84話 遠征
今、クラスの間に、さか中のみんなが来ている。
今回の遠征で、ブリンクランドからはタガセンと高田さんが居なくなり、ウッドランドからはさか中の佐々木先生が居なくなるからだ。どちらも生徒だけになる。大人が留守の間、生徒が心配だから、さか中の生徒もこっちに合流するように言われたらしい。
本当はコスタルからめぎ中の植原先生がこっちの生徒を見に来てくれる手筈になっていたみたいだけど、来ない。
「ろく中だから大丈夫でしょう」
一瞬、来たけど、帰ってしまった。みんな唖然とした。いいけどさ。
「若干名、不在だが、やる事はいつもと同じだ。それと遠征チームが戻るまで、各班にさか中が入る」
「はーい」
「よろしくな」
「どもー」
あ、ジヌ染君だ。眉間に立派なホクロ! 絶対、ジヌ染君だ!
今回佐々木先生は遠征チームなので、後はさか中女子3人だけど、彼女達の相手は城之内君がしている。
僕は太郎君といつもの作業だ。
-----(梁井視点)-----
馬車で移動がこんなに苦痛とは思わなかった。狭い車内、硬い椅子、ちょっとした事でガタガタゴツゴツ揺れる。
バウンドとか、そんなボヨンとしたものじゃない。ガン!ゴン!で飛ばされる感じ。
乗ってまだ5分も経ってないんじゃない? まだあそこに城壁が見えるもん。うーん、たった5分かぁ。
城塞都市内の移動で乗った馬車はもう少しゆるやかだった。あれは、道が良かったのか。
私が乗った馬車は8人乗りの幌付き。幌の上にテントが積んであって、夜は野宿らしい。千谷が居て良かったー。
てかもう帰りたいぃ。
タガセンを涙目で見つめてみた。帰りたいです。私、お尻が痛い。タガセンが、私を見て、右隣の董明さんを見て左隣の鈴山田さんを見た。
それから、高田さんと何か話した後、馬車御者に声をかけたと思ったら馬車が止まった。
「鈴山田、董明、梁井、お前たち3人は塔に着いたら呼びに来る。千谷に送ってもらえ」
えっ?帰っていいの? でも、なら何で遠征メンバーに?
「帰りは馬車に乗ってもらう。テイムは塔からの帰りすがら行う事にする。行きはお前達は必要ない」
「ありがとうございます。えと、てっきり塔でテイムするのかと思っていました」
「ダンジョンじゃあるまいに、塔にテイム出来る魔物も獣もいないぞ。塔からの帰りがてらだ。城塞都市の近くだと小動物か、食材動物ばかりだからな」
なるほど、今回の遠征は、異なる土地の異なる動物や魔物をテイムするためだったのね。
私達女子3人は千谷に送ってもらい、ブリンクランドに一時帰宅した。
千谷は恨めしそうに私達を見て、馬車へと戻っていった。ごめんねぇ。
1時間後、佐々木先生も千谷に送られてきた。さっき急遽作ったクッションとオヤツを千谷に渡した。
-----(千谷視点)-----
女子はいいよなぁ。タガセンも甘い、女子に甘すぎる。女バレ部の鬼顧問と言われていたのは嘘だったのか。あ、顧問は男バレだけどな。女子部は副顧問だった。どっちでもいいけどさ。
学校でのタガセンと、今、異世界でのタガセン、結構違う事に気がついた。怖いは怖いけど、先輩から聞いていたような理不尽な鬼ではないよな。
こっちがちゃんとしていれば、タガセンも普通くらいの怖さ、だな。
それによく見ている。学校ではそれを『いつも見られていて気持ち悪い』と陰口を叩くやつも多かった。
そうなのかな。
『見ている』は、見張っているとかではなくて、見落としなく気を配っているように思える。
ポチャ次郎の事でそれがよくわかる。
ポチャ次郎はボンヤリしたやつで、自分の不調に無頓着だ。普段は班の城之内や太郎や梁井達が気を配っていた。だが、それでもフォローが足りない時、タガセンから生徒に指示が出たりする。
そう言えば、梁井や太郎も一年の時にイジメにあっていたんだっけ。タガセンはふたりの事も気をつけているのを見た事があった。
俺ら運動部には冷たいのかとも思ったけど、今も馬車移動で、俺のケツが終わりそうになる寸前に、休憩タイムになる。
偶然かもだけどな。
それにしてもケツ痛ぇ。割れる。割れてるけどもっと割れる。いや、平になるぅ。
「千谷。次の休憩で、一旦戻って船橋と交換だ」
めちゃ怖い顔で言うから、俺が悪い事をして交換されるように誤解をうむが、多分、俺のケツを考えての交代だよな。
「佐々木先生に伝言はありますか?」
「…………いやない」
タガセンは少し考えてから返事をした。佐々木先生もプルプルしてたからな。
高田さんは大丈夫なのか?
高田さんを見ると、どっしりと座って微動だにしていない。尻、痛くないのか?歳をとるとケツは硬くなるのか?
……まさか、死んでいる?
俺が高田さんを凝視したからか、タガセンも高田さんを見つめた。
動いた。良かった、生きていた。
「高田さん、城に戻ってください。3時間くらいしたら呼びにいきます」
タガセンが高田さんをゆり起こした。
「え、いや、大丈夫ですよ? 生徒さんも頑張っているのに私がへこたれていられませんよ」
次の休憩で、タガセン、高田さんと一緒に、ストレッチを入念にした。騎士は誰も不満を口にしないな。やはり普段から鍛えている人は違う。
はぁ、早く帰ってポチャ次郎をモチモチしてぇ……。
はっ!今夜はさか中がブリンクに来ているんだよな? ジヌ染のヤロウ、絶対、ポチャ次郎の横に寝るつもりだよな。
赤城、他中にポチャを取られるなよ!頼んだぞ!
-------
俺と船橋は交代で馬車に居る。
商人ロードは広い道だったり、かなり狭かったり、両脇が森だと思えば平原が続いたり。
なんだかんだで2日、馬車は走り続けた。タガセンの指示で時々、回復魔法やリジェネ持ちを連れてきて皆にかけて回ったりしていた。
異世界は、魔法やスキルがあって便利だと思う反面、やはり俺は文明の現代日本へ帰りたいと思った。
冷暖房、電気、お風呂、バス、電車、スマホ、パソコン、漫画。
懐かしい……。絶対に帰る。そのためにも必要な今回の遠征。
俺(の尻)は乗りきったぜ。
目の前にヒョロっと細長い塔が現れた。塔の周りの地面は草も生えていない、土が剥き出しの地面だ。そのもっと外側の地面には草が生い茂っている。
細いと思ったが近づいて目の前まで来るとそれなりには大きな塔だ。
「ここが、堺の頂の塔、ですか」
「そうみたいですね」
「あそこが入口です」
今回、宰相も同行していた。宰相は俺らを召喚する時にここに来たから、場所も覚えているので道案内だ。
塔は13階建ての細長い円筒状。1階には入口があるだけだ。壁沿いに上へと登る階段がある。
そこを上がり2階に着く。扉があり横の壁に石盤がある。
宰相がそこに触れた。
触れると石盤に模様が浮き上がり、文字がでる。『◯◯国 召喚』。
聞いた事のない名前だった。
「昔に滅びた国、でしょうか……」
4階がブリンクランドが召喚したフロアだった。
中に入ると中央に祭壇があり、それを囲むように太い溝がある。祭壇には36本の燭台のような物立っている。祭壇を中心に深い溝の円が三重にある。
その溝の縁に小さな光る石が並んでいるが、いくつかは消えている。
石は全部で360あった。360個の石……。360日目に帰還する召喚。
これは、あれ、だな。
たぶん、光り石が全部消えた時がエンドになる。
外側の太い溝に魔力石を入れるそうだ。タガセンが持ってきた石を幾つか溝に落としてみるが、特に変わらず、石も光らず。
宰相が持ってきた(国に保管されていた)魔力石も入れると、ようやく消えていた石がひとつ光った。
帰還するためには360ある光り石を消さないようにしないといけないそうだ。消えたら補充。光り石をひとつ点ける量はおおよそわかった。(董明が)
光り石が全て点灯した状態でさらに魔力石を投入していくと祭壇にある燭台が灯っていくらしい。文献には36の燭台を灯すとあった。
「董明、周りの光り石が全部消えると、もう中央の燭台は灯らなくなるのか?」
「それについての記載は見つからなかったのよ。ただ、『360日目』ではなく、『360の光が消える前に』とあったわ」
「あの石……毎日一個ずつ消えるのか。だから360日……」
「でも、途中で魔力石を補充したら光は灯るから、実際はエンドレスかしら」
「期限無し? いつでも帰れるってか?」
「とは言え実際にはここに毎日通えるわけがないから、360日以内と考えられたのでしょうね」
「俺らは通えるけどな」
「そうね。魔法移動スキルがあって、魔力石在庫が山ほどあるなら、帰還の期限は無いでしょうね」
塔に到着した時点で、鈴山田、董明、梁井、佐々木先生を呼び戻していたが、移動スキル持ちを全員連れてきてブックマークをさせた。
2〜13Fの12フロアのうち、5フロアは聞いた事がない国名だった。過去に滅びたのか、それとも今も人知れずこの世界の何処かにあるのか。
塔のフロア図を董明がノートに記入していた。
1:入口
2:ー(不明)
3:ー(不明)
4:ブリンクランド
5:ウッダレジオン
6:ー(不明)
7:フォーレスタ
8:コスタル
9:アンブリア
10:ー(不明)
11:ウッドランドまる
12:ー(不明)
13:ディサート
8階のコスタルと、11階のウッドランドも中は同じ仕様だった。
「ちょ、マジか……」
残念な事に、塔の中ではブックマークが出来なかった。と言う事は、用があって来るたびに4階まで登るのか。
うちはまだ4階だからいいけど、さか中、ウッドランドは11階。佐々木先生と染公が必死になってエレベーターを探していた。
今回の遠征の第一目標『魔力石の分量の確認』、第二目標『塔のブックマーク』は完了した。
残すは第三目標『テイム』だ。




