124話 残された者
いよいよディサート国へ向かう事になった。僕らはオアシスを出た。
ディサート国で本郷中の生徒を探す事と、帰還に必要なストーンヘンジを探す事。
魔力石はもう集めなくていい。イチクミのみんなが集めて塔の祭壇にセットしてあるから。
ただ、新堂達がもう帰還しちゃっていたら、僕らは、終わる。
ディサート国には本郷中の生徒が15人、残っているはずなんだって。
タガセンが蒼井君達から聞いた話だと、25人のうち、まず最初に5人が処刑されたって。理由は知らない。タガセンも爺ちゃんも僕には詳しく話さない。
だから僕も聞かない。
それから蒼井君達がディサート国から脱出してブリンクランドに辿り着くまでに2人、亡くなったって。
これは魔物にやられた。日向君達が蒼井君から聞いた話。
2人死んで蒼井君達3人が帰還したから、残りは15人。
タガセンがボソリと呟いたのが聞こえた。
『まずは11』って。
最初は何の数字かわからなかった。けど、そうか。本郷中の生徒残りが15人。たぶん、タガセンは新堂達4人を除いた数字を口にした。
だから、11人かも。
でも『まずは』って言った。まずはって事は、きっと新堂達も助ける予定なんだろうな。
本郷中の11人はディサート国のどこにいるんだろう。
ディサート国に入れた。
特に誰かに止められる事もなくすんなりと、進む。
そもそも、砂漠の都市に門や壁は無かった。壁の残骸のような物が砂に埋もれて少しだけ頭を出している場所もある。
「これじゃあ、盗賊も魔物も入り放題だね」
「そうだな。警備が手薄、と言うより警備をしているようには見えないな」
とりあえずそこらを歩いている人を捕まえてタガセンが市場の場所を聞いていた。また、市場を拠点にして動くのかな。
市場に到着したけれど、活気がない。みんな疲れているみたいな感じだ。
想像していたよりずっと寂れた感じがする。ディサート国がそうなのか、それとも、ここはディサート国の中でも一番寂れた街なのかな。
オアシスで出会った商人さんの方が、もう少し元気があった。
でも、暑いから仕方がないのかな。僕だって元気ではない。この暑さの中、生きているだけで精一杯だ。僕、砂漠地域には住めないな。
「離れずにいよう」
「そうですね。あまり治安のいい国とは思えない。ポチャ次郎、俺と高田さんの間から出るなよ」
「は、はい」
さっきからじろじろ見られてる。
僕が太っているから珍しいのかな。この国の人って痩せてる人ばかりだ。
森の人達も細かったけど、あれは痩せていると言うよりシュッとしてた。
やないさんがウッドランドの人をよく『細マッチョ』って言ってた。「細いけどちゃんと筋肉があるのよ!」
あの時はよくわからなかったけど、今、この国の人と比べたら意味が理解できた。
この国の人は、骨とスジでヒョロガリっとしてるんだ。猫背だし顔色も悪いし、病気なのかな?元気がない。
そう、100歳くらいのお年寄りみたい。
森の人はもっと若々しかった。さっきこの市場へ来る途中の路地に座り込んでいた子供も、まるで老人みたいだった。
そういう人種なのかな。
ここは魔物がいる異世界だもんね。
やないさんが言ってた。「ここは異世界だからエルフも居るし、ドワーフとかスケルトンもいるのよ」
描いてくれた絵はガイコツだった。
この国はスケルトンな国なのかも。スケルトンって主食はなんだろ。肉だったら僕なんて格好の餌食、油ののった霜降り肉?美味しそうに見えるのかな、だからみんなじろじろ見るのかも。
タガセンの背中に隠れようとしてもはみ出る。
アンブリア国に入った時は案内してくれる五中の生徒が一緒だった。
でも今、ディサート国では僕ら3人だけ。手探り状態だ。
-----(本郷中生徒•内藤視点)-----
こんな明るい時間帯に東市場に来たのは初めてだ。普段は滅多に建物から出ない。
外の日差しが暑いというのもあるけど、それ以前に人目につきたくないからだ。
あれから、多分……1年以上経つ。もっとかも知れない。
今日がいつかはもう考えない。
ここは知らない世界。ある日突然、クラスの皆と砂漠の真ん中に居た。
事情があって皆から逃げた。それからずっと隠れて生きてきた。元の世界、家に帰れるなんて希望はとうに捨てた。
ただ、毎日を生き延びる。
外へ出るのは日が暮れてから少しだけ。
あまり長くいると凍えてしまうから。日中は狂ったように暑いのに、日が暮れるとあっという間に真冬のようになる。
僕はある人の所でお世話になっているんだけど、いつも買い出しに行くバジェドさんが今日は具合が悪くて寝込んでいる。
だから僕が代わりに市場まで来た。
昼間に来た市場は、夜と違う。なんか隅々まで見える。見たくない汚さもよく見えてしまうのがちょっと、な。
でも、もう慣れた。
この砂だらけの世界で、日本にいた時のように清潔ではいられない。日中の暑い中、水を自由には使えないから、風呂も洗濯もたままならない。街の中にあるオアシスは自由には使えない。街の外のオアシスは自由だけど、魔物がいて危険なんだ。
たまに来る夕方の市場は今よりも賑やかだ。暑さと寒さ狭間、みんなはようやく活き活きと動く。今は、暑さでダレきっている感じだ。
そんな中、屋台のおじさんや買い物客が皆同じ方向を見ていた。有名人でもいるのかな?
気になって僕も人垣の方へ歩いていった。
「ありゃあ、山の民かの」
「山から来た商人のボンボンかもしれんの。あの肉付き」
「この辺の砂漠のもんじゃねえな」
「それより横の眼つきの悪い男、護衛か? ありゃあ何人かやっとるの」
近くで話している人の会話が耳に入った。
入った話は耳を通り過ぎたけど目はそこに釘付けになった。
皆が見ている先、そこに3人。眼つきの鋭い2人の護衛に囲まれた、背の低い人間。でも巻きつけた布越しでもボヨンと太いのが見てとれた。
それよりも目が離せなかったのは、少年の頭、被った布がズレ落ちて見えた黒髪。
この世界にも黒髪は居る。この国にも大勢。
でも、サラサラの黒髪。黒目。のっぺりした日本人顔。
そう! 日本人顔、の、少年!!!
「あいつ……、絶対に日本人だっ! もしかして僕らの他にも召喚された人がいるのか? 同じクラスじゃない。あんな肉団子はいなかった。他のクラスにいたかな……あんな肉団子」
僕はまわりも気にせず、人を掻き分けて彼に近づいた。
-----(本郷中生徒•原視点)-----
ある日突然、ゲームのような世界へとクラスみんなと迷い込んだ。学校の教室から、白い空間経由でこの砂漠の国へ。
現実になったゲームの世界は、ゲームのように良いもんじゃなかった。毎日大変だし毎日辛い事だらけだ。
当初25人いたクラスも、今は7人しかいない。
クラスのボスだった新堂君と、彼の側近の高松、鶴田、徳野。そしてその下で、俺達3人の下僕。
他の皆は気づいたら居なくなっていた。
この世界には魔物が居る。ここ来る前に通った白い空間で特別なスキルを貰えたんだけど、それは新堂君が独り占めした。
実際にはゴタゴタに乗じてスキルを取れたやつもいたみたいだ。でも俺は、取れなかった。
だから、新堂君に逆らえない。どんなに嫌でも辛くても、彼の下につくしかなかった。
俺らはこの世界のこの国に召喚されたらしかった。
スキルを沢山持っている新堂君は、勇者と名乗ってこの砂漠にある城でもてなされている。
俺は、高松達のように新堂君の友達でもなかったから、下僕として使い走りをさせられている。
それが、城に居てもいいという新堂君の条件でもあった。
俺と坂本と吉田は、新堂君達4人の下僕として生きてきた。
ただ新堂君はイラつくと近くにいた高松達にあたる事もある。高松達は新堂君には逆らえないからその矛先を俺らに向ける。
新堂君が高松達に手を出すと、結局、高松達は俺らをボコって憂さを晴らす。
けれどそこ以外に生きていけるとこがない俺らは、泣きながらも我慢するしかなかった。
城の兵士訓練に参加させられた事もある。大人の訓練にだ。
スキルも体力もない俺らには地獄の訓練だった。高松達3人は俺らを笑いながら見ていた。
辛い。
擦り傷やアザはもう普通の事。変な腫れとかもよくある。捻挫かもしかしたら骨にひびとかがあったかもしれない。
痛くてもただひたすら我慢する。
我慢して我慢して我慢して。
我慢するのが無理になってきた。
3人で城を出る計画を立てていた。
「どこかで働きながら暮らせないかな」
「どこで?」
「わかんないけど、バイトとかしてさ」
食堂の調理人に仕事の相談をしてみた。調理人もその日食べていくのがやっとの暮らし。仕事を紹介は出来ないが、市場で子供が物乞いをしている話をしてくれた。
3人で夜に話す。
ここに居て、新堂や高松達に殴られる毎日を送るか、城を出て市場で物乞いするか。
「運が良ければたまに市場に来る国の外の商人に頼んで、他の国に行けないかな」
「他の国が良い国な保証はないよ?」
「でも。今よりはマシかも……」
「今決めなくても、とりあえず市場に通わないか?」
交代で商人を探す事にした。
頻繁には出来ない。新堂君達のそばを離れるとバレてしまうかもしれないからだ。
城の調理場の手伝いをしている事にした。出来るだけ、交代で市場へと顔を出す。
そんな時市場で見つけた!
この国では見ない太った子供!
絶対に外国の裕福な商人に違いない!
思わず人混みを掻き分けて、太った子供を呼び止めようと飛び出した。
「おまっ!」
「内藤ぉ?!」
「んんん〜? 誰?」




