105話 山へ
麗朋の生徒25人は無事に帰還した。
出来たかどうかはこっちの世界にいる僕たちにはわからないけれど、とりあえず森の中にあったストーンヘンジから25人は消えた。
戻れたと信じたい。じゃないと先に戻ったイチクミのみんなが戻れていない事になっちゃう。
イチクミのみんなは今頃コンビニアイスを食べていると信じている。
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僕らはフォレスタを出る事になった。
「残る召喚国は、アンブリアとディサートか」
地図と睨めっこしているタガセンの眉間に皺が寄っている。
山岳地帯のアンブリア国と砂漠地帯のディサート国。どちらも辿り着くのが容易ではない。
ディサート国は山脈と平原の間に広がる広大な砂漠の中のどこかにある。
アンブリア国はそのディサートの向こう側、山脈を越える必要があるらしい。
アンブリアを訪ねるならディサートを突っ切るか迂回する必要がある。
まずはディサート国を訪ねて、それからアンブリア国へ行くのが地理的には理にかなっている。
けれどそうした場合、僕らはディサートで帰還が出来てしまうかもしれない。
もちろん、帰還出来ない可能性もあるけど。
僕らがディサートで帰還をする、それはアンブリアへは行かないと言う事だ。
アンブリアに召喚された中学はもう帰還しただろうか?
これまでの事を考えると、おそらく帰還は出来ていない可能性の方がダントツに高いとタガセンは考えている。
つまり、僕らがディサートで帰還した場合、アンブリアの召喚された中学はそのままこの世界に置き去りになる、とタガセンは思っている。
それに蒼井君達から聞いた話からも、ディサートは危険な国だ。
もちろんアンブリアがどんな国かはわからない。
けれどタガセンはディサートを迂回してアンブリア国を先に訪れる事を主張した。
「…………そうですな。……それが、いいかもしれん」
高田の爺ちゃんも渋々だけど『ディサート迂回、アンブリア訪問』に同意をした。
僕らは森をひたすら西へと移動した。
無理をしない移動なので、ゆっくりと進んでいく。2週間ほど経った頃、樹々が途切れ始める。そして大地が見えてきた。
森を背に、目の前の大地の遥か向こうが砂漠なんだって。遠すぎてよくわからない。
右手側は高い山々が連なっている。
「これは、どちらに進むにしても難儀しそうですな」
「そうだな。砂漠を進む事が出来る従魔、それと山を越えられる従魔もテイムする必要があるな」
もしかして、マイキーやティラとはお別れになっちゃうのかな。
ティラの山登りは辛そうだもんね。僕も山登りはちょっと……。
登山電車とか走ってないかなぁ。
「暫くは、森と大地、砂漠に入るギリギリを移動する」
僕は森で果物や木の実をもっと摂ってきたいと、タガセンにお願いした。
だって、前方の大地は、食べ物が採れそうにないんだもん。川とかあるのかな。水も沢山汲んでおきたい。
「水樽も必要じゃのう」
爺ちゃんも同じ事を考えていたみたい。
-----(五中、滝田視点)-----
埼玉県さいたま市立第五中学校、2年3組男子13名女子12名。
2年が始まったばかりの新学期に、教室から突然異世界へとやってきた。
俺らは途中、白い部屋で宝箱に入ったスクロールを発見した。
俺以外にもゲームに詳しいやつは、ソレが何かを何となく理解した。
あの時はまだクラスが揉めていなかった。
だから25本あったそのスクロールも、全員に一本ずつ公平に分配された。
ただ少しだけ揉めた。
それはスクロールに書かれた、たぶんスキルと思われる文言だ。
ゲーム経験者は欲しい物を取ったけど、他の生徒は適当に取るしかない。
俺は、『亜空間倉庫』を取った。欲しいのが幾つかあって悩んだが、これが夢だとしても、もしもゲームのような世界へ連れて行かれるのだとしたら、インベントリやアイテムボックスは絶対に有効だ。
それに魔法や剣を取っても、自分が前に出て戦いたいとは思えないからだ。
コレを欲しがるやつが他にはいなかったので問題なくゲット出来た。
そんなこんなで全員がひとつずつスクロールを取り、ソレを開いてスキル修得をした後、次の世界へと俺らは踏み出した。
俺たちは、アンブリアという国に召喚をされたらしい。
アンブリア国は山岳地帯にある国で、周りを山で囲まれていた。切り立った山だが樹々も生い茂り、迷ったら生きて戻れなそうだ。
その上、森には魔物がいるそうだ。
魔物は昔からいたのだけど、それが最近増えてきて国でも手を焼き始めている。
『召喚』を行なった理由がソレだ。
他所の世界から来た有用なスキルを所持した異世界人、彼ら(俺らの事だが)に増えた魔物をどうにかしてもらうつもりだったそうだ。
ちなみに、アンブリア国は魔力持ちが少ない武術特化の国。
だが、召喚人は総じて魔力が多く、スキルも多岐にわたると伝わっていたそうだ。
召喚は百年ぶりらしい。かなり期待していると言われた。
いや、無理だよな?
スキルは貰ったよ? ここに召喚される前にさ。
けど殆どが戦闘素人だぞ?
殆どではない。全員が、素人だ。
いくらゲームをやり込んでいても、本物の戦闘はゼロカウントなんだよ! 俺ら平和な日本人だから!
しばらくはクラス全員が一緒に城の離れのような建物で暮らしていた。
最初はこの世界の魔物について学んだり、基礎訓練みたいな事をしていた。
そのうちに、俺たちのスキルを理解したのか、別な場所へと連れて行かれるやつが徐々に出始めた。
魔術の、しかも攻撃系のスキルを選んだやつらから抜けていく。
聞けば、抜けたやつは王家や貴族に召し抱えられたらしい。
その頃はまだ訓練で会う機会もあった。ただ、会うたびに贅沢な暮らしを自慢された。
クラスにカーストが生まれた。
王族貴族に召し抱えられて豪勢な暮らしをする生徒と、いつまで待ってもどこからも召し抱えが来ない生徒。
全員がスキルを持っていても、必要としないスキルを所持している者は無視をされた。
無視は、俺らが住んでいる建物で働いていた人達からだ。
最初に、今までは自由に使わせてもらっていたこの世界の服が洗濯後に戻ってこなくなった。
替えの服が無くなると着たきりになるしかない。汚れてもそのままだ。
「あの、前は洗濯をしてもらってたんですが、洗ったのが見つからなくて。置き場所、変わりました?」
「着るもんがあるだけでも感謝しな」
風呂場の使用も禁止になった。
「今の時期は十分あったかいだろ! 川で洗いな!」
それから食事が1日3食から2食へ、やがて1食になった。
お腹が空いて動きたくない。次第に訓練に出なくなる者も増えた。
貴族の家に住んでいるクラスメイトに食料を分けてもらおうと訓練場に行った。
けれど、そこで待っていたのは俺らを蔑んだ目で見る、元クラスメイトだった。
「所詮、クラスなんて他人の集まりだ。アイツらに頼った俺がバカだった」
「なぁ、ここを……出ないか?」
「行く当てなんてないのに?」
「ここならまだ寝れる場所もあるし、一食だけど食事も出るわよ」
「どうかな」
何となくだが、そう遠くない未来、食事も出なくなり寝場所も追い出される気がする。
「俺は、街へ出てそこで仕事探す。どこかで住み込みの仕事があれば……」
「俺も行く」
「一緒に行っていい?」
貴族に抱え上げられなかった『いらないスキル』を持った俺らは、その日、城の離れを後にした。
門を抜ける時も兵士は居たが、誰からも止められなかった。それどころか、声ひとつかけられず、俺らは城を出た。




