55話 罠にかかった獣
剣を抜いた兵士さんが僕らの前に立った。
「罠の場所はどのあたりですか?」
「ここからあっちへ4…5メートルかな。ツンツンした葉が無くなってるとこ、あの下あたり」
「うん、罠にかかった獣が暴れてツンツン葉っぱが倒されたんだと思う」
「掛かった獣の大きさか種類は解りますか?」
「ごめん、そこまではわからない」
太郎君が僕を見た。
「ごめんなさい、僕もわかりません。ただ、あそこの罠に何かがかかってるのだけ」
「大きな獣ですと私だけで倒せるかわかりません。皆さん、下がってください。距離を取って。無理そうなら今回はそのままにして戻りましょう」
兵士さんに言われて、城之内君達は後ろへと下がり始めた。
「あ、あの、でもツンツン草が倒れている範囲から、大きくてもゴリラくらいかと」
「ごりら?」
あ、こっちの世界にゴリラはいないのかな? 普通に言葉が通じるからほとんど一緒のつもりでいた。
「ええと、デカイお猿?(猿はいるかな?)」
「ああ、人型サイズのモンキーですか」
モンキーは居るのか。
「あ、えと、人型とは……その、大きさがそのくらいかなーって、トラとかライオンかも」
この世界の獣は地球にいるものとよく似ていた。とは言えそんなに見てないからよくわからないけど。
街で見かけた犬や猫は地球のソレだったよね。少なくとも四つ足、目がふたつ。尻尾が蛇だったり目から光線を出したりはしていない。怒ったら出すかも知れないけどさ。
「とりあえずあなた方はここにいてください」
「ミルツェさん、気をつけて」
僕らのすぐ後ろにいた城之内君が兵士さんに声をかけた。
後ろに下がったと思った城之内君がいつの間にか僕のところに来ていた。董明さん達はずっと後ろへ下がっていた。
城之内君は護衛さんにスキルの防御を飛ばしてから、僕らにも防御をかけてくれた。
「何かあったらすぐに漆原のとこまで走るぞ? 漆原にはテレポを使うように言ってある」
生産スキル、狩猟の罠、それだけなのにこんなに危険な世界なんだ。僕らがいた日本がどれだけ安全でのほほんと出来ていたことか、実感する。
みんなが怖がるタガセンも、ビンタかパイプ椅子を持って追いかけてくるくらいだ。噛みついたり殺人光線を出したりはしないよね。毒も持ってないはず。……言葉に毒はあるかもだけど。
ドキドキしながら待っていると、倒されたツンツン草の手前で兵士さんが止まった。剣で草を掻き分けているみたい。
「来てくださいっ!」
兵士さんが大声で僕らを呼んだ。
まるで「逃げろ!」と言うのと同じくらいの切羽詰まった声だ。
なのに、来てください???
兵士さんがこちらに剣を持っていない方の腕あげて振り回す。
「あれは……何の合図だっけ」
手話、全部覚えていない。あの左手を回すのは何の合図だか思い出せない。
「次郎、あれは普通にこっち来いだ。手話で何でもない」
「てか、護衛には手話教えてなうだろがっ」
太郎君に怒られた。
城之内君が僕らの前に出て進む。僕も太郎君に引っ張られてその後ろについていった。
僕らより一歩前に居た城之内君がピタっと止まった。
僕らもその横まで進みながら城之内君の顔を見ると目をひん剥いていた? ええと、びっくり顔?
そんなに驚く獣が罠に掛かったのかと、地面に目を落とした時、隣の太郎君と同時に声を上げてしまった。
「ちょっ、マジかっ」
「何で人?」
ダメじゃん、狩猟罠に人が掛かったら! いや、この罠、僕が設置したやつじゃないけどぉ。
「罠、怖っ。やっぱ、人も掛かっちゃうんだね」
見るとこの罠は足のところにキザキザの鉄があって、それに挟まっちゃう痛い系だ。
この人、かなり汚れているけどいつから罠に掛かっちゃったんだろう。震えてうずくまってるけどとりあえずまだ生きている。良かった。
「城之内君、回復……、あ、先に罠を外してあげないと」
罠を外そうとしゃがむけど、兵士さんも城之内君も太郎君も立ち尽くしたままだ。
「え、あの……外して、いいよね?」
僕の声に真っ先に反応したのは罠に掛かっていた人だった。
何故か突然僕にしがみついて枯れた声で泣き出した。声は枯れていたけどまだ子供だった。僕らと同じくらい。
「うああぁあ、があああああ、ぐあっ、があああ」
言いたいのに言葉にならない叫びにような鳴き声。
「待って待って待って、痛いよね、今、外すから。城之内くぅん、回復してあげてぇ」
「え、あ、すまん。董明っ! みんな!来てくれー!」
城之内君は回復より先に後方にいた女子を呼び戻した。
「何、どうしたの」
「あら……」
駆けつけた女子3人もびっくり顔で掛かった獲物を見ていた。
「あの、城之内君、回復……、漆原さんでもいいや。足が挟まってるから、僕、罠を外すから回復してあげて」
けど、その子が僕にしがみついて泣いているので罠が外せない。ようやく動き出したみんな。
太郎君がしゃがんで罠を外して漆原さんが回復を掛けた。
けど、その子は僕にしがみついて泣き続けていた。
城之内君が収納から水袋を出してその子の口元に持っていった。
ようやく僕から手を放して両手で持った水袋に口をつけて貪るように飲み出した。
「とりあえず戻ろう」
城之内君の合図で全員が漆原さんに集まる。もちろん兵士さんと、罠に掛かったその子もだ。
その子はガリガリに痩せていたが立ち上がらせると僕より背は高かった。水を飲み終えるとまた僕にガシッとしがみついてきた。猟師が罠に掛かった動物を助けて懐かれるやつ?
「じゃあお城の庭に戻るわね」
漆原さんがそう言ってテレポート魔法を使った。
魔法って不思議だよね。一瞬で見えていた景色が、林から城の綺麗な花壇の前へと変わった。歩いて移動したらかなりに距離なのに一瞬だもんね。いいなぁ、魔法移動スキル。
「少しお待ちください」
兵士さんがそう言って駆けて行った。
罠に掛かってた人を置き去りに、僕らも一緒に残された。
相変わらず僕にしがみついたままだ。離してほしい。ここにはもう罠は無いよー。教えてあげた方がいいかな。
「どこ中?」
ん? 城之内君が僕に向かって聞いた。
どこ中って僕らは一緒の中学じゃん。
何で聞かれたんだろ。
「ろく中」
「バカ。ポチャ次郎、お前じゃない」
太郎君に怒られた。
「ほんごう……」
凄く小さい声だったけど、僕にしがみついている子が答えた。
ほんごう?
「ほんごう? どこだ?」
「県内に本郷中学なんてあったっけ?」
「聞いた事ないけど」
「本郷中?」
「スマホかタブレットで調べたらすぐわかるのにな」
「何県だ? 俺ら千葉県流山市立緑陽中学だ。お前はどこの県? 日本人だろ?」
えっ! ええええ?
しがみつかれていて顔がイマイチ見えないけど、この子日本人なの? もしかして僕らみたいに召喚された系?
例の中2召喚?
どこから?
どこ中……あ、だから、城之内君が『どこ中』か聞いたんだ。
「……きょ、と」
「京都? 京都の中学?」
「と、きょうと」
「東京都じゃない? 八王子市に本郷中学があったはず」
「流石、董明先生。八王子の本郷中学か?」
城之内君の質問に頷いたのがわかった。
「そっか。そうだな。七つの国が同時に召喚を行ったって言ってたからな。他の中学からも来ていてもおかしくない」
「他の……」
城之内君が何かを聞きかけた時にお城から数人の人が駆けてきた。
その中にタガセンもいた。
「部屋に戻っていろ」
僕らはタガセンに言われて部屋へと戻った。
彼は連れて行かれた。




