109話 山を登る
僕らはアンブリア国へ向かう事に決めた。てか、元から決めていたところに五中の6人が加わった。
山脈と並行して砂漠地帯を進む予定でいたけれど、滝田君達の話でこの辺りから山へ入ると商人ロードがある事がわかったからだ。
タガセンはさっそく近くへ山越えの魔物をテイムしに行く。
僕も近くの麓の森で色々と採ったり獲ったりした。
男子佐藤君と高橋君はスキル訓練も兼ねて僕に付いてきた。もちろん爺ちゃんも一緒。
残り4人を置いていくわけにもいかず、結局みんな一緒に行動する事になった。
収納ポーチスキルの女子佐藤さんは、ポーチに入る量を体幹で覚えるようにとタガセンから出された課題に取り組んでいた。
「あとね、瞬時に出し入れとかも出来るようになる!」
頑張り屋さんだな。
僕の亜空間倉庫は底なし……ではないと思うけど、どこまでも入るので入れる事より何を入れたか思い出せないのが問題で、入れた物を覚えておくのがもっかの課題であるのだ。無理だけど。
滝田君は倉庫にほとんど物が入っていないので覚えていられるって。
「俺のスキル、解呪の使い道がねえええ」
金井君が地面に落ちている枝や石を拾いながら叫んだ。枝や石は罠を作る材料になるので一緒に集めてもらっている。高橋君が罠を作るのに必要になるからね。
実は僕の倉庫内には山ほど材料が入っているんだけど、それを渡すのはタガセンから止められている。
『自ら集めた材料で作ってこそ、達成感がある』んだって。
達成感は必要だって。うん、そうかも。
やった感がないと作業って疲れるだけだもんね。
そうそう、解呪。僕は持っていないけど、イチクミの城之内君と漆原さんが持ってたスキル。
『解呪は奥が深い』って言ってた。
何だっけな……思い出しながら金井君に話しかけた。
「呪われてなくてもそこらじゅうに解呪しまくると、ちょっとずつでもレベル上がるって言ってたよ?」
「えっ? スキルにレベルなんてあるのか?」
「うーん、見えるレベルとかレベルアップはないんだけど、スキルって使っていくうちに、あ、上がってる、って実感する時があるんだって。僕は、その、鈍チンだからちょっとわからなかったけど、イチクミのみんなはよく話してた。今、上がったーって」
「そうなんだ? さすがはろく中のイチクミだな」
「僕はイチクミでもおミソだけどね。でね、解呪って別に呪いを解くだけじゃないんだって。日本の漢字だと解呪って書かれちゃってるんだけど、何だっけな、日本の呪いとこの世界の呪いのていぎ?が違うとかなんとか言ってた」
「何だ?それ。呪いの定義?」
「ええと、魔法の……悪い魔法? マイナス魔法の、デブスがなんとか」
「デブス??? 太ったブス?」
「ちょっとぉ、アタシの事、今、デブでブスって言ったぁ?」
「ないないない、言ってないです!」
近くに居た斉藤さんがこっちを睨んで金井君が慌てて否定した。僕もうんうんと頷いた。
「マイナス魔法……マイナス効果、あっ、デバフの事か!」
滝田君のフォロー。
「あ、それそれ。それを解除する効果もあるって言ってた。相手によりけりだけど。だから魔術を使う魔物相手の時に助かるって」
「なるほど。解呪は呪いを解くだけでなく、こっちの世界ではデバフ解除の効果もあるのか」
「うん、うんとね。僕は前線で戦った事はないんだけど、他にも解呪持ちで前線グループの子がいてね、こっちの動きを遅くしたりする魔術とか、身体が重くなる術をかけられた時は即解呪してやったって言ってた」
「うわっ、かっけぇな、それ。イチクミと一緒に魔物討伐に行ってみたかったな。よし、俺、解呪しまくって精度を上げるぜ」
「うん。でも解呪しながら枝も拾ってね」
僕らは麓に居たが、タガセンは林の中から戻ってきた。
「やはり、山入ると結構な数の魔物が出るな」
タガセンは大きな鹿に乗っていた。鹿ってあんなに大きかったっけ? もしかして魔物?
「テイムした」
「トナカイ?」
「いや、ジャイアントディア。一応魔物だ」
タガセンがピュイっと指笛を吹くと林の木の間からもう二頭、出てきた。
「3頭テイムした。8人乗れるだろう。斉藤」
「アタシ?」
タガセンに呼ばれたヤンキー斉藤さんが鹿に近寄っていく。
「テイムの譲渡が出来るはずだ。前に試して成功している。こっちの1番小さいやつをお前が使え」
テイムの譲渡なんてあるんだ? 前にって、やないさんや董明さんと従魔のやり取りをしてたんだ?
ヤンキー斉藤さんは臆する事なくデッカイ鹿に近づいていった。
1番小さいと言ってもかなりデカい。馬より大きいんじゃないかな? どうやって乗るんだろう?
テイマーにしかわからないやり取りなのか、特別な事をするわけでもなく譲渡は終わっていたみたい。
ヤンキー斉藤さんが鹿の横っ腹あたりを軽く叩くと、鹿が脚を曲げて体勢を低くした。そしたら斉藤さんはおもむろに跨って立ち上がった鹿に乗って走って行ってしまった。
みんな唖然としたよ。タガセンだけが普通な顔をしていた。
「その辺を回って足慣らししてくるんだろう」
心配してないみたいだったので僕らも安心した。斉藤さんが鹿に攫われたのかもとか、ちょっと思ってしまった。
「それで、山を行くか」
高田の爺ちゃんがタガセンに問いかけた。
乗り物を調達するって言ってたもんね。山脈越えをするって聞いたからてっきり空を飛ぶ何かをテイムするのかと思ってた。プテラノドンとかワイバーンとか。
「飛ぶやつだと落ちる心配があるからな」
た、確かに。僕、絶対に落ちる。鹿なら落ちても痛いくらいだけど、ワイバーンから落ちたら死ぬよね。
「時間はかかるが、安全第一だ」
ドドドドッ
楽しそうにヤンキー斉藤さんが戻ってきた。鹿に跨って。というか、あまりに大きいから跨るより座るって言った方がいいのかな。
馬みたいに手綱も鎧もないけど、斉藤さんは鹿の背中でM字正座みたいな座り方をして、背中の毛を掴んでいた。
「テイマーさん以外はどうするかの」
高田の爺ちゃんも僕と同じ事を考えていたようだ。
「簡易な椅子を作って取り付けます」
なるほど〜。
「ポチャ次郎、蔓や枝、板を持っているだろう? 出せ」
はいはいはいー。持ってます。多分。何でも入れてますから。
「分厚い布あるか?」
はいはいー。ありますー。多分。
タガセンって器用だな。あっという間に鹿の背に僕らが座れる物を設置し終わっていた。
僕らはいよいよ、アンブリア国に向かい、山を登っていく。
ヤンキー斉藤さんの後ろには佐藤女子が。
高田の爺ちゃんの後ろに解呪の金井君と滝田君が。
そして、タガセンが操縦する1番大きい鹿には僕と男子佐藤君と高橋君だ。高田の爺ちゃんの鹿はタガセンが手綱を引いている。
そんな3頭と9人で、林に入り、山を登り始めた。




