58話 本郷中
釣れた。
本郷中の木田君と瀬戸さんが自首してきたそうだ。
あの貼り紙看板を立ててから2日目、ちょうど日向君達が戻ってきた日、本郷中の2人が現れた。
「何だよそれ、大事件じゃないか」
「そっか、俺ら以外に6つの学校が召喚されたんだもんな」
日向班と鈴山田班の成果を聞くより、クラス内は他校の話でもちきりになった。
タガセンは相変わらず忙しそうだ。
日向君達がタガセンに話を聞きに行ったが、木田と瀬戸もかなり消耗していたので、しばらく療養させてから、話の聞き取りをするそうだ。
僕らはその件についてお預けになったままだった。
「蒼井君はそろそろ元気になったかな」
「だよな、あれから3日か」
「まだ3日よ」
「でも怪我は治ってるんだよな。あとは起き上がれる体力かぁ」
「あれ? 城之内君達もとC班ってさ、怪我回復の他に体力回復ってスキルもあったじゃん?」
「おお、あった。あったぞ。体力回復(リジェネ・強化)っての」
「強化はともかく、リジェネを定期的にかけておけば復活が早くなるんじゃない?」
「だなぁ。俺ちょっとタガセンとこに行ってくる」
「待て。個人行動はダメだ。リジェネは他に……剛力、井伊、竜崎、久遠、漆原。城之内と一緒に6人行動で行っとけ」
「おう」
「はーい」
僕らはクラスの間で城之内君らを待っていた。
すぐ戻ってくるかと思ったのに、なかなか戻ってこない。
「タガセンからオッケーが出て、保健室に行ったのかもしれないな」
日向班と鈴山田班は遠征から戻ったばかりだったので、とりあえずお風呂に入ってくると部屋から出ていった。残ったのは太郎君と僕、董明さんとやないさんの4人だけだ。
ただ『待つ』と言うのは苦手だ。何かをするとそっちに集中してしまいそうになるから、一度にひとつの事しか出来ない。
今は、みんなが戻ってくるのを待っている。待っている。
遠征組がお風呂から戻ってきても、まだ城之内君達は戻ってこなかった。
迎えに行ったほうがいいかな、そんな話が出た時、やっと戻ってきた。
城之内君も井伊君も、剛力君も竜崎さんも久遠さんも漆原さんも、変な顔をしていた。
口をきつく結んだ顔。泣きたいのとは違う。怒ってるような顔?
城之内君がドスンとソファー腰を下ろした。同じソファーに井伊君達、向かい側に竜崎さん達女子が座った。腕を組んでいる。怒った顔のまま。何があったんだろう。
本郷中とケンカした?
ソファーの周りにみんなが集まった。
「どうした、城之内、何があった」
「…………胸糞悪い話を聞いた」
-----(本郷中、蒼井視点)-----
4月7日、午前9:00
新学期、1限目チャイムが鳴った瞬間にソレが起こった。
1年から持ち上がったクラスなので見知った顔ぶれのクラスメイト達。春休みが終わって2年に上がっても緩んだ雰囲気は変わらず。
教科書を出しているやつは少ない。
勉強も運動もそこまで力を入れている学校ではない。教師も適度に力を抜いている。暴力や犯罪さえ起きなければよい。うちの中学はそんな校風だ。
その緩い始まりの新学期(この中学は新学期が4/7からであった)、今日は特に授業もない。1時限で終わったあとの遊びの計画を立てている生徒も多い。
だが、遊びにいく者はいなかった。なぜなら、俺らは異世界へ召喚されたからだ。
眩しい光に目が眩んだ。ようやく目を開けると俺は白い床の上に座っていた。椅子じゃない、床の上に直に座っていた。
俺だけでない。クラスの皆もだ。担任はいない。そうか、あの時、担任はまだ教室には来ていなかった。今日はまだ授業がない。
今日の1限目は担任が話をして終わる予定だった。明日からの時間割やプリントの配布の予定だった。
2年も1年の時と同じ担任、いつもルーズな先生だ。
周りが騒ついている。座り込んだままの奴もいるが立ち上がってこの白い部屋を確認している奴らもいる。
某アニメ(青く丸い猫が出てくるやつ)のジャイアントに似た新堂があぐらをかいて座っている。新堂は中2とは思えないくらい体がデカイ。何かやって留年したという噂もある。中学留年なんてあるんだろうか。
その新堂の子分、これまたそのアニメに出てくる狐顔のやつらが部屋を見て回っていた(狸顔も居る)。たぶん、指図されたんだろう。
「新堂君! 宝箱みたいなのがあったぞ!」
「何だと、まだ開けるな、触るなよ」
狐顔の子分、高松の声がしたと思ったら、新堂は立ち上がりそっちへ駆けて行った。
『宝箱』と聞いたクラスの何人かも興味がわいたようだ。泣いている一部の女子を除き、新堂の元へ集まった。もちろん俺もだ。
なるほど、まんま宝箱だ。
ゲームでよく見るタイプ。罠じゃないのか? そう思ったが、言う前に新堂はすでに蓋に手をかけて開けていた。
「なんだ、こりゃ……」
皆が中を見ようと新堂に近寄る。
「うぜぇ! 寄ってくんな」
新堂が降った腕が前にいた数人を払いのけた。
「何だろう、この筒……巻物?」
「勝手に触んな!」
新堂が狸顔の子分、鶴田から筒をもぎ取った。
「ごめん」
「何か書いてありますよ」
子分その3は狐顔だな。その徳野が、新堂が持っていた筒の側面を指差した。
「剣術?……なんだ?」
「日本語じゃないけど、読めるのは何でだ?」
「全部同じですか?」
「いくつあるんだ?」
「待て待て待て、俺が仕切ってるんだ」
別に新堂がクラスを仕切っているわけではない。ただ乱暴者ですぐに暴れるから皆は一歩距離をおいているだけだ。
「全部で25本。いいか、今から出すが、誰も触んなよ?」
宝箱はすでに新堂の物として認定されていた。
新堂は箱から出した筒の文字部分を上向きにして横一列に並べた。
同じ文言はないみたいだ。
「剣術……水魔術、体力回復……、何なんだ、これは」
「あの、ゲームに出てくるスクロールみたいなもんかな。魔術とか書かれているのもあるし……」
「スクロール?」
「そう。そのスクロールを使うとそれのワザが身につくってやつ」
「水魔術のスクロールを使うと水魔術が使えるのか? 一回こっきりか? どうやって使うんだ?」
「いや、そこまでは……ゲームの話だし」
「ふん。とりあえず筒を開いてみっか。中に使い方が書いてあるかもしれないからな」
新堂が筒を開くと同時に新堂の体が薄く光った。そして筒は消えていた。
「あ? なんだ? どうなった? どこいった?」
「新堂さん、今、光りましたよ?」
「水魔術の筒が消えたな」
「新堂君、もしかして水魔術が使えるようになってない?」
「どうやって使うんだ?」
「手を差し出してそこから水が出る様子を想像してみたら……」
そう言いかけた高松が吹っ飛ばされた。新堂の手から勢いよく出た水が高松を吹き飛ばしたのだ。とは言え大した距離ではない。びしょ濡れになった高松が起き上がった。
「新堂君、ひでぇよ」
「あっはっは、これは面白い」
そう言って新堂は筒を次から次へと開いていった。慌てた他のやつがスクロールに手を伸ばすと新堂は水を出して吹き飛ばした。
「おい! 俺のお宝に触るな!」
「新堂君、独り占めはずるいっすよ。そもそも宝箱は俺が見つけたのに」
「五月蝿え、俺が欲しい物を全部取った後はお前らにくれてやる」
そう言って新堂は気に入った名前のスクロールをチョイスしていった。
誰かが手を伸ばした時、そこに水魔術を放った事でスクロールの筒も弾け飛んでしまった。
近くに飛んできた筒をすかさず取って開くやつが何人かいた。
「ねえ、あそこ、扉が開いている! さっきは無かったよね?」
「出口じゃない?」
女子の声に何人かが反応した。突然知らない場所に連れてこられて困惑していた女子らは、出口から元の教室へ戻れると思い、扉へと走っていく。
最初の1人が扉を潜ったのが見えた。途端に、身体が扉の方へと引っ張られる。
「筒が……」
誰かの声が聞こえたが、そっちを向く力は無かった。凄い力で扉へ吸い込まれていった。
空気……熱い空気に身体中の毛穴が開いた気がした。
教室ではない。さっきの白い空間でもない。
新しい場所。真夏のような熱い場所に僕らは放り出された。




