54話 ポチャの班
「日向班と鈴山田班は城砦都市の外へ出たそうだ」
僕たちが何度か訓練で出た場所は、城の外ではあったけど、あそこはまだ城砦都市の中だった。
お城は広い庭が塀に囲まれていて僕らは普段はそこに居る。そしてお城の塀の周りにこの国の都市や街があるんだって。それもかなりの広さ。
太郎君はこのお城が新宿駅みたいって言ってた。大きさじゃなくて複雑で出口がたくさんあるとこが似てるって。
僕、新宿駅は行った事ないから想像はつかないけど、改札が一個じゃなくて迷ったら生きて帰れないくらい大きいって、それ本当に駅なの? てか、僕、このお城で迷ったら2度と生きて戻れないんだ。怖っ。
それで、日向君の班と鈴山田さんの班は城塞都市を出たんだって。そう言えばだれかが『ブリンクランドは城塞都市国家』って言ってた。
「ちょっとよくわからないんだけど、城塞都市国家って、都市なの?国なの? この国はこの城砦都市の他に別の都市もあるの? ええと、東京都の他に、名古屋市とか北海道があるみたいに」
「ポチャ次郎ぉ、それは結構前に勉強会でやったぞ? この国の地図とか他の国との関係とかやったじゃん」
え、そうだっけ? 全然覚えてない。寝てた? 僕、その授業に欠席した?
あ、太郎君、声が大きいって。城之内君がこっちに来ちゃった。
「ぽぉちゃあ?」
「はい! すみません! 寝ていました(たぶん)」
「この国はブリンクランド国。城砦都市国家。森側のウッドランド国と、海側のコスタル国に挟まれた国だな。一応、どちらの国とも不仲ではない。そこそこ友好国。それから新宿区よりはデカイぞ?」
「そ、そうなんだ。あ、じゃあ日向君達、日帰りじゃないんだ」
「そうだな。城は南門に近い位置にあるそうだし、そこまでは馬車で移動しているが、討伐の実地訓練だから数日間は泊まりになるんじゃないか」
「僕らもこの国から出るの?」
「いや、俺ら城之内班は非戦闘員だからな。俺と漆原は付与訓練。漆原は魔法移動訓練も行う。董明と梁井はタガセンが捕まり次第テイムをどうするか相談」
「げっ……」
今のゲッはやないさんか。やないさん、タガセンにぶたれた事あるのかな?
「じゃあ残った俺とポチャ次郎は生産だな」
「そうなんだよな。狩猟系の生産はポチャコンビだけのスキルだから、使ってほしいんだが、スキル生産(狩猟)かぁ」
「どうやって使うのかわからんし、ポチャ次郎とふたりで狩りに行くのは死にに行くようなものだぞ?」
「そうなんだよぁ」
「流石に2人行動はタガセンに却下くらうわよ」
「そうだな。城之内班は、付与系2、テイム2、生産2か。結局お互いどこかに付き合うしかないな」
「付与はどこでも出来るし、タガセンに声かけて忙しそうなら、ポチャコンビ優先で他は付き添いだ」
「だな。じゃあタガセンを探しに……」
城之内君がドアの横のテーブルに置いてあるベルを振った。
カランカランカラン
たいして待たずにメイドさんがやってきた。あのベルの音を聞きつけるなんて、物凄く耳がいいんだな。メイドさんは忍者スキル持っているのかも。
城之内君が聞いたところ、タガセンは宰相さんと何やら込み入っているみたいだった。
なので今日は僕と太郎君の生産を上げるんだって。タガセンに伝言を残して僕らも、お城の外へと向かった。
城門から出て近くの川辺に建った丸太小屋へ向かう。そこは近くの森で小さな獣を獲る猟師さんがよく利用している小屋なんだって。
猟師さん、いるんだ? でも、お城にお肉が入ってこないね。やっぱりビーガン城だからかな。
「獲れても本当に小さいものばかりです。大抵は獲った猟師の家族の腹におさまります。売りには出ない」
今日僕らと一緒に来てくれた警備の兵士さんが教えてくれた。
そうなんだ。お城の外に住んでいる住民は肉食なんだ。
小屋を覗くと中には色んな道具が置かれていた。
「それは獣を獲るための罠じゃ」
丸太小屋中にはお爺さん居た。肉猟師!
僕と太郎君は、部屋に置かれた色んな道具を見て回った。見ながら『あっ』って思った。
スキル生産(狩猟・解体)の、『狩猟』のほうのスキルが発動したのか、何となく『理解』した。
理解したと言うか、なんかわかってしまったのだ。これがスキルの力か。
そう言えば解体の時も毒袋を見た瞬間『あっ』って気持ちになった。『あ、わかった』みたいな?
僕は勘違いをしていたかも。今まで『狩猟』と言うと、武器を振り翳して獣を追いかけるのを想像していた。
だけど、狩猟って罠を仕掛けたりするのも狩猟のうちなんだ。
何度も思うけど、スキルってほんと凄い。学校の黒板に書かれた図を見ても全く理解できなかった自分が、今、目の前の罠の道具を見て、仕組みや仕掛けがスンっと頭に入ってきた。
そして、多分、材料があれば同じものを作れる。それを森に仕掛ける事も出来る。根拠はないけど自信がある。
太郎君もだと思う。うんうんと頷きながら罠を触ったりしている。
「実際に仕掛けたとこを見てみたいな」
「うん。それと自分で仕掛けてみたい」
「行ってみっか?」
お爺さんが僕と太郎君の頭をぐりぐりと撫で回した。
「師匠、お願いします!」
「お願いします!」
すかさず答えた太郎君に続いて僕もお願いした。
僕ら城之内班に付いているお城の兵士さんがお爺さんと話している。
攻撃班である日向君や鈴山田さんの班は護衛が3人ずつついているけど、僕らは生産系の班なので護衛はひとりだ。
なので、城塞都市から外へは出ないよう、タガセンから念押しされていた。今はお城の外でも、都市の中にある川や林の近くに居る。
「都市内の森ならば、魔物は出ないので大丈夫でしょう。が、獣は出ます。大型の獣もいますので、この小屋が見える範囲より奥へは行かないように。一応私も同行しますが6人が分かれて行動しないようお願いします」
「わかりました。俺と漆原は付与しながら、董明さんと梁井は目についた物を採取して。ポチャコンビは生産(狩猟)を試してみてくれ」
「わかった」
「オッケー」
「はい」
「ポチャ次郎、俺らは先頭で、罠仕掛けるのに良さそうなとこを探しながら進もう」
「うん。あ、ここの罠って借りてもいいのかな? お爺さ……師匠、これ、持っていってもいいですか?」
「いいぞ。持てるだけ持ってけ」
「ポチャ次郎、今日はまずはお試しだからな? 欲張って持ちすぎるな。それと、董明さんと梁井に言って罠猟の材料になりそうな物があったら採取してもらえ」
「自分でも採取出来るぞ?」
「太郎次郎は狩猟に集中、採取は他に任せろ」
「わかった」
僕らは師匠に付いて川沿いの林へと足を進めた。ただの草原のように見えた場所に狩猟の罠があった。
なるほど上手く隠されている。てか、知らずに歩いたら僕らが罠にかかるな。
師匠は罠を仕掛けてある場所の見方も教えてくれた。細い枝がくるりと巻いて結び目を付けてある。
それを見たら近くに罠があるって事だそうだ。
「それを忘れると、他の猟師が罠にかかっちまうからな。お前らも忘れんなよ?」
「はい!」
「ういっす!」
何ヶ所か罠の設置場所を見学させてもらった後、師匠は戻っていった。林の中、僕ら6人と兵士さんだけ。
「少し休憩のあと、実際に罠を仕掛けてみたい」
「ここから奥は罠は仕掛けてないって言ってたな」
「正確には、最近仕掛けていない、つまり、以前に仕掛けた罠があるかも知れないわね」
「ポチャコンビを先頭に進もう。俺らより早く罠に気がつくだろう?」
「おう、多分、スキルの力だと思うけどさ、遠くの罠をキャッチ出来る」
「どのくらいの範囲だ?」
「んー、さっき罠があった場所を歩いていた時の感じだと、半径10メートルくらいか。なっ、次郎」
「え……10メートルってどのくらい?」
「そうだな、学校の教室より若干広いくらいか?」
「そうね。うちの中学は今までマンモス校でひとクラス40人以上居た時もあるから教室が割と広め。縦横10メートル弱くらいあったはず」
「そうなんだ。今ってひとクラス30人も居ないよね?」
「なんかね、ひとクラスの人数が多すぎるって苦情が相次いで徐々に減らしたみたい。それで8クラスだったのが12クラスまで膨らんで教室の数が足りなくなってプレハブになったって」
「プレハブはプレハブで苦情があったみたいだな」
「市への苦情が凄くて、新設校に踏み切ったみたい。でも新設校の校舎建設が間に合わなくって結局あっちも1〜2年はプレハブみたいな話を聞いたわよ?」
「そうなんだ。なんか本末転倒って言うか、大人の考える事はわからんな。苦情も大人がしてそうだよな」
「プレハブかタガセンか、それが問題だ。いや、絶対プレハブだよな」
「その2択ならプレハブでいいよ、俺も」
「私達はもう選べないのよ。タガセンで決まったんだから」
「プレハブでもなくタガセンでもないラッキーな奴らが憎い」
「太郎君、落ち着いて。罠、仕掛けよ?」
「そうだな。やるぞ! この怒りを罠にこめてやる」
「もうー。僕は罠に愛を込める。美味しいお肉さん、罠にかかってくださーい。あ? あそこ?」
「ん? どこだ? あ、んん?」
「どした?」
「たぶん、前に残された罠、発見。でも既に獣がかかってるみたいだ」
「そうなんだ? 早くも肉ゲットだな」
「でも、まだ、生きてるみたい」
「ええっ、俺らチームの武器って俺と漆原の弓だけか。漆原、弓を出しておけ」
そう言った城之内君も収納ボックスから弓を取り出して矢をセットした。
護衛の兵士さんは剣を抜いた。




