115話 貴族とは
市場で荷馬車の後ろで五中の生徒19人が輪になって座って夕飯を食べている。
食べたり喋ったり泣いたり怒ったりと忙しそう。でも、楽しそうにも見えた。
僕は隅っこで爺ちゃんの隣でもしゃもしゃ。イチクミのみんな、どうしてるかなぁ。
夕飯が終わるとタガセンが中央で話し始めた。
それぞれのグループの経緯を簡単に説明した。
まず、アンブリア国の外、砂漠と山の麓付近で僕らと会った滝田君達の話。
それからアンブリアへ戻り、炊き出しで会った阿藤さん達。
街で働いて暮らしていた谷津さん達の話。
うん、ここまでは僕も一緒だったから覚えている。(名前以外)
で、今日、タガセン達が貴族街のイインチョのとこに行って……。
イインチョがお世話になっていた貴族の人は、偉ぶらない良い人だったんだって。
それで住み込みでお屋敷の仕事を手伝いながらこの世界の事を勉強していたそう。
ちなみにイインチョのスキルは魔法移動だった。だからお屋敷でも重宝してたんだって。
僕が知りたかった、今日増えた5人は、イインチョのとこにご飯を食べに来たわけでも一緒に住んでいたわけでもなかった。
ええと男子2人、峯岸君と何ちゃら君は、彼らが最初に居た屋敷で下働きとして住込みで働いていた。
女子3人は、イインチョの伝手で修道院を紹介してもらい、そこで住込みしてたって。
「3人のスキルが回復と、体力回復と、毒回復の回復3人組だったから、ちょうど良いと思ってさ」
イインチョは3人のスキルだけでなく、クラス全員のスキルもちゃんと覚えていた。凄いな。董明さんみたい!
それどころか、誰がどこに居るのかも、出来るだけ把握していたんだって。
「凄えよなぁ、委員長」
「ほんと!流石は委員長!」
みんなが口々に褒め称えていた。…………けど、ちょっと気になった。イインチョの名前を、誰も呼ばない。
もしかして、誰も委員長の本名を知らないのでは?
どうしても気になって、寝る前にこっそりと聞いてみた。
「ふっ……。僕の名前は田中一郎。覚えやすすぎて逆に覚えてもらえないんだよ。山田一郎とか佐藤次郎とか加藤三郎とか間違われるから、もう『委員長』でいいんだ」
な、なるほど、確かに。
僕もひと晩寝たら、明日の朝、「加藤君」って呼んじゃいそう。
今後も『イインチョ』にさせてもらおう。
翌朝。
昨日は生徒の再会でかなり騒がしい夜になった。
今日は、朝ごはんを食べた後に、タガセンはまた生徒を集めて今後について話をした。
『帰還の手段がある事』を話した時には昨夜以上に盛り上がった。と言うかほぼ全員が泣き出してしまった。
タガセンは皆が落ち着くのを待って、続きを話し始めた。
「帰還のチャンスは一度きりだ。だから残りの6人も意思を確認する必要がある。お前らもだ。この世界に残りたい者は止めない。だが帰還する意思がある者はこちらに従ってもらう」
みんな、タガセンに食いつくように話を聞いていた。
帰還にはストーンヘンジの場所が必要になる事、そこはタガセンが今、探している。
それから帰還には魔力石が必要になる事と、境の頂の塔での操作が必要になる。
それに関してはタガセンの従魔であるコンドルのイチゴーさん、ニゴウさんがフォーレスタまで手紙を運んでくれる。
エルフさんに操作をお願いするので、こちらの準備が整い次第連絡をするそう。
「帰還を決めた者は、現在世話になっている人にキチンと話をしておく事。世話になった礼と仕事の引き継ぎをしておけ」
うん。さんざんお世話になっていきなり居なくなったらダメだよね。
今日の午前中にはタガセンはイインチョの案内で6人を訪ねて歩くんだって。
6人は別々のお屋敷にいるから、もしかすると2〜3日はかかるかもと言ってた。
僕らは午後はいつもどおりの市場掃除だけど、午前中は魔力石を取りに行こうという話になった。
「でもさ、俺らだけで行けるかな」
「おい、遠くに行くなよ。それと怪我もするな」
タガセンから釘を刺された。
「魔術系のスキルは軒並み中島達が取ったんだよな」
中島達とは、貴族街にいる生徒だ。
「んー、でも大丈夫だと思う。剣術も弓もいるでしょ? あと回復系もいるし。生産系も倉庫系もいるから行けるよ」
「弓なんて持った事ない」
「剣が無いぞ?」
「大丈夫、大丈夫。剣や弓は僕持ってるから渡すね。スキルがあると最低限、普通に使えるらしい」
「生産ってどうするの?」
「あ、あたしはトナッキー連れていくね」
「スキルなんて使った事ないよー」
五中のみんなはスキルをほぼ使った事がなくて、今日の午前中は外の森でスキルについての説明と実施になった。
僕、殆ど知らないけど、イチクミみんなの事を思い出しながら一生懸命、説明した。
1年以上経っているとは思えない、まるで異世界初日状態だった五中のみんな。
でもやる気があって楽しそう。
面倒を連発していた炊き出し女子達も結構楽しんでいた。
魔力石はひとつも取れなかったけれど、森で色々な物を獲る事が出来て、午後はそれも市場に並べた。
遅い昼食後は、市場の掃除を開始だ。18人もいるので今までで1番早く、1番綺麗に掃除が出来た。
夕飯の準備をしながら、魔力石の収集について作戦会議をした。
「魔力石はどこで取れるの?」
「今日、森では取れなかったな」
「森は小動物しかいなかったから。でも大きい動物は凶暴だから怖いよ」
「動物からも魔力石って出るのか?」
「魔力って言うくらいだから普通の動物からは出ないだろ」
「斉藤のトナッキーは魔力石あるの?」
「ちょっとお! うちのトナッキーをやる気? させないよ?」
「まぁまぁ。あのさ、警備とか門番の人に、小さい魔物が出る場所を聞いてみようよ。あ、あとさ、この国って討伐ギルドとかってないのかな?」
「どうだろ?」
「それも聞いてみようか」
「ギルドがあったら話は早いな。魔物の情報ももらえるよ」
「あ、じゃあ、明日の午前中はまず街でそのへんを聞き込もう」
その日、タガセンとイインチョは手ぶらで戻ってきた。どこの貴族も、突然訪ねて来る者は相手にしてくれないんだって。
なので、予約だけして、数日後にもう一度訪ねるって。
その時には、『いつ会えるか』の返事を貰うだけなので、実際に会うのがもっと後だって。
「貴族と平民は流れる時間が違うんだよ」
イインチョが苦笑いしてた。どう違うんだろう?
貴族……偉い人はやる事がいっぱいで毎日大忙しなのかな?
「違う違う、逆だよ。とにかくスロー。食事も1〜2時間かけるし、服を着るのも自分ではしない。着せる仕事の人がいる。風呂も全部やってもらうからな」
「…………それって、介護する人がいるって事?」
ぶほっ
イインチョが吹いた。
「もしかして貴族って、その……高齢者の、その、施設とかに入っているような人なのかな。あぁ!貴族街ってもしかして高齢者のグループ施設タウン! そっかぁ。それなら食事に2時間かかるのも仕方ないね。お風呂も着替えもやってもらうしかないもんね」
「ちがっw…………でも、概ね、そうとも言えるか、うん」
イインチョが何かを言おうとしたけど、自分の中で納得したみたいだった。
-----(とある貴族)-----
またしても魔物に襲われた商人一行の全滅の知らせが入った。
昔から、国の外に魔物はいた。アンブリア国は山岳地帯にある国だ。周りを山で囲まれている。崖があり谷がありそれらが森になっている。山を削り開いた場所に村が出来、街になり、やがて国となった。それなりに栄えていた時代もあった、らしい。
国が栄えて人が増えると、人を狙い魔物も増えた。人と魔物が増えたり減ったりを繰り返していたバランスが微妙に崩れ始めた。
魔物が増える勢いが衰えなくなる。すると人は国から、街から出なくなる。すると魔物がさらに増える。
だが、大昔から、百年ごとに調整を行っていたらしい。王家のみに伝わる『召喚』。新しい力で、魔物を押し返し国の領域を取り返す。
アンブリア国を支える中枢の4貴族が王に呼ばれた。どうやら『召喚』を行ったらしい。
王城の端にある離宮に、『召喚人』が置かれているが、それは一時的な預かりらしい。
4大公に続く、3侯も呼ばれた。それぞれ召喚人を選び自邸へ招き入れるそうだ。ちなみにうちも3侯のうちのひとつである。
召喚されてきた者は全員で25名も居た。全員が特別な力を持っていると聞いていたが、魔術に長けた力を持った者は少なかった。
やはり4大公は『火』『水』『風』『土』の魔術を操る者を連れていったか。
他に変わった術を使う者が3人。そのうちの1人を我が邸へと連れ帰った。
『一度行った場所へ瞬時に移動出来る』
なんとも不思議な技だ。魔獣討伐には向かないかもしれないが、他に使えそうだ。
だが、今回気になったのは『召喚人』が皆、子供であった事だ。
王や公爵へ物申すわけにはいかないが、3侯の集まりではその事が度々、話題に上がっていた。
「幼すぎませんかの。まだ13と聞きましたぞ」
「うちもですぞ。せめて成人後の者が訪れてくれればよいものを。あれでは、魔物討伐なぞ、無理強いは出来ますまい」
「いや、公家では前線に出したそうな」
「なんと、あんな子供を……」
「そう言えば、離宮を閉めたと聞きましたぞ?」
「それは……? 他の召喚人はどうされたのでしょう」
「下位の爵位の方々に、招かれていったのでしょうか?」
「そうなのでしょうか? オリザ子爵は何もおっしゃってませんでしたが」
「ふむ。イーヨロ伯も全く口にしておりませんな。あの自慢好きな方が……」
-----(中島視点)-----
何でこんな事になったんだ。
異世界へ来た! スキルを貰った!と、喜んだ。
一番に貴族に召し抱えられた事でいい気になってた。
でも、そんなに甘いものじゃなかった。
すぐに魔物討伐の隊に入れられた。だけど、手から火が出たくらいでは魔物は倒せなかった。
ゲームでレベル1にもかかわらず、毎日上級者の狩場に連れていかれてる感じだ。
騎士の人達がいなかったら初日で死んでいた。
最初は大目に見てくれていた優しい騎士達も、徐々に冷たい目になっていった。
『こんな敵も倒せないのか』『この程度もダメなのか』
口にしなくても、目がそう言っていた。
もう、このゲームをやめたい。
そう思ってもログオフ出来ないんだ。何でこんな世界に来たんだ。俺は何も望んでなかったのに。
帰りたい、帰りたいよ。
せめて、クラスのみんなに会いたい。みんな、どうしているんだろう? あそこでみんな一緒に暮らしているのかな。
俺、一番最初にあそこを出たから、その後みんながどうしているのかはわからない。
何度か、この邸を出てあそこ戻りたいと相談した事があった。でも却下だった。
俺はもう、公爵に貰われたから、ダメなんだって。俺が選んだわけじゃないのに。
もしかして、みんなも色んな人に貰われていったのかな? それでそこで魔物退治にこき使われているのかも。
一番強そうな攻撃魔術を取った俺でさえこんな状態だ。もしかしたらみんなもう死んでしまったかも。
後悔の日々。
どうしてみんなで協力しようって、あの時、思わなかったんだろう。自分だけ強くなっても出来る事がこんなに少ないとは思わなかった。アニメでも漫画でも、ヒーローはもっと強いじゃないか。でもあんなの嘘っぱちだ。
そもそも、どこを向いても樹々ばかりで、迂闊に火を出すと辺りが燃え始めて自分の逃げ場がなくなる。
魔術で出した火だからか、長時間燃え続けることはないが、トドメはさせずに逃げ場だけが無くなる。使えない魔術。
そして、そんな俺に付き合うのも嫌気がさしたのか、最初の頃に居た騎士団はいなくなり、付き添っていた兵士達も徐々に減り、今ではとうとうソロだ。
俺は捨てられたんだ。
俺があの日、みんなを捨てたように。
ぼぉっと考え事をしていたら、木の間からファイアボアが顔を出した。
ファイアボアはサイズは小さい。1メートルくらいだ。だが、眉間に生えたツノが炎を纏っている。
前にファイアボアに襲われた兵士がうっかりツノに触れた時、触れた左腕が火に包まれて転げ回っていた。
あのツノに触れてはいけない。
それにファイアボアは火属性の魔物だ。俺の火魔術は効かないんだ。
俺は、ゆっくりと後ろへ下がるが、ファイアボアが突っ込んできたら避けきれないだろう。
たぶん、その時が俺の最後かもしれない。
俺に狙いを定めたファイアボアが地面を蹴ったのが目に映った。
あっという間に距離が縮まり、死を覚悟した次の瞬間、ファイアボアが突然宙をまった。
何故か、俺の目前でファイアボアが宙吊りになった。




