144話 擦り合わせ
やないさん達が来て、僕らは直ぐに日本へ帰れたわけではなかった。
「帰還まで少し時間が欲しい」と自衛隊にお願いされたんだって。
山﨑君と爺ちゃんが本郷中のみんなをブリンクランドへ連れてきた。僕はやないさん達にしっかりキープされている。……あの? タガセンが僕の腰に結んだ長い紐みたいなのの端っこを握っている。僕……犬?
ブリンクランドに到着した本郷中のみんなは、自衛隊の制服を着た大人達を見た途端に、その場にしゃがみ込んで泣き出した。ひとり残らず、みんな。
僕ももらい泣き。董明さんが柔らかいガーゼのハンカチで僕の顔を拭いてくれた。あ、涙だけでいいです。鼻水はおかまいなく!
それからブリンクランドの城の敷地内にある屋敷に全員が連れていかれた。
砂漠や山岳地帯とは違う、もちろん日本とも違うけど、ちゃんとした建物、部屋、ベッド。そしてちゃんとした食事。
僕が捕まえた野生の獣肉を焼いただけとは違う、ちゃんとしたお料理。
本郷中のみんなは大喜びして、また泣きだす、それでも食事をする手は止まっていない。
食後に今後の計画を説明された。直ぐに帰還出来ないと聞いた本郷中のみんなから一斉にブーイングが上がった。
「今すぐ帰りたい!」
「すぐ帰せよ!」
本郷中は2年近くもこの世界に居たんだ。それも厳しい砂漠地帯。
彼らは頑張ったと思う。もう限界だったんだよね。僕ももういっぱいいっぱいな気持ち。自分はともかく、みんな(本郷中の)を早く連れて帰ってあげてほしい。
「準備が整い次第、帰還を行いますから」
自衛隊の人が懸命に宥めていた。
城之内君が僕の耳のそばでボソリと呟いた。
「アイツらには詳細の説明なしでいいんじゃないか?」
「そうね。帰る日が決まったら、それだけ伝えればいいよ」
「それまで部屋と庭に放置ね」
「全く、子供ね」
なんか、イチクミのみんなが冷たい目で本郷中を見ていた。
あと、僕らも子供だから。うん、僕、子供です。
タガセンは小声で自衛隊に何かを告げていた。
本郷中の生徒は男女で部屋割りをされている。
僕は城之内君と一緒。あれ?さっきまでタガセンが持っていた紐(僕の腰に巻かれている)が、いつの間にか城之内君の手に?
僕と爺ちゃんは、まだ話があるからと自衛隊の居る部屋へと案内された。(紐の先の城之内ごと)
そこにはやないさん達も居た。
爺ちゃんは僕の背中を見ながら「迷子ハーネスか……」とか呟いていた。
部屋に入ると、隅には大きなリュックが寄せられていた。自衛隊の荷物?
そう言えば、やないさん達もリュックを背負っていた。山登り……とか、徒歩遠足の最中だった?
「遠足だったの?」
「何が?」
「だって、オヤツとかたくさん持っているし、みんなリュック持って来てたみたいだから。やないさんだけじゃなくて、漆原さんも城之内君も。あと自衛隊の人達も……」
「ああ、あれはね、いつ呼ばれてもいいように準備していたから」
ん?
-------話は遡る。日本------
タガセンは自分だけが戻った事を知ると、かなりのショックを受けた。
だが、まだ向こうには高田さんもいる。本郷中の山﨑や由良、内藤、動ける生徒もいる。
当座は何とかなるだろう。何とかなっていて欲しい。
そう思う一方で、新堂達がポチャ次郎達に何かをしなかったとは、思えなかった。
最悪、生きていてくれれば。生きて、いてくれ。
「くっそ、くっそ、くっそ! 俺は馬鹿か! 何で油断した!」
何度か意識を失いながらも、体調は少しづつだが復活していく。
タガセンの意識が戻り身体を起こせるようになると、イチクミの生徒が病室へ押しかけた。
「田川先生が目覚めるまでに俺達、何度も話し合いました。ポチャ次郎をどうやって救い出すか」
「どうやったら救い出せるか」
「こっちから助けに行けないか」
「日本から召喚出来ないかとか、神隠しの伝説がある場所も調べました」
「せめて連絡が取れないか、神隠しの近くの神社に手紙を置いたりした。あ、手紙を置きに行ってくれたのは自衛隊だけど。俺たちここから出られないから」
「俺は毎晩、念を送り続けてる! ポチャ次郎、俺の念を受け取れ!」
「帰還済みの召喚陣は動かない。なのに太郎が2階のフロアに魔力石をセットしたって言ったわよね。セット出来て祭壇が灯ったと」
12国のうち、今回召喚に参加して使用したフロアは7箇所。
残りの5箇所が気になっていた。梁井と董明はその5ヶ国についても調べていた。
国名や場所が明らかになる書物は発見出来なかった。
だが、『村』の偏りが気になる。
資料は少ないが、荒地に散在している村が、固まっているようにも思えた。
荒地の村へと商品を届けた商人の話を聞いた。
データが少なすぎて確証はない。
だが、そこに『国が在った』と言えないだろうか?
村が残るそこに。
生徒の活発な会話にタガセンが口を挟む。
「ポチャ次郎が間違えてセットしたのは9階だ。そこはアンブリア国で五中の帰還で使用したぞ?」
「ええと、俺とポチャ次郎は9階にセットした後、他も試してみようって2階に行ったんです。けど、そこはもう石が入らなかった。入らないってかもう祭壇は光ってたから、帰った」
「今回召喚の7国は……」
1階:入口
2階:不明
3階:不明
4階:ブリンクランド ろく中、帰還済み
5階:ウッダレジオン 千秋中 帰還済み
6階:不明
7階:フォーレスタ 麗朋中 帰還済み
8階:コスタル 芽木つくし中 帰還済み
9階:アンブリア 五中 帰還済み
10階:不明
11階:ウッドランド さか中 帰還済み
12階:不明
13階:ディサート 本郷中(新堂・徳野)帰還済み
「タガセンの話で7国が明らかになり、それぞれ帰還で使用済み。残り5国は不明のまま。2階はどこの国か知らないが太郎の話だと祭壇が灯っていた。灯ったまま、召喚は行われていない」
「召喚の時に全部のフロアに魔力石をセットしたの?」
「それはわからない。太郎、他のフロアは見たか?」
「わりぃ、見てない。あの時は3国以外不明だったし、間違えて9階に行ったあと、2階をチラ見しただけだ」
「もしも、ポチャ次郎が帰還を考えたら、まずは境の頂の塔に行くと思う。帰還で使えるフロアがないか」
「そこで2階の祭壇に気がついてくれるはず」
「ポチャが気が付かなくても高田さんが気づく」
「使える祭壇があっても国がわからないんじゃ帰還は無理じゃない? だってその……滅亡したかもしれない国で、しかもその国ののストーンヘンジからじゃないと帰れないんでしょ?」
「国が滅んでも遺跡は残る」
「なるほど。おおよその場所さえわかればストーンヘンジを探せばいいのか」
「そのおおよその場所がむずいわね」
「問題はその場所についてポチャ次郎は全く知らないはず。私と董明さんがチラッと調べただけだからポチャ次郎には話していないの」
「仮にポチャ次郎が場所を知っていたとして、そこから帰還出来るの?」
「石はセットしてあるんだよな?」
「帰還は出来ないと思う」
董明さんの言葉に皆がシンと静まった。
「石は、召喚のためにセットした。2階の亡国は未召喚のまま、残っているんだと思うわ」
「じゃあ、帰還出来ないじゃん」
「そう。帰還は、出来ない。だから、召喚をしてもらうの」
----(ここで現在に)----
董明さんを見ていたみんなが僕に視線を移してきた。
凄い、凄いね。董明さんもやないさんも。僕が考えていた事が全部わかっちゃってる。
僕が『召喚する』って、わかったんだ?
でも、誰を召喚するかまではわからないんじゃない?
「その後もタガセンを交えてクラス会議をしまくったな」
「ポチャがどんな召喚ルールを考えるか」
「どんな人間を召喚するか」
「で、俺らの意見は一致したわけだ」
「てか、太郎の意見だけどね。『ポチャ次郎は絶対俺らに助けを求める』ってさ」
「そう。自分で出来ない時は周りを頼れって、よくタガセンに怒られていたでしょう?」
えっ、あれ、怒られていたんだ? タガセンの助言と思ってた。
「そう。だから、城之内班が呼ばれるって確信してた。城之内、太郎、ゆかちゃん、漆原、そして私の5人」
『余分なのが来たがな』
『なんでタガセンまで呼ぶのよ』
『ポチャ次郎君、何だかんだ、タガセンに甘えたさんね』
なんか、ヒソヒソ声で責められた?
「太郎君は来なかったの?」
「アイツは距離があって間に合わなかったな」
「太郎さ、肝心な時にトイレに行ってるから」
「しょうがないわよ、時間が決まっていたわけではないから」
「みんな、どこに居たの?」
「校庭よ。あ、ろく中じゃなくて、召喚者全員が収容されている施設があってね」
「そう。自衛隊の中に造られた施設。そのグラウンドに居たとこ。お昼休みだった」
「いきなり光ったねー。ちょうど梁井を中心にゆっくり渦が巻くように地面が光り始めて輪が広がっていった」
「前より召喚陣が大きかったよな?」
「前は教室くらいだったのにね」




