49話 タガセン専任
みんなが一斉に振り返って僕を凝視した。
「あ、あ、あ、タガセンがタガセンなのはわかってるよ? タガセンだから、その」
「落ち着け、ポチャ次郎」
「えとえと、タガセンのあだ名の意味とかじゃなくて」
うん、タガセンが田川先生の略なのは知ってる。
「僕その、運動部じゃなかったし、1年の時もタガセンの事全然知らなかったんだ。全く関わりがなかったし」
みんなの顔が、驚愕だったり複雑だったり苦笑いだったりになった。
「タガセンを知ったのって、3学期の終わり頃にクラス替えの話が出た時。周り中が『イチクミ』になりなくないとか、『イチクミ』が地獄とか、タガセンの恐怖政治とか。そこら中でその話が盛り上がってた」
僕は、その、あんまり仲の良い友達がいなくて、てか、いたんだけど途中から話さなくなっちゃったんだよね。
だから、その『イチクミ』とか『タガセン』の話も周りから聞こえてくる程度だった。
「タガセンがバレー部顧問で、バレー部は全国大会とかに行ってて凄くて、タガセンは怖い先生。ここまでは多分、事実だと思う。けどそれ以外の話がその、ちょっと大袈裟っていうか作り話ぽかった」
「ちなみにどんな?」
「んーと、タガセンが実は人間じゃなくて鬼で、バレー部を退部した者はタガセンに喰われて生きて帰れないとか」
「鬼は当たっているな」
赤城君たちバレー部員が頷いた。
「確かに鬼顧問」
「まぁ、だからこそ毎年全国大会出場出来んだろうけど」
「先輩で途中リタイアした人いたよな?」
「ああ、いた」
「途中退部OKなんだ? 出来ないって聞いたぞ?」
「それはタガセンのクラス、イチクミのバレー部員な。イチクミは退部禁止だから」
「なるほど」
「やめた先輩は8組だったかな」
「11組の山岡先輩もやめたぞ」
「なんだ、結構やめてんだ」
「タガセンはバレー部顧問だけど、その前に『イチクミ』の担任なんだよ。イチクミは部活途中退部禁止。うちだけでなくバスケだろうがサッカーだろうがイチクミになったからには3年の引退までやめられないぜ? 文化部もな」
「それかぁ。俺、陸上部なのに春休み中に親に言われたんだよ」
「親に?」
「何を?」
「親父にさ、お前、3年間陸上を頑張れよってさ。今まで学校の事に口出す事がなかったからびっくりした。そもそも親父、俺が陸上部だって事も知らないはずなのに。どうもさ、春休み中にタガセンが家庭訪問に来たみたいなんだ」
「うちも来た、たぶん」
「私もお母さんに言われたー。あれ、タガセンの指図だったのかー」
「親をも巻き込むタガセンの凄さよ」
うちにも来たのかな? でもうちは両親とも僕に興味がないし、タガセン来ても話す事ないんじゃないかな。
あ、それに僕、盲腸で入院してたんだっけ。
「まったまった、ポチャの話。ほら、ポチャ次郎、続き話せ」
「あ、うん。あのね、それで僕、噂のタガセンしか知らなくて物凄くビクビクしてた。鬼とか宇宙人はともかく、何かしたらぶたれるかもって。その、僕、頭も悪いし運動も出来ないから」
「うんうん」
「でもまだ一度もぶたれてないんだ。全員で城庭を走っててみんなが10周走り終わって僕まだ8周だったけど、怒られなかったし無理するなって言われた」
タガセンを嫌っているみんなに、タガセンを擁護する意見を言ったらみんなに嫌われちゃうかな。
嫌われてのけ者になったら異世界でひとりぼっちになっちゃうな。言わない方がいいかな。
「あの、ごめん。やっぱり何でもない」
「まぁ、確かにポチャ次郎君の言うとおりよね。タガセンの噂が先行しているのは事実」
「でもバレー部で先輩が張り飛ばされてたのは本当だぜ?」
「理由もなく? 何か理由があったからじゃなくて?」
「う、まぁ、確かに理由はあった。けど、張り飛ばすほどの事かって、あとでみんな言ってたぜ?」
「どんな理由かはいちいち聞かないけど、理由なく暴力を振るってたわけではない、って事か」
「けど、うちらバレー部にとっては毎日緊張ではあった」
「うん」
「当事者はキツイね」
「ポチャ次郎君、言いたい事は飲み込まないで。全部言ってみて」
「うー、ええと、噂のタガセンと実際のタガセンは違うのかなって、思った。ここは僕らにとって異世界だけど、タガセンにとっても異世界で、タガセンは僕ら全員を無事に元の世界に連れて帰ろうとしてる。僕、怖いけど、もう少しタガセンと話した方がいいかなって思った。ええと、何が言いたいのか自分でもわからなくなった」
「そうだな」
えっ、日向君、わかったの? 言ってる僕自身がわからないのに?
「つまり、ただの中学生活なら、怖い先生vs生徒なんだろうけど、異世界では先生vs生徒に分かれている場合じゃない。ましてや1人対24人。タガセンひとりで24人の安全を確保し続けるのは厳しすぎる。護られる俺ら側の協力も必要って事だ」
「なるほど。流石は日向先生」
「だから、噂で雁字搦めの『タガセン』として見るのじゃなくて、単に担任としてのタガセンとして私達対応した方がいい、って事かしら? ポチャ次郎君」
凄いな。董明さんも日向君も、僕自身がわからなくなっていた事をちゃんとまとめてくれた。
僕はうんうんと頷いた。
「でも、タガセン怖いよな」
「うん。バレー部員からは近寄りがたいな。文化部任せたぞ」
「おう、任せておけ、ポチャに」
え、え、僕にぃ? 僕、にぃぃぃぃ?




