111話 潜入
というわけで、アンデスの、じゃなかった山岳地帯の商人一行に扮して、僕らはアンブリア国に潜入する事になった。
「メイクなら任せて。濃い顔にすればいいのよね?」
ヤンキー斉藤さんはメイク道具を持っていた。召喚された時もメイクポーチは持ってたんだって。
「アタシ、将来はメイクアップアーティスト目指してるじゃん。だから、これはいつもどこでも持っていくのさ」
「す、凄いね、プロだね?」
「ふふ、ポチャ次郎ぉ、お前、わかってるね!」
顔を濃くするのに若干泥とかも使われていた。
みんなの顔の彫りが深い。外国人みたいに見える。で笑うとちょっとひび割れるので要注意。
「ダメだわー。これ以上は無理」
「ポチャ次郎君は体型がなぁ、山岳でも砂漠でも無いんだよなぁ」
「だよね。こんなに丸くて小さい人、この世界に来て見た事ない」
「日本にもいなくないー? 埼玉じゃ見ないよー。千葉には居るの?」
うっ、この場に居る9人中、千葉県民は僕とタガセンだけ。
「わしも春日部、埼玉県だが、あまり見た事は……」
高田の爺ちゃん、埼玉県人だった。タガセンは向こうを向いたまま動かない。
「あ、あ、太郎君!ポチャ太郎君が同じクラスに居た!」
「え、千葉県の中学の同じクラスにこんな丸いポチャがもうひとり居たの?」
あー、でも、太郎君は丸くは無かった。
背は僕より高かったし太っていると言ってもガッシリと肉が硬かった。どちらかと言うと四角い?
太郎君、元気かなぁ……。
イチクミのみんなと一緒に居た時、楽しかったなぁ。
思い出すとしんみりしてしまった。
「あ、ごめん。丸くてもポチャ次郎君はそれでいいと思う」
「うんうん。世の中に必要な存在だよ。ええと、ある意味、癒やし系?」
「ポチャ次は荷物の中に隠していけば?」
そう、僕らはアンデスの商隊に扮している。だからそれっぽい荷物や荷車も作った。
作ったというか、僕の倉庫に入っていた物でそれっぽく出来た。
何でも入れておくものだね。亜空間倉庫、万歳。
何を入れたか覚えてないから自分から率先して出すのは難しいけど、「◯◯あるか」「◯◯出せ」と、名前を言ってくれると出しやすい。無ければ出てこない、もしくは違う言い方に変えてもらうと出てくる事が多い。
僕がタガセンから言われた物をポイポイ出すのを見ていた金井君達が期待満面でタガセンの合間に挟んできた。
「厚めの板」
「はい」
「釘」
「はい」
「ポテトチップス」
「ない」
「アイスクリーム!」
「ない」
「編んだ紐」
「はい」
「メロンパン!」
「ない」
「カレーパン!」
「ない」
「サンドイッチ!」
「な……あった」
あったけど、ブリンクランドの街で売ってたこっちの世界のパンに何かが挟まったものだった。
受け取った高橋君が微妙な顔をしていた。
「コンビニ弁当!ハンバーガー! ああああ、地球に戻りたいぃぃ。いつも普通に食えてた物が食いてえええ」
「アタシだってぇ、メイク道具を補充したい!素顔は嫌ああああ」
ご、ごめんね。みんなの欲しいものが出せなくて。
そんなこんなで商隊っぽい荷車や荷物が完成。僕は荷車の上に積まれた木箱に入る予定。
アンブリアの近くまでは一緒に歩いて行く。
獣道から出て、商隊が通る道を進んでいる。ライドンは3号……じゃなかったトナッキー以外を山中に隠れさせていた。
トナッキーには荷車を引いてもらい、アンブリアへ入るそうだ。
テイムした魔物や獣は、自由にさせてもテイマーから離れて遠くに行ったりはしないそうだ。
ただ、弱い従魔は他の魔物に食べられてしまう事もあるんだって。
アンブリアの正門が崖の上に見えて来た。
うねった道が林の上へと続いている。僕は荷車の箱に入った。狭いけど、その狭さがなんか安心感をよび、僕はいつの間にか眠ってしまった。
僕が箱の中で寝ている間に、一行はアンブリア国入りを無事に済ませていた。
なんか美味しい匂いがしたので箱の蓋をずらしてこそっと頭を出してみたら、お祭りの屋台村みたいな場所の端っこに、僕の乗った荷馬車が停められていた。
良い匂いは隣の屋台からか。お祭り中?
「お、起きたか。坊」
「うん、おはよ、爺ちゃん。あれ? みんなは?」
荷馬車の周りには爺ちゃん以外誰もいない。
「田川先生は滝田君達を連れて市場の親方の所へ挨拶に行った」
そっか、市場で仕事を貰ってたって言ってたな。お世話になってたみたいだから戻った挨拶?
「市場ってここから遠いの?」
「ここが市場じゃよ」
「えっ! ここ屋台村だと思った。あれ?でもこっそり潜入したのにここの人に挨拶に行ったらバレちゃわない?」
「この場所を借りた時点でもうバレた。滝田君達は働き者だったみたいじゃの。ここで顔をしっかり覚えられておった」
「変装したのにバレちゃったんだ……」
うーん、メイクだけじゃ無理だったのか。
箱から出て、隣の屋台を覗いていたらみんなが戻ってきた。
箱を荷台から下ろして地面に並べる。積んであった荷物から商品になりそうな物を適当に箱の上に幾つか置いた。
売れるかわからないけど、商売がしたいわけではないから何でもいいんだって。
フォーレスタの森になってたフルーツを隣の屋台のおじさんにお裾分けした。お返しに鉄板で焼いた鶏肉みたいなのを葉っぱのお皿に入れて差し出された。これ、凄く美味しい匂い!
「ありがとう!」
地面に座っているみんなのとこに持っていった。爺ちゃんが低い高さの木箱で僕用の椅子作ってくれていた。
ありがとう。床座りが苦手なので助かる。
ここに来る前にタガセンは五中の生徒について滝田君達から色々と聞き出していた。
イチクミのみんなが居たら、きっと董明さんとか日向君がノートに書き取って名簿を作ったりしただろう。
けど、僕には無理だった。
滝田君がクラスの名前を言い始めた時、ノートにメモろうとしたけど、最初のひとりを書いているうちにどんどんと進んでしまった。結果3人くらいの名前と、一文字だけになった苗字が数名。
僕に書記は無理だった。あと、記憶力もない。それに字が汚くて書けた3人の名前も読めない。全滅?
しょんもりとしていた僕に気がついた滝田君が、後でノートに書いてくれた。
五中2年3組、男子13人、女子12人。
今、ここに居るのは滝田君、金井君、佐藤君、高橋君、女子佐藤さんとヤンキー斉藤さんの6人。
残り19人が、この国のどこかに居る。
わかっているのは、貴族街に男子が7人居るらしい事。
「狡いよね、男子はアニメとか詳しいからさ、強いスキルとか取っちゃってさぁ。それでお貴族様のお屋敷で贅沢三昧出来てさー」
ヤンキー斉藤さんだってテイマーという、とても便利なスキルだと思うよ?
僕ら……と言うか、タガセンと会うまでスキルの使い方も知らなかったから、トナッキーが初と言ってた。しかもテイムというか譲渡テイムだったな。
「7人は貴族にバラバラに引き取られたの?」
「多分そう。ひとり、またひとりって居なくなってたし、訪ねて来てた貴族も別々の顔。チョビ髭だったり超ダンディだったり」
「他は? 7貴族以外には引き取られなかったの?」
「うん。パッタリ来なくなった。欲しいスキルがいなくなったのかな」
「ええっ? でもまだ良いスキルいっぱい残ってるのに」
「案外この世界の人も詳しくないのかもな」
「オタッキーは詳しいよね」
「それは褒め言葉として貰っておくぜ。まぁ、この世界にゲームとかアニメとかラノベなんて無さそうだもんなぁ」
「オタッキーが好きそうな娯楽は無さそうだねぇ」
「ネットもテレビも漫画も無いぞ? お前らの高尚な趣味はこの世界にあるのかよ」
「無いな」
「おう、無い」
「じゃあ、あと12人? ええと、男子が……」
「男子が2と女子が10」
「女子が10人か。女子佐藤、斉藤、お前らだったらどこに行く?」
「えっ? うちら行く場所無いから滝田や金井と一緒に居るしー」
「あぁ……。10人一緒じゃないかもね。阿藤グループと館山グループに分かれてるかも」
「そうなんだ? 女子にも派閥があったか」
「阿藤グループは4人。なんか、ねっ?」
「ああ、ねっ?」
「何だよ、女子だけに通じるその『ねっ』は」
「阿藤グループと館山グループは正反対なのよ」
「館山達、あ、館山、津山、千草の3人は優等生というか真面目さん。で、阿藤達4人はやる気ない子ちゃん。ま反対だね」
「一緒に行動するとは思えないなぁ。男子だってそうじゃん。中島グループと金井グループ」
「いや。男子はチームになってそうでそうでもないよな?」
「だな。だいたい貴族街に行った中島グループに委員長が入っているのも納得いかん。それに、中島グループはそれぞれ別の貴族に拾われてるから、グループってより、ソロじゃん?」
「だな」
内輪の話は難しい。誰が誰なの想像が出来ない。
「あの、残りの人は?」
「あ、ごめん。話が逸れたな。19人中、貴族街へ7人。どこに居るかわからない女子10人。あと残った男子誰だ?」
「多分、峯岸と山下。こいつら、どこに居るかな」
ずっと黙って聞いていたタガセンが突然動き出した。
「とりあえずここを拠点に、探して行くしかない。だが目立たず、だ。以前していたようにここの掃除を請け負った。午前はそれとなく街中を、午後は市場で掃除をしながら情報収集だ」
「はい」
「わかりました」
「全員だと目立つな。街での探索は二手に分かれようぜ」
「俺は街の外に出てストーンヘンジを探す。午後には戻る」
「では、私は次郎君と回ろう」
「こっちどうする? 女子だけだと危ないから斉藤と女子佐藤に……攻撃スキル持ちが誰もいないな、俺が付くか。そんで滝田、高橋、男子佐藤な」
「オッケー」
「わかった」
「危ない事はするな。危険を感じたら即撤退しろ。仲間が捕まってもとにかく逃げろ。後で助ければいい。まずは各自が自分の安全を優先しろ」
「はい!」
アンブリア国の王都の街で五中の生徒探しが始まった。




