33話 360日
とにかく帰れる事はわかった。
ただし、360日目に所定の量の魔力石を、『境の頂』の塔にセットする。これは外せない条件だって。
それさえ守れば、おそらく僕らは元の世界へ帰れる。
その日の午前中は、クラス会議が開かれた。
「ただ360日間、魔物を狩って魔力石を集めればいいのか」
「帰還に必要な魔力石を計画的に集めよう」
「必要な量はわかっているのか?」
「魔力石の量に関しては、宰相さんがもう一度塔まで行き、確認をしてくるそうだ」
「そうか。塔までは往復で20日くらいだったか。まぁあと1年近く猶予があるから、しっかり確認してきてもらおうぜ」
「万が一を考えて多めに集めといた方がいいな」
「前倒しで目標は完遂しましょう、何かあってギリギリで慌てたくないわ」
「そうだな。じゃあ、各班、スキルの訓練を急ぎ、なる早で外へ魔物討伐に出るぞ」
みんなが、おおーと手をあげてやる気になってる。帰れるとわかったから前向きな気分になるよね。
「それで、いいんだな」
ぎゃあー。タガセンのいいんだな攻撃きた!
盛り上がってたみんなが一瞬で石になった。
それでいいんだなって、よくないの? ダメなの? どこがダメなの? だって帰るのに魔石が必要だからみんなで頑張って集める、じゃ、ダメなの???
日向君とか城之内君とか、董明さんとか、クラスの頭の良い人だけでなく、運動部のみんなもキョロキョロとお互いに視線を交わして小声で何かを話してる。
『なんだ』
『これじゃダメなのか』
『どこがダメなんだよ!』
『他に今やれる事ある?』
『何が漏れてるのよ』
『もっと何かを決めないといけない事があるのかも』
『それって何』
『ええー、なんだろ?』
あちこちから聞こえていた囁き声が少しずつ大きくなっていった。
「あとやれる事ってなんだー」
「うちらが帰還したら、また魔物がふえるん……?」
「それを俺らがどうにかするのか? この世界の魔物事情を? 俺たちが?」
「いや、無理だろ」
「魔物が増える原因を探す……とか。魔物の増加を止めるとか?」
「宰相さんもそこまで俺らに望んでなかったよな?」
「あーでもさ、それは召喚されたのがうちら中学生……子供だったからでー、もしも大人が25人召喚されていたら、そこまで依頼したかも」
「でも、俺らにそれ、出来る? いくらスキルがあるからって」
「魔物が増えた原因とか思いつく人いる? ゲームとかアニメでさ……、なんか知らない?」
「ボスとか、いるのかな。そいつが何かをやって魔物を増やしている、とか」
「魔王とか?」
「魔王は倒せないっしょ。てか、魔王いたら俺らがやられるんちゃう?」
「命懸け反対」
「せっかく帰れる目処がついたのに、無謀な事はしたくないよな」
みんなが意見を言いつつタガセンをチラチラ見る。でも、タガセンは黙ったまま。
タガセンは仁王立ちで腕組んだまま、口を一文字に閉じて、少し俯いている。目が三白眼で怖い。
タガセンOKが出ない事にみんなが焦り始めている。僕も、何か考えないと!
「じゃあどうする?」
「安全で、かつ魔力石集め以外に出来ること、他にあるかな」
安全で出来る事、安全で出来る事……、そう言えば食堂のおばちゃんの息子さん、仲間と組んで魔物を倒しに行くとか言って、それでお父さんと大喧嘩になったって言ってた。
危ない事はしてほしくないって家族は心配なんだって。この国って学校があるわけじゃないから、ある程度の歳になったら自分で仕事を探すんだって。
親の仕事を継ぐ人もいるけど、大抵は危険だけど簡単に稼げる『魔物獲り』になるって。でも本当に危険だからお父さんは大反対なんだって。
食堂のおばちゃんは旦那さんも食堂で働いているんだけど、誰でも雇ってもらえるわけではないし、息子さんは料理とかはしたくないんだって。
その話を太郎君にした時に、何だっけ、太郎君が言ってた……あ、冒険者ギルド!
そう、冒険者ギルドが無いんだって。この国には冒険者ギルドが無いって言ってた。だから個人的に魔物を取りに行って死んじゃう事が多いって。
冒険者ギルドがあっても死ぬ時は死ぬけど、ギルドがあれば、その人にあった依頼を紹介してくれるとか何とか。だから魔物がいる異世界にはギルドが必要なんだって、太郎君が……。
「異世界につきものの、冒険者ギルドがこの国には無いんだって」
思い出した勢いで声に出てしまった!
「何だよ、ポチャ次郎、いきなり」
「あ、ええと、この国に冒険者ギルドが無いって、前に太郎君が言ってたの思い出して……」
「おう、そうだな。俺、城の何人かに聞いた。異世界なら普通ギルドあるだろう」
「おお、確かにな。小説でもアニメでも異世界にギルドはつきものだな。で、無いの? この国」
「無いんだと。魔物がいるファンタジーな世界なのに、ギルドが無いってどう言う事だよ」
異世界通の何人かが太郎君と盛り上がる。
俯いていたタガセンの顔が上がる。目が、目がギラリ? 怖っ!
でも、何も言わない。けど、いいのか攻撃も出ない。
城之内君、日向君が立ち上がり、話し始めた。
「ギルドがない? 建築ギルドや採石ギルドはあると聞いたぞ?」
「無いのは冒険者ギルドか」
「何それ、冒険者ギルドって」
「ギルドってのは、つまり組合みたいなものなんだけど、専門職の仕事斡旋みたいなもんか?」
「そんな感じ。で、冒険者ギルドってのは、冒険者に仕事の斡旋をするんだ」
「その冒険者って何なの? どんな職業?」
「何を冒険するの?」
「魔物がいるような異世界では、魔物退治がメインかな。あとは護衛とか傭兵とか」
「傭兵は別にギルドがありそうだな」
「そうだ、俺たちが今後、魔物を討伐するなら冒険者ギルドは必須なんだよ。なのに、無いのはどうかと思う」
「無いなら作ってもらうか。絶対必要なんだよな? その冒険者ギルド?」
「必要だ」
「いるよな。だって、倒した魔物を買い取ってもらったり、討伐数で冒険者ランクが上がっていくからな」
「うんうん。絶対、必要だ。宰相に相談して作ってもらおうぜ」
太郎君や日向君達がギルドの話になったけど、タガセンからNGワードが出ない。それどころか、OKな眼差し?三白眼が細まった。
日向君はタガセンを見てホッとしてる、自分達があってる方向へ進んだと確信したみたい。
「じゃあ、冒険者ギルドを作ってもらう。それと俺たちはそこに冒険者として登録をする」
「そうだな。ギルドが間に入ってくれたら、どこの村へ魔物討伐に行けばいいのかもわかりやすいかも」
「あと、この国のお金も手に入るかもな。冒険者ギルドはバイトの斡旋みたいなもんだから、倒した魔物をお金に換えられる」
「わっ、それ、嬉しいかも。今は全部、この国持ちじゃない?ちょっと気をつかうわよね。欲しい物をいちいちお願いしないといけないから」
「でもこの国が勝手に私達を召喚したんだから、生活にかかるお金は全部この国持ちでいいじゃない」
「そうだけどお、やっぱ自由になるお金、ほしいー」
「そうだな」
「わかるー」
「てかさ、街にコンビニあるかな」
「じゃあ、早急にギルドを作ってもらい、全員冒険者登録と、班ごとにパーティ登録な。倒した数や得た収入はクラス会議で報告すること」
「俺らD班は後衛だから討伐数や稼ぎは少ないぞ? 俺たちだけ小遣い無しか?」
「わかってる。大丈夫だ。そこは均等に分ける」
うん、そうだよね。僕らのスキルって生産系だったもんね。魔物討伐も出来ないし魔石も貯められない。その、ギルド?でも、あまりバイト出来ないんじゃない?
生産に向いてるギルドってあるのかな。
「あの……他にどんなギルドがあるの? さっき、建築とか採石のギルドがあるって言ってたけど、僕らD班は採石ギルドで手続きした方がいいの?」
「あ、そうか。私達、生産スキルで採石ってあったわね」
「あったわー。あったけど、採石のバイトかぁ」
「いや。D班も冒険者登録してくれ。クラス全員一緒に行動する。D班だけ採石に行く事はない」
日向君が言い切った時、タガセンも深く頷いていた。
「この先、魔物討伐は必ずイチクミ全員で行く」
「でも俺たち、後衛でも戦闘職じゃないぜ?」
「わかってる。それでも一緒に行動してくれ。逆に、D班が生産活動をする時は、ABC班がサポートする」
さっきまで仁王立ちしていらタガセンがいつの間にか座っていた。
その後、日向君はタガセンに冒険者ギルド発足を宰相にお願いしてもらいたいと頼んでいた。
タガセンは反対する事なく話は終わった。
解散して皆は自分の部屋に引き上げていった。タガセンも宰相に話しに行ったのか、部屋から出ていった。
太郎君とは部屋が分かれてしまったので、今この部屋に居るのは赤城君、千谷君、江崎君、船橋君、城之内君の5人。
「結局、タガセンは何を言いたかったんだろうな。魔力石を集めるだけじゃダメだったって事なのか?」
「俺も全然わかんねー。部活の時もタガセンの考えを理解すんのは難しいけどさー」
赤城君と千谷君はバレー部だからタガセンに慣れていると思ったけど、それでも考えが読めないのか。だったら僕にわかるわけがない。
「城之内と日向先生はわかったみたいだな」
「俺もそこまで深くはわかんねえよ、タガセンの考えなんて。ただ、多分、だけどな」
「うん」
「この国に召喚されて、言われるがままに魔物を討伐して魔力石を収集する。それがダメだったんじゃないかな」
「んあ? だって俺らが帰るのに魔力石は必要なんだぜ?」
「うん、だけど、そこにギルドが介入する。そのワンクッションが必要なのかも」
「でもさ、国が創るって事は結局『国営』だろ? 俺ら、いいように利用されるかもしれないぞ」
「そうだな。でも、国から直接利用されるより、そのワンクッションがある事を、タガセンは望んだのかも。国営でも、そこを利用するのは俺たちだけじゃないはずだ。国民だって利用するだろ」
「うーん、よくわからん」
「俺もわからないけどさ。どう言ったらいいかな」
僕、何となくだけど、城之内君の言いたい事わかったかも。
「あの……例えば、国が誘拐犯だとして、僕らイチクミが誘拐された子供。家に帰りたかったら働いて金を稼げって言われたとして、僕らがどんなに働いても、誘拐犯と僕らだけだとお金を盗られてもわからない。でも、誘拐犯と僕らの間にバイト斡旋屋さんが居たら……」
「ああ? バイト斡旋業者に誘拐したのがバレる?」
「あ、ちが、ええとどう説明すればいいかな。ごめ……。ええと」
ああ、僕如きが城之内君のフォローなんて無謀だったあああ。どうしよう、寝たふりしようかな。
「ぐー」
寝たふりでなく、本当に寝てしまったら、揺り起こされた。
「ポチャ次郎、昼メシ食ったら午後訓練、行くぞ」
「スキル、バンバン使ってこうぜー」
「おう」
みんなやる気に満ちている。帰れる事がわかったからね。




