89.二人ゲット!
しばらく普通に異世界です。
新しい世界を堪能する意味もあって、歩き始めたまでは良かったけど、思ったよりも街は遠かったよ。
街の姿は見えているんだけど、蜃気楼ってことは無いよね?
もう三十分くらい歩いたのに……。全然、近付いている気がしないんだけど?
私は、一先ず道の脇に腰を下ろして再びステータス画面を開いた。
出来れば、宿に到着してから、ゆっくり見ようって思っていたけど、休憩がてら、ここでチャットボット機能を立ち上げて色々と情報収集することにした。
先ず、魔法装備のチェックだけど、やっぱり転移魔法は与えられていなかった。これは残念だけど想定の範囲内だ。
基本的に、シルリア世界にいた時と同じ装備だね。
それでも、一般的には超恵まれていると思っている。
少なくとも、衣と食に困ることだけは絶対に無いから。
ただ、一つだけロリダ様は、私の魔法を強化してくださった。
シルリアの世界で、私が使えた治癒魔法は高次治癒魔法までだったけど、ここでは上位治癒魔法が使えるようになっていたよ!
怪我や病気からの回復だけじゃなくて疲労回復も瞬時にできる優れモノみたいだ。
四肢欠損も治せるみたい。
まさにエディアカラ世界にいた時と同等……いや、多分、あの時以上のレベルだよ!
これなら、豊胸も増大も自由自在だ!
ペルムの人達は超ラッキーだね!
って、ここもH村々(@エディアカラ世界)の人達みたいじゃないよね?
ちょっと心配だな。
でも、折角なら、
「豊胸!」
ちょっと自分の胸を増やしてみた。
それから、
「ウエスト減! 腿もちょっと細く! 脚をちょっと伸ばし!」
別に太っていたわけじゃないし、腿も激太だったわけじゃないし、短足ってわけでもないけど、たまにはイイよね?
エディアカラの世界にいた時は、まだ女性に変わって、そんなに時間が経っていなかったから、スタイルを変えようなんて発想には至っていなかった。
魔法美少女に生まれ変われただけで満足だったんだ。
でも、女性になって、もうン年。
ちょっと欲が出て来たよ。
それで、ちょっとだけスタイルを良くしてみましたぁ!
って言うか、変えられたよ。
あの身体のまま、一切成長することも老化することもなく、サイズ変化も一切なく、ガチガチに固定されていると思っていたからね。
変えられて嬉しいと同時に驚いているよ。
それから、アイテムボックスの中をチェックすると、いつもの通り、私が持っているお金は、全て、この世界の通貨に換金されていた。
多分、働かないでも数十年は余裕で暮らせるだけのお金はありそうだな。
でも、何もしないで食っちゃ寝って選択肢だけは選ばせてもらえないんだろうなぁ。やるべきことがあって、この世界に送りこまれているわけだからね。
あと、何故かアイテムボックスが、新たにもう一つ装備されていた。
新しい方のアイテムボックスは、中身が空だったけど、チャットボット機能で確認したところ、ここには倒した魔獣の死体を入れるようにとのことだった。
要は、魔獣の死体と、それ以外のモノは、分けた方がイイだろうとの女神様からの御配慮だ。
しかも、私がワザワザ手で運び入れなくても、命じれば離れたところにある魔獣の死体を吸引収納してくれると言う優れモノだ。
これなら、巨大な魔獣の死体でも楽に収納できるよ!
今までの世界では、巨大魔獣の死体は、重くて私一人じゃ収納できなかったもんね。
他にも、色々とチャットボットで調べたけど、一番驚いたのが、この世界には、今まで私が巡ってきた世界には存在しなかったタイプの人達がいるってことだった。
ドワーフにエルフ、ダークエルフ、犬人族、猫人族。
勿論、普通の人間が一番幅を利かせているみたいだけど。
それから、私が知らないタイプの人類もいるらしい。
これを私は、特殊人族と呼ぶことにした。
どうして、この世界には複数の人種がいるかってことだけど、かつて、この世界は六つの大陸に分かれていて、それぞれの世界で別々の進化過程を辿って、全く異なる人類が誕生したらしい。
と言っても、ある意味、女神ロリダ様の進化実験だったみたいだけどね。
当時の大陸の配置は、北半球に三つ、南半球に三つ、それぞれ横に並ぶように配置されていた。
北半球では、西側大陸の温帯区域でドワーフが、中央大陸の亜熱帯区域で普通の人類が、東側の大陸の亜熱帯区域でダークエルフが誕生したとのことだ。
それと、一部のダークエルフが大陸内を北に移動して、そこで冷涼な気候で生活することでダークじゃない方のエルフに進化……と言うか変身したらしい。
なんか、私が知っているエルフとダークエルフの関係と全然違うんだけど!
まあ、この世界特有ってことなんだろう。
南半球の方では、西から順に猫人族、犬人族、それから特殊人族が各大陸の亜熱帯区域で誕生した。
その後、特殊人族を作り出した大陸以外の五大陸は、大陸移動によって合体し、超大陸を形成して、人類、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、猫人族、犬人族が互いに交流するようになって行ったそうだ。
ただ、特殊人族の大陸だけは、むしろ他の大陸から遠ざかって行ったっぽい。
結果的にだけど、女神様は特殊人族と他の人種とを交流を望まなかったみたいなんだ。
それもあって、特殊人族達は、他の種族達とは未だに交流が無いらしい。
と言うか、超大陸側の種族達は、そもそも特殊人族の存在を知らないっぽいんだ。
逆に、特殊人族達は、超大陸の存在とか、他の人種の存在を知っているっぽいけど。
一先ず、私が降りた大陸は、特殊人族の大陸じゃない方。つまり、多人族ゴチャ混ぜの超大陸の方だった。
超大陸の方の生活水準は、どうやら中世ヨーロッパレベル。
魔法が一定以上のレベルで発展した分、科学がロクに発達しなかった世界と言うことだ。
魔法を使えるのは、超大陸の総人口の四割ちょっととのことで、犬人族と猫人族は、基本的に魔法が使えないらしい。
その分、身体能力は高いんだけどね。
人間の場合は、大体一割の者しか魔法が使えないけど、魔法が使える者の殆どは、火炎球や氷の矢などの攻撃特化の魔法を放てるとの話だ。
ドワーフは、ほぼ全員が魔法を使えるけど、基本的に職人に特化した魔法しか使えないらしい。
そのため、この世界の文化・文明の発展に最も貢献してきたけど、魔獣討伐には最も向かないタイプとのことだ。
エルフとダークエルフは、ほぼ全員が魔法を使えるけど、基本的に生活魔法レベルの者達が殆どで、戦闘用の魔法を使える者は少数派らしい。
ただ、ダークエルフは、身体能力面では非常に優れていて、純粋な戦闘能力は高いとのことだ。
もしかすると、総合的にはダークエルフが一番優れている人種かも知れないなぁ。
それから、魔法を使える者の大半は、初級治癒魔法なら一応使えるらしい。
でも、強度はホントにイマイチで、小さな怪我を治すだけでも、結構な時間を要するようだ。
当然、上位治癒魔法を使える者は、殆どいないし、いてもパワーが弱くて、指一本の欠損を元通りにするのに、休憩を挟みながらだけど丸々二日くらいかかるそうだ。
少し休んだ後、私は、再び街に向かって歩き出した。
その街の名はヘリコプリオン。
なんだか、ヘリコプターとプリオンを足したみたいな名前だな。
その街は、魔獣対策なんだと思うけど、全体が強固な壁で覆われていた。
ようやく私は、街のゲートに辿り着いた。
正直言って、思い切り疲れたよ。
こんなに歩くとは思わなかった。
私は毎度の如く手ぶらだし、何かを売るわけじゃないから通行税はかからなかった。
そのまま無料でゲートを通過。
そして、宿を探そうと思って街の中央に向けて歩き出したんだけど、一キロくらい歩いたところで、看板に書かれた『奴隷市場』の文字が私の目に飛び込んで来た。
今まで回ってきた世界にも、一応、奴隷は存在していたけど、大半は犯罪奴隷だったと記憶している。
つまり、何らかの大罪を犯して奴隷に落とされた人達のことね。
一応、犯罪奴隷ではない一般奴隷もいたけど、その殆どは基本的に家庭の事情で仕方なくってヤツだった。
ただ、チャットボット機能からの回答によると、この世界では、今までの世界とは違っていて、一般奴隷の売り買いも結構多いみたいだ。
ちょっとした好奇心から、私は、奴隷市場の中を覗くことにした。
市場に足を踏み入れて、すぐに思ったことは、
「結構高い!」
だった。
だいたい、奴隷を一人買うのに家一軒分くらいのお金がかかる。
しかも、美人で如何にも『上玉性奴隷』にされそうな娘は、家二軒から三軒分くらいの値段が普通に付いていたよ。
これは、さすがに金持ちでないと買えないや。
あと、性別問わず、何げに若い奴隷が多かった。
多分だけど、ある程度以上の年齢に達したら……極論言えば老人ね……過酷な労働に耐えられないってことなんだろう。
それだと奴隷としての商品価値は無いもんね。
奥の方の薄暗いところに、破格の奴隷が二人いた。
共に女性で、値段は他の奴隷の二十分の一程度だったんけど……、言い方が悪いけど、訳アリ品だった。
ステータス画面を覗くと、一人は二十歳ちょっと手前の人間女性で、左腕は肘から先が、左足は足首から先が失われていた。
一応、義足を付けていたけどね。
それから、おでこから左頬にかけて大きな深い傷があって、その傷を負った時にヤッちゃったみたいだけど、左目を失っていた。
何かの事故に遭って左半身が大変なことになったってヤツだろう。
もう一人はダークエルフの子供で十二歳。
右腕が付け根から無くなっていて、しかも顔は包帯でグルグル巻きにされていた。
額の一部だけ、包帯で隠されていないところがあったけど、顔に相当深い傷を負っているっぽくて、実に痛々しかった。
喉が潰れていて声が出せないし、両目とも見えていない。片方の目は衝撃を受けた際に破裂し、もう片方の目は網膜剥離のようだ。
鼓膜も片方破れていた。もう片方の耳は聞こえていたみたいだけど、これは、相当ヒドイ状態だ。
これだと正直言って、二人共、奴隷としての商品価値が無いに等しい。
過酷な労働条件に対応できる状態じゃないもんね。
それ故だろう。もう、食事も水も十分に与えられていないようだった。
完全に栄養失調で、やせ細っていたよ。
このままでは、数日のうちに死んでしまうだろう。
私は、奴隷商人に、
「この二人を買いたいんですけど」
と申し出た。この二人を無償に助けたくなったんだ。
奴隷商人からは、
「二人共、使いモノにはならないよ。先ず、五体満足な状態に戻すには、上位治癒魔法が使える者に依頼する必要がある。ただ、この状態だからね。いくら上位魔法使いでも、一日二日じゃ到底治せないよ。最低でも数ヶ月かかるだろう。当然、治療代を考えたら普通の奴隷を買う方が、よっぽど安いと思うがね」
と言われたけどね。
まあ、想定の範囲内だ。
「構いませんので、売ってもらえますか?」
「イイけど、返品不可だよ」
「分かっています。では、代金は二人併せて三十万TENでよろしいですね?」
TENは、この世界の通貨単位。
大体、10円が1TENくらいと思ってもらえばイイ。
私は、アイテムボックスから金貨三十枚を取り出して奴隷商人に渡した。
奴隷商人は、ホクホク顔だったよ。もう、売れればいくらでもイイって感じだったんだろうね。
「お買い上げ、ありがとうございました! では、お嬢さん。急いで奴隷契約を。契約は、この魔石を使ってくれれば……」
「魔石は不要です。私の魔力で十分できますので」
チャットボット機能に問い合わせたところ、従魔法を使えば人間も亜人も従えることが可能だそうだ。
別に相手が魔物や魔獣じゃなくても、動物であれば人間も亜人も含め問題無いってことらしい。
ただ、従魔の時とは違って、奴隷にする場合は、私の血液を相手の額に塗る必要があるらしいんだけどね。
それで、ダークエルフの娘は、一応、額の一部に包帯が巻かれていなかったんだと思う。
早速、私はナイフで自分の左腕に傷をつけ、うっすら流れ出た血液を右手人差し指で拭い取り、それを二人の奴隷の額に塗り付けた。
そして、
「従魔術発動!」
二人を私の奴隷にした。
奴隷紋が、二人の左胸元に浮かび上がった。
こんなのを見るのは初めてだ。
でも、女性の身体に、こんな変な紋章を付けちゃって、なんだか申し訳ない気もしたけど、今は仕方が無い。
その後、当然だけど、
「治癒魔法発動!」
自分の左腕の傷を治したけどね。
二十歳ちょっと前の女性が、
「ご主人様。私共のような、慰み者にすらなれない無価値の商品をお買い上げいただき感謝申し上げます。私はアデラと申します。それと、こっちのダークエルフの娘はエルマと申します」
と、本当に申し訳なさそうな雰囲気満載で私に言って来た。
自分達に奴隷としての価値が無いことを十分自覚しているみたいだけど、そこまで自らに低評価を下すって、本当に辛いだろうな。
それに、このまま数日後には死んでいると思っていただろうからね。
もう、買ってもらえただけでも満足ってことなんだろう。
私は、二人を連れて奴隷市場を出た。
ただ、アデラは片足が義足だからね。
一歩踏み出す度に音がして、痛々しい感じがしてならなかった。
エルマは目が見えないから、私が手を繋いであげた。
そして、すぐ近くの宿に入ることにしたんだけど、すると、アデラが、
「こんな高級な宿に泊まるんですか?」
って驚いていたよ。
「そうだけど?」
「でも、私達の宿泊料も取られますよ。私達みたいな下衆な奴隷が泊まるには、非常にもったいないと思います」
「そんなことは気にしないで。さあ、入って、ほら!」
アデラは思い切り遠慮していたけど、とにかく私は宿に入りたかったんだ。
それで、早速、この宿に三人でチェックインした。
部屋に入ると、私は、
「これから二人の治療をします。実は、私は一応、治癒魔法使いなんです」
と二人に言ったんだけど……、ただ、二人とも深い傷跡から欠損部位に至るまで、全て元通りになるなんてことは、全然期待していないみたいだった。
アデラは、
「は……はぁ……」
って感じで受け流しているような雰囲気だったし、エルマは完全に無反応。
もっとも、エルマは喉が潰れているから声が出せなかったわけだけどね。
でも、一先ず、治療の邪魔になるモノ……義足とか包帯とかを全部外させてもらった。
そして、
「上位治癒及び再生魔法最大照射 (スパラティブ・エクスヒール)!」
私は、女神ロリダ様から授かった上位治癒魔法を思い切り二人に放ってあげた。
実のところ、どの程度の照射をすれば良いのか分からなかったので、ついついパワー全開にしちゃったんだよね。
ただ、治り具合から察するに、パワーは1%以下に抑えても問題無かったみたいだ。
今の私ってSUGEEE!
数秒後には、アデラもエルマも欠損部位が100%再生していた。
勿論、二人共、顔の傷も消えていたし、エルマの喉も耳も目も全て元通りだ。
古傷を治せちゃうんだからスゴイよね?
加えて、やせ細っていた身体も、健康的な状態に戻ったんだけど……、ただ、アデラの方は、意外と胸があった。
豊胸した私よりも大きかったよ!
ちょっと悔しいな。
元の身体を取り戻して、アデラは、
「手も足もある! 左目も見える!」
一方のエルマも、
「目も見えるし、聞こえなかった方の耳も聞こえる。腕もある! 声も出る!」
大声を上げて喜んでいた。
欠損部位を取り戻せるなんて思っていなかったんだろう。
本当に嬉しそうだ。
そんな二人に、私は手鏡を差し出した。
「顔の傷も治っているから」
「えっ?」
エルマは、今まで目が見えていなかったからか、自分の顔に、どの程度の傷があるのかを把握していなかったみたいで、特段、気に留めていなかった。
でも、アデラは自分の顔の傷のことを知っていたからね。
彼女は、恐る恐る鏡を覗き込んだけど、顔の傷が消えていることを知ると、大粒の涙を流しながら喜んでいた。
やっぱり女の子だもんね。
顔も元通りになって、相当嬉しかったみたいだ。




