83話 ガル民
ウッドランドのさか中とコスタルのめぎ中との顔合わせが済んだ。
けど、いきなり仲良くなるのは難しそう。
さか中とは何となくうまくいきそうな雰囲気なんだ。やはり同じ県だし、流山と野田は近いからかな。
でも、めぎ中は難しそう。向こうがこっちをよく思ってない感じ。シャーシャーと威嚇する猫みたいでちょっと怖い。
城之内君とか日向君とか董明さんはサラッと無視して表面上はにこやかにしている。僕には無理。僕は元から引っ込み思案だから。
今後も交流はしていくみたいなんだけど、イチクミのみんなもあまり乗り気でない。
タガセンから色々と言われるかなと思っていたけど、それはなかった。タガセンは前にもまして忙しそう。
「今回の、3校の交流、どうなんだろうな」
僕ら城之内班は今、エリア3に来ている。罠のチェック。今日は班員全員での行動。城之内君、太郎君、董明さん、やないさん、漆原さん、僕の6人だ。
漆原さんのスキルでテレポートして罠の設置エリアを飛んで回る。生きている獣は城之内君が弓でトドメをさす。
太郎君と僕が罠を外したり、新しく設置している間、董明さんとやないさんはそこらの物を採取している。
「今後の計画書はタガセンに提出済みなんだがな」
「タガセンからは指示するまで今までどおりと言われているの」
「なんかさぁ、3校の交流、失敗だったかな」
「えっ……? 何で? やないさん……」
やないさんが足元の草をブチブチと引っこ抜いている。
「タガセンはさ、もっと大人の仲間が欲しかったと思うんだよね」
「そうだな」
「でも想像どおりにはいかない、って感じがした」
想像どおり? やないさんは何を想像していたの?
「僕……は、タガセンの想像が何だかわからない……」
「次郎、タガセンはさ、俺達生徒24人を抱えたままだと、動きが制限される。俺達をほおって、あちこちには行けなかった」
「そうだな。だから、別の大人、地球人の大人と合流したかった。ウッドランドとコスタルに召喚された者達の中にいる『大人』にかけたんだ」
「そうなのよね。でもねぇ」
「そっ。ちょっと残念な結果だったわね。さか中の先生は泣き虫佐々木ちゃん。めぎ中の佐藤先生はなりたてほやほやの新人先生で頼りないし植原先生は他人事みたいな顔をしているし」
「生徒達もガルガル期のうちの姉貴みたい」
「ガルガルキ? 何、それ……。魔物?」
「俺も知らないぞ? 何だ?ガルガル期」
あ、城之内君も知らないんだ。良かった。
「ガルガル期はね、子供を産んだ女の人のね、ホルモンバランスが崩れてガルガル言い出すの」
え、マジ? 出産した女性ってガルガル言うんだ? 綾香さんは未婚だし、椿さん(姉)はまだ高2で結婚もしてないから、知らなかった。
菫さん(母)も、僕を産んだ時にガルガル言ってたのかな?
「ちょっと、漆原。もっとちゃんと伝えないとポチャ次郎が誤解してそうw」
「ええっ! 今の説明でわからなかった?」
「う、ううん。わかった、と、思う。女の人は子供を産むとガルガルって言うって事でしょ?」
女子3人が呆れたようにため息を吐いて俯いた。
えっ、えっ、違うの? 城之内君、さっき知らないって言ってたよね? 僕と同じ理解だよね? ねっ?
「ポチャ次郎、こっち見んな。俺はちゃんと理解できたぞ?」
「漆原は産後の姉ちゃんがいるから詳しいのはともかく、何で梁井や董明さんも知ってるんだ? ちなみにうちもいとこがガルガル期に突入して親族会議にまで発展した」
え……、ガルガルキって親族会議に発展するんだ。怖っ。
「っと、すまん、次郎。もっと混乱してそうだな。ええと、ガルガル期っつーのは」
「私が説明するわね」
「女神さま降臨」
「ガルガル期と言うのは、出産後にホルモンバランスの乱れで自分の赤ちゃんを守ろうと警戒心が必要以上に強くなる事を言うの。それで周りに対してイライラしたり八つ当たりしたり。子供を産んだばかりの猫に近づいて子猫に触ろうとした時に威嚇されてガルガル言われる事から、人間でもその期間をガルガル期って言っているのよ」
「なるほど、そうだったのか。というか、太郎と漆原はともかく、梁井も董明さんもよく知っていたな」
「授業でやったよね」
「男女別の保健体育だから、男子はなかったのかな?」
「なかったな。将来のためにもその授業は男子も受けるべきだな」
「そうねぇ。妻がガルガルした時の夫の対応。間違うと離婚の危機よ」
「だな。いとこの時は親族を巻き込んでの離婚騒ぎになった」
「た、大変なんだね。女の人って……。あ? でも、それとめぎ中がどういう関係? めぎ中の佐藤先生がガルガル期だったの?」
佐藤先生って凄く若い女性の先生だった。さか中の佐々木先生と同じくらい? でも、なんか気は強そうな感じもしたけど……。
「先生じゃなくて、芽木中の生徒な」
「もう、辺りかまわず噛みついてくるの、マジ鬱陶しかったな」
ええっ! めぎ中の生徒の誰か……子供産んでたんだ。結婚早いんだね。あと、ガルガル期になると噛みつくんだ。やっぱりめぎ中には近寄らないようにしよう。
「漆原、次は7エリアに飛んでくれ」
「はーい。みんな掴まってぇ」
漆原さんに掴まった太郎君の腕を掴んだ。次の瞬間にはエリア7へ。そこでもまた罠チェックと罠設置。
同じ作業を繰り返しながら、話はさっきの続きになった。
「結局、大人が必要で3校と合流したけど、魔力石集めが3倍になっただけじゃね?」
「そうなんだよなぁ。今のところ協力体制は全く出来ていない。けれど360日後には75人で帰還しないとならなくなった」
「今更、別々にしましょうとは言えないわよねぇ」
「タガセンがラクになるどころか、75+3人を抱えただけになったな」
「あ、でも。高田さんが居てくれるから、それはめぎ中と交流して良かったよね」
「そうだった。高田さんは芽木の用務員だったな」
「高田さんが居てくれるからタガセンも前よりは俺らに付きっきりではなくなったな」
「城之内、罠エリアを増やすか?」
「そうだな。董明、増設エリア地図を見せてくれ」
僕らが持っているスキルを最大限に使って、出来る事をやらなくては。とにかく、たくさん罠を仕掛けて、たくさん獣を獲る。
この後はギルドにも顔を出して、魔物肉の解体。毒をきちんと取り除いて安全なお肉を提供するのだ。
やる事はいっぱいだ。
夕方、新しいクラスの間で、班長からの報告をしていた。
そこにタガセンが来た。
班長が呼ばれて何か指示をされているみたい。ちなみに班長は、日向君班の日向君、鈴山田班の鈴山田さん、そしてうちの城之内班の城之内君だ。
タガセンは班長に指示をすると足早に部屋から出て行ってしまった。
城之内君はみんなの前に立った。
「タガセンから、次の指示が出た」
明日から『遠征』に出るんだって。
「メンバーは、鈴山田、董明、梁井、千谷」
「何だ? このメンバー……。千谷はブックマーク要員だろうけど」
「あら。私達って事は生産(育成)スキルでいよいよテイムかしら?」
「え、でも、最初は罠にかかった小動物で試すって言ってたよね?」
「待て。全部説明する」
城之内君がタガセンから言われた事をみんなに話した。
今回の遠征の目的。
まずひとつ目、帰還に必要な魔力石の量を知るため。帰還方法についての詳細確認。古い書物や口伝え部分をしっかりと確認する。
ふたつ目、帰還に必要な場所『境の頂』の塔をブックマークする。
みっつ目、生産(育成)スキル持ちテイムをする。
「今回の遠征は3国合同、3校合同になる。『境の頂』はどの国にも属さない場所にある。なので、ブリンクランドに集合してもらい、ここから合同での遠征になるそうだ」
「今回のメンバーに縮地が入っていない。って事は馬車移動か」
「そのとおり。召喚人からの参加は、ろく中からタガセン、鈴山田、董明、梁井、千谷。さか中は佐々木先生、公務員染谷。めぎ中は高田さんのみ」
「何で高田さんが……?」
「さか中は、佐藤先生も植原先生も行きたがらなかったそうだ」
「マジかよ」
「高田さんは、土魔法だったよな? って事は……」
「そうだ。魔法移動スキル持ちの木村も、テイムスキルの鈴木俊も拒否した。めぎから誰も参加しないのは不味いと高田さんが参加する事になった」
「うわぁ」
「マジか……」
「帰還する気ないのかよ」
「ガル民だからな。もう、好きにさせとけ」
こっちが仲良くしたくても、向こうがしたくない場合ってどうしたらいいんだろうね。
あ、ガルガル期の対策を、あとで太郎君や漆原さんに聞いてみよう。
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聞いた。
「してほしい事をやってあげるとか」
「医者からは寄り添えと言われたらしいけど、寄り添うとガルガルされたって、いとこの旦那が泣いてた」
「睡眠不足だから寝かせてあげるといいらしいわよ」
さか中の人達……、夜眠れてないのかな。




