81話 顔合わせ
タガセンは、さか中の染谷公務員君を連れて千谷君達と消えた。まずはコスタルをブックマークしてもらうんだって。
少ししてから、見たことのない生徒がタガセンと一緒に戻ってきた。めぎ中の魔法移動スキル持ちだって。
彼がこの部屋をブックマークすると、5人が消えた。
「めぎにウッドランドをブックマークさせるんだろう。これでお互いが行き来できるな」
「でもさー、このクラス間がブックマークのポイントってちょっと困るな。俺達の会議中に誰かが飛んでくるかもしれないだろ」
「そうだなぁ。ブックマークは他でしてほしかったな」
「でももう、しちゃっただろ? 他の部屋をブックマークしてもらってもさ、この部屋には来れちゃうじゃん」
「私達の『クラスの間』を変えましょうか」
「ついでに私達の寝室も引っ越さない? だってここって、男子部屋と女子部屋の間の部屋じゃない? 何かあった時にタガセンが男女ともすぐに呼べるようにって、タガセンのベッドも置いてある。って事はここに飛んできたさか中やめぎ中が、あそこの扉から女子の寝室に入れちゃうじゃん」
「そうだったー。事故に見せかけた覗きが出来る」
「それは失礼だぞ」
「なら、廊下の向かい側に男女それぞれの寝室を貰うか」
「うん。それで、こっち側のクラスの間は、さか中、めぎ中、ろく中の合同会議専用にしたらいいんじゃない」
「タガセンの寝室はどうする? 男子部屋に一緒とかは嫌だぜ」
「あ、ねぇねぇ。向かい側の大きめの2つを男女部屋に貰うじゃない、その隣にある小さい部屋。あそこが空いてるか聞いてみようよ。空いてたらそこをタガセン専用の個室にしてもらう」
「いいな。で、今まで俺ら男女の寝室だった場所は、さか中、めぎ中が泊まりに来た時用にするか」
「賛成〜」
「いいな」
あっという間に引越しが決まった。向かい側の部屋が使えるか日向君達がさっそく確認をとっていた。
「タガセンが戻ってくる前に引っ越そうぜ。倉庫や収納あるやつ、荷物移動頼む」
「ベッドごと?」
「おう。ベッドごと」
「空いたこっちには新しいベッドを入れておく」
「そうね、泊まりにきて使い古したベッドは失礼だもんね」
「本当にろく中のみんなは決まるのも動くのも早いな」
高田さんが呆れているのか感心しているのかわからない。
日向君は高田さんのベッドもタガセンと同じ部屋に用意した。高田さんは、何となくコスタルに帰らない気がした。勝手な想像だけど。それと僕の願望。
ブックマークに行っただけなので、すぐに戻るかと思ったけど、タガセン達はなかなか戻ってこなかった。
「どうしたんだろうな? ただのブックマークじゃないのか?」
「俺らタガセンが戻ったらイチクミ全員でコスタルへ行ってめぎ中と挨拶をかわすんだよな?」
「タガセンがさっきそう言ってたぞ」
「戻ってくるの遅くない?」
「時間が勿体ない。俺と次郎は罠を見てくる」
「すぐに戻って来いよ?」
「ああ、見てくるだけだから。船橋ぃ、5番エリアに飛んでくれ。大野、護衛頼む」
「おうよ」
「はーい」
僕は太郎君に腕を引っ張られて、船橋君と大野さんと一緒に4人で罠を仕掛けたとこに飛んでいった。
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太郎君が5番エリアと呼んだ場所に仕掛けてある罠を確認していく。ここは昨日仕掛けたばかりなので、まだかかっていないと思ったけど、3ヶ所にかかっていた。
「小物だな。大野、頼む」
「はーい」
大野さんが罠にかかっている獣に近づく。猫より大きいその獣はフーフーと大野さんを威嚇していたけど、大野さんは気にせず近寄り、持っていた剣でバッサリと首を落とした。
大野さん……こっちの世界に馴染んでいるな。
「毒ありか鑑定する。…………無い。ただの獣だ」
太郎君がそう言って獣の足を挟んでいた罠を外してから、亜空間倉庫にそれをしまった。その間に僕は新しい罠を準備して、今のとこからちょっとだけ離れた所に設置した。
大野さんは血の上に土を被せていた。
獲れた獣を持って、クラスの間に戻った。
「うわっ!」
「うおっ」
クラスの間が大混雑していた。
「戻ったわね」
やないさんが着地ポイントで待っていた。
着地ポイント。
クラスの間には壁際に『着地ポイント』が幾つか作ってある。
壁の近くに紐で目印付けて、そこは立ち入り禁止。
何も決めてなかった時に、立ってた数人と魔法移動で戻って来た数人がぶつかった事があった。
たまたま見ていたけどびっくりした。立ってた人が弾き飛ばされた感じかな?
それで、壁際の空間を紐で区切って、P1、P2、P3ってした。Pはポイントの略だって。魔法移動スキル持ってる人はブックマークを変更してた。
「ブックマークって変更出来るのか?」
「普通に取消で、新しく登録した。ブックマークで浮かぶ名称で取消を唱えれば大丈夫」
「あ、ほんとだ」
「人間合体とかにならなくてよかったな」
「マジそれな」
それで今僕らはP2に戻ってきたんだけど、その紐の近くにやないさんが立ってた。
「あんたらが行って少ししてタガセンが戻って来たのよ。それでうちの、ここクラスの間で、3校の顔合わせをやる事になって、千谷達がコスタルとウッドランドに分かれて人運びに行った。ほら、あっちの学校はひとりしかいないじゃん? 魔法移動スキル」
「ああ。そうだな」
「それにしても3校集まるには狭すぎる。中庭で良かったんじゃないのか?」
「座る場所もないぞ」
良かったぁ。座るとこがないなら立っていられる。
みんな立ってる。なんか満員電車みたい。……乗った事ないけど。
それにみんな勝手に喋ってるから、かなり騒がしい。これ……タガセンが何か言っても聞こえないよ。
とか思ってたら、太郎君に腕を掴まれ引っ張られた。
「次郎、集合だ!」
え?え? どこに?
「ろく中は左側だって」
やないさんが僕の左腕を引っ張った。
え?え? 誰の指示? どこから聞こえたの? 僕には聞こえない……。けど、やないさんと太郎君に引っ張られて人混みをかき分けて進んでいく。
そこにはイチクミのみんなが立ってた。
「ポチャコンビ、こっちだ」
城之内君が立ってる壁際へと手招きされた。董明さんと漆原さんもいる。もしかして班ごと?
隙間からチロっと覗くと、うちの生徒は班ごとに綺麗に2列に並んでいた。誰も喋ってない。
タガセンがどこにいるのかは見えないけど、たぶん、部屋の中央の前の方のどこか。
でも、まだ他の生徒がごちゃごちゃしてるしザワザワしてる。
ダダンっっ!!
び、びびびっくりした!
襲撃? また蒼井君達のテロ? 何かで壁を思いっきり叩いた音がして飛び上がった。
騒がしかった部屋も一瞬でシンとした。
「学校ごとに、整列だ」
静かになった部屋に、大きくないタガセンの声が響いた。あれ、絶対怒ってる声……。
イチクミのみんなもピン!となってる。僕も!
固まった状態の他の生徒達はポカンとタガセンを見たまま動かない。
「ふぅ。整列だ。中央に芽木つくし、右側に境井戸」
ようやく動き出した。けど、なんかごちゃっとしたまま。学校ごとに分かれては居るのかな? 2列とかに並ばないの?とか思ったけどそれ以上、動く生徒はいなかった。
それから、タガセンの横にいた先生達が挨拶を始めた。
「芽木つくし中学2年1組の担任の佐藤です」
「同じく、芽木つくし中学、2年2組の植原です」
「自分は芽木つくし中学で用務員をしとります高田です。どうも」
「あ、あ、あの、境井戸中学の、2年生の社会を教えています佐々木です。よろしくお願いします」
あ、うちのチームと仲良しの佐々木先生だ。テイムスキルだったよね。佐々木先生ってうさぎとか飼っていそう。もしもうさぎをテイムしたら、なでさせてもらおうかな。
タガセンがめぎ中の、ええと佐藤先生だっけ? 女の先生と佐々木先生に何かを小声で話している。
「出席番号順に並んでー。右に女子」
「みんなー、出席番号順になってー」
たぶん佐藤先生と、佐々木先生が自分の学校の生徒に指示を出した。
みんなはまたザワザワしながら動き出した。なんかさっきよりごちゃごちゃしてる。
「先生ー、2列だと後ろがキツイ」
「入れないんだけど!」
「ちょっと前、隙間ありすぎ!」
「横に曲がる?」
「えっ、じゃあ、4列?」
タガセンが……なんか、なんか噴火前の富士山? 噴火前の富士山なんて見た事ないけど、ヤバげ!!!
城之内君もハラハラしながら隣のめぎ中の方を見てる。
あぁっ! 待って、ろく中も出席番号順になる? 僕、僕の出席番号知らないんだけど!
「た、太郎君、僕の出席番号知ってる? 僕何番?」
「お前の出席番号なんて知るわけないだろ」
ええぇぇぇ………。終わった。
「ポチャ次郎、出席番号なんて覚えてなくても平気よ、うちは班ごとに整列しているから」
ダダンっ!
あ、あぁぁ、またタガセンが壁を叩いた! 怒ってる、怒ってるよ。
騒がしかった部屋がまた静かになった。
「端、境井戸の男子1番から名前とスキルを名乗っていけ」
近くにいるめぎ中の生徒が部屋の右角の方を見ている。僕は背が低いのでそっちまでは見えない。見えないけど名乗り始めた声が聞こえた。ただ、声が小さくてよく聞こえなかった。
いいや、どうせ覚えられないし。
隣で董明さんがノートにサラサラと何かを書いている。さか中の生徒の名前とスキルをメモっているのかな?
あ、もしかしてめぎ中からもうちのチームに来るのかな。ジヌ染君みたいに良い人だったらいいけど、怖い女子とかだったらあまり良くないかも。
それにしても、この部屋の人口密度が高い。酸素が足りない気がするし、部屋の温度も上がってない?暑いよね?
「朝礼……いつ、終わるかな……」
「ポチャ次郎君、大丈夫?」
「ポチャ次郎、朝礼じゃないわよ、しっかりしなさいよ」
「いや、密閉空間にこの人数。デブにはキツイぜ。次郎、しっかりしろ」
「太郎、順番が回ってきたら、次郎の分も言っとけ」
「仕方ないな。次郎、お前は座って壁に寄りかかっとけ」
あ、ありがたい……。
「城之内です。弓、他です。よろしく」
「董明です。生産です。よろしく」
「漆原。弓、どうも」
「梁井、生産です」
「善哉だ、生産狩。よろしくっす」
「(裏声)じ……草凪ですぅ、生産狩ですぅ」(太郎)
ぶっ
ごふっ
ぐっ
「田川先生、この部屋狭くて暑いです。若干名ダウンしています」
「日向、ナイス」
「ダウン? 誰だ? ポチャ次郎か?」
「(裏声)そうですぅ。暑くてギブですぅ」(太郎)
え、あ? 僕の番? 何を言うんだっけ?
「田川先生、中庭へ移動しませんか?」
「そうですね。芽木つくしから着いてこい。佐藤先生、一緒に。植原先生は生徒の最後尾に」
「はい」
「植原先生の後に佐々木先生と境井戸の生徒」
「では私が境井戸の生徒さんの後ろにつきましょう」
「お願いします、高田さん」
「最後尾にろく中。城之内、ポチャコンビは休ませておけ」
「わかりました」
なんか、色々言われているけど、ちょっと景色が回っている。立てるかな。
「ほら、次郎、これ飲め」
口にカップが押し当てられて水が入ってくる。美味しい。喉が渇いていたんだ。
ゴクゴクと飲んだ。
やっと酸素を思い切り吸えた。
ひと息ついて、周りをみたら太郎君と城之内君以外、誰も居なかった。
さっきまで大混雑だったよね?
「あれ? みんなは?」
「中庭ぁ」
「あ、城庭5周?」
「ちゃうちゃう。広い場所に移動した。この部屋に3校は狭すぎだよ」
「そうだな」




