31話 召喚の理由
宰相さん一行が戻ってきたと知らせがあった。
宰相さん……たぶん、僕らを召喚した人。太郎君は『悪の親玉』とか言ってた。
本当に悪い人なのかな。
お城の、警備員とかメイドさんからは好かれている気がする。だって、宰相さんの話が出るとみんな笑顔になってるから。
人って苦手な人の話の時は真顔になるし、嫌いな人の時は苦い顔になってる。普段タガセンの話をする時のみんなの顔。
「ばかだな、ポチャ次郎は。悪い奴ほど人を騙すのが上手いんだよ。ほら、悪徳政治家とか。こないだ終わっちゃったけど人気のドラマあっただろ」
僕、テレビ観てなかったから、太郎君が言う人気ドラマは知らない。
「でも、ドラマの話でしょ? その悪徳政治家。実際の政治家も悪徳の人いるのかな? 僕、政治家さんに会ったことない」
「ほんと、バカだなぁ、次郎はぁ。政治家なんて全員、悪だぞ。だからドラマにもなるんだ」
え、え、そうなの? 日本の政治家ってみんな悪なの? じゃあ僕らは悪の国民……。 よく日本が滅びないなぁ。それなら、日本の悪の政治家に感謝しないとじゃない? でも、これ言うともっとバカバカ言われそうだから黙っておこう。
太郎君は凄いな。政治家の本性を見抜いているんだ。僕、駅前で演説とかしてても通り過ぎちゃってた。今度からきちんと話を聞いてみよう。……眠くならないといいけど。
「ポチャ次郎君、この世界でももう魅了魔法にかかってんじゃないの?」
やないさん?
「ポチャ次郎! お前、まさか、飴貰ったな! 食ったのか? それ、食ったのか」
「え、貰ってな……あ」
「その、あ、の前の間は何だ! 貰ったんだな!食ったんだな?」
た、太郎君、声が大きい、みんながこっち見てるよ! あ、タガセンが見た! こっち来るぅ!
タガセンが僕と太郎君の前に立って、僕らをガン見している。どどど、どうしたら?
正直に……
「すみません、貰いましたぁ……何かの実。お城に来た業者さんから貰ったののお裾分けって……。甘くて美味しいよって。食堂のおばちゃんが」
タガセンが僕を睨んだまま。
僕、みんなみたいにタガセンを読むとか出来ないよぉ。
どうしよ、何だろ、どうしたら……、あ、そうか。タガセンも欲しかったのかな? 2個しかないから僕と太郎君で食べようと思ってたけど、僕の分はタガセンに……。
僕は貰った実を亜空間倉庫から取り出して、タガセンへと差し出した。しまっておいて良かった。(忘れてただけだけど)
僕が差し出したその実をシュバっと掴み取ったのは日向君だった。
「鑑定!…………ヤマボウシ、食用、甘い。特に危ない実じゃないな、良かった」
あ、鑑定か。てっきり日向君がむちゃくちゃ腹減りなのかと思った。
「ポチャ次郎、何度も言ってるだろ! 知らない奴から物を貰うなって!」
「え、だって、知らなくない。食堂のおばちゃんだし……」
「そうじゃない、この世界の……ああ、もう! すみません、田川先生、班長の僕の責任です。申し訳ありませんでしたあっ!」
日向君がタガセンに向かって頭を下げた。
「え、あ、ごめんなさい、その、ごめん……」
これ、絶対、僕が悪いのに、日向君に謝らせてる。何か言わないとと思うと目がジワっとしてくる。
泣いたらダメだ。悪い事をして泣いたら、泣いて誤魔化してるみたいだ。涙、出るな!
「先生〜、俺ら、校庭5周、行ってきまーす」
太郎君が僕の腕をガシっと抱えて走り出した。僕も引っ張られて走り出す。
「走ってきまーす」
「行ってきます」
「5周行ってきます」
女子も後ろから来てるみたい。
「すみませんでした! D班、校庭5周行ってきます!」
僕らは中庭を走る。
みんなが僕のスピードに合わせてゆっくりだ。みんなに囲まれて走る。
「太郎、グッジョブだったな。こっちから先に5周と言って走り出す。うんうん、いい案だ」
「だろう? 俺様天才」
「あの、あの、僕……」
「もう、ポチャ次郎君、イチクミ以外から物貰ったらダメよ?」
「そうですよ? 食べ物でも食べられない物でも、ダメ」
「は、はい。ごめんなさい」
「まぁさぁ、ポチャ次郎には断れなさそうじゃない? だから、貰ったら近くにいる誰かにすぐ言う! わかった?」
「はい、やないさん! わかりました」
「それと、太郎、悪いが今以上にポチャ次郎にくっついていてくれ」
「ラジャーっす」
D班の優しさに囲まれて僕は走った。みんな好き。良い人。僕、イチクミ好き。みんなが僕を好きでなくても僕はみんなが好き。
「ポチャ次郎君、鼻、拭きなさい」
鈴山田さんからハンドタオルを差し出されたけど、滅相もございません。
僕は顔を振って断ろうとしたけど、やないさんが鈴山田さんの手からハンドタオルを取って僕の顔をゴシゴシしたあ!!!
天女の羽衣で僕の鼻水を拭いたあああああ! 僕の罪が重くなっていく。
「タガセン、待ってるかな」
太郎君のひと言で、さらに地獄へと近づく……。待ってるよね、タガセン。絶対待ってるよね。僕、いよいよタガセンビンタ、デビューかな。
タガセンは待っていたけど、タガセンビンタは無かった。
僕のせいで中断されていた話の続きだそう。
宰相さん一行が戻って来た。それで明日は祝賀会が開かれるんだって。僕らの召喚のお祝いだって。
タガセンは断ったんだけど、国として僕らの歓迎会は行わないとならないんだって。大人の世界は大変だね。
あ、その祝賀会ではうかつに食べないようにしないと。僕だって成長する。明日は太郎君が食べたのと同じ物を食べる。それで間違いはないはず。
「各テーブルに鑑定がひとりずつ付く。D班は祝賀会が始まったら目の前の料理は全て鑑定する。高速鑑定だ」
「あ、俺と次郎はそこまで速く鑑定出来ないから、ふたりでひとテーブルにしてくれ」
「わかった。ポチャはコンビで。俺がA班に付く、董明と梁井がB、鈴山田とポチャコンビがCに付く」
「オッケー」
「はい」
「わかったー」
「わかりました」
祝賀会がどんなか、想像がつかない……。わかりましたと嘘の返事をすべきか……、いや、太郎君にくっついていれば大丈夫かな。鈴山田さんもいるし。
「はい」
ちっちゃい返事をしておいた。
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その日の夜のクラス会議では明日の祝賀会の注意について話し合っていた。
そこにまさかの宰相さんが訪ねてきた。
部屋に入って来て僕らを見回した宰相さんは突然、僕らに頭を下げた。深く深く。
背の高いその人は、とても疲れた感じがした。うちの喜一郎さん(祖父)くらいの年齢かな。
あの歳で長旅って大変そう。勝手なイメージだけど、この国ってバスとか電車が無さそう。あったらごめんなさい。
きっとラクダの旅だったに違いない。(超勝手な想像です)
あ、もしかしたらゾウとかの上に四角い乗り物があるやつかな。どっちにしても楽ではない、長旅だもんね。疲れていて当たり前。
明日、祝賀会しなくてもいいのに。
僕がツラツラと考えている間もずっと頭を下げっぱなしだ。
まさか、あのまま息をひきとって……。
タガセンが宰相さんに近寄り、身体を起こした。良かった、生きてる。
「済んだ事はいい、それよりも今後の事だ」
タガセンの言葉で宰相さんがまた頭を下げかけた。タガセンがそれを止めた。
大人同士のやり取りを僕らは見ているだけ。
宰相さんは召喚した事を何度も謝っている。子供が来るとは思わなかった、って。
「まさか、成人前の子供が……しかも24人も」
「わかって召喚したのではないのですか?」
「本当に申し訳ない。我々も召喚の儀に関しては手探りだったのです。とにかく現状は藁にも縋りたい状態でありまして……。それにしても子供とは……」
「自分ひとりで何とかなるようなら、生徒達には危ない事はさせたくない」
「そうでしょうね。……ですが」
「藁にも縋りたい状態、という事は、かなり切羽詰まっているのか」
「ええ。本当に申し訳ないです。が、子供なら藁よりも強い、ましてや24名も! ぜひ、この国を、私たちを救っていただきたい」
宰相さんがまた頭を深く深く深く下げた。
今度はタガセンも無言、しかも動かない。何かを考えているのかな。
それとも、僕らが動く、何か言い出すのを待っている?
「僕ら全員の安全が守られる前提でなら、出来る限りの手助けはしてもいいんじゃないか?」
城之内君がボソリと言った。みんながお互いの顔を見合っている。何かを確認しあってる?
太郎君ややないさんも僕を見て頷いた。えー、何の合図? 何をわかりあったの?
ええと、城之内が言った『手助け』をする・しないの事かな? みんな、どっちに頷いてるの?
あ、僕は『手助け』したい派だけど、ついさっきタガセンに怒られたばかりだからなぁ。うかつに意見は言えない。
でも、結局僕らはこの城を出ても行く先がない。それに僕らは元の世界への戻り方がわからない。
今この国を出ても生活出来ない。
だから、今はここに居るしかない。居るなら出来る事はしないと。
「それで、いいのか?」
ぎゃわーん、タガセンの『いいのか』攻撃がきた。
って事はダメって事? 手助けアウト?
「今は……俺たちを召喚したこの国を信じるしかない」
「嘘はつかれたくない、だからもし嘘が発覚したらその時は、出ていく」
「騙すのもなし。俺ら騙されたら怒る」
「全員欠ける事なく帰還したい、それは最優先事項。だからそのために出来る事はする」
イチクミの主要メンバー達が意見を口にしていく。勇気がある。
「本当に、それでいいのか。口約束を信じるんだな」
タガセンの『いいのか』おかわり来た!
契約書を作るか揉めた。でも結局紙に書いても守るどうかは人間次第なんだよね。
だからみんなは信じる事にしたみたい。
そのかわり、一方的に言うことをきくわけではなく、もっと情報を貰いたいって。
貰うと言うか、自分達で調べさせてくれって。
あと、常に全員の無事の確認。だから別行動は絶対にしないと言ってた。タガセンが前に言ってた、別々になったら拐われて人質にされるやつかな。動く時はイチクミ全員一緒だって。
などなど、みんなが条件を次々と述べていく。凄いなぁ。僕もちゃんとみんなについていきます。
タガセンの待ったがかからない。みんなの意見は正しい方へ進んでいるのかな。
待って、僕、途中で聞き逃した?
僕らが召喚された理由って何?
周りに聞こえないように、こっそり太郎君に聞いた。呆れた顔をしながらも小さい声で教えてくれた。
『この世界に魔物が増えすぎて手に負えなくなったから、不思議な能力を持つと言われている召喚人に頼る事になったんだと』
『増えすぎた魔物ぉ? 僕らに倒せるの? 増えすぎって何匹くらいに増えたの?』
『ちょっとポチャ次郎君、野良猫が増えたみたいな言い方w』
『あ、ごめ、でも魔物が野良だから増えちゃった? 捕まえて去勢するとか?』
『ばっか、お前! そんな呑気な話じゃねえぞ、都市の外は何十万の魔物だってよ』
「な、何十万んんん!?」
「ばか、声デカイ、次郎」
「あ、すみ、すみません」
タガセンやイチクミ主要メンバーと話していた宰相さんがこっちを見た。うん、みんなも見た。
「あ、えと、何十万の魔物って僕らが倒せるのかな……」
「いえ、全てを討伐していただくわけでは……。我々も日々頑張ってはいるのですが増えるのを止められません。せめて、召喚で来ていただいた皆さまの力をお借りして、幾らかでも何とか出来れば」
んんー。さすが、政治家っぽい立場の人(?)、遠回しな言い方で僕の頭では理解が追いつかない。結局何をして欲しくて僕らを召喚したんだろ? いくらかって何匹?
「宰相さん、ポチャ次郎にはハッキリ言わないと伝わらないぞ」
いやいや、太郎君、やめて。あとで考えるから今はいいんだよ。僕の事はそっとしておいてぇ。
ああ、宰相さんが僕の前まで来ちゃった。そんで屈んで僕の顔の高さまで降りてきた。
「すみません。まどろっこしい言い方でしたね」
あ、喜一郎さん(祖父)が、困った顔で僕を見る時と同じ顔。どう説明したらいいか悩んでいる顔。僕も頑張って理解しようとするけど出来なくて余計に焦る。それで僕は下を向いちゃうから余計に喜一郎さんの話が耳に入らなくなるんだ。
でも、僕はあの時より大人になった。あの時は4歳だけど今はもう13歳だ。俯かないぞ。
僕が宰相さんをジッと見つめると、宰相さんはゆっくりと話してくれた。
「この世界は、魔物と人が住んでいます。魔物は魔物、人は人、別れて住んでいました。けれど魔物が増えすぎて、魔物は人の領域に入ってくるようになりました」
「ポチャ次郎、熊が山から降りて街に入ってくる感じだ」
日向君がフォローしてくれる。宰相さんの喋り方もゆっくりだし難しい言葉もないのでわかりやすい。
「魔物は人を食べるのです。ですから、あちこちの村が襲われています。国から討伐隊を派遣…送っても間に合わず、村は壊滅します」
「熊を……じゃなかった、人は魔物を食べないんですか? 魔物は人を食べるでしょ? 人も魔物を食べれば、お互いウィンウィンウィーン」
「ポチャ、Win-Winな。難しい言葉を使わなくていいぞ」
「魔物は食べられないのです」
「人は食べられるのに魔物は食べられないのか。不公平」
「たとえ食べられるとしても、まず、倒すのに苦労します。我々が倒すより増える方が早い」
「それで、俺らを召喚したんだと。俺らのスキルを使って増えた魔物を少しで減らしたいそうだ」
なるほど、少し理解できた。
この世界に魔物がどんどん増えて人の住む方へ入ってきたから、僕ら召喚人のスキルでグイグイと押し戻して欲しいのか。
でも、それ、根本的な解決にはならないよね?
「僕ら、一生、死ぬまで魔物を人の住む地域から魔物地域へと押し続けるの? でも増え続けたら押し返されちゃうよ。だって僕ら24人しかいないし」
「魔物を魔物が住む地域に押し返すのではありませんよ。こちらへ入ってくる魔物を倒していただきたい。倒して減らしていただきたいのです」
「ポチャ次郎、何十万匹魔物を倒すとかでなく、魔物と人間の国境を超えてくるヤツをドンドン倒していく、そんなイメージだ!」
「はい、もちろん我々も出来る限りの事は自分達でするつもり、いえ、しております。が、皆さまの召喚人のスキルを頼らせていただきたいのです」
「僕のスキルは戦闘じゃないんだけど……」
「はい。皆さま、それぞれ異なる力だとお聞きしています。召喚の儀で授かる力が不要の力のはずはない、そう考えています」
「そっか、説明ありがとうございます。僕は僕の出来る事でお手伝いしますね」
「ありがとうございます。召喚でいらしたのが皆さまで良かった」
「僕、生産系だから、もしも帰れなくてもなんとかなるのかな」
「帰れますよ?」
え?
「「「「「えええええええええええっ!」」」」」
みんなの大合唱。(僕含む)




