6 霊薬草
「あぁ、そうだ。シーナの言う通りにしてきた」
「値下げ交渉の件も?」
「ばっちり。忘れかけたけど」
「危なっかしいわね。じゃあ、あとはあんたが作った聖石の品質と向こうの出方次第ね。上手く行けば一つの資金源になるわよ」
「よっ! 商いの娘」
「止めなさいよ。まだ何も決まってないんだから」
助言がなければまだ右往左往していたことだろう。
シーナの気分がいい時に連絡が出来て幸運だった。
「ここに神殿をねぇ」
「やっぱり厳しいか?」
「契約者があんた一人じゃね。とはいえ、神殿もない神獣の契約者になろうだなんて物好きはいないでしょうし、じっくり時間を掛けていくしかないわ。あんたみたいなのが他にもいれば話は別だけど」
「そう言えば俺のほかにも追放になった奴がいたよな? なにしてんだろ」
「さぁね。田舎に帰ったんじゃない? もしくはきっぱり諦めて別の道に進んだか」
「この道にしがみつけてありがたいな」
まだギリギリのところで踏ん張られている。
これもまた幸運なことだ。
俺は恵まれてる。
「とにかく、金よ金。神殿を建てられるだけの金を稼ぐの。今のあんたの信用じゃ金を借りることも出来ないし、ローンなんて組めたもんじゃないんだから」
「だよなぁ。建築費も出来るだけ安くしたいし……そうだ、神殿の材料は普通の石材にしてもらおう」
「は? それじゃ神殿の機能をまるで果たせないじゃない」
「大丈夫。ここ聖域だし、置いておけばそのうち聖石になるって」
「え?」
「ん?」
「あんた、いま聖域って言った?」
「言った」
「どこが?」
「ここが」
「なんで?」
「不浄を浄化した時に勢い余って」
「はぁあぁぁあああ!?」
神狼が耳を畳むほどの声量が聖域に響く。
「なんっでそんな大事なこと言わないのよ!」
「言ってなかったっけ?」
「言ってないわよ、バカ! ここが聖域? 嘘でしょ。じゃあ――待って、なら、あの雑草って――」
隅に除けておいた雑草の塊に近づいていく背中を追い掛ける。
雑草の一つを手に取りじっと眺めたシーナは突然立ち上がってこちらに向き直った。
「これ霊薬草だわ」
「れいやく……聖地にしか生えない超希少な、あの?」
「その霊薬草。ここにあるの全部そう」
「……マジ?」
「マジ」
二人の間に沈黙が流れる。
「どどど、どうしよう! 滅茶苦茶雑に抜いちゃったけど!」
「だ、大丈夫よ。ちょっと潰れたり千切れたりしてダメになってる奴もあるけど」
「迂闊だった!」
そんな希少なものだとは思わなかった。
まさか霊薬草だなんて。
知ってたら土を掘り返して丁寧に抜いたのに。
「でも、そんなに貴重な物なら高値がつくよな?」
「そりゃここにある分だけでも札束の小山が出来るくらいには」
「よっしゃ! これで神殿を建てられるぞ!」
これで金の目処がついた。
神殿を建てられればレベルの上限は突破できるし、これでようやく他の契約者を募れる。
規模はまだそれほど大きくないけど、来てくれる人はいるはずだ。
「じゃあ、早速これを街に持っていって」
「待った」
シーナは難しい顔をしていた。
「霊薬草を売って資金にするのは良いわ。あたしだってそうする。でも、肝心なのはその後よ。あんたどうする気?」
「どうって建築士のところへ言って神殿を建ててもらう」
「はい、おバカ」
「おバカ!?」
「資金が出来たらまず何よりも先に聖域の警備を固めんのよ。超希少な霊薬草が大量に出回ったら産地を突き止められるのは時間の問題でしょ。そしたらどうなると思う?」
「……そうか、泥棒」
「そうよ。警備会社と契約して聖域を守らなきゃ。防犯結界に警備用と監視用の人造ゴーレム、魔法罠も張って。あぁ、そうだ。聖域の正確な面積も調べないと」
「ま、待ってくれ。えーっと」
「それにあんた街のどこで霊薬草を売るつもり? 質の悪いところに持ち込んだら大損だし、食い物にされて終わりよ」
「あー……」
自分がいかに考えなしかを思い知る。
目の前の霊薬草に浮かれて、その後になにが起こるかなんて想像もしなかった。
もっと慎重に物事を考えて先を見とおさないと。
「まったく! しようがないわね」
「シーナ?」
「いま言ったこと全部あたしが何とかして上げるわ。うちの両親が関わってる一流の警備会社だから安心しなさい」
「マジ!?」
「その代わり」
「その代わりと来たか」
なにを要求される?
「こっちの要求は霊薬草の独占契約。つまりあたしのところ以外に売るなってこと」
「そんなことでいいの?」
「いいの? はこっちの台詞! さっきも言ったけど、あんたちゃんと考えてんの!?」
「考えたよ。俺の答えはシーナの言うことなら間違いない、だ」
「……バカ。人を簡単に信じ過ぎなのよ」
呆れ返ったのか、そっぽを向かれてしまった。
俺なりに考えた結果なんだけどな。
「商談成立ってことでいいのか?」
「この場の口約束ではね。あたしはこれから街に帰って両親にこのことを話してくるから、戻ってくるまでどことも契約しないこと! いいわね」
「了解」
そう返事をするとシーナは携帯端末で両親と連絡を取りつつ、霊薬草を一束持ってこの場を後にした。
歯車が噛み合い、何かが動き出したのを感じる。
俺が思っていた以上に早く、神殿は建てられるかも知れない。
なんだかそわそわしてしまうけれど、今はシーナの報告を待とう。
「良い草なんだってさ」
「草はいらぬ」
相変わらず神狼には不評なようだった。
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