129話 本郷中の帰還
現在ごやっかいになっているお屋敷には、本郷中の生徒が16人いる。
本郷中20人うち16人。
残りは新堂君、高松君、鶴田君、徳野君の4人。
タガセンはこの国の偉い人のところに交渉に行った。今朝、爺ちゃんが言ってた。
僕ら(イチクミ)は蒼井君達から聞いていたディサート国の話から、どんな非道な国なんだってみんな怒ってた。
だから今回、ディサート国へもこっそり侵入したんだ。
でも、実際にこの国に来て、本郷中に関わった人に会って話してみると、ちょっと違うって思った。
もちろん良い人ばかりではなく、悪人もいると思うけど、想像していた悪の国ではなかった。
内藤君達は処刑されてなかったし、女子もフラワータウンで匿ってもらっていた。
1番酷い扱いを受けていたのは原君達3人だけど、それもこの国の人にではなくて、新堂君や高松君に暴力を振るわれていた。地球人の新堂君達に。
日本人の高松君、鶴田君、徳野君に。
それってディサート国に召喚されなくても本郷中の2年3組でも起こったかもだよね。
タガセンは本郷中の皆を返して欲しいとお願いしに行ったんだって。
ディサートの召喚陣を使って帰還するなら、みんな一緒じゃないとダメって。やっぱりそうか。
ブリンクランド、コスタル、ウッドランド、ウッダレジオン、フォーレスタ、アンブリア、6国の召喚陣での帰還は、もう使ってしまった。
どれも帰還済み。
残すはここディサートのみ。
もしも、僕らが本郷中16人と僕ら3人が召喚陣を使って帰還したら、新堂君達はもう戻れない。
タガセンはその4人も入れて23人での帰還を考えている。
けど、相変わらず、原君達は反対してる。
坂本君は湯本さんの回復を拒んでるんだって。イジメられた証拠を消したくないって。
切り傷やアザは消えてしまったけど、曲がった膝は治したくないと頑なに嫌がってる。
「これはっ、自分が、耐えてきた証拠だからっ!」
難しいね。
頑張ってきた証拠を消したくない。
でもその頑張ってきた証拠の裏側には憎しみがくっついている。
憎しみなんか無いほうが幸せになれるってわかっているけど、原君達が新堂君達を憎む気持ちも、凄くわかる。
1年以上も苦しんで耐えて来た気持ちをあっさり捨てられないよ。
『憎いよ』って気持ちが可哀想すぎる。
タガセンは『捨てろ』と言うと思った。けど違った。
「痛みも憎しみも今は持っておけ。いつか要らないと思った時に捨てればいい」
静かな、でも、怖い声で坂本君に言ってた。
あまりに低く怖い声だったから、タガセンに慣れていない坂本君は怒られたのかと目をキョドキョドさせていた。
坂本くーん、タガセンのそれは、たぶん、慰めていると思うよ。
だけどそれだと、タガセンの『全員一緒に帰還』は難しくない?
新堂君達を連れてきたら坂本君は大激怒すると思う。
タガセンはどうするつもりなんだろう。
イチクミなら……。
タガセンに慣れているイチクミなら、きっとクラスで何度も話し合う。タガセンの意図は何なのか、僕らはどうすれば正解なのか。
何度も何度もクラス全員で意見を言い合う。
でも、本郷中の3組はしないんだね。
みんな、好きにしてる。帰れる未来が見えてホッとしているのがわかる。スキルの練習もしないのは、もう帰れるとわかっているから。
そういえば、スキルって持って帰れるの?
帰還したらもう使えなくなるのかな。
ブリンクランドの書庫にあった文献には、あたりまえだけど期間後の話は書かれていなかった。
もしもあのままスキル持ちで日本へ戻ってたら……。
赤城君達バレー部が凄い事になっちゃうね。全国制覇どころか世界征服とかになっちゃう。
イチクミが謎の組織に……? それはそれで楽しそう。
みんなどうしてるかなぁ。今頃、世界征服をしているかな。
-----(その頃の地球)-----
12月半ば、埼玉県さいたま市の第五中学校で2年3組の生徒25名が確保された。
いつ戻ってもすぐに確保出来るように国のとある組織が学校に張り込んでいた。
3組の両隣、2組と4組は別の棟へと引っ越しを余儀なくされていた。
そして空いた(無理に空けさせた)教室に、謎組織が色々と機材を運び込み日夜、生徒の戻り待っていた。もちろん、本郷中学校でも同じようにスタンバイしている。
12月のとある日、生徒のいない3組の教室が突然光を放った。両隣から4つの組織が飛び出した。自衛隊、警察、謎組織。それと医療関係。
廊下で光がおさまるのを待つ。が、いち早く謎組織が中へと飛び込む。
「痛っ!」
「うわっ!」
どうやら飛び込んだ先に現れた生徒達にぶつかったようである。
「痛え」
「教室だあああああ!戻った!」
喜び飛び上がる生徒達を次々と押さえて教室から廊下へと連れ出す。
「なんだ?」
「ちょっ」
元2組と元4組の向こうの教室前の廊下には、教室から出て来た生徒でごった返している。
夏くらいから学校に出入りするようになった見知らぬ大人達に、最初は緊張していた生徒達も徐々に慣れ、いるのが当たり前になっていた。
『戻ってくる』という話も、とうにネットで出回っていたので、3組がいつ戻るのか楽しみに(スマホを構えて)いたのだ。
教室の光が収まると廊下の向こうから生徒のスマホが光り出す。いや、生徒は動画を撮っているので光ってはいない。光っているのはいつの間にか校舎に入り込んでいたマスコミのフラッシュだった。
生徒を押し除けて最前で決定的瞬間を狙うマスコミ、そのカメラマンを押し戻そうとする先生。
さらに連絡がいった謎組織が後ろから突入してくる。
大混雑の廊下で、押さえた生徒が運び出されていく。元2組と元4組に無理矢理押し込められた生徒。
「痛い痛い、離して!」
「佐藤!」
「おい、高橋、俺の足踏んでる!」
「ごめっ」
「イインチョぉぉぉ!どうにかして!」
「スマン。無理だ」
「ちょっと何事? これ何事なのよ!」
「金井ぃー、どこだー」
「俺は4組だー」
-----(日向視点)-----
「おい、五中が戻った」
「マジかっ! ポチャは?」
「ポチャ次郎は一緒か?」
「五中が戻ったって情報だけだ。すまん。明日には西棟に入るそうだ」
「しばらくは検査かぁ」
「五中との面会申請はだしておいた」
「もうさ、検査しても何も出ないのは俺たちでわかってるじゃん。検査するだけ無駄じゃねえ?」
「だよなぁ」
「さっさと会わせろ。せめてポチャ次郎が居るかだけでも確認させてくれ」
五中との面会申請は思ったより早く通った。
翌日は西棟へ落ち着いた後、簡単な健康診断だけ行うようだ。
だよな。もう散々俺たちを検査したからな。X線だのCTだのとこんなに受けて被爆しないか心配になったくらいだ。
女子は採血の多さにブチ切れていた。貧血で目眩を起こしたのが数人いたそうだ。
最初の頃に戻った、うち(ろく中)、さか中、芽木中は、検査地獄だったからな。
脳波を測るとかで、1円ハゲを何ヶ所も作られた。あれ、女子はどうしたのか気になった。董明さんや鈴山田さんもハゲを作ったのか聞いてみたら、「訴えますよ?」と言ったらその検査は延期になったそうだ。もちろん今も延期のままだ。
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「みんな……。悲しい知らせだ」
これだけで俺の言おうとした事をみんなは理解したようだったが、あえて口にした。
「ポチャ次郎は戻ってこなかった。五中は生徒25名だった」
「……くっそぉ」
「そっか……」
「って事は、本郷中か」
「もう、そこしかないからな。ディサート国か」
「砂漠地帯だったよな」
「まぁ、タガセンも居るし高田さんも居る。それに、ポチャ次郎だからな。戻ってくる」
「だよな、ポチャ次郎だし」
「ポチャ次郎君だものね」
「ポチャだからな」
「信じてるぞ! ポチャ次郎ぉ!」
みんな前向きな言葉を口にしていたが、ガッカリしていたのは隠せてはいなかった。
ポチャ次郎、次こそ最後のチャンスだからな。




