131話 裏
時は少し前に遡る。
-----(徳野視点)-----
「徳野、なぁ、最近、原達を見かけなくね? どこ行ったか知ってるか?」
鶴田に声をかけられた。
鶴田は、1日1回は原達に嫌味を言わないと気がすまない。言い返せないのをわかっていて原達を下げてストレス発散をしている。
高松は直ぐに手や足が出るが、鶴田は暴力を振るう事は出来ない、意外と小さい人間だ。その代わり口撃でのマウンティングが好きだ。
新堂はこの世界に来る直前に魔法スキルを複数手に入れた。おかげで俺たちは誰も新堂に逆らえない。
元々、クラスでも乱暴者だった新堂に、高松、鶴田、俺が取り巻きのようにつるんでいた。
俺たちの下に、原、坂本、吉田の3人が居る。
2年に上がったばかりでまだ誰ともつるんでいない3人を、さりげなく俺らの下に引っ張り込んだ。
この、謎の世界に召喚されて不安に思っていた原達は直ぐに俺らについた。
クラスの中で、いちいち俺らに楯突く五月蝿い5人を処刑してやった。
「早めに手を打った方がいいですよ」
新堂を唆して、貴族に5人の処刑を申し出るようにした。
それから反発している煩い女子を花街に売るように持ちかけ、追い出した。
見かけなくなった木田達は、いつの間にか国を出たと聞いた。
気がつくと残っていたのは新堂と俺たち3人、それと原達下僕の3人だけになっていた。
異世界に召喚され魔法のスキルを貰い、最初は嬉々として楽しんでいた新堂だったが、この世界は何もない。
周りはただ砂漠、そして魔物だらけ。
新堂が貰った、というか奪い取った魔法も、実は大した威力もなく魔物を倒せるわけではなかった。
ましてやスキルを貰えなかった俺や高松達は、街の外へ出るのも命懸けだった。
結局、ただひたすら、この石の建物の奥に居座り続けるしかない。
「ふざけんなよ!」
「異世界召喚ってなんだよ!」
新堂や高松の気持ちもわからないでもない。召喚されてこの程度のチートとは。
だが、俺らを召喚した貴族もまた同じ思いだったようだ。
「召喚してこの程度、とは…………」
俺たちに失望し、落胆していくのがわかった。でもそれは俺たちのせいではない。
怠惰に過ごす毎日。
新堂は、原達を相手にスキルを使い退屈を紛らわしている。高松は暴力で、鶴田は口撃で。
高松も鶴田も元の世界に帰りたがっているのがわかった。新堂でさえも、この国に飽きていた。
何も無い枯れたこの国で過ごす日々に飽き飽きしているのが見てとれた。
そんな時、原達が普段とは違う行動をしている事に気がついた。
木田達のようにこの国から出ていこうとしているのかもしれない。だがそれは困る。
原達がいなくなると、新堂のターゲットが俺達に移ってしまう。新堂の暴力は、その時近くに居た者に向く。だから原達3人の誰かが必ず新堂の近くにいるように仕向けていた。
原が吉田と坂本を連れて出かけていくのを見かけた。荷物も無い身軽な状態だったので、この街、この国を出るのではないだろう。
では、どこに?
こっそりと後をつけた。
驚いた。
召喚は俺らだけではなかったんだ。
他の国も召喚を行っていた?
原達の後をつけた場所には、原達以外の日本人が居た。日本人の、それも大人がふたり。
それから、処刑されたと思っていた内藤達や花街へ売られたはずの湯本達もいた。
裏通りにあるその狭い通路の先の屋敷には、おそらく俺ら以外の本郷中の生徒が皆揃っているように見えた。
俺は身を隠したまま、中を伺い話を聞いていた。
驚いた事に帰還が可能だと言う。
やった。このつまらない毎日から解放される。
だが、待て。
このまま日本に帰還するのはよろしくない。
この世界で自分たちがやってきた事を、帰還後にバラされたら大変だ。
実際に手を下していたのが新堂と高松だとしても。俺たち4人がクラスの皆にしてきた事を、日本で話されたら……。
これは、慎重に行動しなくては。
俺は急いで屋敷へ戻った。
見てきた事を新堂に告げた。
高松も鶴田も大喜びだった。とっくにこの世界に飽きて戻りたかったのだ。それは新堂も同じなようだった。
俺は新堂に『帰還』を提案した。
「表向きだけ、頭を下げて反省したように見せませんか? 俺がお膳立てをしますから、新堂さんらはアイツらと会わなくていいですよ」
「徳野、どうすんだ?」
「わざわざ4人で出向いて行って、向こうに頭を下げる事はないです。俺がひとりで行って頭を下げて、一緒に帰りたいと申し出てきます」
「お前、俺らを裏切ってひとりでアイツらと一緒に帰還しようとか思ってねえだろうな」
「まさか。疑うなら、高松か鶴田も来ますか?」
「行ってもいいけど、俺なぁ。原とか坂本ボコボコにしたからなぁ」
「高松はダメだろ? 俺行こうか?」
「いや、鶴田こそ無理だぞ? アイツらメンタル削られまくってたからな。一番恨まれているのはお前だ」
「どうします? 誰でもいいけど? 新堂さんが来ます?」
「バッカ、新堂さんが頭を下げるわけねえだろ」
「じゃあ、俺ひとりで行きますよ。それに、アイツらと連むわけじゃないです。帰還方法盗んだら、アイツらを出し抜いて俺らだけで帰還しましょうよ」
考えていた計画を話す。
帰還方法がわかったら、帰還の直前に薬でアイツらを眠らせる。
そう、なにも仲良く全員で帰る事はない。
-----(ポチャ次郎)-----
着々と帰還に向けて準備をしている。
フォーレスタに知らせた『帰還日』にはストーンヘンジでスタンバイしていないとならない。
揉めると思った新堂君達も大人しく帰還を受け入れたんだって。
とは言えやはり、みんなは新堂君達を許せない思いがあるから、帰還直前までは別行動をするんだって。
ストーンヘンジの直ぐ近くに小さなオアシスがあって、僕らは帰還の前日からそこに待機している。
小さいオアシスだけど、向こう側に新堂君達4人、こちら側には残り全員。
今夜が砂漠の最後の夜になる。
-----(徳野視点)-----
明日の朝、いよいよ帰還となる。
俺たちは今、砂漠の街から少し移動したところにあるオアシスに来ている。
ここから見える巨大な石、砂漠の砂から突き出したように幾つかの石が見える。上から見たら円を描くように並んでいるらしい。
明日は朝食後に、あの巨石に移動する。時間になるとあそこで『帰還』が発動すると聞いた。
「徳野、あそこまで徒歩でどのくらいだ?」
「近そうに見えて結構な距離がありそうですね。それに砂に足をとられる。ゆっくり行って30〜40分ってとこかな」
「そうか。……例の準備は?」
「ええ。万端です」
俺は新堂さんに計画を話した。帰還は『俺たち4人』ではない。『2人』にしませんか、と。
高松と鶴田はこの世界へおいていく。
高松だけでない、他の本郷中のやつらも、ろく中の教師も用務員も、皆置いていく予定だ。
「何で2人……」と新堂に聞かれた。
秘密を知る人数は少ないほど犯行がバレにくいと、新堂を唆した。
俺らがこの世界でやってきた事、もう元の世界へは戻れないからとやりたいように生きてきた。
日本に帰還して、親や学校にバレるのはよろしくない。高松や鶴田が余計な事を口走らない保証はない。
新堂は必要だ。既に向こうへ帰還している木田達の手前、『悪のスケープゴート』はいる。
俺は新堂に脅されて嫌々従っていた、と。
あと少しで陽が昇る。砂の向こう側が少し明るくなってきた。
「朝食の鍋に薬は入れてあります。朝飯を食ったらやつらはぐっすりですよ」
「そうか」
だが、計画は思ったようには進まなかった。
完全に陽が登り、朝食を取り始めた皆。効き目が遅いと聞いていた。ひとりふたりと居眠りを始めた。
気がついた他の生徒が揺さぶって起こそうとするが、やがて重なるようにして眠り始めた。
「行きましょうか」
「そうだな」
新堂と俺は巨石へ向かおうとした。その時、後ろから腕を引かれた。
「高松っ」
「やっぱり! 徳野、裏切り者!」
「お前、朝食を食べなかったのか」
「鶴田が見たんだよ! お前が俺たちの鍋にも何か入れてたって」
「そう」
俺はサクリと高松の腹にナイフを差し込んだ。驚いた顔の高松が腹を手で押さえて膝をついた。
「新堂さん、そいつ! 逃がさないで」
「え、あぁ」
ポカンとしていた新堂に指示を出す。逃げようと踵を返した鶴田に新堂が手から炎を放った。
大して威力のない火魔術、火はすぐに消えたが、熱さで転がる鶴田にもナイフを落とす。
向こうでは流れ出る血を手から溢れさせて腹を押さえて立ち上がり逃げようとする高松。
「新堂さん、高松に風魔術を!」
高松が新堂の風で転がされた。俺は足早に近づいて、ナイフで高松を刺す。刺す。刺す。
「おい……徳野」
「あー。新堂さんの風魔術で、もう死んでたけど、念の為」
俺は嘘を吐く。新堂の風魔術くらいで死にはしない。だから俺がトドメをさした。けれど、新堂にも罪を背負ってもらわないと。
「行きましょう。時間がない」
新堂を急かして砂漠へと踏み出す。帰還の時間は決まっているとあの教師は言っていた。
砂に足を取られながら巨石へと急いだ。
巨石に着くと誰かが倒れているのに気がついた。
あの教師だ。
ぬかった。オアシスに居なかったのか? いや、食事を口にしたところは見た。朝食を食べて直ぐにこちらに来ていたのか。
俺が持っていたナイフを新堂に握らせた。
「新堂さん。こいつも、邪魔ですよ。刺してからその辺に転がしていきましょう」
新堂はナイフを握った手を振るわせたまま動かない。俺は新堂の手に自分の手を添えて、その教師の腹や胸を何度が刺した。
それから巨石の外の砂地へ教師の遺体を転がそうとしたが、突然地面から光が溢れ出した。
目も眩む光に全てが見えなくなった。




