狩りに参加してもらいましょうよ」
「そりゃいい。佐々木先生はいつも俺らの班に同行するけど、特に何をするでもない。ポン太も先生の側にいるだけだ」
「そう、だから、私達の狩場を広げましょう」
「マジ? まさか、魔物のいる地域へ?」
「そう。日向班や鈴山田班に魔物討伐を任せないといけない決まりはないわ。私達は『戦力』になるスキルが足りないから危険な場所を避けていただけ。でもポン太さんという『戦力』があるなら、狩場を広げても大丈夫だと思うの」
「なるほど。今なら董明と梁井の大型犬もいるからな」
「うちのモガとゆかちゃんとこのレオ君」
後ろで大人しく控えていた大きな犬が、「呼んだ?」という顔で董明さん達の側に来た。
董明さんがテイムしたのが、森林大犬で名前がレオナルド君だっけ。それでやないさんも同じく森林大犬でモガ……なんだけ、モガーン?モガナルド?とにかくモガなんとか。
「うちのレオナルドもブラッシングは好きよ。それと好き嫌いも無いわ」
「うちのモガもそう。基本、お利口さんで何でもよく食べる」
「そうだな。テイマーが3人も居るし、罠設置の狩場を広げるか」
「一度戻って作戦会議しようぜ」
「それと、日向に知らせるが、うち城之内班の『裏目標』を立てようぜ!」
「おっ、いいな。裏目標」
「良かったわね、ポチャ次郎。高田さんの分の魔力石集めも頑張りましょう」
「ありがとう!」
話がどんどん進んで、何の話をしていたのか忘れちゃってた。そうだ、めぎ中のやる気がなくて高田さんがこの世界に置いていかれそうなのが嫌だったんだ。
僕らがこっそり、出来るだけ魔力石を集めるからね!
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5月も終わりの最終日。
元のクラスの間、今はみんなが『3校の間』と呼んでいる。そこにめぎ中、さか中の全員が集められた。
魔力石の収集状況の進捗報告だって。いつもは先生だけでやっているのに、月末は生徒全員が参加なんだって。
あの部屋に全員はきついので、僕らろく中は一部のみが部屋の中へ、残りは開け放した扉の外から、廊下で参加していた。
さか中、めぎ中の集めた魔力石の数(重さ?)が発表された。スキルや訓練の少なさを差し引いても、結果に雲泥の差が出てしまった。
特にめぎ中は少なすぎる。ビックリを通り越して、ひっくり返りそうになるくらいの少なさだった。
ちょっと、なんで? 帰るつもりがないのかな?
さか中は俯いているけど、めぎ中はそっぽを向いている。
えっ? 他人事?
タガセンがめぎ中の生徒に向かって静かに言う。
「何か、言うことは、あるか」
僕らがあんな事を言われたら縮み上がってしまうけど、タガセンの怖さは他の学校には通じないのかな。
何人かが口を尖らせながらボソボソと言い訳をし出す。
「俺、戦力スキルじゃねえし」
「戦える人に任せてるから……」
「だいたいさ、ろく中とは所持スキルの数が違いすぎるっちゅうの」
「だよな。それと比べられてもな」
「そもそも、不公平なんですよ!」
誰かが怒鳴った
タガセンに怒鳴るなんて勇気がある。でも、その勇気、今、いる?
「帰ろうぜ。木村、送って」
何人かが集まったと思ったら消えた。たぶん、コスタルへ戻ったんだ。
「佐藤先生、私達も帰ります!」
「木村が戻ってきたら戻ろうぜ」
佐藤先生は植原先生の方を向いたまま、タガセンを見なかった。タガセンは口を一文字に結んでいた。物凄く怒ってる。でも他の学校の生徒だから、タガセンビンタを出すのを躊躇しているのかな。
城之内君が「一発見舞ってやれ」と小さなエールをタガセンに送ってた。
高田さんはオロオロとしていた。
さか中は居心地悪そうにしている。自分達の成績も今ひとつだからどちらの味方も出来ないって感じ?
廊下で聞いていたろく中イチクミも、めぎ中の勝手な言い分に腹を立てているのか、みんな目を細めて無言。
仲良くする気ゼロだよね………。
でも、このままだと、めぎ中が帰っちゃう。コスタルに帰ってもうこっちに来なくなる。そしたら、高田さんが……。
「ま、待ってっ!!!」




