110話 潜入計画
僕らを乗せた大鹿は足場の悪い山道、道もない崖をものともせずに登っていく。
ただ僕らは落ちないようにしがみつくだけだ。
登り始めてすぐに一旦ストップした。
「もっと掴まりやすい工夫が必要だな」
「しがみつきやすくしてください。掴めるとこが少なすぎる。平坦なら問題ないけどさっきの坂はやばかった」
「ポチャ君、ごめんな、さっき腹の肉掴んじゃって」
うん、痛かった。たぶんアザになってると思う。
こんな時回復スキルがいないのが辛い。
「胴に腕が回りきらないんだよ」
そっか、僕が太すぎるから。
「ぼ、僕こそごめん」
女子の二人乗りはそこまで大変ではなかったみたい。それと高田の爺ちゃんの3人乗りも。
タガセンの鹿は4人も乗ってるからなぁ、それに僕がデブだし。
「後部席にも鎧を付ける。それと前に手を伸ばして掴める手すりだな」
「そっち、4人だと重くない? こっちに3人にする?」
「いや、その大きさで3人だと鹿がバテる。こっちも4人の鎧を付けるが、ポチャは俺の前に乗せる」
「えっえっ、僕、運転出来ない」
「大丈夫だ。お前は前に座ってるだけだ。手綱をさばくのは俺がやる。後ろの席にも掴むところは作るが基本密着しとけ。高橋は佐藤に、佐藤は俺に。おぶさるイメージだ」
じゃ、じゃあ、1番前の僕は誰に掴まったらいいの? 思わず涙目になってしまった。
「ポチャ次郎、お前はライドン1号の背中に貼り付いとけ」
ライドン1号? この鹿の名前かな。そうすると高田の爺ちゃんの鹿がライドン2号、ヤンキー斉藤さんのがライドン3号かな。
「違うわよ。この子はトナッキーよ」
斉藤さんが僕の心を読んだように突然言った。
3号の名前、トナッキーなんだ。トナカイとヤンキーの合体かな?
今度は心を読まれないように下を向いていた。
僕らは休み休み、深い山を進んでいった。
ライドン達も疲れるだろうけど、乗っている僕らもかなり消耗した。
「俺、高校に入ったらバイクの免許取ってツーリングとか行こうと思ってたけどやめる」
「だよな。ケツ痛ええ。俺も無理。サイクリングも絶対しないぜ」
僕も絶対しない。お尻とか内股が擦りむけた。めちゃ痛い。男子は全員、ガニ股の膝ガクガクだ。
女子は何で大丈夫なの?
「え? アタシらもそれなりに痛いよね?」
それなり……なんだ。
1日目より二日目の方が慣れて進みが早くなる、わけがない。
痛みがさらに痛みを呼ぶ。休憩時間が増える。僕は森で薬草を探し回る。潰して塗るタイプの痛み止め、炎症止めと、飲むタイプの痛み止め。
鑑定スキルと採取スキルがあって良かったあああああ。
山の魔物も襲ってくる。タガセンのテイムした魔物が僕らにとっての戦力だ。
それと採取で魔物避けも採ってそこらじゅうにぶら下げておく。
「このペースだと、アンブリア国領に着くのはまだしばらくはかかるな」
「今はまだここらですか」
タガセンと高田の爺ちゃんが地図を見て話している。
頑張ってアンブリア国についても、その先はどうするのかな。
僕らが召喚されたブリンクランドは、アンブリア国とは全く国交が無かったって聞いた。
文献でもほとんどアンブリアに関する話は出て来なかった。
そもそも、ブリンクランド、コスタル、ウッドランドは、隣接した3国だし、魔物が増える前でも国交があった。
そしてウッドランドとウッダレジオンは昔色々あった国で、そのウッダレジオンとフォーレスタが森林国で昔そこそこ行き来があったと微妙ながらも繋がりがあった。
大陸のこっち系はなんだかんだで喧嘩したり仲良くなったりしている。
でも、大陸の西側、砂漠地帯とか山岳地帯はほぼ交流がなく孤立状態っぽい。文献にも大昔の単純な情報しか載っていなかった。
多分、砂漠や山が邪魔して交流しにくいんだろうな。
本郷中が召喚されたディサート国、それと五中が召喚されたアンブリア国。
蒼井達が砂トカゲで砂漠を横断してきたと言っていた。
中学生の、しかも砂漠素人が横断出来たんだ。もしかすると思ったより大きくない砂漠なんじゃない? とか思ったりしている。
鳥取砂丘……よりは大きいかもだけど。
滝田君達6人は、商隊馬車で山脈を越えてきたって言ってた。って事は、山々を行き来している商隊がそれなりにあるって事だよね?と思ったら年に2回程度の行き来だって。
僕らは今、商人ロードを進んだり、近道をゴリゴリ進んだりしているんだって。
ある程度アンブリアに近づいたら、商人ロードからは完全に外れて進むってタガセンが言ってた。アンブリア国に知られないようにそっと近づくため。
アンブリア国がどんな国かわからない。
タガセンがブリンクランドやコスタルから書簡を預かってきた。けれどそれを渡して、僕らの安全が確保出来ればいいけど、どうなんだろう。意地悪な国だったら書簡を破って捨てられて僕らが捕まる事もありえるんだって。
もしかすると五中の生徒も、今頃は人質とか監禁されている可能性もあるって言ってた。
だからこっそりと近づいて様子を見るって。
でも、こっそり近づいても結局、国の中に入らないとならないし、気づかれずに入り込むとか可能なのかな。
さらに、アンブリア内で隠密行動して五中の生徒を捜さないとならない。
もしも五中の生徒が捕まっていたら、素人の僕らに、誘拐犯に気が付かれず20人の人質奪還なんて出来るかなぁ。
隠密スキル……なんて、無かったよね?
僕はその日の夕飯の時に、思い切ってタガセンにその思いを言ってみた。
タガセンも高田の爺ちゃんも苦いものを噛んだような顔になった。金井君達も複雑な顔をしていた。
「うん。ポチャ次郎君の言う事、アタシもそう思ってた。そっと近づいて国に侵入出来ても、20人が居る場所って国の中のお貴族様とか偉い人の居る区域もあるし、アタシらそこまで行けるかなって」
「そこなんだよな。全員が1ヶ所に閉じ込められているなら救出案も立てようがあるけどさ」
「あっちの家、こっちの屋敷、だもんな。俺、何軒か門前まで訪ねて行った事ある。敷地内にも入れなかった。門番が居るんだよ」
「助け出すのは難しいな。そもそも助け出される側がわしらが助けに来ているとは思っとらんからな」
「ふむ」
タガセンが怖い顔のまま考え込んでいる。
「1番偉い人の家を訪ねて、五中の20人を返してもらえませんかって言うしかないかな」
「それだと握りつぶされるだろう」
「そもそもが1番偉いって王様か。王様に会えるか? 城よりもっと手前で門前払いだぞ」
「アンブリアに着くまでに何かいい案が浮かばないかと思っていたが、全く浮かばん。どうしたもんか」
タガセンの口から出た言葉にびっくりした。
タガセンでも困る事ってあるんだ。
タガセンはいつもどんな時でも正解を知っている気がしていた。
僕ら生徒が考えた事を正解に近づくように導いてくれる絶対的な存在って、なんか思い込んでいた。
勝手に……思い込んでいた。
「商人は出入りしているんだよね? 商人に化けて潜入する?」
うんうん、変装は必要だよね。
「でも顔でバレるんじゃないか?」
確かにぃ。ブリンクランドでも僕ら目立ってたからなぁ。あの国、日本人顔は見かけた事なかった。
「アンブリア人ってどんな顔? 僕らが召喚された国のブリンクランド人は掘りが深い外国人顔だった。ギリシャとかそっち系だってやないさんが言ってた。そっち系がどっちかはわかんないけど。あと、ウッダレジオンとかフォーレスタの森林地帯はエルフ顔」
「それもやないさんが?」
「ううん、やないさんはフォーレスタ人と会う前に帰還したから見ていない。けど同じ森林族のウッドランド人を見てエルフ顔って言ってた。ウッドランドもフォーレスタもウッダレジオンも大きく括ると一緒かな?」
「エルフ顔って何さ」
「ああ、斉藤さんはゲームとかやらなそうだもんな」
「アニメも観なそう」
「アタシ、観ないしやらないけど? それに出てくるの? で、エルフってどんなの?」
「ええと、シュッとしててスラっとしてキラキラっとしててフッと……」
「ポチャ次郎君、それじゃわからないよ。斉藤さん、あのね、エルフってのはファンタジーな世界によく出てくる種族で。だいたいが金髪碧眼、男女ともスレンダーで美形。肉は食べないオーガニックな森の種族って感じ」
「なるほどー。でもアタシらが居たアンブリア人はそんなじゃなかったね」
「うん、もっとガタイがいい。それに陽に焼けたマッチョ」
「でもまぁ、外国人顔だよね。アジア系じゃない」
「髪の毛は何色?」
「茶髪とか黒っぽい赤毛とか多くなかった?」
「短髪でガタイがよくて山男山女って感じ」
「ふうん? よくわからないな」
「商人はどんなだ? 山岳地帯の風体か?」
「あー、いや、そこまで山男じゃなかったよな?」
「だね。ほら、砂漠に近いあたりで会った商隊はさ、結構浅黒く日焼けしてて、山の日焼けとはまた違うとアタシは思った。海焼け?」
「海無いけどな」
「ほら、なんだっけ、ジュータンとランプの……ああ! アラビアンな感じ! 砂漠から来た商人さんはアラビアンだった! それで山々の村を回ってる商人さんはアンデス人顔だった」
アンデス?アラビアン?アジアン……。
アで始まるの多いな。違いがわからないけど。てか、どこの国? 僕、社会科も苦手。世界地図描けない。
「アンデスってアジアだっけ?」
「違うぞ」
「でも、日本でもアンデス顔の人たまにいない?」
「それって、僕たちアンデス商人に変装出来るって事じゃない?」




