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90.やっぱりお腹がすいているよね?

「ご主人様。まさか、一瞬で身体を元通りに戻していただけるなんて奇跡としか言いようがありません。どうお礼を申し上げて良いか分かりません」


 こう言ったのはアデラ。

 ムチャクチャ堅苦しいな。


 一方のエルマは、

「本当にありがとうございます、ご主人様!」

 そう言いながら私に抱き付いて来たよ。

 年相応の反応かな?


「ええと、アデラとエルマにお願いがあるんだけど」

「何でしょう?」

「ご主人様ってのは、ちょっと……。私の名前はラヤって言うの。なので、ラヤって呼んでもらいたいんだけど」

「いえいえ、そんな滅相もございません」

「でも、ご主人様って言うのは呼ばれ慣れていなくて、正直、むず痒いって言うか……」

「で……では、ラヤ様で」


 一先ず、アデラはご主人様と呼ぶのをやめてくれるようだ。

 様付けだけど。


 でも、エルマは、

「では、女神様で」

 って、余計に呼び名がランクアップしているんですけど?


「さすがに女神様は、ちょっと」

「だったら、ご主人様はご主人様で!」


 エルマは、そう言いながら喜び溢れる笑顔を見せていた。

 結局、エルマは、ご主人様と呼ぶのをやめてくれないっぽい。


 身体を元通りに戻してもらえたのが、余程嬉しかったんだろうね。

 なんだか、全身から私を崇拝するオーラが出ているよ。

 一先ず、ご主人様で妥協しておかないと、とんでもないことになりそうだ。



 少し間をおいて、

「グー」

 エルマのお腹が鳴った。

 そう言えば、二人共、ロクに食べていないんだっけ?


 と言う訳で、

「出ろ!」

 私は、毎度の如く、物質創製魔法食料バージョンを発動して、テーブルの上に具沢山のビーフシチューとパン、それからオレンジジュース入りのコップを人数分出した。


 そして、

「二人共、これを食べて」

 って言ったんだけど、すると、

「そんな贅沢なモノ、いただけません!」

「私もです! それに奴隷がご主人様と一緒のテーブルを囲むなんて、あってはならないことだと思います!」

 二人共、もの凄く遠慮していたよ。

 むしろ拒絶に近いかも……。


 普通は、食べ物が出てきたことに驚くんだけど、それよりも、

『奴隷には贅沢な食べ物!』

 とか、

『奴隷は主人と同じテーブルで食べてはいけない!』

 とか、そう言った思考の方が先だったみたいだ。



 でもね、私は二人のことを奴隷だなんて思っていないんだよ。

 理由とか過程はともかくとして、この世界で私と一緒に生きる仲間として選んだんだ。

 当然、友達感覚で行きたい。


「三人で楽しく食べよう。それに、折角出したんだし、捨てるのは勿体ないでしょ? それから、私一人じゃ、こんなに沢山食べられないし」

「しかし、ラヤ様」

「じゃあ、命令です。私と一緒に同じテーブルで食べなさい」

「……わ……分かりました」


 やっぱり、奴隷である以上、命令には逆らえないってことだ。

 一先ず二人共、テーブルについてくれた。


「では、いただきます」

 そして、食べ始めたんだけど……、二人共、シチューをスプーン一杯分、口に運んだ直後、急に強く目を瞑ると同時に身体の動きが止まってしまった。


 私が、

「どうしたの?」

 と聞くと、

「こんなに美味しい食事は久しぶりで、感動して……」

 と答えながら、再び二人の目からは涙が溢れ出て来た。


 奴隷として訳アリ品だったからね。

 今まで、本当にヒドイ扱いを受けて来たんだろう。

 食事すら十分に与えられていなかったことが、完全に証明されたようなものだ。



 少し時間がかかったけど、アデラもエルマもパンとシチューを食べ終わった。

 二人共、一口一口、ゆっくり味わって食べていた感じだ。


 かなり空腹だったようだし、本当は、一気に流し込むようにしてガツガツ食べてしまいたいところだったと思う。

 私が出したシチューは、グツグツ煮立った状態じゃなくて、程良い温度になっていたからね。


 でも、奴隷である手前、一応主人である私の前でみっともないマネは出来ないって思ってペースをセーブしていたんだろうなぁ。

 多分、私だったら、そこまで気が回らずに一気食いしていると思うよ。



 私は、これでお腹いっぱいだったんだけど、なんだかアデラもエルマも、少し物足りなさそうに見えた。


「もう少し何か食べる?」

 と私が聞くと、

「いえ、あの、別に……」

 そう言ってアデラは視線をそらしながら誤魔化していた。


 一方のエルマは、何も言わずに俯いて黙っていたけど、見ていてマジで我慢しているのが良く分かるよ。


 と言う訳で、

「出ろ!」

 私は、大きなシュークリームを二つ出した。


「二人共、これを食べて」

「しかし、私は……」

「イイから食べて」

「ラヤ様の分は?」

「私は、もうお腹いっぱいで……。とにかく、キチンと栄養を付けてもらわないとね。二人には私と一緒に旅をしてもらうんだから。途中で倒れられても困るってこと!」

「わ……分かりました。では、いただきます。ただ……」

「ただ?」

「旅と仰いましたが、どのような旅でしょうか?」

「魔獣討伐」

「魔獣?」

「まあ、どの程度のことが私達にできるかは、明日、ダンジョンにでも行ってチェックしたいと思っているよ。レベルを超えたことはさせないから安心して」


 ただ、ダンジョンと聞いて、急にアデラとエルマの目から、せっかく取り戻した明るさが消えた。

 いったい、どうしたんだろう?


「やっぱり……。では、そこで私達は殺されるのですね?」

「へっ? どうして、そんな話になるの? 殺すくらいなら治療しないけど?」

「たしかに、そうかも知れませんが……。ただ、ダンジョンは特殊空間で、ダンジョン内で死んだ生き物は、全てドロップアイテムとして宝石や貨幣に姿を変えます。それは、人間やダークエルフも例外ではありません。」


 えっ? そうだったんだ!

 初めて知ったよ!

 この世界のダンジョンは、人間だろうと何だろうと、生きているモノは全てドロップアイテムにされちゃうんだ!

 それで、誤解しちゃったってことか。


「私が二人を安く買って、ダンジョン内でドロップアイテムにして儲けようとか考えていると思ったわけね」

「違うんですか?」

「あのね……。そもそも、ダンジョン内で死んだ人間もアイテムドロップ化するって、今、初めて知ったんだけど?」

「そうなんですか?」

「絶対に殺したりしないから安心して。それは、女神様に誓って約束する」

「わ……分かりました」


 たしかにアデラが言うようなことをする人がいてもおかしくないし、それこそ、人をさらってきてダンジョン内で殺すとかがあっても不思議じゃない。


 正直、ムチャクチャ物騒な世界かも知れないね。

 このペルムの世界は……。


 念のため、この部屋に結界を張っておこう。

 私達をさらう輩がいてもおかしくないからね。


 シルリア世界で使えた魔法は、ここでも全部使えるはずだから大丈夫なはず。

 と言うことで、私は無詠唱で部屋に強固な結界を張った。


 それにしても、ダンジョンの中って完全に物理法則が狂っているよね?

 別にイイけど。


「それと、私からも聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょう?」

「先ず、二人共、どうしてそんな大怪我をしていたのかなって思って」

「実は、私とエルマを乗せていた奴隷運搬用の馬車が、片側が崖になっている山道を走行している時に落石事故に遭いまして、運悪く馬車ごと崖の下に転落したんです」

「じゃあ、その時に?」

「はい。他にも一緒に運ばれていた奴隷達が何人もいたのですが、その事故で、私とエルマ以外は全員死にました」

「でも、生きてくれてて良かったよ。じゃなかったら、二人と会えなかったもん!」

「そう言って頂けると有難いです。今はラヤ様にお買い上げいただき、本当に生きていて良かったと思えるようになりました。今までは、何故、あの時に、みんなと一緒に死ななかったのかと自分の人生を呪っておりましたので。正直、死んでいた方が楽だったとさえ思っておりました」


 その気持ち、分かる気がする。

 私だって地球時代は、自分の存在を呪っていた部分があるからね。

 あの時は、生きているのがイヤになったもん。


「たしかに、辛かったと思う……。でも、私と一緒にいる限り、衣食住は可能な限り保証するからね」

「あ……ありがとうございます」

「それと、もう一つ聞きたいんだけど」

「何でしょうか?」

「そもそも、アデラもエルマも、どうして奴隷にされたの?」


 一瞬、間が開いた。

 話し難い内容なのかな?

 でも、少し沈黙が続いた後、アデラが言葉を選ぶようにして話し始めた。


「私は侯爵家に仕える騎士でした。領民思いの素晴らしい領主様だったと思います。しかし、隣の国がいきなり攻めて来て……」

「負けたってこと?」

「はい。それで、私は捕えられて奴隷商に売り飛ばされました。女騎士なら色々な意味で高く売れそうだと」


 色々って……。

 昼間は騎士として、夜は慰み者としてって意味なんだろうな。


 ただ、何となくだけど、アデラは何かを隠しているような気がしたよ。

 でも、今は言いたくないってことだろうし、だったら言えるようになるまで聞かないでおこう。


「そんなことがあったんだ。大変だったね」

「はい」

「それから、エルマは?」

「私は施設で育ったんです」

「じゃあ、両親は?」

「私が幼い頃に死にました」

「そうだったんだ」

「街に魔獣の群れが襲ってきて、それで……。でも、預けられた施設も、多額の借金を抱えていて、それで借金のカタに売られたんです」


 そんなことが、やっぱりあるんだね。

 私と一緒にいる限り、そんな目には二度と会わせないから安心してね!



 この後、アデラとエルマは、シュークリームの後にモンブランケーキを食べました。

 随分と喜んでくれたよ。

 それこそ、アデラは、

「こんな甘いものが食べられるなんて……」

 って言いながら、再び涙を流していたよ。


 そして、一段落着くと、

「一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 こう私にアデラが聞いて来た。


「イイけど?」

「ラヤ様は、いったい何者なのでしょう? 上位治癒魔法を使える者でも、通常では、私やエルマの身体を元に戻すのに、片方だけでも数ヶ月は要するはずです。それがホンの一瞬で治せてしまったのですから、並大抵の御方ではないはずです。それに、あれだけ美味しい食事を魔法で簡単に出せるのも、いささか尋常では無いように思いまして」


 うーん……。

 やっぱり聞いて来たか。

 でも、二人とも私の奴隷だし、私が内緒にしろと言えば内緒にするだろうし、言っても大丈夫だよね?

 まあ、話せるところは話しておこう。


「他言無用でお願いね」

「はい」

「実は、私は異世界から来たの」

「はっ?」

「なので、元々、この世界の住人じゃないってことね」

「それでは、誰かに召喚されたのですか?」

「まあ、召喚主はロリダ様だけどね」

「ロリダ様って、もしかして?」

「もしかしなくても女神様ね。それでロリダ様から上位治癒魔法とか食事を出す魔法を与えられているの。他にも簡単な武器くらいなら出せるから」

「本当ですか?」

「なので、明日、ダンジョンに行く途中で、二人に武器を出してあげる」

「ありがとうございます」

「他に何か聞きたいことってある?」


 多分、本当は、二人とも、まだ私に聞きたいことってあるんだろう。二人で顔を見合わせていたよ。


 でも、今日のところは、二人共、首を横に振ってくれた。

 余り詮索しない方が良いって判断なのかな?

 まあ、おいおい話して行こう。


「じゃあ、順番にお風呂に入っちゃおう」

「私共も、お風呂をいただいても宜しいのですか?」

「そりゃあ、当然でしょう。ちゃんと綺麗にしないと病気になるよ」

「ありがとうございます」

「それから、先に言っておくけど、二人共、キチンとベッドで寝て頂戴ね。三人分のベッドがあるんだから。使わなかったら勿体無いもん!」

「あ……ありがとうございます!」


 アデラもエルマも、本当に嬉しそうだね。一応、名目上は奴隷だけど、やっと人間として扱われるようになったって感じかな?

 多分、ベッドで寝るのなんて久し振りなんじゃないかな?

 今まで、奴隷市場の檻の中だったもんね。



 一先ず、この日は私が最初にお風呂に入って、その後にアデラとエルマが二人で入った。本当は三人で入りたかったんだけどなぁ……。

 まあ、それは、いずれそのうちに。


 そして、私が真ん中のベッドで寝て、私の右側と言うか窓側のベッドをアデラが、廊下側のベッドをエルマが使った。


 万が一、外部から何者かが襲ってきても私に危害が加わらないように二人で両脇をガードしてくれているつもりなんだろう。



 でも、そんな心配は要らないんだけどね。

 だって、私には、誰も侵入できないようにする結界魔法が与えられているから。と言うか、既に結界を張っているから。


 と言う訳でおやすみなさい。

 アデラもエルマも、気張らないでゆっくり眠るとイイよ!

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