106話 アンブリアと五中
-----(五中、滝田視点)-----
その後、結局全員がそこを出た。貴族に召し抱えられなかった者は自分の力で生きていくしない事に辿り着いたからだ。
幾つかのグループに分かれて市井で暮らし始めた。
「スマホ無いのきついな、バイト情報とかどこで見るんだ?」
「ハローワークだよ。うち、兄貴が会社辞めてハロワに仕事探しに行ってた。ハロワは仕事見つかるまでお金くれるって言ってた」
「えっ、じゃあ、こっちのハロワに行けばうちらも生活費貰えるんじゃない? ハロワどこだろ」
そんなに美味しい話は無かった。そもそもハロワも無いみたいだった。そこら辺を歩いている人に片っ端から聞いてみたけど誰も『ハロワ』を知らなかった。
佐藤や金井が詳しく説明して、ハロワっぽい場所を聞き出してきた。
そこに行ってみたけれど、成人未満はダメだと追い返された。
「俺ら仕事が無いと飯が食えなくて死んじゃうんだよ!」
「お願いします!」
食い下がった。そしたら市場の親方さんを紹介してくれた。
「そこで仕事がないか聞いてみな」
教えてもらった場所は市場の入口横にある建物だった。そこで聞いてきた名前の人を訪ねた。
渋られたけれど、仕事を貰える事になった。
主に市場内の掃除。市場は朝早くに開くが終わるのも早い。多分午後3時くらいか?
市場のテントがあちこち店じまい始める頃、俺たちはいらない余り物を貰ったり掃除を開始する。
市場内の掃除を終わらせた頃には完全に日が暮れている。
俺たちは住処が無いので市場のどこか空いているスペースでゴロリと横になる。
「満腹になるまで飯食いたいなぁ」
「そうだな。カラアゲとかコロッケとか牛丼とか食いてえな」
「やめてよ、もっとお腹がすくじゃない」
「あそこに居た方がよかったかな」
「あそこって?」
「最初に居た、城の敷地に建ってた建物……。あそこなら寝る所もあったし、トイレだって風呂だって」
「お風呂は使えなかったじゃない」
「そうだな。支給されてた服が無くなって、風呂も川になって食事も減って」
「でも一食は貰えたじゃん」
「どうかなぁ。あの後、食事無しになって部屋も追い出されたかも」
「そうだよ。だから、自分の力で働いて暮らそうって話になった」
「そうなんだけどさぁ。世間は甘くないなぁ。お金稼ぐのがこんなに大変だったなんてさ」
「他のやつってどうしてるんだろう」
「他のやつ? 貴族の家で豪勢な生活を送ってるんだろ?」
「いや、それ以外。貴族に召し抱えられたのは中島達5〜6人だろ? それ以外のやつら」
「知るわけないよ。俺ら6人はいつも一緒にこの市場にいるんだから……」
「なぁ……。他のやつらの事は知らないけどさ、俺、小耳に挟んだ情報がある」
「情報?」
「うん。市場に居た旅の格好をした数人。あちこちを渡り歩いている商人って聞いた」
「うん?」
「他の国でも、この国みたいに召喚を行ったって。その国は召喚した人を優遇しているって言ってた」
「なぁ、この国を出ないか?」
俺たちは金井がどこかから聞き齧ってきたその話の虜になった。
一部の人間だけでなく、ちゃんと優遇してくれる国がある。
商人が旅して来れるくらいだ。俺たちでも行けるのでは?
「旅費をためようよ」
「そうだな、馬車代が必要かも」
「それと移動中の食事も」
今までただ生きる事だけのための惰性で動いていた俺たちだったが、初めて目標が出来た。
それからは毎日市場掃除も頑張ったが、手が空いていた午前中も出来る仕事を紹介してもらった。
街中の店前の掃除やら、下水掃除、草むしり、荷物運び。人伝に探せば仕事はいくらでも出てきた。
そうして、俺らは馬車代と旅代(おおまかな計算)を貯めて、この国を出た。
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甘かった。
俺らは本当に色んな事を舐めてかかってたんだと実感した。
最初にこの国を出る商隊に代金払って馬車に乗せてもらった。
馬車で山道を進む。幾つか山を越えた。商隊はここら山間の街や村を回っているそうだ。
とある停車場で商隊がふたつに分かれた。ひとつは俺らが居た国方面へと戻り周りながら進む商隊。
もうひとつは、山岳地帯から荒地方面へ進み、砂漠直前で引き返す隊。
金井が市場で聞いた召喚を行った国は砂漠の中にあるらしい。
「それ以外にも、森林地帯にもあるらしいが、そっちには行かないからなぁ。行ってギリギリ砂漠手前だ」
俺らを安い馬車代で乗せてくれて、ちょくちょく食べ物も分けてくれた。親切な商隊だった。
俺らは、そこで馬車を降りた。
ここからは徒歩になる。
山の麓から荒れた地面が砂になっていく。ただ歩くだけでも辛いが砂に足が取られる。
しかも想像以上に進まない。背後を振り返ってもまだ山の麓だ。
昼間の気温も山とは比べ物にならないくらい暑い。
すぐに皆がへばり出す。
「砂漠の国を目指すのは無理じゃないか?」
「元の世界に戻りたい」
「でもあの国に戻っても私達はもう城には近づけないのよ」
「違う、元の国。日本、自分のうちに帰りたい」
皆の足は止まり、誰もが俯いて足元を見たまま動かなくなった。正直、後悔している。あの国、アンブリアの市場でも親切にしてもらった。ここまで連れてきてくれた商隊も親切だった。
俺らが甘かっただけだ。『もっと待遇の良い場所』に。
そんなものは無いのに。
「どこか、安全なとこで暮らす……とか、どうかな。もう砂漠は諦めようぜ」
「何でディサートを目指そうって思ったかな。そこでも私達を受け入れてもらえる保証もないのに」
「でもさ、ディサートは、俺たちみたいに異世界から召喚したって聞いた。少なくとも、俺たち五中以外の日本人がそこにはいるかもしれないじゃん」
「ディサートが良い国で俺らの事も助けてくれるかもしれない」
「逆に、悪い国の場合もあるかも」
「うーん、どんな国かは行ってみないとわからない。行ってみてヤバかったら、その時は戻ろう」
「だから、それ以前に砂漠の中をこれ以上進んでディサートに辿り着けるかって問題だよ。生きて辿り着けるか?」
「そうね。でもどっちにしろ、どこかでとりあえず生きていかないと」
「けど、あの砂漠を越えて行くのか。方角しかわからないんだぜ? 地図もコンパスもない。乗り物もない。水と食いもんもそれほどない」
「女子佐藤、食料はどれくらいある?」
「うーん、3日分くらいかな。私の収納ポーチ、容量少ないからなぁ」
「佐藤……女子佐藤が収納スキル取れてて助かったよ」
「だよな、俺なんて解呪だぜ? アニメなら活躍出来そうだけどなぁ」
「金井が解呪、俺が生産の採取なんたらで、高橋も生産だけど、何だっけ?」
「俺の生産は狩猟だった。やったこと無いけどな」
「で、斉藤さんも生産だけど変わったやつだよな?」
「うん。あたしの生産は養殖養蜂飼育だった」
「斉藤さんの生産が洋食だったら良かったのに。ハンバーグ定食とかカレーとかさ」
「てか、養殖スキルってどう使うんだろうね?」
「わかんないしー。養蜂もわかんない。飼育は、動物園?」
「俺ら完全に余り物をよこされたからなぁ」
「貰えただけ良かったよ。中島達が複数取ろうとしたのを委員長が止めてくれたから全員貰えたけどさ」
「委員長達どうしてるだろう」
「お貴族様の館で毎日ご馳走食って生きてるだろうさ。結局こっちの世界に来た後は、強いスキル持ってるやつらが優遇されて、俺らはカーストの最下層だし」
「無理すぎだよなぁ」
「言葉が通じたのは唯一助かったけど、仕事とかお金稼ぐの本当大変すぎる」
「子供だから賃金が安いのかな? 成人したら時給上がるの?」
「とりあえず今夜はここらで過ごそう。どうするかは明日決めようぜ」
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朝。
「で、どうする?」
「食料は残り3日分か」
「今朝食べたから残り8食分くらいかな」
「ディサートに向かって砂漠を進むか、山の麓のどっかの村に住まわせてもらうか、それともアンブリアに戻るか」
「アンブリア……は、無しだな。遠すぎる。戻るならどこかで商隊の馬車を捕まえないと」
「ディサートだってもっと遠いかもしれないぞ? そもそも徒歩で行けるのか?」
「でもさぁ、山の麓のどこかの村って言っても、どっちに行けばあるのかわからないし、彷徨ってるうちに食料無くなっちゃうんじゃない?」
「俺たち、詰んでる?」
「せめて地図は入手してから国を出ればよかったな。今更だけどな」
「一旦、アンブリア戻る? 戻って地図と食料を手に入れる?」
「また一からお金の貯め直しかぁ」
「委員長んとこ訪ねて何とか頼めないかな」
「それ、いいじゃん! そうしよ? いいんちょならお金貸してくれるっしょ」
「それ以前に貴族街に入れない」
「そうなん?」
「入れなかった。手前で武器持った強そうなやつが立ってて睨まれた」
「ええー。俺ら、四面楚歌」
「だな。八方塞がり」
「万事休す」
「進退窮まる」
「え、何? アタシ、四文字熟語、得意じゃないんだけど?」
「いや、四文字だったのは四面楚歌だけだから」
「あ! 焼肉定食」
「あー、肉、食いてえぇぇ」




