121話 まずは11
「まずは11か……」
タガセンがどこかを見つめたまま、言った。
何の数字だろう。
僕らはアンブリア国を出ていた。山脈を背に砂漠方面へと移動している。
最低限の準備はした。水も食糧も多めに僕の倉庫へとしまった。多めにと言うか、買えるだけなんだ。
僕らはお金をそれほど持っていなかったから。
なので、移動の途中で食べられそうな物は拾っていく、狩っていく事になった。
僕のスキルである罠は使えない。罠を設置してもそこに戻ってこないからだ。
僕ら3人の使えるスキルは、タガセンのテイムと、爺ちゃんの土魔術、それと僕の鑑定と採取と倉庫くらいかな。
それでも僕らはディサート国へ向かうため、まずは砂漠を目指して山を下り、荒地を行く。
足元が乾いた土から砂になりはじめる。砂漠は想像以上に体力を奪う。
容赦ない。デブに砂漠はキツい。
寒いのも苦手だけど暑いのはもっと苦手、苦手を通り越して無理。
口から飲んだ水が、身体中から吹き出してしまう。
僕の身体の半分は水、残り半分は脂肪でできていると思うんだ。
こんなに水が出ちゃったらただの脂肪の塊になっちゃう。そしてバターになって溶けてしまう。
オアシスを見つけるたびに寄る。
水補給。これ大事。
一応鑑定スキルで飲める水かをチェックはしている。大丈夫だったら持っている容器全てにどんどんと水を汲んでいく。
汲んでも減っている感がないから大丈夫だよね? 他の人の水まで汲んじゃうと悪いから、そこはちゃんと気にするよ。
小さいオアシスは割とあった。そこで商人っぽい人を見かけたりした。
タガセン達は情報を集めてる。
僕は日陰を探して休む。陽射しがめっちゃ攻撃的なんだよ。
チリチリ焼けるとかジリジリ焼けるとかじゃない。
卵を割ったら即目玉焼き、僕なら焼豚になっちゃうんじゃないかってくらい刺さる、ゴリゴリ刺さりまくる陽射しぃ。
日焼け止め……っぽい効力のある草をオアシスで見つけて、それを潰して塗りたくってる。それでも陽射しが痛い。
砂漠に入り始めた時なんてマジで火傷だった。
分厚いマントをかぶっている人達を見て暑くないのかな?と思ったのは最初だけ、その理由をまさに肌で理解した!
とにかく直接肌は出さない。
それでも布越しの攻撃は受ける。
なんなの、この地域は! オゾン層破壊されてるの?
「大丈夫か? ポチャ次郎」
僕がぶつぶつ言ってたから爺ちゃんが心配になったみたい。
「うん、熱いだけ」
「おう、暑いな」
「この先はもうオアシスはない。距離はあるが真っ直ぐ行くとディサート国だそうだ」
ここ数日、このオアシスに滞在していた。
ディサートに突入する前に、ここを通る商人から出来る限りの情報を集めるって。
僕らも商人に化けるので、ディサート国が欲しがりそうな物を出来るだけ持っていく予定。
ディサート国の中にもオアシスはあちこちに存在するんだって。
だから水には困っていない。砂漠の魔物で毒が少ない肉や、オアシスの周りに群生する植物も食用にしてるって。
食べるのにも飲むのにもそんなに困ってはいない感じ。
商人さんは木で作った食器や布が売れるって言ってた。
僕の倉庫にそれっぽいのも入っているけど、僕は思う。僕がディサート人なら、本当に欲しい物。それは、お塩とお砂糖。
汗が出まくって肌着に塩が付いてたんだ。汗と一緒に体から塩分が抜けてた。だから熱中症にもなりかかった。
人間にお塩は必須。あ、こっちの世界の人はどうかは知らない。
あとね、甘いものも欲しいよ。肉と野菜だけの人生なんて潤いがない。
果物ないの?
南国ってバナナとかパイナップルがなっているイメージなんだけど。
オアシスにも高い木があってそこに実がなってるんだけど商人さんに聞いたら
「あれ食ったら死ぬぞ」と言われた。
気をつけよう。
塩と砂糖はともかく、タガセンから山の幸を持っていこうと言われた。
山の幸?
「俺たちは山岳から来た商人を名乗る。ポチャ次郎、アンブリアからの途中、山で採った物があるだろう?」
タガセンと高田の爺ちゃんに言われた物を倉庫から取り出す。
小さな箱に詰めていく。
今度は3人だけの商人なので、荷物もこじんまりさせるって。
「明日出発だから今夜は早く寝ろ」
そう言われたんだけど寒くて眠れない。
あんなに、日中は馬鹿みたいに攻撃的な暑さなのに、何で夜はこんなに寒いんだろう。
オアシスの水が凍ってるんですけど?
あの凍った水を昼間飲みたい。キンキンに冷えて美味しいよね。
あ、そっか。凍った水を割って亜空間倉庫に入れておこう。
爺ちゃんに言ったら割ってくれた。
寝床前の火を焚いてるとこに座って暖まる。
「昼と夜がもっといい塩梅にならないかなぁ。どっちも主張しすぎだよね」
「そうだな」
タガセンが枝を火にポイっと投げ入れながら、どうでもいい感じの返事をした。
「日中がたぶん50度くらいで、今がたぶん……マイナス20度くらいかな」
もちろん、テキトーだ。だって気温測るものなんて持ってないもん。
「足して割ると……50足す20で70、割る2は、35度か。昼と夜で半分こしてもまだ高いな」
「ポチャ次郎、何で50度とマイナス20度を足して70になるんだ。50足すマイナス20だろう。イコール30、割る2だと15度だ」
タガセンがなんか先生みたいだ。あ、先生だった。
「なるほど? 15度だとちょっと涼しい感じか。うん、昼と夜は仲良くすべきだよね」(←実はまだよくわかっていない)
「ほら、こっち来い」
高田の爺ちゃんが、胡座をかいてた足を広げて真ん中に僕が座れるスペースを作ってくれた。
そこにすっぽりおさまると背中があったかい。
「高田の爺ちゃんが、僕の爺ちゃんだといいのに。元の世界に戻っても遊びに行ってもいい?」
「おう、いいぞ。来い来い」
「爺ちゃん、めぎ中だよね。めぎ中って春日部だっけ。春日部ってどこらへん?」
「次郎の学校が流山だろ? そんなに遠くねえぞ?」
「電車で行ける?」
「おう、来れる来れる。東武野田線で繋がっとる」
「ほんと? 僕、絶対遊びに行くね」
背中が高田の爺ちゃんとくっついててあったかい。目の前には焚き火があってあったかい。さっきまで寒かったけど今は暖かさに挟まれて段々と眠くなった。
「ポチャ次郎、ちゃんと寝床で寝ろ」
タガセンに言われたけど、聞こえないふりをした。だって寝床はきっと冷えている。ここでこのまま寝たい。
それ以上タガセンが何も言ってこなかったので、うとうとと寝てしまった。
「ポチャ次郎は家族を恋しがらんのう、帰りたがりもせん」
「ポチャ……草凪は少し変わった子です」
「家族の縁が薄いのかい?」
「それがそうでもないんですよ。両親、兄、姉、祖父母、叔母と、今時大家族の同居です。地元でもそれなりの大きな家に住んでいます」
「そうなのかい」
「2年で彼の担任になり、数回家庭を訪ねました」
「家庭訪問とは。問題があるお宅の子なのか?」
「私も初めはそう思いまして。と言うのも1年の時にイジメにあっているのを何度か目撃したんですよ。その時の彼の担任は恥ずかしながら放置していまして、それで2年に上がる時に自分の受け持つクラスに引っ張りました」
「次郎はイジメられていた子には見えんのう。めぎ中にも少なからずイジメはあった。やってる方はイジメてる意識なぞ全くない。だがやられている方は荒んでいく、周り中が敵に見えているようだった」
「そうですね。イジメは難しい。やった方は飽きたらやめて済むが、やられた方が一生忘れない。悲しいです。が、草凪にはイジメられている感覚がない。相手を苦手と感じても嫌ったり恨んだりしていない。ソレが『イジメ』とも気がついていない」
「そりゃ、変わっとるな」
「ぶたれれば痛い。痛がると相手は面白がってもっと殴ってくる。草凪はそこで殴られている自分を卑屈に思わない。ただ、何度目かに殴り返すんですよ。殴ってきた相手を殴る。相手は驚き、草凪の行動に困惑する」
「それでイジメはやんだんかい?」
「いいえ。そもそもイジメをするようなやつです。まだ中学生といっても人格はある程度出来てます。どう育ったのか、環境か親か。まぁひねた性格です。どこかで気がついて正しく育つのか、それともそっちの道に進んで行くのか。自分達に出来るのはせいぜい中学時代を無事に乗り切ってもらう手伝いくらいです。そんな奴が、相手に痛みを与えたら痛みで返された。そういうやつは手を変える。今度は物を隠したり捨てたりとね」
「なるほど。ずる賢いと言うかなんというか」
「けど、草凪にとっては、それもイジメに結びつかなかった。ただ物理的に、見つからない、無くなった、だけなんですよ。怖くなりました。草凪は、心が死んでいるのではと。だから怒らない、怖くない、卑屈にならない、何も感じない、のではと」
「いや、次郎君はちゃんと心はあるぞ。優しい良い子だ」
「ええ、こちらに来て、草凪を近くで見て、安心しました。少し他の子とは感じ方が違うのかもしれませんが怒ったり悲しんだりもする」
「うんうん。良い親御さんに育てられたのじゃないか?」
「そうですね。そうなんでしょうね」




