23話 漆原の日常
-----(漆原美咲視点)-----
なんかよくわからない異世界召喚とやらでクラスごと誘拐されたのに、それに馴染んでいく人が増えていく。でも、そうでない者もいる。
それは、私。
この世界は娯楽がない。訓練着も部屋着もオシャレじゃない。
メイク道具もない。メイドさんを観察してみたけど、それが制服なのか、皆似た服に似たメイク。
髪型も後ろに一本縛り。なのに顔の作りが基本綺麗でズルい。
運動部の女子は秘密裏に兵士のイケメン押し活とかしてる。
「何か楽しみがないとやってられないよね」
なるほど、運動部は普段激しく動いているので割と発散出来ているのかな。
でも私は、軽い鬱に突入かも。
帰りたい。
別に好きじゃなかったけど、元の世界の自分ちに、自分の部屋に帰りたい。
今居るC班にいまひとつ馴染めない。C班は同じスキルの集まり。
男子は、剛力、井伊、城之内。
剛力は陸上部のエースで、校庭を走っていると必ずファンの女子がトラックの外側に並んで応援してる。
井伊はサッカー部の部長だし、背も高いけど足が長い。ボールを蹴るたびに女子のキャーキャー声がウザイ。
城之内は演劇部で今年から部長。去年の文化祭、体育館のステージが凄かった。私も友達に誘われたけど体育館に入れなかった。文化祭の最後に何とか賞を貰ってた、2年3年を差し置いて。
女子は久遠と竜崎。
久遠はダンス部部長だし、竜崎は吹奏楽部でも超有名人。校内でも知らないものはいないんじゃないかなってくらい。
うちのC班は見た目が良いのが揃いすぎて、それが嫌。自分の立ち位置がわからない。
私、何枠?
D班のポチャコンビみたいに『デブ枠』じゃないし、『ブス枠』でもないはず。
自分は外国語部に入っているけど、だからと言って別に得意なわけでもない。英語は授業程度だし韓国語はドラマで観た片言。ちょっと気になったから入部しただけ。
自分に自慢出来るものがない。
見た目もありきたりのよくいる日本人の平凡な顔。一重だけど韓国のアイドルみたいにカッコイイ切れ長一重じゃない。腫れぼったい瞼の一重、あー整形したい。
イチクミはある意味、才能のある者の集まり。集まりと言うかタガセンが集めたんだと思う。
自分は人数の帳尻合わせ。
イチクミで無能な人間は4人。
男子は善哉と草凪、女子は梁井と、そして自分。
自分はあの3人よりはマシと思ってる。成績も私は下の上くらいだし。あの3人は下の下。
それに3人は、一年の時にそれぞれのクラスでイジメられてた。梁井は夏休み前からもう保健室登校になったって聞いた。善哉は1組で嫌われてた。気弱なジャイアンとか意味不明な陰口されてたな。草凪は4組でイジメられてるって。
どこのクラスも大なり小なりイジメはある。軽い無視とか派閥に入れてもらえないとか。目立つ暴力は無いけどどついたり転ばせたりはどこもやってる。
けどあの3人はそういう意味で結構目立っていて有名だった。うちの学校は先生が結構厳しかったりするから表立ってイジメたりはしないんだよね。ある意味陰険かも。
発覚すると、タガセンが出てくるって話が流れてたから、イジメも慎重というか本格化しないというか。
タガセンは校内で学年問わず恐れられていたからね。
私も今回のクラス替えを知った時は発狂しそうになった。
『信じられない、イチクミぃ? 運がないにもほどがある』
転校したいって、ママに行ったけど理由を話したら却下された。
グレてやるって思ったね。
あーヤダ、イチクミに馴染めない。
デキルやつらにも馴染めないけどデキナイやつらと仲良くしたくない。
どこにも行けない自分が本当に嫌い。地味な顔も嫌い。出来の良くない頭も嫌い。何の才能も無い自分が大嫌い。
梁井も善哉も草凪もD班ってズルい。
私だけC班で悪目立ちする。ううん、全く目立たない。目立ちたいわけじゃないのに、自分でどうしていいかわかんない。
もうこの世界嫌。帰りたい。
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「ねえねえ、C班さ、上手くいってないのかな」
「えっ?」
「ほら、漆原さん、割とひとりで盛り下がってるよね」
「そうだった? 他所の班まで気にする余裕ねえ。日向が高速鑑定を修得したせいで俺らにも求められて困る」
「いいんじゃない? 自分のスピードで」
「そうだよね。……でも、漆原の事は気になるから部屋に戻ったら他の子にそれとなく相談してみる」
「男子はともかく女子は異世界で盛り上がるのって難しいかもね。魔物倒すとか興味ないだろうし。僕も興味なかったけどね」
「いや、俺らほら、倒す系ポジじゃないから。生産ポジ、生産」
「漆原さんも生産の方やりたかったのかな」
「でもなあ、今更スキルは変えられないし」
「あの時もっと話し合ったほうがよかったね」
「そうだな。最後はどうでもよくなってたな」
「わかる。あの時はもう考えすぎて頭がグルグル。何でもいいやって投げやりになったよね」
「そう! てかさ、ポチャ次郎君、途中何度か寝てたよね」
見られてた!
「まぁ、スキルは変えられないし、D班に付与が来てもどうなんだろ?」
「一時的避難でもいいんじゃね?」
「それもありか。あ、避難といえば、やないさんって保健室登校って聞いたけど、病気? 今は平気なの? 城の中に保健室ってあるのかな」
「あー、まぁその、アレは病気とかじゃなくて単に教室で勉強したくなかっただけ」
「こら、次郎、人には言いたくない事もあるんだ、察しろ」
「えっ、あ、ごめ……」
「あ、いや、全然平気。1年の時のクラスがさ、女子がウザ絡みしてくるやつが多くてさ、保健室登校にしてもらった」
「えっ、そんな事可能なんだ。誰に言えばいいの? 保健室の先生? 親の承諾とか必要? 代理人でも大丈夫?」
「ちょ、ポチャ次郎、保健室行きたいの? 今は他の男子と上手くやってるように見えるよ?」
「あ、そか。今はいいや。僕も一年の時、人間関係にちょっと疲れてた」
「あー、ねっ」
「だな」
やないさんと太郎君が何かをわかり合っていた。僕にはわからない何か……。
「私はひとりの時間が好きってのも大きいけど、今はりかちゃんやゆかちゃんとも楽しいよ。あと、君らポチャコンビも好きだよ」
「そっ」
「ぼ、ぼぼ僕らも好きだ、よ?」
「あれ? B班男子、タガセンに怒られてない?」
「ほんとだ。走り出した」
「校庭10周かな」
「城庭な」
B班女子に事情を聞きに行ったやないさんが戻ってきた。
何気にフットワーク軽いな。
「なんかね、百目木と江崎がハニトラ注意受けたって」
ハニトラ?何だ?
「ああ、江崎がメイドさんベスト10を作ってたな」
「何それー。バカじゃないの」
「まぁまぁ。男の性よ」
なるほど、ハニートラップなんだって。
この世界、誰が敵で誰が味方かわからない。タガセンからは毎朝、注意される。迂闊に引っかかるなと。メイドさんに悪意はないと思うけど、その気もないとも思うし。ただ勝手に江崎君たちが盛り上がっているだけ思うけど。
タガセンに見つかるたびに校庭走らされてる。
「女子はもっと上手くやってるよー」
やないさん。そ、そうなんだ。女子侮れないな。
そういえば、恭一郎さん(兄)に言われた事を思い出した。あれは中学に入る前。
『いいか、女子の成長は侮れない』
そうだ、あの時だ。女子侮ったらダメ説を教えてくれた。
『お前にちょっかいかけてくる子がいても、お前の気を引きたいとかお前が好きなわけじゃない。世の中にはな、本当ーっに気に入らなくて行動に出るやつがいる。お前が好かれているわけではない。しっかりと覚えておけ。女子の嫌い発言は本当に嫌いなんだ。自分を特別だとか好かれているとは思うな』
うん。僕は1年の時にそれをちゃんと理解した。
隣の席になる女子にはバイ菌扱いされてた。席替えしても変わるたび隣の女子に毎回言われた。女子怖い。
『えー、草凪の横ぉ? もっとそっち行きなよ! 幅取りすぎなんだよ、デブ!』
2学期にはもう慣れていたけどさ。そう言えば1組ではまだ言われてない。こんな世界にいきなり来ちゃったからそれどころじゃないか。
てか、僕まだ教室の席に1度も座ってないから。隣が誰かも自分の席がどこかも知らない。




