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91.価値が分かる女!

 翌朝。

 私が目を覚ますと、アデラもエルマも、既に起きていて、二人して私のために朝食の支度をしてくれていて、美味しそうな匂いが部屋中に……。

 なんてことは無かったよ。



 最初に起きたのは私。

 アデラもエルマも、まだベッドの中で眠っていたよ。


 まあ、シルリア世界でも、フユミとフルフラールが起きてくるのは私が朝食の準備を終えてからだったし、その前にいたバージェス世界でも、ナツミもハルもギリギリまで寝ていたからね。

 なので、私からすれば、よくある光景だ。



 私は顔を洗った後、

「出ろ!」

 テーブルの上に朝食を用意した。まあ、二人共、私よりは食べるけど、ナツミとかフユミほどは食べないかな?


 もっとも、ナツミもフユミも……あとハルも胃袋が別格だけどね。彼女達は、完全なる食欲魔人だから。



 早速、匂いにつられてエルマが目を覚ました。

 年相応な反応って感じがするよ。


「ご主人様、おはようございます!」

「おはよう!」

「美味しそうな匂いです。食べても宜しいんですか?」

「うん。たくさん食べてね。足りなければ、いくらでも出せるから!」

「ありがとうございます!」


 屈託の無い笑顔だ。

 なんだか、元気を分けてもらった気がする。


 すると、私とエルマの声を聞いてアデラが目を覚ましたんだけど、

「ラヤ様。申し訳ございません。ラヤ様よりも遅く起きるとは、何たる不覚。それに、ラヤ様に朝食の準備までさせてしまって」

 アデラはベッドから飛び起きると、急に私の前で土下座し始めたよ。


 別に、私は責めるつもりなんか無いんだけど、やっぱりアデラとしては、奴隷としての立場ってモノがあるんだろうね。

 あんまり気にしないで欲しいんだけどな……。


「もう。アデラ、顔を上げて」

「そう仰いましても……」

「朝食の支度って言っても、ほら、私の場合は言葉一つで出せるから、料理とかしたわけじゃないし、それに、そもそも食材だって用意していないから、アデラに料理をしてもらうことだって出来ないし」

「しかし、ラヤ様を守るべき立場なのに、ぐっすり寝てしまうとは」

「でも、寝なきゃ、次の日に起きられないでしょ?」

「ですが……」

「それに、私は結界魔法が使えるし」

「えっ?」


 やっぱり全然気付いていなかったんだね。

 多分、それだけ私を守ろうって気を張っていたんだろう。

 結果的に寝ちゃったけど……。


「実は、昨夜から思い切り強力な結界を張っているから、余程の魔法が使える者でないと、この部屋には侵入できないようになっているんだけど」

「そうだったんですか?」

「なので、そんなに自分を責めないで。」

「でも、それでは護衛する意味は?」

「夜間は基本的に不要かな。だから、寝る時はキチンと寝て頂戴ね。でも、日中は結界を張ったまま外出するとかは無いだろうし、護衛はしてもらうつもりだよ。なので、昼間はお願いね」

「分かりました」

「じゃあ、一緒に朝食を食べましょう」

「ありがとうございます」


 なんか、堅苦しい武士を相手にしているみたい。

 アデラには、もうちょっと肩の力を抜いて欲しいなぁ。

 たしかに、彼女の立場を考えたら気持ちは分からなくも無いんだけどね。


「それから、服も新しいのを出すから、それに着替えて」

「そんな、私共に新しい服なんて贅沢です」

「ええとね、私が恥ずかしいから着替えて。あと、下着も出すから」

「わ……分かりました」

「じゃあ、こんなのでどうかな? 出ろ!」


 私は、二人に似合いそうな服と、まあ、適当な下着を物質創製魔法で出した。

 本当に、便利な魔法を与えてくださって女神様達には感謝しております。



 服が出てきたのを見て、アデラは、

「食料だけではなかったんですね」

 と言いながら驚いていたよ。


 一方のエルマは、

「嬉しいです! ご主人様、ありがとうございます!」

 素直に喜んでくれた。



 朝食後、私達は急いでチェックアウトした。

 そして、この街ヘリコプリオンの十数キロ西側に位置するウェイゲルティ地区に向けて出発することにした。


 そこには、ダンジョンが群生(?)していて、初級ダンジョンから上級ダンジョンまで揃っているらしい。


 歩いたら結構大変な距離だけど、一応、ヘリコプリオンからはウェイゲルティ地区行きの定期馬車が出ている。

 私達は、それに乗って移動した。



 ただ、アデラもエルマも、馬車の中では辛そうな顔をしていた。

 もしかすると落石事故の件が心的障害になっているのかも知れないなぁ。


 上位治癒魔法でも心的障害を治すことは出来ないってことか。

 移動手段を考えてあげないとイケナイかな?


 でも、今のところギリギリ何とか耐えられているし、他に移動手段が無いし、申し訳ないけど今だけは我慢してもらおう。



 一時間ちょっとかかったけど、ウェイゲルティ地区に到着した。歩くと、かかる時間は三倍くらいになると思うし、これだけ歩いたら結構疲れるもんね。

 でも、二人のためには徒歩の方がイイかも知れないなぁ。


 一先ず、二人が落ち着くまで……大体三十分くらいかかったけど……休憩した。

 こんな状態でダンジョンに入るなんて自殺行為だからね。


「大丈夫?」

「はい。心配かけて済みません」

「じゃあ、昨日言った武器を出してあげる」

「ありがとうございます」

「アデラは、どんな武器がイイの?」

「以前は、刃の部分が私の背丈の八割くらいの長さの剣を使っていました」

「結構長い剣ね」

「はい。しかし、それくらいのモノが使い慣れておりますので」

「了解。それからエルマは、どんな武器がイイ?」

「私は、自分の腕1.5の倍くらいの長さで軽いのがイイです!」

「ええと、じゃあ、ちょっと出してみるね。さすがにエクスカリバーは出せないけど。イメージして、ええと……出ろ!」


 一先ず私は、それっぽい剣と軽量の防具を、物質創製魔法でアデラとエルマの目の前に出した。

 万が一、出せなかったらどうしようって思っていたけど、出せて良かった。

 もっとも、バージェス世界にいた頃に、兵器でなければ出せるってことは立証していたから、出せないはずは無いとは思っていたんだけどね。


 アデラとエルマが、剣を拾い上げた。

 それにしても、アデラは剣を持つのが絵になっているなぁ。元々、侯爵家に仕えていた騎士だからね。

 サマになっている。



 でも、アデラの剣って、結構大きいよね?

 ナツミに渡したモノほどは大きくないけど。

 それを軽々と振り回しているよ。


 相当、力があるんだね。

 私には絶対にあんな風には使いこなせないよ。


「思ったよりも軽いですね」

「そ……そう?」

「私が以前、使っていたものよりも数段軽いと思います。しかし、しばらく鍛錬をしておりませんでしたので筋力も落ちていますし、これくらいが、むしろ今の自分には丁度良い重さだと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 でも、私の上位治癒魔法で完全回復しているから、元の筋力は取り戻せているはずなんだけどね。

 実際に戦ってみたら本人も分かると思うよ。

 完全復活しているって。


「ただ、これって、もしかしてミスリル製ではありませんか?」

「そうだよ。さすが、良く分かったね」


 ちなみに、今の私は、オリハルコンは出せないけど、ミスリルなら出せる。

 物質創製魔法が使えても、自分でイメージできるモノじゃないと出せないって制限があるんだけどさ。

 ただ、ミスリルは手にしたことがあるから、私にはイメージできるんだ。


 実は、イリヤ王子が私にくれた指輪の台座がミスリルだったんだよ。

 もらった時は知らなかったけど、後から教えてもらってね。

 たしかに、魔石の台座だから、ミスリルとかじゃないと素材として不十分ってのがあるのかも知れないけどね。

 ちなみに、オリハルコンは手にしたことが無いからイメージできないんだ。


 あと、実は、ナツミにあげた剣もミスリル製だったんだけど、ナツミの場合は異世界モノに疎かったからね。

 全然気付いてもらえなかったよ。


 そもそも、ナツミは、ミスリルって単語自体を知らない可能性が高いけど……。

 だから、何の反応も示さなかったのかも知れないし、別に、こっちも説明するのが面倒だったから何も言わなかったけどね。

 ギルドの連中も、まさか身近なところにミスリル製の剣があるとは思っていなかったみたいだし。



 でも、さすがアデラは異世界の女騎士だよ。

 良く分かっている。


 やっと価値が分かる女性に巡り合えたって感じかな?

 気付いてくれてありがとう!

 私も嬉しいよ!


「しかも、私の剣だけじゃなくてエルマの剣も……。それに、この防具も両方ともミスリル製ですか?」

「うん」

「奴隷の私達にミスリル製など、勿体ないです。資源の無駄使いです」

「でも、折角ならイイものを揃えたいじゃない? 命を守るモノでもあるし。なので、使ってよ、それ。もう出しちゃったし、捨てるのも勿体ないし」

「ありがとうございます。何から何まで」


 アデラは、本当に感激しているっぽい。

 一方のエルマも、ミスリル製の価値を分かっているようだね。


「貴重な武器をありがとうございます。どんなことがあっても、精一杯、ご主人様をお守り致します!」


 それに、エルマも本当に喜んでいるみたいだ。

 彼女の笑顔がマジでまぶしいよ。



 そう言えば、今回は全部ミスリル製にしたけど、他の異世界に、ミスリルやオリハルコンを凌駕する凄い鉱石があるらしい。

 だしか、ダゴッデサイトって名前だったかな?

 地球で例えるなら、ダイヤモンドよりも堅いって言われるロンズデーライトとかウルツァイト、カルメルタザイトの立ち位置だろう。

 しかも、ダゴッデサイトはダイヤモンドとは違って衝撃にもかなり強いそうだ。


 ダゴッデサイトは、『Da』+『Goddess』+『ite』なんだと思う。

 ここで、『Da』は『The』を意味するスラング、『ite』は石を意味する接尾語となる。

 つまり、『ザ・女神石』ってことみたいなんだけどさ……。

 ただ、『ザ』じゃなくて『ダ』だからね。

 どうしても『ダ女神石』って思っちゃうんだけど?


 多分、そう思うのは私だけじゃないよね?

 別にどうでもイイ話だけどさ。



 早速、二人が防具を身に着けた。

 そして、いよいよダンジョンに入ろうと思ったんだけど、そうしたら、アデラが、

「失礼ですが、ラヤ様の武器と防具は?」

 と私に聞いて来た。


「私は不要だけど?」

「わ……分かりました。必ずや、ラヤ様をお守り致します」


 なんか、妙にアデラの気合いが入っているよ。

 もしかすると、ちょっとアデラは勘違いしているかも知れないなぁ。


 私が自分の分の武器も防具も出さなかったのを、二人に守ってもらうからって思っているような気がする。

 別にイイけど!



 まあ、今回は、飽くまでもアデラとエルマのレベルを測るのが私の目的だからね。

 一応、二人のステータス画面を覗いた限り、初級ってことは無い。


 特にアデラは侯爵に抱えられていた騎士だからね。

 上級ダンジョンに行っても何ら問題ないレベルだ。



 エルマも、ダークエルフだけあって戦闘力のレベルが高い。

 彼女も多分、上級ダンジョンで問題無いだろう。

 もっとも、万が一のことがあっても、生きてくれてさえいれば、私の上位治癒魔法で治せるし。



 取り敢えず、私達三人は上級ダンジョンに入って行った。

 初級~中級のダンジョンでムリに時間を潰す必要も無いからね。


 事前にチャットボット機能で確認しておいたけど、この世界のダンジョンには、ゴブリンとかオーク、オーガと言った、いわゆる定番の魔物はいない。


 そもそも、この世界にはゴブリンもオークもオーガも……残念なことにスライムすら存在しない。

 ダンジョンの中にいるのは、基本的に虫から進化した魔物だけらしい。



 それから、魔獣として街を襲ってくるのは哺乳類や爬虫類から進化した輩とのことだ。

 この世界でもカワイイスライムが見られると期待していたんだけど、ちょっと残念だ。



 先ず私は、

「探査魔法発動!」

 ダンジョン内のトラップの確認を行った。


 ただ、カルボニフェラス世界で入ったダンジョンとは違ってトラップは無いっぽい。

 でも、いきなりだけど大量の何かが、もの凄いスピードでこっちに迫って来ていた。


「何か来る!」


 こう私が口にした数秒後のことだ。

 ブーンと言う音が聞こえて来た。


 そして、そのさらに数秒後、その音の主が私達の前に姿を現した。

 蜂型の魔物だ。

 どうやら侵入者排除のために、団体でお出迎えに来てくれたようだ。


 しかも、サイズが普通じゃない。蜂のくせに頭の先から尾の先までの長さが三十センチくらいあったよ。

 加えて、尾からは毒針を出していた。

 完全に戦う気マンマンってとこだね。



 先陣切って飛び出したのはアデラ。

 迫り来る蜂の魔物を次から次へと斬り落としていった。

 さすが騎士が専門職なだけはある。


 一方のエルマは、私の少し手前で待機していた。

 そして、アデラが取りこぼした魔物を退治する。

 私のところまで魔物が来ないようにってことだろう。



 それにしても、二人共、もの凄い身体能力だ。

 奴隷にされたのも、本当に人生の巡り合わせが悪かったからなんだろう。

 立場的問題とか……。

 これだけの力があったら、普通なら奴隷にされる前に逃げられたはずだもん。



 とんでもない数の蜂型魔物がいたはずだったけど、二人の活躍で、あっと言う間に一掃された。


 そして、蜂型魔物の死体がドロップアイテム化して、次々と銀貨に姿を変えて行った。

 銀貨一枚が100TEN……つまり千円くらいの価値だけど、もの凄い数だ。


 一先ず、私達三人で手分けして銀貨を拾い、それらを一旦、私のアイテムボックスの中に収納した。



 先に進んで行くと、今度は体長三メートルくらいのムカデ型魔物と遭遇した。

 ここでもアデラが先陣切って突撃していった。

 騎士としての使命感が強いんだろうな。


 エルマは、万が一に備えて私の前に立つ。

 主人(私)を守護するためだ。



 今回は、巨大ムカデは一匹だけだったけど、これが何匹もウジャウジャいたら気持ち悪いな。

 想像したらマジで吐き気がしてきたよ。


 それで私は、ついその場に座り込んでしまった。

 これは、変なことを考えてしまった私が悪い。



 ただ、この様子が視界に入ったんだろう。

「ラヤ様、大丈夫ですか!?」

 アデラが私に向かってそう叫んだ。


 勿論、この時、アデラは私の方を振り返っていたからね。ムカデ型魔物から視線を逸らすことになった。

 この隙を狙ったかの如く、ムカデ型魔物がアデラの足に噛み付いた。


「痛っ!」


 マズい!

 ムカデの進化系だからね。

 当然、猛毒を持っているはずだ。

 急いで手当てしないとヤバい。



 すると、今度はエルマがムカデ型魔物に向けて斬りかかって行った。

 もの凄いダッシュ力だ!


 そして、見事に頭部を切断。

 これでムカデ型魔物は退治できた。

 もしかして、移動スピードだけならアデラよりもエルマの方が上では?



 ただ、今回、アデラが魔物に噛まれたのは、完全に私のせいだ。

 結果的に、私が二人の足を引っ張っちゃったな。


 私は、

「ゴメンね、私のせいで」

 アデラに謝ると、

上位治癒魔法発動エクスヒール!」

 すぐに彼女の足を治療した。


 もっとも、アデラは、

「謝らないでください。私が目を逸らしたのが悪いんですから」

 って言って、私を責めるようなことはしなかったけどね。



 でも、もし私が治癒魔法を使えなかったら、アデラはここで死んでいたかも知れないもんね。

 私もしっかりしないとイケないな。

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