2話 恐怖の『イチクミ』
僕ら、『ろく中、2年1組』は、ある日、異世界へと来た。そう、クラス全員で、異世界という場所へ。
時間は少し遡る。
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1年の3学期が終わろうとしていたある日。
僕の通う流山市立緑陽中学校は、2年にあがるタイミングでクラス替えがある。
そして2年、3年と同じメンバーで残り2年を過ごすんだ。
クラス替えの発表は1年の3学期の終わり頃、春休み前に毎年行われていた。今年は3/20にクラス替えが発表されるらしい。
職員室前の廊下に貼り出される。
みんな、そんな情報をどこから聞いてくるんだろう。3学期に入るとクラス替えの話題がチラホラと出始めて、3月に突入すると噂話が加速する。
しかも、話しているみんなの顔が真剣そのものなんだ。
仲の良い友達とクラスが分かれたくないとか、そんなん呑気な表情じゃない。元から14クラスもあったから、そもそもクラス替えで同じクラスになる確率も低い。
しかも、今回は新設校に半分以上持っていかれる。友人どころか知った顔はいないかもしれない。てか、元から僕は友達が少ない。いないんじゃないよ、少ないんだ。クラスでも普通に話す子はいる。(返事が返ってくるかは別だけど)
3/20が近づくにつれてみんなが鬼気迫る顔になっていく。
『イチクミになりたくない』
『イチクミマジ無理』
そんな言葉がよく耳に入ってくる。
1組って1組だよね? 僕は今、1年4組だけど、僕ら1年は14組まである。
今回は2年になるタイミングで新設校と分かれて、クラスが減るから1組から7組……までかな? どのクラスになるかはまだわからない。
それで?なんで1組が嫌われているんだ?
「1組って何かあるの?」
隣の席の橋本君に聞いてみた。橋本君は呆れたように鼻から息を吐き出した。
「2年1組だぞ?」
うん? 2年1組が何?
「イチクミだぞ! イ・チ・ク・ミィ!」
「うん?」
「草凪ぃ、お前、馬鹿だな。イチクミったらあのイチクミだぞ?」
どのイチクミ?
「2年イチクミ、そんで来年はそのまま3年イチクミ!」
「俺、絶対無理。もしもイチクミになったら、俺、家出するわ」
「俺は引っ越す。新設校に行く」
「ふふふ、俺なんて4月から新設校だからなぁ、悪いな、みんな。元気でな」
「柳ぃ、お前、ちねちねちね! このやろー」
1組になると家出したり引越したり転校したり、したくなるの?
「あー、こいつ、全然わかってねぇ」
「おい、草凪、よく聞け。今年の2年1組はな、タガセンなんだよ!」
タガセン? タガセン……ああ、田川先生の事かな? バレー部の顧問だっけ? 前に誰かが、あ、バレー部の高羽君がなんか言ってた。顧問の先生が怖くて部活辞めたとかって。
「この学校にはタガセンという恐ろしい先生がいる、そしてそいつが今年の2-1、来年の3-1の担任になるんだよ」
「そうそう。2年に上がるときにクラス替えがあるだろ? あれ、先に担任が決まって、それから生徒を分けるらしい」
「で、タガセンは必ず1組の担任になる」
「タガセンが2-1になるのは2年ごとで、俺らくじ運悪い事に今年の2年なんだよぉ! タガセンクラスからハズレる確率は7分の6だっ! それにかけるしかない!」
「新設校が出来なければ14分の13だったのぃ」
「ふははは、悪いな」
新設校へ行くのが決まっている何人かがニヤニヤしている。
「あ、でも俺大丈夫だと思う。タガセンさ、出来るやつばかり自分のクラスに引っこ抜くって聞いた。運動部のレギュラーとか勉強の出来るやつ」
「そうだった。なら俺も大丈夫だ」
なんだ、それなら僕も大丈夫だ。
だって僕の成績ってクラスでも下から数えた方が早い位置にいる。……んーと、数えなくても下にいる。
それに運動も苦手だし、部活も文化部だ。タガセンのクラスに入れられる可能性はゼロに近いな。
でも、タガセンってそんなに怖い先生なの?
橋本君はまたしても丁寧に教えてくれた。
「いいか? まず、タガセンのクラスになると『クラス会議』なるものが頻繁に行われる」
クラス会議では、中間試験で成績の悪かった者はクラスの前に立たされて、何故試験の点数が悪かったのか、自分の頭の悪さを自ら説明しないとならない。
うへぇ、知らないよ、自分がなんで頭悪いかなんて。
そして、期末試験で成績上昇しなかった場合はビンタ。それも成績優秀者によるビンタ。手を抜いたビンタをすると、優秀者自身もタガセンからビンタをくらう。
ナニソレ。頭良いクラスメイトにビンタされるんだ? それで手の抜いたビンタだとその生徒がタガセンからぶたれるの?
それは、ぶたれつつも気を使っちゃうな。思いっきりどうぞ?
それから部活もだって。部活の成績も落ちたらダメって。レギュラーから落ちようものなら、その理由を百あげないといけない。書いた物を読み上げながら校庭を10周走らされるそうだ。
百? 理由を百個も考えないとダメなの? 百個もわかっていたらレギュラーから落ちないんじゃない?
あ、でも、僕の部はレギュラーとか関係ないし、そもそも部員も少ない。3年が出てこなくなったら僕だけになるからな。
「そしてだな、部活で好成績をあげても、それだけじゃダメなんだ。勉強もある程度出来ないとダメだ」
運動部のレギュラーをキープしつつ、テストでもそれなりの結果を出す?
そんな事、出来る人いるの?
タガセンのクラスになったら嫌でもやらざるおえない?
「だからみんな、イチクミになりたくないんだよ! イチクミになったら地獄だよ」
「だよなー」
「いや、俺はタガセンに選ばれない自信がある」
「まぁねー。俺もだな。別に部活で活躍もしてないし勉強もそこそこだからな」
なんだ、良かった。
僕も絶対に選ばれない。3/20はきっと2組から7組のどこかだな。
なのに。




