71話 お試し壁作り
鈴山田さんとやないさんが図形を描いている間、みんなはまた話に戻った。
「日向、俺たち庭でちょっと試してみたい。今覚えたスキルでどんな壁が出来るのか」
「そうだな。土魔術だけなら聖壁になる事はないだろう。どのくらいの魔力が必要かも今のうちにみておくか」
「千谷、百野、船橋、ファリタ、鈴山田は魔法移動スキル持ちだよな? 魔法移動は魔力を使用したっけ?」
「ああ、若干だが使用する。縮地みたいに無限移動は無理だな」
「って事は、縮地チームが戻ったらウッドランドとの行き来があるから、魔力は使わずにいよう。千谷と百野は残ってくれ。魔力キープだ。それ以外のバレー部、外に行くぞ」
日向君と赤城君達バレー部にくっついて、僕らも一緒に外に来た。
いつもの中庭だけど、中庭でもずっと端っこの建物の壁の近くまで来た。
「どの程度の大きさの壁が出来るんだろうか。赤城、それって想像出来るのか?」
「いやぁ、一度使ってみない事にはわからんな」
「ねぇ、建物にぶつかって壊したらまずくない?」
「本当なら城塞都市の外の広い場所で試したい所だが、魔法移動が使えないとそこまで遠出は出来ない。縮地チームがウッドランドに着く直前から慌ただしくなるはず。その時はイチクミは全員クラスの間に居なとタガセンが怒りそうだ」
タガセンが怒るのとお城の建物壁壊すのとどっちがマシかな。
どっちも良くないな。
「赤城君、壁をちっちゃく出せない? さっきのあの図形ミニにしたらダメかな」
「いや、図形をミニにしてもな……。図形を……」
「赤城、赤城、見ろ! 呉崎が」
呉崎さんが差し出した手のひらの先、空中にさっきの図形が薄い光で浮き上がってる。手のひらサイズの図形。
その図形の2〜3メートル先の地面がモリモリ立ち上がり始めた。
あ。ミニマムな塀が出来た。高さ1メートルくらいの、でも暑さが30センチはありそうな塀。横幅は5メートルくらいかな?
「想像以上に小さいな」
「これ、国を守る聖壁になるのか? 魔物は簡単の飛び越えられるぞ?」
「呉崎、これはあの図形の魔法陣で作成したのか?」
「はぁぁ。そうよ、あの魔法陣。でも、ポチャ次郎がミニにしろっていったでしょ?」
え、え、僕、しろなんて言ってない。そんな命令口調で言ってないのに。
「なるほど、サイズは意識して変えられるのか」
「だってさ、そもそも、あの図形も董明さん達がノートに書き写した物でしょ? 元のサイズは関係ないじゃない?」
「確かに! 俺とした事がうっかりしてた」
「だから、ポチャがミニにしてみたらって言葉で、手から魔術を出す時にミニを心掛けてみた」
あ、良かった。「ミニにしろ」から「ミニにしてみたら」に変わってた。
それにしても呉崎さんがものすごく疲れているみたい。やはり『聖壁』用の壁は魔力を物凄く使うのかも。
「呉崎、大丈夫か? かなり息が切れているな。もう一発いけそうか?」
「あのねー、小さくするのに物凄く力使ったのよ。広い場所で普通に使う方が、多分もっと楽にいける。赤城、馬場、同じくらいの壁やってみてよ。いくつ連続でいけるか」
「じゃあ、羅木さんはこの塀の3倍くらいのサイズで出してみてもらえるか?」
バレー部3人が並んで壁魔法を放った。
「ぐわ、これ、キツイぞ」
「すまん、俺、ここでリタイア」
馬場君が壁3つ目でへたり込んだ。赤城君は4つ目の壁が大きく、しかも変な歪んだ壁になって、座り込んだ。
最初から大きな壁、高さ3メートルくらいかな?を作っている羅木さんは、壁が作れる空いている場所を探しつつ奥へ奥へと行ってしまった。
「もう、場所無いよー!」
羅木さんが叫びながら戻ってきた。
「とりあえず5個は作れた。まだいけるけど中庭は空間が少ないのよ。なにかしら障害物があるからぁ」
「なるほど。大きい方が苦労せず魔力消費も少なくて済むのか」
「本当に広い場所で確認してみたいわね。ある一定サイズ以上は魔力の消費が大きくなるのかもしれないわね」
「つまり、あの魔法陣の正規の大きさなら最低限の魔力でいけるが、それ以上でもそれ以下でもサイズを変えると必要以上に魔力が消費されるのか」
「たぶんね。試してみないとだけど。あのサイズしか作れないなら国を囲む塀なんて1年掛かっても無理でしょうね」
「そうだな。スキル持ちの召喚人が千人もいれば出来るだろうけど」
「200年前の聖女はひとりでやったんでしょ?」
「スキルを独り占めするからぁ」
「でもさ、うちら、土魔術は6人いるけど、防御、回避、回復、解呪はワンセットで6人だからなぁ」
「それって、結局聖壁作りはひとチームしか作れないわね」
「土は5人余り、付与は2人余るけど、残りで組んでも聖壁チームにはならないな」
「そもそもさ、魔力石集めが最優先で、壁作りまで手が回るか?」
「だよねぇ」
「ウッドランドにかけるしかないか。宝箱をいくつ発見しているか、スキルをどう分担しているか」
「とりあえず、部屋に戻ろう」
僕らは部屋に戻った。
昨日と同じく1時間ごとに休憩に戻っていた縮地チームだったけど、お昼前から慌ただしくなった。
「だいぶウッドランドに近づいたみたいだ」
タガセンと高田さんもクラスの間にスタンバイしている。
魔法移動スキル持ちのメンバーも、いつでも出発出来るようにしている。もちろん僕は留守番組だ。
縮地チームが戻ったら、タガセンと魔法移動チームが消えた。
縮地チームと魔法移動チームが何度か入れ替わりで行き来していたあと、全員が戻り、タガセンが部屋から出て行ったと思ったらウッドランドのエルフさんを連れて部屋へ戻ってきた。
「いよいよウッドランド入りか」
シンとした部屋に日向君の声が響いた。
タガセンと千谷君と船橋君、そしてエルフさんが消えた。
「向こうで必要な情報を入手しないとならないから、今夜は戻らないだろうな」
「千谷達も?」
「千谷と船橋も、いざという時のためにタガセンに同行だ」
「おおぅ、千谷……頑張れ」
「船橋、生き残れよ。ダメだったら骨は拾ってやる」
-----(田川視点)-----
心配していたが城之内達は無事にウッドランドの国境付近まで縮地で到着出来た。
漆原の魔法移動スキルでその場をブックマークし、縮地チームは一旦帰還。代わりに魔法移動チームを連れて漆原以外のブックマークに向かう。
しかし国境だろう壁が見えても距離はまだまだある。そこでもう一度縮地を繰り返して近づく。かなり接近した地点でまた魔法移動チームを呼びブックマークをする。
国境警備だろうか、塀から出てくるのが見えた。慌ててブリンクランドへ引き返して、ウッドランド使者のひとりであるエルフを連れて国境へと戻った。
千谷と船橋には合図をしたら即帰還を言い聞かしてある。『俺を待たずにその場で帰還』だ。
だが、特に何事もなく国境を通過する事が出来た。ウッドランドの使者が一緒だったので話が通るのが早かった。
俺、千谷、船橋、エルフの4人はウッドランド国に入った場所で、止められた。
迎えの馬車が来ると言う。食事を出された。
しまった、鑑定持ちを連れてくるべきだった。こっちのメンバーが変わったり増えたりしたら怪しまれる。
使者のエルフが率先して食べてくれたので、俺も恐る恐る口にした。だが、千谷達には食べないようにいっておく。あとで手持ちの食料を摂るように。
馬車が到着するのに数時間かかった。だいぶ日が暮れてきた。生徒はあちらへ戻すべきか悩む。
計画ではウッドランドのどこかの屋敷の部屋に案内されたら、そこをブックマークしてから生徒らを戻す予定であった。
悩んでいるうちに馬車が到着した。
その馬車には、なんと召喚された学校の教師が乗っていた。
「遠路はるばる、こちらまで出向いていただいてありがとうございます。あ、私、佐々木と申します。境井戸中学の教師です。あの、あの?」
「ああ、すみません。名乗るのが遅れました。流山私立緑陽中学の田川と申します」
「良かったぁ、良かったです! 他の学校の先生と会えて、本当に良かったぁぁぁ」
佐々木先生は泣き出してしまった。確か事前に貰った手紙では生徒24名に教師ひとりだったか。若い女性の先生だったので驚いた。社会科の教師だそうだ。担任でもないのにこのわけのわからない世界で生徒を抱えてて大変だったのだろう。
馬車の中でも泣きどおしで、実のある話はほとんど出来なかった。
今、ウッドランド国の中央へ向かっているそうだ。完全に日は落ちて周囲は真っ暗だ。だた、森の中を馬車が移動しているのだけがわかる。
千谷と船橋は緊張で疲れたせいか、うとうととしている。腹も空いているだろうがもう少し頑張ってくれ。




