119話 しかし奇跡は
魔力石の収集、これが大変なんだよね。
イチクミは宝箱を6個見つけたおかげで、誰もが複数のスキルを持っていて、それを使いこなしていた。
それだけでなく、グループでの連携も凄くて魔物をバンバンと倒していた(らしい)。見てないので聞いた話。
それでも1年かかったもんね。
あ、違った。年末には3校分が終わった。3校で集めてたけど半分以上はイチクミの成果って、誰かが言ってた。
6倍のスキルで9ヶ月かかって……ええと、それを3で割る、じゃなくって半分だけど、いや違う違う、宝箱一個の場合は……。
うわーん、僕、数学苦手えええ。
とにかく時間はかかるって事だね。うん。計算しないよ。
爺ちゃんが、魔力石収集実績表を作ってた。前に使ってたやつはブリンクランドに置いてきちゃったから、簡単なのを作ったんだって。
タガセンと爺ちゃんがその紙を見ながら、唸っていた。少なくってごめんなさい。僕も頑張って罠を仕掛けよう。小さい魔物が出そうな場所も聞いてもらっている。現在返事待ち。
他に出来る事ないかなぁ。
なんて、呑気に夕飯食べていたら、タガセンがドカドカと足音を立ててやってきた。
何で、僕の前で止まるの?
「ちょっと、来い」
え、えっ? ええええ?
僕ですか?
タガセンに首根っこ掴まれて立ち上がらされて、傍に抱えられて壁裏へ連れて行かれた。
ちなみに、市場の端っこ、荷馬車を置いていたあたりに爺ちゃんが土魔術で壁を幾つか拵えて、部屋みたいなっているのだ。屋根はないけど。
そのうちのひとつ、タガセンと爺ちゃんの部屋へ連れて行かれた。爺ちゃんは僕らと一緒に夕飯を食べていたけど、タガセンの剣幕に驚いて、食事を中断して僕らの後ろからオロオロと付いてきた。助けて、爺ちゃん。
僕をトスンと地面に降ろした。
部屋にはキョトン顔のモッキーが居た。それとコンドーさん。じゃなかった、コンドルのイチゴーさん。
イチゴーさんもニゴウさんも、最近仕事で留守にしていると聞いていた。イチゴーさん、戻ってきたんだ。
イチゴーさんの足元……超怖そうな鉤爪の足の横によれた紙が落ちていた。
タガセンがその紙の近くに腰を下ろした。僕は、タガセンの前に正座した。正座をしたつもりが足の肉が邪魔で横に転げたけど、爺ちゃんが横から支えてくれた。
怒られるのなら立ったままがいいよぉ(泣)
「ほら、次郎坊、こっち来い」
爺ちゃんが壁を指差した。タガセンも気がついたように、壁際に移動したので僕も慌ててそっちへ移った。
タガセンは紙を手に持っている。何だろう?重要な物なのかな。
「ポチャ次郎、ブリンクランドで魔力石を収集していた時の事を覚えているか?」
突然、聞かれた。けど、いつのどの事を言ってるのかわからない。それに僕は石集めを殆どしていなかった。
どうしよう、何を怒られているのかわからない。
「田川先生、それじゃ、いつの事かわかるまいに……」
「すまん。気が急いた。……そうだな。集まった魔力石を、境の頂の塔に納めに行っていただろう? ポチャ次郎も、塔へは何度か通ったはずだ」
「は、はい。い、行きました……」
とりあえず返事をしてから、記憶を呼び戻そうと必死なった。塔に行った記憶、塔に。うん、何度か行った。
「田川先生、具体的に聞いてあげた方が次郎君も答えやすかろう」
「む、そうだな。……塔の、9階に、石をセットしたか?」
ん? 塔の9階? 何度も行った気がする。エレベーターを発見してからだよね?
「9階ですか? 田川先生、9階は間違いじゃろ。コスタルは8階でしたぞ?」
そうそう、コスタルは8階で、9階は……あ、そうだ。あの頃、ディサートの分をみんなで集めてセットしに通ってた。
ブリンクランドもウッドランドコスタルも、3国分は集まったから、ディサートのフロアを埋めていこうって話になったんだ。
それで……。
そう、僕も太郎君達と塔へ行く事が増えた。
それは、赤城君や千谷君達が魔物から獲れた石をやたらと僕に渡してきたんだ。
「ポチャ次郎、預かっておいて」
「ポチャ、これ持ってて」
僕の亜空間倉庫にどんどんと魔力石が貯まっていく。いつまで預かっておけばいいのかなぁと気になった。
だって、僕の事だから、預かってた事を絶対忘れると思った。
だから思い出した時に聞いてみたんだ。
「赤城君、石、いつまで預かればいいの?」
「ん?………んー、日向から指示があるまで?」
日向君が指示してくれるんだ。じゃあ、僕が忘れてても大丈夫だね。
ホッとして、それからは気軽に赤城君達から石預かった。赤城君や千谷君以外からも預かってた。
それから日向君達が塔に通っている話を太郎君が聞いてきた。
「日向達、ディサートのフロアに魔力石をセットしてるんだって。俺たちが預かってるのも、セットしてこようぜ?」
「え、でも……、赤城君が日向君から指示あるまで預かってって……」
「だから、その日向が、今、みんなにディサートフロアへ魔力石の設置を指示してるんだってさ」
「そうなの? じゃあ、僕らも行く?」
「おう。漆原ぁ、ちょっと塔まで頼むー」
太郎君が、廊下を通りかかった漆原さんの方へ向かって叫んだ。
「人をタクシー扱いしないでよ! お金取るわよ?」
プリプリ怒りながらも漆原さんは僕と太郎君を連れて塔まで飛んでくれた。
塔の周りにはイチクミの何人かが居た。エレベーターの石盤の所で、消えたりしているので、ディサートのフロアへ飛んでいるんだ。
「思い出した!」
僕は意識は目の前タガセン戻った。
タガセンが怒っているのは、きっとあの事だ。謝らないと……。
「あの、すみません。アレかな、アレですよね? ディサートのフロアへセットする石を、間違えて9階へセットしてた……」
「やはり……そうか。9階にセットしたんだな?」
「は、はい……。ごめんなさい」
僕と太郎君は、みんなから預かった石を間違えて9階にセットしてたんだ。
間違いに気がついたのはみんなが騒いでいたあの時。
「やったぜ! ディサート祭壇がマックスだ!」
「燭台も点いたな」
みんながディサートの祭壇がマックスになったと騒いでいたけど、僕と太郎君がさっき石をセットしに行った時はまだまだ点いていない燭台がたくさんあったんだ。
それで、太郎君顔を見合わせてからもう一度9階へ確認しに行った。
「まだ完了してないぞ?」
「だよね? 点いてないね?」
そこで僕らは、間違えたフロア、ディサートではないフロアへせっせと石をセットしていた事に気がついたんだ。
「祭壇で誰にも会わないから変だと思ったんだよなあ」
「ど、どうする? みんなに言う? 怒られるよね? 違うとこに預かった石を使っちゃった! どうしよー」
「落ち着け、次郎。このことはふたりの秘密にしようぜ」
「え、え、でも……」
僕はタガセンに向かって土下座……お腹が邪魔で土下座にならないけど、とにかく頭を下げた。
「それで……、その事は僕と太郎君の秘密にして……」
「で、その後は?」
怒ってそうな地響きのような声でタガセンがその先を促した。
えー……、その後? その後って何かあった? 思い出せえ、あの後どうしたっけ?
あ。
「ええと、えと、あの後、どうせならマックスにしようって太郎君が言い出して、ええと、どうしたっけ……」
そうだ。ディサートがマックスになっても赤城君達は魔物狩りを続けていたから、あの後も魔力石をどんどん渡されたんだ。
それで、太郎君が、あ、人のせいにしたらダメだよね。僕らは、9階へ何度か足を運んで……。
「9階の祭壇をマックスにした……しま、した。すみません。イチクミみんなの魔力石を勝手に使って9階にセットしちゃいましたあああああ。ごめんなさい」
僕は邪魔なお腹が苦しかったけど、何とか地面に頭を擦りつけた。
「ナイスだ」
タガセンの口から絞り出された言葉の意味がわからない……。
僕を抱き起こしかけていた爺ちゃんの手が途中で止まった。
「それって……、田川先生! もしや」
「そうです。塔の9階は、アンブリア国」




